建物を新築する場合はもちろんのこと、改築・増築する場合等にも、建築基準法に適合している必要があります。
建築基準法違反には、行政処分や罰則が予定されていますし、違反建築物が原因で事故などが起これば、持ち主(所有者)にも不利益が生じかねません。実際に東京都が2024年10月17日に行った「一斉公開建築パトロール」では、734棟の工事現場等が点検され、17棟に是正指導が行われました。
建築基準法に違反した場合、誰が、どのような行政処分や罰則を受けるのかなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士がわかりやすく説明します。
(出典:東京都ホームページ
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/10/28/01.html)
建築基準法は、建物や生命の保護を図るために建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めたもので、その規制は多岐にわたります。
まずは、建築基準法違反となる違反建築物とはどのようなものを指すのか、確認していきましょう。
建築基準法は、建物を建築する際の手続についても規制を設けています。
建築基準法6条1項各号に掲げられた建物の建築にあたっては、
① 設計
② 建築確認申請(建築基準法6条1項)
③ 確認済証の交付(建築基準法6条1項)
④ 工事施工
⑤ 中間検査(一定の条件に該当する場合のみ(建築基準法7条の3第1項))
⑥ 完了検査(建築基準法7条1項)
⑦ 検査済証の交付(建築基準法7条5項)
という手続を踏むことになります。
これらの手続において、以下のような事情がある場合には、建築基準法違反となります。
違反建築物と混同しやすいものとして、「既存不適格建築物」という建物があります。
「既存不適格建築物」とは、建築当時の建築基準法令には適合していたものの、建築後の法改正や用途地域の変更によって、法令に適合しなくなった建物のことです。既存不適格建築物は違反建築物とは区別して取り扱われます。なお、そもそも建築時の法令の規定に適合していなかったものは、違反建築物であって、既存不適格建築物ではありません。
既存不適格建築物については、現行の建築基準法令の規定は適用されず(建築基準法3条2項)、原則として、増改築・大規模修繕・大規模模様替等を実施する際に、現行の規定に適合させればよいとされます。ただし、政令の範囲内で行われる増築、改築等や軽微な修繕・模様替などを行う場合は、適合させる必要はありません(建築基準法86条の7第1項)。
つまり、現行の建築基準法令に合わせるためだけに、既存不適格建築物に対して改築等の対処をする必要はないのです。
違反建築物は、安全面や衛生面、防災の観点等から問題のある可能性が高く、その所有者自身も危険にさらされるおそれがあるばかりでなく、採光・通風・防火・避難・衛生などに不都合が生じ、周辺住民などにも様々な面で不利益を及ぼす可能性があります。
このような観点から、違反建築物に対しては、建築基準法に基づき、行政から除却や使用禁止などの命令を受ける可能性があります(建築基準法9条1項)。
違反建築物の是正のために行政から受ける可能性があるものとしては、まず、行政指導があります。
行政指導を無視したり、これに従わない場合には、建築基準法9条1項に基づき、強制力のある行政処分を受ける可能性が出てきます。
さらに、行政処分にも従わない場合には、罰則(刑事罰)を科されることもあるため、適切に対応することが大切です(建築基準法98条以下)。なお、行政指導と行政処分の内容は後述します。
このほか、違反建築物については、違反の是正が完了するまでの間、自治体から電気・ガス・水道の各事業者に対して供給の保留が要請される場合もあり、事実上建物を使用することができなくなるおそれもあります。
そのため、建物の新築・増改築や建売住宅の購入の際には、その建物が違反建築物となっていないかという点に注意しなければなりません。
違反建築物については、その建築物の建築主、施工業者(工事請負人)、建築物の所有者などが、工事停止命令や除却命令、使用停止命令などの是正措置を受ける可能性があります(建築基準法9条1項)。
また、違反建築物を建築したときの関係者だけでなく、その建築物を取得した新たな所有者が不適合を是正しなければならない場合もあり得ますので、新たに建物を購入する際には、違反建築物でないことを確認する必要があります。
さらに、違反建築物に関与した設計者・工事監理者・施工業者・不動産業者などの関係業者には、違反是正の行政指導や命令とは別に、業務停止、営業許可・免許の取消しなどの処分が行われることがあり、これに従わない場合は、罰則が科せられることもあります(建築基準法9条の3)。
それでは、具体的に行政処分とはどのようなことをされるのでしょうか。また、違反に対してどのような罰則を受けるのか、確認していきましょう。
すでにお伝えしたとおり、違反建築物に関与した建築主・設計者・工事監理者・施工業者などは、行政指導や行政処分を受ける可能性があります。
行政指導としては、指示書・勧告書の交付、口頭による指示・勧告などの方法で違反の是正が求められることが考えられます。
こうした行政指導に従わない場合には、工事停止、建物の使用禁止・使用制限・除却・移転命令など、強制力のある行政処分を受けることも考えられ(建築基準法9条1項)、これにも従わない場合には、罰則(刑事罰)を受けるおそれや、建物に標識が設置されたり、公告により氏名が公表されたりすることもあります(建築基準法9条13項)。
建築基準法9条1項または10項に基づく命令を受けたときには、関係する設計者や建設業者、宅建業者等の氏名や名称、住所等が監督行政庁に通知され、建築士法、建設業法、宅建業法等に基づいて免許・許可の取消し、業務停止等の処分が行われます。免許・許可の取消しや業務停止等の処分が行われると公告が行われ、氏名や名称が公表されます。また、自治体によっては、関係業者の競争入札資格が停止され、入札に参加することができなくなる場合もあります。
建築基準法に違反すると、罰則(刑事罰)が科せられる場合があります。
工事停止命令が発せられたにもかかわらず、これに従わず工事を続けた場合などには、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に科せられます(建築基準法98条1項1号)。
このほか、業務停止などの処分を受けた建築士・建設業者・宅建業者等の氏名・名称などは公開されますので、営業上の打撃を受けることも考えられます。
建築トラブルが生じている場合は、弁護士への相談をおすすめします。
建築トラブルの典型的なものの一つは、下請けと元請けとの間の紛争です。
たとえば、仕様書で指定していた資材ではなく法令上求められる基準を満たさない資材を下請けが発注し工事に使用した場合、建築基準法違反になってしまうおそれがあります。
そのほか、元請けによる請負代金の不払い・遅延や、追加工事が必要になったにもかかわらず請負金額を上げてもらえないなど、金銭に関するトラブルなどもあるでしょう。
このような下請け・元請け間の争いが起きた場合には、弁護士に相談してみましょう。
所有者(建築主)との紛争も、典型的な建築トラブルの一つです。
請け負った工事によって出来上がった建物が建築基準法に違反している場合、施工業者だけでなく、所有者も責任を問われるおそれがあります。そうなってしまうと、所有者としては施工業者に責任を追及することを考えるでしょう。
また、工事が完成して引き渡した後は、工事代金の不払い・遅延のほか、不具合が見つかった場合にそれが「瑕疵(契約不適合)」に当たるかどうかなどの紛争が起こることがあります。
このように、工事内容に問題があった場合は所有者との話し合い・交渉が必要となりますが、当事者間の話し合いでは決着がつかない場合は弁護士を通して対応することもひとつの手です。
以上のような建築トラブルが起きた場合、まずは、契約書に従って交渉などを行い、交渉で解決ができなければ、調停や訴訟などの法的な手続を検討することになります。
建築トラブルの解決には、法的手続に関する知識だけでなく、建築に関する専門的な知識も必要となりますので、建築紛争に詳しい弁護士にご相談ください。
建築基準法は、建物について構造等の基準を定めるだけでなく、建築確認など建物を建築する際の手続きについても定めており、その規制の範囲は多岐にわたります。
建築基準法に違反すれば、行政処分や刑事罰を受ける可能性、さらには、事故などが起きた場合には建物の所有者が不利益を被るおそれもあります。また、違反建築に関わった建築士や建設業者などの関係業者は、免許取消し業務停止命令を受けるおそれ、氏名。名称などを公表されるおそれがあります。
建築トラブルは、契約書を踏まえた交渉で解決しなければ、調停や訴訟といった法的手続をとることになりますが、建築に関する専門的な知識が必要です。
建築トラブルで損害賠償請求などをお考えの場合には、建築紛争に詳しいベリーベスト法律事務所の弁護士へご相談ください。