エンタメ事業で中国市場に参入する際の法的注意点を弁護士が解説
1、エンタメ事業の中国参入におけるポイント①|契約
エンタメ事業で中国市場に参入する際には、中国企業との間で提携契約や業務委託契約などを締結することになります。その際には、中国法に基づく契約に関する法規制や、日本・中国の商慣習の違いに留意しなければなりません。(1)契約に関する法規制
中国でも日本と同様、契約の形式は原則として自由であり、口頭での契約締結も認められています(中華人民共和国契約法第10条)。ただし、当事者間の合意内容を明確化する観点から、ビジネスに関する契約書は書面で締結するケースが大半です。
契約は、申し込みと承諾の内容が実質的に一致していれば成立します。日本法とは異なり、申し込みと承諾が完全に一致している必要はありません。
中国の契約法では、以下の15種類の典型契約が定められており、該当する契約を締結する際には契約法の規定が適用されます。
- ・売買契約
- ・電気・水・ガス・熱供給契約
- ・贈与契約
- ・金銭貸借契約
- ・ファイナンスリース契約
- ・請負契約
- ・建設工事契約
- ・運送契約
- ・技術契約
- ・寄託契約
- ・倉庫保管契約
- ・委任契約
- ・取次契約
- ・仲介契約
ただし、契約法に定められていない契約(=非典型契約)も認められる点、契約法の規定は原則として特約で変更できる点は、日本法と同様です。
契約違反を犯した場合は「債務不履行」となり、履行の継続・補充救済措置・損害賠償の責任を負います(同法第107条)。なお日本法とは異なり、当事者の帰責事由がなくても債務不履行責任が発生する点に注意が必要です。
- ①履行の継続
原則として、契約上の義務を引き続き履行する責任を負います。 - ②補充救済措置
非金銭債務については、法定の補充救済措置を行う責任を負う場合があります。たとえば品質の瑕疵については、修理・交換・作り直し・返品・値引きなどの義務を負うことがあります(同法第111条)。 - ③損害賠償
債務の履行または補充救済措置がなされた後、相手方になお損害がある場合は、損害賠償責任を負います(同法第112条)。
(2)契約に関する日本・中国の商慣習の違い
日本と中国では、契約慣習に関して、一般に以下の相違点があることが指摘されています。- ①日本
・性善説に立ち、合意を前提に譲歩しながら着地点を模索する。慎重な調査を尽くしてリスクの軽減を図る。意思決定は遅い傾向にある。
・企画段階で内容を固めた後、実際の制作に入る。制作開始後に大幅な内容変更が生じることは少ない。
・コンテンツ産業の歴史が長いため、ビジネススキームがある程度定型化されている。
・契約には協議条項など、曖昧さを残す文言を入れる傾向がある。契約は守るべきものという考え方が根付いている。 - ②中国
・性悪説に立ち、交渉過程で常に決裂があり得る。リスク対策の前にプロジェクトを先行させるケースが多い。意思決定は速い傾向にある。
・制作開始後に大幅な内容変更が生じることも多い。
・現在進行形でコンテンツ産業が発展しているため、ビジネススキームなどが定型化されていない。
・曖昧な文言を嫌い、明確化を求める。契約書に定められた事項だけを守る。事情が変化すれば、必ずしも契約を守らなくてよいと考える。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/kaizokuban/pdf/93754201_01.pdf
中国でエンタメ事業を展開する際には、日本との商慣習の違いを織り込んだうえで事業設計を行うことが肝要です。
2、エンタメ事業の中国参入におけるポイント②|著作権
中国でエンタメ作品の配信事業などを展開する際には、著作権の規制にも注意する必要があります。中国の著作権法は日本と似ている部分も多いですが、著作権の登録制度が普及している点が大きな特徴です。(1)著作権は自動的に発生|ただし登録制度が広く普及している
中国でも日本と同様に、著作権は登録等を要することなく自動的に発生します(無方式主義)。ただし中国では、著作物の登録制度が設けられており、権利保護を強化するために広く利用されているのが大きな特徴です(著作物自主登記試行弁法、コンピュータ・ソフトウェア著作権登記弁法)。
エンタメ事業で中国市場に参入する際には、著作権登録の状況について調査し、自社のコンテンツが他人の著作権を侵害していないかをチェックしましょう。
(2)著作権の種類・保護期間
中国における著作権には、以下の権利が含まれています。(中華人民共和国著作権法第10条第1項)。- ①公表権
著作物を公表するか否かを決定する権利 - ②氏名表示権
著作者の身分を表明し、著作物上に氏名を表示する権利 - ③改変権
著作物を改変し、または他人に授権して改変させる権利 - ④同一性保持権
著作物が歪曲(わいきょく)、改ざんされないよう保護する権利 - ⑤複製権
印刷・コピー・デジタル化等の方法によって著作物を複製する権利 - ⑥発行権
公衆に著作物の原本または複製品を販売・贈与する権利 - ⑦貸与権
他人に対して有償で、視聴覚著作物およびコンピュータ・ソフトウェアの原本又は複製物を一時的に使用することを許諾する権利 - ⑧展示権
美術著作物、撮影著作物の原本または複製品を公開陳列する権利 - ⑨実演権
著作物を公開実演し、または著作物の実演を公開放送する権利 - ⑩上映権
上映機材、スライド映写機等の技術設備を利用して、美術、撮影、視聴覚著作物等を公開し再現する権利 - ⑪放送権
有線方式または無線方式によって著作物を公開伝達または中継し、または拡声器などの工具を通じて公衆に著作物を伝達・放送する権利 - ⑫情報ネットワーク伝達権
有線方式または無線方式によって著作物を公衆に提供し、公衆が選定した時間・場所で著作物を入手できるようにする権利 - ⑬撮影製作権
視聴覚著作物を媒体上に固定させる権利 - ⑭翻案権
すなわち著作物を改変し、独創性を有する新たな著作物を作り出す権利 - ⑮翻訳権
著作物をある言語から別の言語に変換する権利 - ⑯編集権
著作物を選択・編成し、新たな著作物として編集する権利 - ⑰著作権者が享有すべきその他の権利
著作権の保護期間は、原則として50年ですが(同法第23条)。ただし、氏名表示権・改変権・同一性保持権については保護期間の制限がありません(同法第22条)。
3、エンタメ事業の中国参入におけるポイント③|不祥事対策
事業について重大な不祥事が発生すると、エンタメ事業の中国展開が頓挫してしまうおそれがあります。事業の中断を防ぐためには、できる限り不祥事の発生を予防できる対策を講じることが大切です。具体的には、以下のような予防策を事業の実態に合わせて講じましょう。
- ①有事に備えた体制の構築
中国語で円滑にコミュニケーションをとれる駐在員を派遣し、日本の本社と現地法人・中国当局との連絡体制を確保しましょう。
特に現地法人との関係では、日本の本社における所管部署・責任部署を明確化して、迅速かつ適切な対応がとれるようにしておきましょう。 - ②リスク分析と情報共有
中国における事業展開のリスクを事前に分析した上で、日本の本社と現地法人の間で問題意識を共有し、対応マニュアルの整備などを行いましょう。 - ③財務検査・内部監査の実施
特に現地法人に対して多額の投資をする場合には、定期的に現地法人の財務検査や内部監査を行い、リスクの顕在化を未然に防ぎましょう。
4、エンタメ事業の中国参入については弁護士にご相談を
エンタメ事業で中国市場に参入する際には、中国の法規制・商慣習に詳しい弁護士に相談することをお勧めいたします。エンタメ事業の中国参入について、弁護士ができる主なサポートは以下のとおりです。
- ①契約書のリーガルチェック
現地法人と契約を締結するに当たっての事前交渉や、実際の契約書の作成・修正・条件交渉などをサポートいたします。 - ②著作権に関するリサーチ・アドバイス
著作権についての法令リサーチや先行コンテンツの調査などを行い、著作権侵害のトラブルに巻き込まれないようにサポートいたします。 - ③不祥事予防・不祥事対応のアドバイス
中国で展開する事業全体のコンプライアンス・チェックに加え、事業の実態に合った不祥事の予防策や、実際に発生した不祥事の対応などについてアドバイスいたします。
エンタメ事業の中国展開を検討している企業は、事前に一度弁護士にご相談ください。
5、まとめ
エンタメ事業で中国市場へ進出する際には、日本とは異なる法規制や商慣習などに注意が必要です。中国法務に詳しい弁護士のアドバイスを受けて、中国進出に向けた万全の態勢を整えましょう。ベリーベスト法律事務所は、律師(中国法弁護士)を中心とした中国法務の専門グループを有しています。さらに、中国最大級の法律事務所と提携し、日本企業の中国進出を幅広くサポートいたします。
中国市場でのサービス展開を検討している日本企業は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。