注文住宅を引き渡した後に、施主からやり直し工事を要求されることがあります。
引き渡した住宅に瑕疵や不具合があった場合には、やり直し工事を行うべき場合がありますが、どの範囲で、どの程度のやり直し工事をしなければならないのかは、慎重に判断する必要があります。
今回は、施主からやり直し工事を要求されたときに、施工業者が検討すべきことと注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
施主からやり直し工事を要求された場合、施工業者としてはどこまで対応すべきなのでしょうか。以下では、施工業者が行うべき対応について説明します。
施主からクレームが入ったときは、すぐに対応することが大切です。施主からのクレームを放置してしまうと、軽微なトラブルであったとしても施工業者に対する不信感が募り、重大なトラブルに発展するおそれもありますので注意が必要です。
施主からやり直し工事を求められたら、まずは、施主がやり直しを求めている箇所を確認するのが対応の第一歩となります。今後、やり直し工事の要否を判断するための資料となりますので、施主の指摘箇所については写真で残しておくとよいでしょう。
施主からやり直し工事を求められている箇所を確認したら、契約書や図面、仕様書に明記された施行内容と照らし合わせ、相違を明らかにし、やり直し工事の要否を検討します。
契約の内容どおりの工事ができていれば、施主が気に入らないとしても、契約不適合(瑕疵)ではありませんから、この場合には無償でやり直しをする必要はありません。しかし、契約の内容と異なる工事になってしまっているのであれば、それは契約不適合であり、瑕疵は修補しなくてはなりません。ただし、瑕疵(不具合)のやり直しの請求は、施主の権利である一方、「瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない(民法634条1項但書)」とされています。
やり直し工事に多額の費用がかかり、その重要性について判断が難しい場合は、建築トラブルの解決実績がある弁護士に早めに相談することをおすすめします。
やり直し工事が必要であると判断した場合、工事ミスの原因が施工(元請け)業者にあるのか、あるいは下請け業者にあるのかを特定する必要があります。
通常、施工業者が現場の監督・指揮の責任を負うため、施工業者が費用を負担してやり直し工事を行うことになります。ただし、図面や仕様書を無視した施行や、下請け業者の施行ミスが明らかな場合には、下請け業者に対し無償でやり直しを求めたり、やり直しに必要な費用を請求することができます。
ミスの原因がどちらにあるのかによって、今後の対応が変わってきますので、早めに特定することが大切です。
引き渡しをした住宅に瑕疵があった場合、施工業者としては、以下のような対応が必要になります。
施工業者には、施主との契約に従って注文住宅を完成させなければならない法律上の義務があります。施主に引き渡しをした住宅に、契約書・図面・仕様書などとの間で相違があるようであれば、契約どおりに施工したとはいえない場合があります。
このような場合、施工業者には「契約不適合責任」に基づく追完義務が生じますので、契約内容に適合するようやり直し工事を行わなければなりません。
問題となっている箇所について契約不適合が生じているかどうかは、法的な判断が必要になります。また、前述の通り、やり直し工事に多額の費用がかかるものの、当該不具合の重要性が低いと判断される場合には、費用負担が軽減できる可能性もあります。
ただし、やり直し工事が必要であるにもかかわらず、誤って不要と判断して拒否してしまうと、施主から訴訟を提起されるリスクがありますので、やり直し工事の要否は正確に判断することが重要になります。
早期に建築問題の解決実績がある弁護士に相談をして、今後の施工業者としての対応方針を明確にするようにしましょう。
やり直し工事を求められている箇所について、契約内容との不適合が認められる場合には、やり直し工事を行うべきということになります。
施主との交渉では、以下の2つのポイントを押さえて対応しましょう。
やり直し工事が必要な場合、下請け業者に引き受けさせることができるのでしょうか。
注文住宅は、施工業者(元請け業者)だけではなく、さまざまな下請け業者が関与して、施工が行われるのが一般的です。そのため、やり直し工事が必要になった原因が元請け業者と下請け業者のどちらにあるのかによって、費用負担などの対応が異なってきます。
下請け業者に対して、費用負担を求めることができるのは、下請け業者の施工が契約書面等で確認できる契約の内容と異なる場合、または下請け業者の施工にミスなどがある場合に限られます。
他方、下請け業者の施工が契約書面等で示された内容と異なる場合であっても、以下のようなケースについては、元請け業者がやり直し工事の費用を負担しなければなりません。
下請け業者の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず、下請け業者にやり直し工事を引受させて、費用を一方的に負担させるのは、建設業法19条の3の「不当に低い請負代金の禁止」等に違反する可能性があります。
下請け業者の責めに帰すべき理由がない場合でも、下請け業者にやり直し工事を依頼することは可能ですが、その場合には、元請業者がやり直し工事の費用を負担しなければなりません。
また、下請け業者にやり直し工事を依頼する場合には、やり直し工事に必要となる費用を協議した上で、契約変更を行う必要があります。下請け業者が費用を負担する必要がないのであれば、元請け業者がその分の費用を下請け業者に支払うことになり、当初の下請け業者との請負契約の変更になります。この場合には書面で契約の変更を行わないと、建設業法19条2項に違反する可能性がありますので注意が必要です。
施主との間でトラブルが生じた場合には、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。
注文住宅の施工にあたっては、やり直し工事のトラブル以外にも、追加・変更工事に関するトラブル、住宅の瑕疵に関するトラブル、請負代金の不払いに関するトラブルなどさまざまな問題が発生することも珍しくありません。
施主と施工業者のトラブルを解決するにあたっては、建築に関する知識や経験だけでなく、法的知識や経験も有する弁護士のアドバイスが不可欠といえます。なお、建築トラブルは特有の知見が必須となるため、弁護士選びの際は、一級建築士との連携や建築トラブルの解決実績がある弁護士に相談するようにしましょう。
弁護士に依頼すれば、施工業者の代理人として施主と交渉を行うことができます。不慣れな交渉に時間や労力を割く負担を大幅に軽減することができます。施主からの過度な要求に対しても、弁護士であれば、法的根拠に基づいて拒否することができますので、交渉がスムーズにいく可能性が高いといえるでしょう。
引き渡しをした注文住宅に瑕疵(不具合)があった場合には、施工業者の責任でやり直し工事を行わなければならない場合があります。しかし、やり直し工事を行うに当たって、どの程度の修補や費用の負担をすべきかの判断にあたっては、法的観点からの検討も必要になりますので、迷う場合には弁護士に相談するとよいでしょう。
ベリーベスト法律事務所は、建築訴訟を専門に取り扱う専門チームを有しており、必要に応じて一級建築士との連携も可能です。施主との建築トラブルでお困りの場合は、お電話やメールにてベリーベスト法律事務所にお問い合わせください。