マンションの快適な居住環境を確保して、資産価値を維持するためには、大規模修繕が欠かせません。しかし、大規模修繕では、施工不良や工期・騒音によるトラブルなどが生じるケースもあります。
そのため、マンションの区分所有者や管理組合としては、そのようなトラブルが生じないようにするために、施工業者の選定などに十分配慮するとともに、トラブルが生じた際には適切な対応が求められます。
今回は、マンションの大規模修繕で発生するトラブルとその対処法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
大規模修繕とは、マンションの快適な居住環境の確保および資産価値の維持を目的として行われる修繕工事や改修工事のうち、工事内容が大規模・工事費が高額・工事期間が長期間になるものをいいます。以下では、大規模修繕の必要性と費用を説明します。
マンションは、新築工事が完成した時点から、紫外線や風雨にさらされることで外壁や給排水管、屋上防水設備などの劣化が始まります。また、マンション内の設備についても使用を続けていると徐々に経年劣化が進行していくため、現在の居住水準や生活水準に見合うように設備をグレードアップしていく必要性もあります。
このようなマンションの劣化を防止し、快適な住環境を維持・確保するためにも大規模修繕などの修繕工事や改修工事が必要になります。
マンションの大規模修繕は、1回行えばそれで足りるというわけではなく、定期的な工事が必要です。国土交通省の調査によれば、一般的な修繕周期は、1回目が15.6年、2回目が14.0年、3回目が12.9年と回数が増えるほど修繕周期が短くなる傾向があります。
他方、一般的な大規模修繕にかかる費用は、1回目が4000~6000万円、2回目が6000~8000万円、3回目以上は6000~8000万円または1億~1億5000万円の割合がもっとも高くなっています。マンションでは時の経過とともに劣化が進んでいきますので、回数が増えるほど修繕費用は高額になる傾向があります。
以下では、マンション一室の所有者やマンションを一棟所有しているような不動産オーナーが大規模修繕でよく遭うトラブルについて、区分所有者の例を挙げて説明します。
大規模修繕にかかる工事費用は、区分所有者や不動産オーナーが支払う修繕積立金により支払われます。マンションの管理組合が長期修繕計画を立てて、必要となる費用を計算して、毎月の修繕積立金の金額を決定します。
しかし、管理組合の見積もりの甘さや当初の計画に必要な工事が含まれていないなどの理由で、大規模修繕を実施する時点で修繕積立金が不足することがあります。また、区分所有者による修繕積立金の滞納も修繕積立金が不足する原因となります。
大規模修繕を担当した施工業者の技術力によっては、工事後の仕上がりが雑なケースや施工不良が生じるケースもあります。
外壁の補修工事であれば外部からも確認することができます。しかし、たとえば給排水管の工事であった場合には、施工不良があったとしても直ちに発覚せず、漏水などの深刻な被害が発生してから施工業者の施工不良に気付くこともあるでしょう。
施工不良が生じてしまうと、施工業者との交渉や裁判などの対応が必要になり、トラブルが解決できるまでに長い時間がかかってしまいます。
大規模修繕工事の期間中は、マンションの周囲に足場が設置されるため、施工業者や外部の人が足場を使ってマンションの共用部分(ベランダや専用庭など)に立ち入る可能性があります。
そして、共用部分に私物が置かれている場合には、修繕工事の邪魔となってしまい、施工業者により撤去される可能性などがあります。
大規模修繕工事は、管理組合が主導して工事を進めていきます。マンションの住人である区分所有者の意見を十分に聞かずに大規模修繕を行ってしまうと、区分所有者が想定していた工事内容と実際の工事内容との間に齟齬(そご)が生じてしまう可能性があります。
たとえば、管理組合としては、外壁や給排水管の修繕工事を行う予定であったにもかかわらず、区分所有者としては、給湯器や壁クロスなどの専用部分の工事も行う認識であった場合には、双方の齟齬(そご)からトラブルに発展するケースもあります。
マンションの大規模修繕工事では、多くの工事車両や作業員などが出入りします。また、工事中は機械音、振動、ほこり、塗料の臭いなどが生じますので、マンションの住人の生活に大きな支障が生じることがあります。
長期間におよぶ工事によりストレスがかかると、健康被害が発生するなどのトラブルになる可能性もあります。
大規模修繕によるトラブルを回避するためにも、大規模修繕を主導する管理組合は、以下の点に注意が必要です。
修繕積立金の不足が生じてしまうのは、主に、管理組合の大規模修繕工事に対する修繕費用の見積もりの甘さに原因があります。複数の施工業者から見積もりをもらい比較検討するのは当然ですが、どのような工事が必要になるのかは管理組合の構成員だけでは判断できない可能性もあります。
このような場合には、専門のコンサルタントを依頼するなどして、透明性のある修繕計画と適切な業者選定に努めることが重要です。これにより修繕積立金の不足や施工業者による施工不良などのトラブルを回避することが可能です。
大規模修繕の工事内容や工期が区分所有者にしっかりと説明されていないと、管理組合と区分所有者との間でトラブルが生じる可能性があります。
大規模修繕工事は、区分所有者による修繕積立金で行われるものですので、区分所有者の納得を得て行うのは大前提となります。大規模修繕に関する説明会を開催するなどして、事前説明を行い、日頃からコミュニケーションをとることが大切です。
大規模修繕工事により騒音や振動、異臭などが発生すると、マンション住人の生活環境に少なからず影響が生じることになります。
多少の影響は避けては通れませんが、マンション住人に過大な負担をかけることがないようにするためにも、施工業者との調整により生活環境への配慮を最小限に抑える努力が必要となります。
マンションの大規模修繕におけるトラブルは、区分所有者と管理組合の話し合いで解決するのが基本的な対応となります。しかし、それでは解決が難しいという場合には、以下のような対処法を検討してみるとよいでしょう。
「マンションの管理の適正化に関する指針」(国土交通省告示)では、工事の発注等については利益相反等に注意し適正に行われる必要があるとされています。
国では、マンションの大規模修繕工事に関する管理組合や区分所有者からの疑問・相談について、(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センターおよび、(公財)マンション管理センターを設置し、建築士などによるアドバイスを行っています。設計コンサルタントによる設計監理方式を採用する場合における留意点や参考事例の紹介なども行っていますので、大規模修繕をお考えの区分所有者や管理組合は、これらの相談窓口を利用することができます。
大規模修繕工事においては、不透明な追加料金、施工不良、水増し修繕、専有部分の個人所有物の破損など、施工業者との間でトラブルが生じることも少なくありません。
このようなトラブルが生じた場合には、施工業者との話し合いにより解決を図るのが基本となります。しかし、施主と施工業者との間には、知識や情報量、交渉力に関して圧倒的な格差がありますので、そのままでは適切な解決は難しいといえます。
建築紛争に詳しい弁護士であれば、大規模修繕に関するトラブルであっても適切な解決方法をアドバイスすることができるほか、弁護士は施工業者との交渉も代理人として対応することができます。
安心してマンションに居住を続けるためにも、まずは、専門家である弁護士にご相談ください。
マンションでは、快適な居住環境の確保および資産価値の維持のために、定期的な大規模修繕工事が必要になります。大規模修繕工事にあたっては、管理組合、区分所有者、施工業者との間でトラブルが生じる可能性もありますので、その際は、専門家である弁護士に相談するのがおすすめです。
ベリーベスト法律事務所には、建築に関する知識豊富な建築訴訟専門チームがあり、一級建築士と連携して建築紛争の解決に取り組んでいます。マンションの大規模修繕などの建築紛争でお困りの方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。