下請業者から、数年前の工事について突然「請求漏れがありました」と連絡を受けた場合、対応に悩む施工業者もいるでしょう。
支払うべきか否かは、本当に未払い工事があるのか、追加工事について合意があったのか、消滅時効が完成していないかなどを個別に確認しながら判断する必要があります。また、請求内容によっては、減額交渉や支払い拒否が認められるケースもありますので、適切な対処法を理解しておきましょう。
今回は、建設業法における下請代金の支払期間の基本ルールを整理したうえで、請求漏れがあった場合の支払い義務や消滅時効、施工業者として取るべき対応について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
建設業法では、下請業者への代金支払いについて一定のルールが定められています。
まずは、請求漏れトラブルを考える前提として、支払期間の基本を確認しておきましょう。
建設業法では、元請業者が発注者から工事代金を受け取った場合、下請業者に対してできる限り早く支払うことが求められています。
具体的には、出来高払いや竣工払いを受けた日から1か月以内とされています(建設業法24条の3)。
元請業者が「特定建設業者」の場合には、さらに厳しいルールが適用されます。
建設業法24条の6では、下請業者から工事目的物の引渡しの申し出を受けた日から50日以内に、下請代金を支払わなければならないとされています。
たとえば、
という状況であれば、元請業者は50日以内の支払いを意識する必要があります。
下請業者との契約で「支払いは3か月後」「半年後にまとめて精算する」などと定めていても、建設業法で定められた支払期限に従う必要があります。
1章で説明したとおり建設業法には支払期間のルールがあります。しかし、期限を過ぎたからといって、未払い工事代金が自動的になくなるわけではありません。
ここでは、期限を過ぎた請求漏れがあった場合の扱いと施工業者に生じるリスクについて説明します。
建設業法の「1か月以内」「50日以内」というルールは、あくまで「いつまでに支払うべきか」を定めたものです。そのため、期限を過ぎていても、直ちに支払い義務がなくなるというわけではありません。
建設業法の支払い期間と法律上の支払い義務は、まったく別のものですので、分けて考える必要があります。
なお、請求漏れの下請代金の支払い義務がいつまであるのかについては、3章で詳しく解説します。
請求漏れだからといって放置していると、後から思わぬトラブルへ発展することがあります。
ここでは、支払いを遅延した場合に生じる代表的なリスクを見ていきましょう。
下請業者から請求漏れの工事代金の請求を受けた場合、すぐに支払いに応じるのではなく、法的な支払い義務があるかどうかを検討すべきです。
以下では、下請代金の支払い義務の有無を判断する際に重要になる消滅時効の考え方を説明します。
消滅時効とは、一定期間権利を行使しない場合に、その権利が法律上消滅してしまう制度です。一定期間権利が行使されない場合に、時効の援用によって請求を受けても支払いを拒むことができます。
工事代金請求権の時効は、権利を行使できることを知ったときから5年または権利を行使できるときから10年とされています。
実際の建設工事では、下請業者側が「請求できる状態であること」を認識しているケースがほとんどです。そのため、基本的には5年が時効期間になると考えておけばよいでしょう。
なお、令和2年4月1日より前に締結された請負契約については、改正前の民法が適用され、時効期間が異なる場合があるため、注意が必要です。
時効の起算点とは、時効期間のカウントダウンが始まるスタート地点(日付)のことをいいます。
請負契約における工事代金は、工事が完成し、引き渡しができる状態になった時点で請求できるようになりますので、基本的には、「工事完成引き渡し時」が時効の起算点になります。
ただし、契約により工事代金の支払い日が定められているときは、その時点が起算点です。
工事代金の請求漏れにより、5年の時効期間が経過した場合、元請業者は、工事代金の支払いを拒否することができます。
ただし、時効は自動的に成立するわけではないため、下請業者に対して、「時効を援用する」という意思表示を行わなければなりません。
なお、時効完成後に工事代金の一部でも支払ったり、支払義務を認めるような対応をしたりすると、時効の援用が認められなくなる可能性があるため、注意してください。
下請業者から請求漏れの工事代金を請求された場合、支払いを拒否できるケースでなければ、基本的には支払う方向での対応になります。ただし、合理的な理由があれば一部支払いや減額交渉も可能です。
請求漏れであっても、実際に工事が行われており、契約上の根拠もある場合には、下請業者側への支払いが必要になります。
そのため、「かなり前の案件だから」「もう終わった話だと思っていたから」といって、何も対応しないまま放置するのは危険です。
まずは契約書や注文書、追加工事の記録、メール履歴などを確認し、請求内容に根拠があるかどうかを確認するようにしましょう。
以下のようなケースに該当する場合であれば、例外的に請求漏れの工事代金の支払いを拒否することができます。
請求漏れの工事代金の支払いに応じなければならないケースであっても、下請業者からの請求額をそのまま支払うべきか、よく検討した方がよいでしょう。
たとえば、
といったケースでは、減額交渉が可能です。
また、長期間請求が行われていなかった事情を踏まえて、支払時期や支払方法などについて協議を求めてみてもよいかもしれません。
下請業者から請求漏れの下請代金を請求されていて、支払うべきかどうかの判断に迷うときは、弁護士に相談することをおすすめします。
請求漏れのトラブルでは、「本当に支払う必要があるのか」が最初の大きな問題になります。
しかし、実際には簡単に判断できないケースも多いのが実情です。
たとえば、追加工事が正式に発注されていたのか、請求内容に契約外の作業が含まれていないか、消滅時効が完成していないかなどは、法的観点から検討しなければなりません。
弁護士に相談すれば、契約書やメール履歴、注文書などに基づき、本当に支払うべきお金なのかについて、法的な判断することができます。
請求内容に疑問がある場合でも、対応方法を誤ると、建設業法違反のリスクがあります。
たとえば、十分な確認をしないまま一方的に減額したり、「昔の案件だから」と請求自体を放置したりするなどのケースです。
万が一、建設業法違反になれば行政処分の対象となり、今後の事業活動にも悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、不安に感じる点がある場合には、自己判断で行動するのではなく、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士からのアドバイスを受けることで、建設業法違反リスクを踏まえた適切な対応方針を検討しやすくなります。
請求漏れの案件では、「工事内容は認めるが金額が違う」「追加工事の範囲に認識のズレがある」といった形で、一部に争いが生じることがあります。
こうしたケースでは、感情的な対立になってしまうと、話し合いが進まなくなることもあります。
弁護士が間に入ることで、契約内容や証拠を整理しながら、法的根拠に基づいて冷静に交渉を進めることができます。
また、今後も取引が続く下請業者であれば、「全面的に争う」のではなく、円満な解決を目指したほうがよいケースもあります。状況に応じて、減額交渉や和解を含めた現実的な対応を検討できる点も弁護士に相談するメリットといえるでしょう。
請求漏れの案件を放置したり、誤った対応を続けると、訴訟にまで発展する可能性があります。
訴訟になれば解決までに時間や費用もかかるため、できる限り話し合いで解決するのが望ましいといえるでしょう。
弁護士に相談すれば、状況に応じた適切な対応方法をアドバイスしてくれますので、訴訟やトラブルの拡大を防げる可能性があります。また、訴訟になった場合の対応方法等も相談できるため、法的な見通しを踏まえた対応につなげることができます。
下請業者から「請求漏れがあった」として工事代金を請求された場合、建設業法の支払期間を過ぎているだけで、当然に支払いを拒否できるわけではありません。
支払いに応じるべきかどうかは、時効の成否や請求の根拠、反対債権の有無などを踏まえて判断しなければならず、弁護士のサポートが役立つことがあります。ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。


