店舗やビルのリフォーム工事が遅れたとき、施工業者に責任がある場合には、「遅延損害金(損害賠償金)」を請求できる可能性があります。
ただし、工事が遅れたからといって、必ず請求が認められるわけではありません。
本コラムでは、リフォーム工事の遅延を理由に遅延損害金を請求できるケースや算定方法、具体的な請求手順、請求できないケースについて、ベリーベスト法律事務所 建築訴訟専門チームの弁護士が解説します。
工期どおりに完成することを前提に、店舗のオープン日やテナントの募集開始日を決めているケースは少なくありません。そのため、リフォーム工事が予定より遅れると、賃料や人件費などの余計な費用が発生し、事業計画にも大きな影響を及ぼすこともあるでしょう。
そのようなとき、施工業者に責任がある工期の遅れであれば、損害賠償を請求できる可能性があります。
リフォーム工事が予定の工期までに完成しなかった場合、施工業者に原因があるのであれば、施主は損害賠償を請求できる可能性があります。
その法的根拠となるのが、民法415条の「債務不履行」です。債務不履行とは、契約で約束した義務を果たさないことをいいます。
リフォーム工事では、施工業者は契約で定めた内容の工事を、約束した工期までに完成させる義務を負っています。そのため、施工業者の管理不足や手配ミスなどが原因で工事が遅れた場合には、この義務に違反したとして損害賠償責任が生じることがあります。
ただし、工事が遅れたという結果だけで請求できるわけではありません。遅延の原因がどこにあったのかを確認することが重要です。
契約書には、「遅延損害金」や「違約金」という言葉が記載されていることがありますが、意味は同じではありません。
遅延損害金とは、工期の遅れによって施主が受けた損害を補填するためのお金です。これに対し、違約金という定めがある場合には、民法により、違約金は損害賠償額を前もって決めておいたもの(賠償額の予定)と推定されます(民法420条3項)。
従って、違約金の規定は、契約違反があった場合に支払う金額を、あらかじめ定めておくという取り決めであると考えられるのが原則となります。
賠償額の予定にあたる場合、実際の損害額がいくらだったかを証明しなくても、契約で決めた金額を請求できます(民法420条1項)。実際の損害額が定められた金額を下回る場合も、その金額を請求できます。
工事の遅れについての損害賠償も、違約金の規定があれば、この賠償額の予定として定められていると推定されます。
遅延損害金を請求できるとしても、金額を自由に決められるわけではありません。契約書の内容や、どのような損害が生じたかによって算定方法が異なります。
本章では、遅延損害金の具体的な計算方法について解説します。
建築工事の契約では、工期が遅れた場合の遅延損害金について、あらかじめ契約書で定めていることがあります。
たとえば、国が示している契約書のひな型のひとつに、民間建設工事標準請負契約約款があります。なお、原文では「遅延損害金」ではなく「違約金」の語を用いており、「契約書に別段の定めのない限り」という留保がついています。
このうち比較的大きな工事を想定した「甲」では、施工業者が工期内に引渡しをできなかった場合の違約金について、42条2項で「契約書に別段の定めのない限り、延滞日数に応じて、請負代金額に対し年十パーセントの割合で計算した額とする」と定めています。
他方、個人住宅等の中小規模の工事を想定した「乙」では、33条2項で「契約書の定めるところにより、延滞日数に応じて、請負代金額に対し年十四・六パーセント以内の割合で計算した額とする」と定めています。
ただし、これはあくまでひな型です。この約款を使わずに契約した場合や、契約書で別の割合を定めている場合には、この年10%や14.6%は適用されません。また、工期内に一部の引渡しが済んでいるときは、その部分に相当する請負代金額を差し引いて計算します(同項ただし書)。
たとえば、請負代金が3000万円、部分引渡しがなく、工期が30日遅れた場合は、次のような計算になります。
契約書に遅延損害金の定めがない場合でも、施工業者に責任がある工期の遅れであれば、損害賠償を請求できる可能性があります。
この場合は、実際にどのような損害が発生したのかをもとに金額を算定します。
たとえば、リフォーム工事の遅延であれば次のような損害が考えられます。
ただし、これらがすべて認められるわけではありません。
民法では、賠償の対象となる損害を、その債務不履行から通常生じる損害としています。特別な事情によって生じた損害は、その事情を施工業者が予見すべきであったといえる場合に限って請求できます(民法416条)。
そのため、遅延損害金を請求するためには、工事の遅れと損害との間に因果関係があること、金額が客観的な資料で裏付けられること、特別損害の場合には予見可能性があること、この3点が必要になります。
リフォーム工事の遅れによる損害は、建物の用途によって内容が異なります。
たとえば、居抜き店舗では、予定日に開業できなかったことで売上げを失うケースが多くあります。開業準備のために採用した従業員の人件費や、オープンに合わせて実施した広告宣伝費が無駄になることもあるでしょう。
一方、ビル一棟のリフォームでは、テナントへの引渡しが遅れた結果、賃料収入を得られなかったり、既存テナントへの補償が必要になったりするケースがあります。
また、オフィスビルや商業施設では、予定していた入居スケジュールが変更となり、移転費用や追加の管理費が発生することもあります。
このように、請求できる損害は建物の種類や利用目的によって変わります。「工事が○日遅れたから○万円請求できる」という単純なものではありません。
契約内容に加え、どのような損害が発生したのかを個別に整理することが、適正な請求につながります。
工事が予定より遅れたとしても、必ず施工業者に損害賠償を請求できるとは限りません。
遅延の原因によっては、施工業者に責任がないと判断されることもあります。請求が認められるかどうかを見極めるためにも、請求できない代表的な例を確認しておきましょう。
工事の遅れが施主側の事情によるものであれば、原則として施工業者に遅延損害金を請求することはできません。
たとえば、次のような場合です。
このような場合、工期が延びた原因は施工業者ではなく施主側にあると考えられるためです。
もっとも、遅延の原因が施工業者と施主の双方にある事案も珍しくありません。その場合は、どちらにどの程度の責任があるのかが争点となります。
施工業者が十分な対応をしていても、防ぐことのできない事情で工事が遅れることがあります。
代表的なのは、次のような事情です。
民法では、契約や取引上の社会通念に照らして債務者の責任とはいえない事情による場合、損害賠償を請求できないと定めています(民法415条1項ただし書)。そのため、不可抗力による遅延では、損害賠償請求が認められないのが原則です。
ただし、どこまでが不可抗力にあたるかは、契約書の定めや、施工業者が取れたはずの対応をしていたかによって判断が分かれます。感染症の流行が常に不可抗力と認められるわけではありません。
工事の途中で、施主と施工業者が話し合い、工期を延長することで合意することがあります。
たとえば、以下のようなケースです。
このように双方が新しい工期に合意している場合は、その期限までに工事が完了している限り、当初の工期を過ぎたことだけを理由に遅延損害金を請求することは難しいでしょう。
一方で、工期を延長したあとも、その新たな工期を過ぎて完成した場合には、その時点から改めて施工業者の責任が問題となる可能性があります。
なお、工期の変更を口頭だけで済ませると、あとから「いつまで延長したのか」をめぐって争いになることがあります。トラブルを防ぐためにも、変更内容は書面やメールなどで残しておくようにしてください。
リフォーム工事が遅れた場合は、「工事が遅れた」という事実だけを主張しても、十分な損害賠償を受けられないことがあります。請求を進めるには、遅延の原因や損害額を客観的な資料で示すことが重要です。
なお、遅延損害金の請求には期限があります。請求できることを知ったときから5年、または請求できるときから10年が経過すると、時効によって請求できなくなります(民法166条1項)。工事が終わってから時間がたっている場合は、まず残りの期間を確認しましょう。
まずは、工事が予定どおり完了しなかったことを示す資料を集めます。
たとえば、次のようなものが証拠になります。
工事が長期間止まっていたことや施工業者が遅延を認める発言をしている場合は、その記録も重要な証拠になります。
時間がたつとメールや写真が失われることもあるため、気付いた時点で保存しておくことをおすすめします。
次に、工事請負契約書を確認しましょう。
特に確認したいのは、次のような項目です。
契約書によっては、遅延損害金の計算方法や請求方法まで定められていることがあります。
また、「天災の場合は責任を負わない」といった免責条項が設けられている契約書もあります。契約内容を確認せずに請求すると、思わぬ反論を受ける可能性があるため注意が必要です。
契約書に遅延損害金の定めがあれば、その計算方法に従って請求額を算定します。
一方、契約書に定めがない場合は、実際に発生した損害を積み上げて計算します。
たとえば、以下のようなケースが対象となることがあります。
請求額に説得力を持たせるためには、請求書や領収書、賃貸借契約書、給与台帳などの資料もあわせて準備しておきましょう。
証拠や損害額を整理したら、施工業者へ正式に請求します。
口頭での話し合いで解決できることもありますが、交渉がまとまらない場合は、内容証明郵便を利用する方法が有効です。
内容証明郵便とは、いつ、どのような内容の文書を、誰から誰あてに差し出したのかを、日本郵便が証明する制度です(郵便法48条)。文書そのものに強制力はありませんが、施工業者に対して正式な請求であることを示せるため、交渉が進展するきっかけになります。
また、請求したことが記録に残るため、「催告」として消滅時効の完成を6カ月間先延ばしする効果もあります(民法150条1項)。
請求書には、遅延の経緯や請求額、その根拠となる資料を整理したうえで、支払期限を明記するとよいでしょう。
施工業者が責任を認めない場合や請求額で折り合いがつかない場合は、裁判所の手続きを利用することも検討します。
代表的な方法は、民事調停と訴訟です。
民事調停は、裁判所で調停委員を交えながら話し合いによる解決を目指す手続きです。双方が合意すれば、訴訟よりも早期に解決できる可能性があります。
話し合いで解決できない場合は、訴訟によって裁判所に判断を求めることになります。
また、建設工事の請負契約をめぐるトラブルについては、建設業法にもとづいて設けられた建設工事紛争審査会に、あっせん・調停・仲裁を申し立てる方法もあります(建設業法25条以下)。建築の知識を持つ委員が関与するため、工事の遅れの原因といった技術的な争点を扱いやすいという特徴があります。ほかにも各種の裁判外紛争解決手続(ADR)があります。
工事の遅延では、原因や損害額について専門的な争いになることも少なくありません。
施工業者との交渉が難航している場合は、早い段階で建築訴訟についての知見がある弁護士に相談したほうがよいでしょう。
リフォーム工事の遅延では、施工業者が責任を認めなかったり、請求できる損害の範囲で見解が対立したりすることが少なくありません。
店舗やビルのリフォームでは、営業開始や賃貸経営にも影響が及ぶため、解決が長引くほど損失が大きくなるおそれがあります。工事の遅れによる損害を適切に回収するためには、できるだけ早い段階で弁護士へ相談することをおすすめします。
リフォーム工事の遅延では、契約内容や工事の経緯によって請求できる金額が変わります。「開業の遅れによる営業損失は請求できるのか」「仮店舗の賃料や広告費は対象になるのか」など、判断に迷う場面も多いでしょう。
ベリーベスト法律事務所には、建築紛争に対応する弁護士で構成された建築訴訟専門チームがあり、一級建築士とも連携しています。契約書や工事の進捗、損害の内容を確認したうえで、法的に請求できる範囲を整理し、解決方針をご提案します。
施工業者との交渉では、「遅れた原因は施主側にもある」「請求額が高すぎる」といった反論を受けることがあります。
ご依頼いただいた場合は、弁護士が代理人として交渉を進めます。法的な根拠や証拠を踏まえて交渉するため、感情的な対立を避けながら解決を目指せます。
ベリーベスト法律事務所は全国にオフィスを展開しており、遠方の物件に関するご相談にも対応しています。また、各オフィスと東京オフィスの建築訴訟専門チームが連携し、事案に応じたサポートを行うことが可能です。
建築紛争では、必ずしも訴訟が最善の解決方法とは限りません。
状況によっては、請求額の一部を譲る代わりに早期の引渡を得る、残りの工事について工期を組み直すなど、交渉によって着地点を探る方法もあります。調停を利用することで、時間や費用を抑えられる場合もあります。一方で、話し合いによる解決が難しい場合には、訴訟を見据えた対応が必要になることもあります。
ベリーベスト法律事務所では、交渉から調停、訴訟まで一貫してサポートしています。初回相談は60分まで無料です(※現地調査などは別途費用がかかります)。弁護士費用についても、事前にご説明します。
リフォーム工事の遅延による損害でお困りの方は、まずはベリーベスト法律事務所へご相談ください。建築訴訟専門チームの弁護士が、状況をうかがったうえで解決に向けた最適な方針をご提案します。


