有料老人ホームや旅館、飲食店、高層建築物などの建築物を建てる場合には、建築基準法に適合する建物にしなければならないのはもちろんのこと、消防法にも適合する必要があります。
消防法に違反した場合には、行政処分や罰則を受けるリスクもありますので、消防法の内容をしっかりと理解しておくことが大切です。
今回は、消防法と建築基準法との違い、建物を建てた後に違反が見つかった場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
施工業者の施工ミスによって消防法違反の状態が生じた場合には、施主はどのような対応をとればよいのでしょうか。
消防法違反となり得る施工ミスとしては、以下のようなものが挙げられます。
① 消火設備の未設置による消防法違反
消防法では、対象となる建築物について以下の設備の設置が義務付けられています。
これらの設備を設置していない場合には、消防法違反となる可能性があります。
② 増築による消防法違反
消防法では、建物の構造、用途、面積などの状況に応じて消防用設備などの設置基準が定められています。そのため、増改築、用途変更などが原因となって、消防法違反の状態が生じることがあります。
たとえば、オフィスから飲食店に用途変更をした場合には、カーテンや絨毯なども基準以上の防炎性能を有する内装にしなければなりませんので、内装だから好きなようにできると思っていると消防法規の違反になってしまいます。
契約不適合責任とは、種類、品質、数量に関して、契約内容に適合しない目的物を引き渡した場合における施工業者の責任のことをいいます。以前は、「瑕疵担保責任」という名称でしたが、民法改正によって「契約不適合責任」という名称へと変更されました。
建物の建築を依頼した施主としては、各種法令に適合することを求めており、それが契約内容となっています。消防法が適用されるような建物の建築を依頼するのであれば、当然消防法規を遵守する建築物を建築することが、契約の内容となっていると考えられます。
ですから、施工ミスによって消防法違反の状態になった場合には、施工業者に対して、以下のような契約不適合責任をとるよう追及ができます。
(参考リンク:「消防法における罰則規定一覧」(総務省消防庁))
ここまで消防法違反はどんな状態なのか、またその解決方法について解説してきましたが、そもそも消防法は、どのような法律なのでしょうか。
消防法とは、火災の予防・警戒によって人の命や財産を守ることや火災による被害を軽減することなどを目的に制定された法律です。消防法には、消防設備、消火活動、火災調査、救急業務といった火災の関する基本的な事項が規定されています。
たとえば、消防法17条1項では、防火対象物とされている建物や施設の関係者に対して、火災が発生した時に必要な消火・避難設備などの設置義務が課されています。また、消防法17条の3の3では、常に火災に備えられるように消防用設備等の定期的な点検や報告が義務付けられています。
建物の建築を計画する上では、消防法以外に¥建築基準法も関係してくることになります。
建築基準法は、建物が満たすべき最低基準を定めた法律であり、建物の防火性能や避難に関する規定が設けられています。そのため、消防法と建築基準法では、火災の予防や被害の軽減という面では共通する部分もあります。
しかし、建築基準法は、あくまでも建物の最低限の仕様を定めているのに対して、消防法では、設備面や防火管理者などの消防活動に対する支援などについて定めているという点で異なっています。また、消防法では、原則として常に最新法令に適合する状態にすることが求められていますが、建築基準法では、建築時に法適合状態であればその後の法改正に合わせる建替え等をする必要はないという違いもあります。
建築後も消防法を遵守することは必要です。違反をしているとなると罰則を受けるおそれもあります。
建物の建築後も消防法では消防用設備などの点検・報告が義務付けられています(消防法17条の3の3)。要求されている点検には、「機器点検」と「総合点検」の2つがあります。
機器点検とは、半年に1回のペースで行う点検であり、消防設備の設置や損傷の有無など外観上の目視等の捜査によって設備の不備を発見する点検です。
総合点検とは、1年に1回のペースで行う点検であり、消防用設備の全部または一部を実際に作動させて、正常な動作をするかどうかを確かめる点検です。
このような消防設備点検については、特定防火対象物(百貨店や病院等不特定多数の人が出入りする施設等)は1年に1回、非特定防火対象物は3年に1回建物を管轄する消防長又は消防署長への報告義務が課されています。
消防法では、上記のように建築後も消防用設備の点検や報告義務が課されており、点検や報告を怠ったり、虚偽の報告をした場合には、30万円以下の罰金または拘留の罰則を受ける可能性があります。
また、行政機関の立ち入り検査の結果、消防法違反の状態が確認された場合には警告や是正命令を受けることもあります。警告とは、消防法違反の是正や改善を促すものであり、法的な強制力はありません。しかし、是正命令になると命令違反に罰則が科されますので、間接的に義務の履行が強制されることになります。
なお、不特定多数の人が利用する建物、病院、社会福祉施設などにおいては、重大な違反がある場合には、行政によって、建物の名称、建物の所在地、違反の内容が公表されることもありますので注意が必要です。
消防法で求められている消防用設備の未設置が原因となって、火災が発生し、死傷者を出した場合には、刑事事件となり重い刑罰が科されることもあります。
たとえば、平成13年の新宿区歌舞伎町のビル火災では、避難器具の未設置や避難誘導訓練の未実施などにより多数の死傷者が生じ、建物所有者や経営者などに対し業務上過失致死傷罪として4年~5年の執行猶予付きではありますが、禁錮2~3年、との有罪判決を受けました。となりました。また、平成19年のカラオケボックスでの火災では、消防用設備の未設置や避難訓練の未実施により死者3人、負傷者5人が生じ、カラオケ店経営者は、業務上過失致死罪として禁錮4年の有罪となりました。
このように、消防法違反により火災が生じると刑事上も重い責任を問われることになりますので注意が必要です。
消防法違反などの施工不良の問題でお悩みの方は、弁護士に相談しましょう。
施工不良が生じたとしても施工業者の責任を問うことができるかどうかは法的な判断が必要になります。特に、建築分野では専門的な知識が必要になりますので、一般の方では、判断が難しいといえるでしょう。
施工業者にしっかりと責任を取ってもらうためにも、どのような責任追及が可能であるかについて、専門家である弁護士に相談をしてみましょう。
施工業者の責任を追及する場合には、まずは、施工業者との話し合いによって具体的な対応を決めていくことになります。しかし、建築トラブルは、技術的な専門性が高く、専門用語も多いため、一般の方では施工業者と適切に対応することが難しいことがあります。施工不良の場合には、契約書に則って負担を考えますが、施工業者ともめることもありますので、弁護士に対応を任せるのが安心です。
建物を建築する際には、建築基準法だけでなく消防法の観点からも法律に適合していることが求められます。消防用設備の未設置などの施工ミスが判明した場合には、施工業者に対して、契約上の責任を追及することができる可能性があります。
当事務所は、全国各地にオフィスがあるため、お住まいの地域から近いところでご相談が可能です。また対面でのご相談が難しければ、Zoomを使ってご相談いただくこともできます。
ご依頼いただいた場合には、建築訴訟専門チームの弁護士と担当弁護士が協力し問題の解決に当たります。また、必要であれば一級建築士とも連携しています。
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