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    2025年01月22日
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    工期ダンピングとは? 改正建設業法による今後の規制・受発注者が注意すべきこと
    監修者:萩原達也 代表弁護士(東京第一弁護士会所属)
    工期ダンピングとは? 改正建設業法による今後の規制・受発注者が注意すべきこと

    工期ダンピングとは、建設工事を施工するために通常必要とされる期間よりも著しく短い工期を設定する請負契約をいいます。このような工期ダンピングは、建設業に従事する労働者に対して長時間労働を強制することになったり、手抜き工事や事故発生の可能性が高くなったりするため、改正建設業法により規制対象となっています。

    改正建設業法は、令和7年に施行が予定されていますので、建設業者としては、工期ダンピングの規制を踏まえた対策を進めていくことが大切です。

    今回は、工期ダンピングの概要、改正建設業法の規制内容と建設業者が注意すべきポイントなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、工期ダンピングとは

工期ダンピングとは、建設工事を施工するために通常必要とされる期間よりも著しく短い工期を設定する請負契約をいいます。

そもそも、「ダンピング」とは、不当廉売を意味する用語であり、不当に安い価格で商品やサービスを提供することをいいます。

建設業界においては、「工期」のダンピングが特に問題となるため、建設業法により工期ダンピングが規制されています

2、工期ダンピングのリスク

建設工事で工期ダンピングが行われると、以下のようなリスクが生じる可能性があります。

  1. (1)長時間労働

    工期ダンピングによって通常必要とされる期間よりも著しく短い期間が設定されると、納期に間に合わせるために建設業に従事する労働者が長時間労働を強いられる可能性があります。

    本来、労働基準法では1日8時間・1週40時間という法定労働時間が定められています。しかし、工期ダンピングが行われた建設現場では、そのような労働時間規制に従っていては納期には間に合わないという理由から、違法な長時間労働が常態化してしまうリスクがあります。

    肉体的にも過酷な建設現場において長時間労働が続くと過労死のリスクが高まることも懸念されます。

  2. (2)手抜き工事

    建設工事では、工事内容に応じて以下のようなさまざまな工程があります。

    • 基礎工事
    • 土工事
    • 躯体工事
    • シールド工事
    • 設備工事
    • 機器製作期間、搬入時期
    • 仕上工事


    建設工事は、天候にも左右されますので、建設工事の日程は余裕をもって設定することが求められます。しかし、工期ダンピングにより、工期が不適正に短く設定されてしまうと、必要な工程を省くなどの手抜き工事が横行するリスクがあります。

    手抜き工事が発覚すると、場合によっては建築物を取り壊して一からやり直さなければならない事態にもなりかねません。

  3. (3)建設業界の就労環境の悪化

    建設業界では、注文者から請け負った仕事を請負業者がさらに下請業者に依頼するといった重層的下請構造になっています。二次請け、三次請けの下層業者は、無理な工期を設定されても、「断ったら仕事を回してもらえないかもしれない」という不安から仕事を受けざるをえない場合もあります。

    このような状況が続くと、適正な工期の仕事がほとんどない状態になり、就労環境の悪化を招くリスクがあります。

3、工期ダンピングを規制する建設業法改正とは

工期ダンピングには上記のようなリスクが伴うことから、「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」により、工期ダンピングが規制されています。

  1. (1)新・担い手3法とは

    新・担い手3法とは、建設業界の人手不足や高齢化を解消することを目的に改正された以下の3つの法律をいます。

    • 建設業法
    • 公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)
    • 公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(入契法)


    新・担い手3法では、働き方改革の推進、生産性向上への取り組み、持続可能な事業環境の確保、災害時の緊急対応の充実強化、調査・設計の品質確保などのさまざまな改正内容が含まれていますが、そのひとつが工期ダンピングの規制です。

    以下では、各法律における工期ダンピングの規制や違反した場合のペナルティについてみていきましょう。

  2. (2)建設業法の改正のポイント

    改正前の建設業法でも、施工に通常必要と認められる期間よりも著しく短い期間を工期とする請負契約の締結を禁止していました(建設業法19条の5)。

    しかし、改正前の建設業法の工期ダンピングの規制は、デベロッパー等の建設工事の注文者を対象としたものですので、受注者は対象外となっていました。そのため、改正建設業法では、受注者の側においても、施工に通常必要と認められる期間よりも著しく短い期間を工期とする請負契約の締結を禁止しています

    建設業法改正により、注文者・発注者の双方に工期ダンピングが規制されましたので、現場の労働者を酷使せずに、適正な工期の設定が促されることが期待されています。

    なお、工期ダンピングにより建設業法違反となると、国土交通大臣または都道府県知事により勧告がなされ、勧告に従わない場合には公表される場合があります

  3. (3)入契法・品確法の改正のポイント

    入契法では、公共工事の入札・契約の適正化の基本となるべき事項に関し、当該請負代金額では公共工事の適正な施工が通常見込まれない契約の締結防止(ダンピングの防止)が規定されました(入契法3条4号)。

    また、品確法では、受注者の責務として適正な請負代金・工期での下請契約締結が義務付けられました(品確法8条2項)。

4、【2025年施行】改正建設業法で受発注者が注意すべきこと

令和7年施工の改正建設業法で受発注者が注意すべきポイントとしては、以下のような点が挙げられます。

  1. (1)受注者側が注意すべきポイント

    改正建設業法を踏まえて、受注者側が注意すべきポイントとしては、以下のような事項があります。

    ① 工期ダンピングの規制対象になる
    改正前の建設業法では、工期ダンピングは発注者側を規制しており、受注者側は規制対象外となっていました。しかし、改正建設業法では、受注者側も工期ダンピングの規制対象となりますので、建設工事を施工するために通常必要とされる期間よりも著しく短い工期を設定した請負契約の締結をしてはなりません。

    適正な工期であるかどうかは、請負契約ごとに、中央建設業審議会が作成及びその実施を勧告した「工期に関する基準」(令和2年7月20日(令和6年3月27日最終改定))を踏まえて判断していくことになります

    ② 安易なコスト削減は控える(労務費の適正化)
    改正建設業法では、建設業者は、労働者に適正な賃金を支払い、適切な処遇を確保するための措置を講じることが義務付けられました。このような労働者の処遇確保措置は、努力義務とされていますので、違反したとしてもペナルティはありませんが、安易なコスト削減を控えるなど労務費の適正化に努めるようにしましょう。

    なお、建設業の工事に関する標準的かつ適正な労務費については、中央建設業審議会により労務費に関する基準が示される見込みです

    ③ 資材価格の変動に関する条項を明示する
    改正建設業法では、建設工事の請負契約に関し、請負代金を変更する場合の金額の算定方法を定めることが義務付けられました。

    これは、資材価格の高騰などが発生した場合、受注者側が不利益を被らないようにするために請負代金への反映をスムーズに行うことを目的としたものになります。
  2. (2)発注者側が注意すべきポイント

    改正建設業法を踏まえて、発注者側が注意すべきポイントとしては、以下のような事項があります。

    ① 発注者│適正価格での発注
    改正建設業法では、受注者から材料費等記載見積書の交付を受けた際に、当該建設工事の施工に通常必要と認められる材料費などの金額を著しく下回るような変更を要求してはならないと定められています。

    発注者がこの規制に違反すると、国土交通大臣または都道府県知事による勧告や公表の対象になりますので注意が必要です。

    ② 発注者│資材高騰時の変更協議に誠実に応じる義務
    改正建設業法では、資材の高騰などのリスクが顕在化した場合、受注者は、発注者に対して、請負代金額などの変更についての協議を求めることができると定められています。また、協議の申し出を受けた発注者は、正当な理由がある場合を除いて誠実に協議することが義務付けられました。

    受注者に資材価格高騰のリスクを転嫁することは避け、しっかりと協議を行い解決するようにしましょう。

5、まとめ

建設業法では、建設工事を施工するために通常必要とされる期間よりも著しく短い工期を設定した請負契約の締結を禁止しています。このような工期ダンピングが行われると、さまざまなリスクが生じるおそれがありますので、適正な工期で契約することが重要です。

工期ダンピングなど、請負の際のトラブルでお悩みの場合は、早めに弁護士にアドバイスを求めるようにしましょう。ベリーベスト法律事務所では初回60分相談料無料でお問い合わせをお受けしておりますので、ぜひご相談ください。

監修者情報
萩原達也 代表弁護士
萩原達也 代表弁護士
弁護士会:第一東京弁護士会
登録番号:29985
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
建築問題の解決実績を積んだ弁護士により建築訴訟問題専門チームを組成し、一級建築士と連携して迅速な問題解決に取り組みます。
建築・建設に関するトラブルや訴訟問題でお困りの際は、お電話やメールにてお問い合わせください。

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