「下請けの施工ミスでも元請けが責任を負うのだろうか?」「どんな場合でも元請けが全額を賠償しなければならないのだろうか?」「下請けとのトラブルについて法的手続きはとれる?」
本コラムでは、下請けのミスで施主から賠償を求められそうという場合の、施主への対応方法、下請け会社との交渉方法、折り合いがつかなかった場合の法的手続きなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
発注者である施主は、施行が下請けによって行われたかを知らない(関心がない)ことが通常です。あくまで、施主の契約の相手方は元請け(販売会社)のため、施主が引き渡しを受けた物件に欠陥や不具合がある場合、施主からの問い合わせやクレームは、元請け宛てに来ることがほとんどです。
元請けとしては、施主との信頼関係を損なわないために、問い合わせやクレームを受けた場合には、次のような初動対応をとることが望ましいといえます。
施主との窓口対応は元請けが行うこととなりますが、元請けは、請負契約によって下請けに仕事を依頼していますので、下請けの仕事にミスがあれば、下請けとの請負契約に基づいて下請けに対して責任を問うことが可能です。
元請けと下請けのどちらがどれだけ責任を負うのかは、元請けと下請けとの間の請負契約でどのような定めがあるかによって決まります。
契約書で責任割合を定めていれば、基本的には契約書の定めのとおり責任割合が決まり、契約書に何の定めもなければ、ミスの内容等、具体的な事情をもとに責任割合を考えていくということになります。
そのため、下請けとの協議を開始するに当たっては、次のような流れで対応すべきでしょう。
施主と契約しているのは元請けですから、施主に引き渡した物件に欠陥や不具合があれば、それが下請けの施工ミスによるものであっても、施主に対する一次的な責任を負うのは元請けです。
そこで、この章では、元請けが施主に対して負う責任とその詳細について、お伝えします。
施主との請負契約が令和2年4月1日以降に締結されたものである場合、元請けは、施主から契約不適合責任(民法559、636、637条)を追及される可能性があります。
契約不適合とは、元請けが施主に引き渡した物件が「契約の内容に適合しない」ことをいい、たとえば、契約で合意した性能や仕様を満たさない場合などが該当します。
契約不適合が認められれば、施主は、元請けに対し、
① 修補請求、② 損害賠償請求、③ 代金減額請求、④ 契約の解除
を行うことが可能です。
契約不適合責任の時効期間は、物件の引き渡しから10年、施主が契約不適合を発見してから5年です。
しかし、この期間内であっても、契約不適合を発見してから1年以内にその旨を元請けに通知しなければ、施主は権利を行使することができなくなります。
施主との請負契約が令和2年3月31日以前に締結されたものである場合には、改正前の旧民法が適用され、追求され得る責任は、契約不適合責任ではなく瑕疵担保責任(改正前民法634~640条)となります。
瑕疵とは、物件が通常備えるべき性能を欠いていることをいいますが、契約不適合と同じ意味であると考えておいて問題ありません。
瑕疵担保責任では、
① 修補請求、② 損害賠償請求、③ 契約の解除
が可能で、契約不適合責任よりも施主の行使できる権利の範囲が狭くなっています。
しかも、契約の解除は、建物の建築工事に関しては行うことができないとされています。
引き渡しから10年で時効にかかり消滅する点は契約不適合責任と同じですが、瑕疵を発見してから1年以内に権利を行使しなければならないとされており、通知すれば足りるとされている契約不適合責任と比べて、施主の負担が大きい定めとなっていました。
たとえば、工事現場に出入りする下請けの車両が通行人と事故を起こした場合や、施行中に下請けが工具を落として下にいる人にぶつけてしまった場合、ケガをさせたのは下請けですが、元請けも、使用者責任(民法715条)を負う可能性があります。
使用者責任とは、元請けは、下請けを使って自らの仕事の範囲を広げている以上、利益だけでなく損害も分担すべきと考えられることに基づいて負担する責任です。
使用者責任が認められた場合、いったんは元請けが全額を賠償し、過失割合に応じて、下請けが負担すべき額を事後に求償しなければならないというケースも生じ得ます(正確には、元請けと下請けは、施主に対して連帯して責任を負うのですが、下請けには資力がないことも多く、いったんは元請けがすべてを賠償することが少なくありません)。
元請けと下請けがどのような割合で責任を負うかは、個別の事案によって異なるのですが、参考となりそうな裁判例をご紹介しましょう。
施工ミスが起きた場合、元請けは、施主・下請けの両方と協議をしなければなりませんが、必ずしも話し合いで解決できるとは限りません。
話し合いで解決がつかないときには、法的手続きをすることになりますが、その手続きは訴訟だけではありません。ほかにも、ADR(裁判外紛争処理機関)、調停などがあります。
この章では、法的手続きの種類と詳細をお伝えします。
代表的な建築関連のADRは、国土交通省及び各都道府県の建設工事紛争審査会や、弁護士会の住宅紛争審査会が行うもので、あっせん・調停・仲裁を受けることができます。
ADRは、訴訟とは異なり、非公開の手続きで、双方当事者の話し合いと歩み寄りによる解決を目指します(仲裁は例外で、訴訟に近い性質があります)。
制度を利用するための費用も、1万円前後と訴訟よりも安価で、また、審理の期間も、数か月から約1年と訴訟よりも迅速な解決が期待できます。
民事調停は、裁判所で利用することのできる制度で、裁判官1名と、調停委員2名の計3名からなる調停委員会により行われる手続きです。建築関連紛争の場合には、調停委員は建築士など、建築の専門知識を持つ者が選定されることも多く、裁判所における手続きであることから、ADR(裁判外紛争処理機関)での手続きよりも話し合いがまとまりやすい傾向があります。
こちらも話し合いをベースとする解決であり、ADRにおける調停と似たような制度ですが、金額や規模の大きいトラブルや、内容がやや複雑なトラブルなどは、ADRではなく裁判所の調停を利用することが多いといえます。
施主や下請けと話し合いの余地がなかったり、内容がかなり複雑な場合などには、いきなり訴訟を提起することもあります(ただし、あまりに専門的すぎるような場合には、裁判所から、先に調停を利用するよう促されたり、付調停といって調停に移行させられることもあります)。
訴訟の場合でも、裁判官のほかに、建築の専門家が専門委員として関与することがあります。
調停に比べて解決までに時間がかかりますし、また、主張・立証・提出すべき証拠についても詳細なものが必要で、他の手続きに比べて高度な専門性が要求されます。
施工ミスによるトラブルが発生すれば、施主・下請けの双方との関係で解決に向けた対応をしなければならず、会社や社員にとっては大きな負担となります。
弁護士に相談・依頼すれば、次のようなメリットがありますので、建築トラブルの解決には、弁護士の活用が効果的です。
建築トラブルを解決するためには、法律のみならず、建築についての経験・専門知識が必要です。
また、トラブルを予防するためには、施主・下請けと請負契約を締結する際の契約書が重要で、契約書で適正な内容を定めていれば、リスクを回避することが期待できます。
顧問弁護士契約を結べば、自社の事情に精通した弁護士が契約書チェックを行うなど、トラブルになる前の予防法務が可能です。
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