工期ダンピングとは、建設工事を施工するために通常必要とされる期間よりも著しく短い工期を設定する請負契約をいいます。このような工期ダンピングは、建設業に従事する労働者に対して長時間労働を強制することになったり、手抜き工事や事故発生の可能性が高くなったりするため、改正建設業法により規制対象となっています。
改正建設業法は、令和7年に施行が予定されていますので、建設業者としては、工期ダンピングの規制を踏まえた対策を進めていくことが大切です。
今回は、工期ダンピングの概要、改正建設業法の規制内容と建設業者が注意すべきポイントなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
工期ダンピングとは、建設工事を施工するために通常必要とされる期間よりも著しく短い工期を設定する請負契約をいいます。
そもそも、「ダンピング」とは、不当廉売を意味する用語であり、不当に安い価格で商品やサービスを提供することをいいます。
建設業界においては、「工期」のダンピングが特に問題となるため、建設業法により工期ダンピングが規制されています。
建設工事で工期ダンピングが行われると、以下のようなリスクが生じる可能性があります。
工期ダンピングによって通常必要とされる期間よりも著しく短い期間が設定されると、納期に間に合わせるために建設業に従事する労働者が長時間労働を強いられる可能性があります。
本来、労働基準法では1日8時間・1週40時間という法定労働時間が定められています。しかし、工期ダンピングが行われた建設現場では、そのような労働時間規制に従っていては納期には間に合わないという理由から、違法な長時間労働が常態化してしまうリスクがあります。
肉体的にも過酷な建設現場において長時間労働が続くと過労死のリスクが高まることも懸念されます。
建設工事では、工事内容に応じて以下のようなさまざまな工程があります。
建設工事は、天候にも左右されますので、建設工事の日程は余裕をもって設定することが求められます。しかし、工期ダンピングにより、工期が不適正に短く設定されてしまうと、必要な工程を省くなどの手抜き工事が横行するリスクがあります。
手抜き工事が発覚すると、場合によっては建築物を取り壊して一からやり直さなければならない事態にもなりかねません。
建設業界では、注文者から請け負った仕事を請負業者がさらに下請業者に依頼するといった重層的下請構造になっています。二次請け、三次請けの下層業者は、無理な工期を設定されても、「断ったら仕事を回してもらえないかもしれない」という不安から仕事を受けざるをえない場合もあります。
このような状況が続くと、適正な工期の仕事がほとんどない状態になり、就労環境の悪化を招くリスクがあります。
工期ダンピングには上記のようなリスクが伴うことから、「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」により、工期ダンピングが規制されています。
新・担い手3法とは、建設業界の人手不足や高齢化を解消することを目的に改正された以下の3つの法律をいます。
新・担い手3法では、働き方改革の推進、生産性向上への取り組み、持続可能な事業環境の確保、災害時の緊急対応の充実強化、調査・設計の品質確保などのさまざまな改正内容が含まれていますが、そのひとつが工期ダンピングの規制です。
以下では、各法律における工期ダンピングの規制や違反した場合のペナルティについてみていきましょう。
改正前の建設業法でも、施工に通常必要と認められる期間よりも著しく短い期間を工期とする請負契約の締結を禁止していました(建設業法19条の5)。
しかし、改正前の建設業法の工期ダンピングの規制は、デベロッパー等の建設工事の注文者を対象としたものですので、受注者は対象外となっていました。そのため、改正建設業法では、受注者の側においても、施工に通常必要と認められる期間よりも著しく短い期間を工期とする請負契約の締結を禁止しています。
建設業法改正により、注文者・発注者の双方に工期ダンピングが規制されましたので、現場の労働者を酷使せずに、適正な工期の設定が促されることが期待されています。
なお、工期ダンピングにより建設業法違反となると、国土交通大臣または都道府県知事により勧告がなされ、勧告に従わない場合には公表される場合があります。
入契法では、公共工事の入札・契約の適正化の基本となるべき事項に関し、当該請負代金額では公共工事の適正な施工が通常見込まれない契約の締結防止(ダンピングの防止)が規定されました(入契法3条4号)。
また、品確法では、受注者の責務として適正な請負代金・工期での下請契約締結が義務付けられました(品確法8条2項)。
令和7年施工の改正建設業法で受発注者が注意すべきポイントとしては、以下のような点が挙げられます。
改正建設業法を踏まえて、受注者側が注意すべきポイントとしては、以下のような事項があります。
改正建設業法を踏まえて、発注者側が注意すべきポイントとしては、以下のような事項があります。
建設業法では、建設工事を施工するために通常必要とされる期間よりも著しく短い工期を設定した請負契約の締結を禁止しています。このような工期ダンピングが行われると、さまざまなリスクが生じるおそれがありますので、適正な工期で契約することが重要です。
工期ダンピングなど、請負の際のトラブルでお悩みの場合は、早めに弁護士にアドバイスを求めるようにしましょう。ベリーベスト法律事務所では初回60分相談料無料でお問い合わせをお受けしておりますので、ぜひご相談ください。