建設業では、元請けと下請けとの間に明確な力関係が存在し、弱い立場の下請けが不当な要求や無理な値引きを強いられるケースがあります。いわゆる「下請けいじめ」と呼ばれる行為で、実務では工事の受領拒否や下請け代金の減額、買いたたき、契約変更の強制などさまざまな形で発生します。
このような下請けいじめは、建設業法、独占禁止法などで禁止されており、行政処分や違法認定の対象になることがあります。下請け業者の方は、不当な下請けいじめに屈しないためにも、適切な対処法を身につけておきましょう。
今回は、建設業における下請けいじめの典型例、適用される法律、不当な取引要求に遭ったときの対処法、弁護士に相談すべきタイミングなどベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
建設業の取引では、元請けと下請けの間に力関係が生じやすく、下請けが不利な条件を強いられることがあります。このような不当な要求や取引の押し付けはいわゆる「下請けいじめ」と呼ばれ、法律上も規制されています。
建設業の現場で問題となる下請けいじめの例として、以下のような行為が挙げられます。
| 【代表例】 |
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| 下請け代金の減額、買いたたき、支払い遅延、受領拒否、現金化が難しい割引困難な手形の交付、有償支給材料の早期決済など |
工事では材料費・人件費・外注費などコストが先行するため、代金の遅延は資金繰りの悪化につながります。相場より著しく安い価格での発注(いわゆる買いたたき)や不当な減額も、禁止されている行為です。
| 【代表例】 |
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| 引き渡しの拒否、不当なやり直し要求、仕様変更の押し付けなど |
建設業法では契約書面の交付義務がありますが、追加工事の指示や変更契約の締結が口頭のまま進むこともあり、契約書に反映されないまま無償対応を求められるケースも見られます。
| 【代表例】 |
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| 特定資材の購入強制、サービスなど経済上の利益を不当に提供させることなど |
材料仕入れや機材レンタルを元請け指定の会社に限定させることは、法律上の問題となり得ます。
| 【代表例】 |
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| 発注量減、取引停止、工事切り替えなど |
行政機関や公正取引委員会への通報を行ったことで不利益を受けるケースも、独占禁止法上問題視されます。建設業の取引は継続性が高いため、報復措置は企業経営に直結する場合があります。
建設業における下請けいじめは、法律で取り締められる対象です。特に重要なのが「建設業法」「独占禁止法」の2つであり、それぞれ下請け事業者の保護を目的とした規制内容が定められています。実務でも、どの法律が適用され得るのかを整理しておくことは、契約交渉やトラブル対応を行ううえで重要です。なお、中小受託取引適正化法(取適法)という法律もありますが、建設工事そのものの請負契約については、原則として取適法の対象外となり、主に建設業法にのっとって、その是非が判断されます(ただし、設計図面の作成や資材の製造委託などには取適法が適用される場合があります)。
建設業法は、建設工事の適正な施工と公正な取引を確保することを目的とする法律です。建設業許可制度や請負契約に関する規定だけでなく、元請けと下請けに関する保護規定も設けられています。
建設業法が問題とする典型例としては、以下の通りです。
建設工事では実際の工事が伴うため、下請け事業者側は材料費・人件費等の先行支出を負うことが一般的です。そのため、支払い遅延や減額は、事業者の資金繰り悪化に直結してしまいます。
建設業法は、そのような構造を前提に、元請けの取引姿勢に一定の規律を設けているのです。
独占禁止法は、公正で自由な競争を促進するための法律です。建設業法との関係では、下請代金を期日内に支払わない(建設業法第24条の3第1項)など建設業法違反があった場合で、独占禁止法第19条の不公正な取引方法にも該当すると認められる場合には、国土交通大臣や都道府県知事から公正取引委員会に対して、適当な措置をとるように求めることができる規定(建設業法第42条)もあります。
建設業で下請けいじめに該当する行為を受けた場合、適切な初動対応をすることで、取引関係を維持しながら問題解決を図ることが可能です。以下では、下請けいじめにあったときの対処法を説明します。
下請けいじめが疑われる行為を受けた場合、最初に行うべきことは事実関係の整理と証拠収集です。建設業法や独占禁止法の適用可否を判断するためにも、取引実態に関する証拠を残しておきましょう。
① 下請けいじめを立証するための証拠例
建設業では仕様変更や追加工事が口頭で行われることも多いため、可能であれば変更契約をその都度書面化する運用が望ましいといえます。
ひな形がない場合には、法務担当者や弁護士に確認し、契約書や合意書の整備を進めることも有効です。
② 書面で是正を求める際のポイント
下請け側が元請けに対して是正を求める場合は、感情的な書き方を避けつつ、以下の点を記載した書面を送付するとよいでしょう。
書面でやり取りを行うことで、後の行政相談や交渉の場面で有利に働くことがあります。
下請けいじめに該当し得る事案では、行政相談やADR(裁判外紛争解決手続)といった公的相談窓口を利用できる場合があります。
建設業の取引は、継続性が高いことから、「元請けとの関係を壊したくない」と悩む会社にとって有効な解決手段となりうるでしょう。
利用可能な窓口の例は、以下のとおりです。
ADR(裁判外紛争解決手続)は、訴訟ほど対立が激化せず、取引関係を維持しながら調整することが可能です。また、基本的には非公開の手続であるため、レピュテーションリスクを回避し、営業秘密を守ったまま柔軟な解決を探りやすい面もあります。
行政通報については、独占禁止法の運用上、実際に改善指導や是正措置につながるケースも存在します。
下請けいじめに関しては、できるだけ早い段階で弁護士に相談することが望ましいといえます。その理由は、以下のとおりです。
弁護士に相談することで、契約書や電子契約運用の見直し、ひな形整備、交渉対応、行政申し立て、再発防止策の構築などを一括してサポートできる場合もあります。
下請けいじめに該当し得る行為を受けた場合、事業者としては元請けとの関係悪化を懸念し、対応をためらうケースもあるでしょう。しかし、建設業の取引は工期・納期・追加契約・支払いなど時間的制約が多いうえ、契約スキームも複雑であるため、問題が長期化するほど是正が難しくなります。このような背景から、早期の段階で弁護士に相談することには大きなメリットがあるといえます。
下請けいじめに該当し得る行為が、建設業法のどの条文に違反しているのかは、取引実態や契約内容を踏まえて評価する必要があります。
どの法律が適用されるのかが整理できれば、行政相談に踏み切るべきか、契約交渉で是正を図るべきか、ADRや訴訟といった法的手段を視野に入れるべきかといった対応方針も立てやすくなります。
元請けとの交渉を下請け側だけで行うと、感情的な対立に発展したり、報復的な対応を招いてしまうおそれがあります。元請けとの取引を継続したい場合には、なおさら慎重に動かなければなりません。
弁護士が介入すれば、事実関係や契約内容、適用される法律に基づいた丁寧な是正要求が可能となり、双方の関係が過度に悪化することを防ぎながら問題解決を図ることができます。契約書や変更契約書の整備、追加工事の合意形成など、建設業の実務に沿った形での調整もサポートできます。
建設業の下請け取引は、継続性があるため、「裁判で勝つか負けるか」という二択に落とし込めないケースが多々あります。
弁護士が関与することで、訴訟に限らず、行政相談やADR、任意交渉など複数の手段を比較検討し、会社の意向や取引環境に合わせた柔軟な対応が可能になります。「今は訴訟すべきでない」「交渉で改善できる」「行政の是正指導が有効」といった戦略判断も弁護士が適切な方向性を示すことが可能です。
建設業における下請けいじめは、我慢して取引を続けても状況が好転するとは限らず、資金繰りや取引環境の悪化といった経営リスクにつながるおそれもあります。不当な要求や不利益を受けていると感じた段階で、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、建設業法・独占禁止法に基づく法的評価や元請けとの交渉、行政相談、ADR・訴訟手続きまで、建設業関連の紛争の解決に実績がある弁護士がチームで対応しています。まずはお気軽にご相談ください。


