新築住宅の工事請負契約または売買契約については、請負人または売主に10年間の瑕疵担保責任が課されています。
この新築住宅の瑕疵担保責任を確実に履行するため、住宅瑕疵担保履行法(正式名称:特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律)により、建設業者・宅地建物取引業者には「資力確保措置」が義務付けられています。
資力確保措置は、住宅瑕疵保険(住宅瑕疵担保責任保険)への加入と保証金の供託の2種類です。建設業者および宅地建物取引業者は、住宅瑕疵担保履行法の規定に従い、資力確保措置を確実に講じましょう。
本記事では、新築住宅の瑕疵担保責任の概要や、建設業者・宅地建物取引業者に義務付けられる資力確保措置などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
新築住宅の建設工事請負契約および売買契約においては、品確法(正式名称:住宅の品質確保の促進等に関する法律)に基づき、請負人または売主が10年間の瑕疵担保責任を負います。
建物の工事請負契約や売買契約には、原則として民法の契約不適合責任が適用されます。
契約不適合責任とは、目的物(建物)が契約に適合していない場合に、売主(施工業者)が買主(施主)に対して負う責任です。
買主(施主)は売主(施工業者)に対して、以下の方法によって契約不適合責任を追及できます(民法第562条~第564条、第559条、第415条第1項、第541条、第542条)。
契約不適合責任の期間は、原則として買主(施主)が不適合を知った時から1年です。この期間内に契約不適合の事実の通知を行わないと、責任追及ができなくなります。そして、この期間は契約で短縮することもできるので、多くの契約では、「知った時から」ではなく、「引渡から」2年といったように、より短期間の期間が定められています。しかし、住宅は住む人にとって生活の基盤であり、時間がたってから欠陥が判明するケースも多いため、重大な欠陥についてまで、引渡から1年、2年といった短期間で契約不適合責任を追及できなくなるのは酷と思われます。
そこで品確法では、新築住宅の構造耐力上主要な部分と雨水の侵入を防止する部分について、10年の瑕疵担保責任を設けました。新築住宅の瑕疵担保責任の追及方法は契約不適合責任と同じですが、責任期間が大幅に延長され、特約による短縮が不可とされています。
なお、新築住宅とは、新たに建設された「住宅」であって、人が住んだことがなく、かつ建築工事完了日から一年以内のものを指します(品確法第2条第2項)。
新築住宅の瑕疵担保責任は、「構造耐力上主要な部分」または「雨水の浸入を防止する部分」として、政令で定められているものに限り適用されます(品確法第94条第1項、第95条第1項)。
具体的には、以下の部分が新築住宅の瑕疵担保責任の対象です(品確法施行令第5条)。
新築住宅の瑕疵担保責任の期間は、売主(施工業者)が買主(施主)に住宅を引き渡した時から10年間です(品確法第94条第1項、第95条第1項)。(ただし、瑕疵を知ってから1年以内に瑕疵を通知する必要はあります。)
この10年の責任期間は、特約による短縮が認められていません。そのため、責任期間を10年よりも短く設定するなど、買主(施主)に不利な特約は無効となります(同法第94条第2項、第95条第2項)。
新築住宅の引き渡し後、時間がたってから欠陥が判明した場合、その時点で売主(施工業者)の財務状況が悪化していたり、すでに倒産していたりすることも想定されます。
このような場合にも施主を保護するため、住宅瑕疵担保履行法では、建設業者および宅地建物取引業者に資力確保措置を義務付けています。資力確保措置には、住宅瑕疵保険の付保と保証金の供託の2種類があります。
資力確保措置の対象となるのは、建設業者と宅地建物取引業者です(住宅瑕疵担保履行法第3条、第11条)。
建設業者と宅地建物取引業者は、毎年1回の基準日(3月31日)において、過去10年間に引き渡した新築住宅の供給戸数に応じた算定される瑕疵担保保証金を供託しなければなりません。
ただし、住宅瑕疵保険を付保した新築住宅については、瑕疵担保保証金の算定戸数から除外されます。つまり資力確保措置は、住宅瑕疵保険の付保または瑕疵担保保証金の供託のいずれかを選べるということです。
なお、宅地建物取引業者が発注者となり、建設業者から新築住宅の引き渡しを受ける場合は、建設業者には資力確保措置の義務がありません(例:分譲住宅)。
資力確保措置の義務を負う建設業者・宅地建物取引業者は、施主に対してその内容等を説明しなければなりません(建設業法第19条、宅地建物取引業法第35条、第37条、住宅瑕疵担保履行法第10条、第15条)。
住宅瑕疵保険は、建設業者または宅地建物取引業者が新築住宅の瑕疵担保責任を負う場合に、修補・代金減額(返還)・損害賠償などの費用をカバーする保険です。
住宅瑕疵保険の保険料は、加入する建設業者または宅地建物取引業者が10年分を一括で支払います。着工前に保険契約の申込みを行い、現場検査を経て引き渡し時に保険証券が発行され、施主に保険付保証明書が交付されます。
保険付保証明書の交付を受けた施主は、新築住宅に欠陥が見つかった際には、保険会社に対して直接保険金を請求できます。
なお新築住宅の瑕疵担保責任に関する紛争については、指定紛争処理機関の「住宅紛争処理制度」を利用できますが、保険会社を手続きに参加させることにより、一回の手続きで解決を図ることが可能です。
参考:「住宅紛争処理制度」(国土交通省)
住宅瑕疵保険を付保しない新築住宅については、保証金(住宅建設瑕疵担保保証金・住宅販売瑕疵担保保証金)を供託しなければなりません。
供託すべき保証金額は、基準日(3月31日)において住宅瑕疵保険を付保していない新築住宅の戸数に応じて計算されます。ただし、床面積が55平米以下の新築住宅については、2戸をもって1戸と計算します。
新築住宅に欠陥が見つかった場合、施主は国土交通大臣に対して、損害賠償請求権の額を確認するための申請を行います。その後、国土交通大臣が交付した技術的確認書または確認書を添付して、供託所に供託物払渡請求書を提出すると、供託金の支払いを受けられます。
建設業者・宅地建物取引業者は、実際の供託額が基準日において供託すべき保証金額を超えた場合、超過分の供託金を取り戻すことができます。
供託金の取り戻しに当たっては、許可または免許を受けた行政庁(国土交通大臣または都道府県知事)の承認が必要です。供託金の取り戻し手続きの詳細は、国土交通省のウェブサイトをご参照ください。
参考:「供託金の取り戻し手続きについて」(国土交通省)
建設業者が供託する新築住宅の供託金は、瑕疵担保責任をカバーするために施工業者が預けるのに対して、工事代金は施主から施工業者に支払われるものです。両者は別物なので、明確に区別してご理解ください。
工事代金は、建物の引き渡しと引き換えに支払われます。施工業者が建物を引き渡さない場合、施主は工事代金の支払いを拒否できます(=同時履行の抗弁権)。
工事代金の金額は、工事請負契約書において定められます。ただし、途中で変更契約が締結された場合は、その内容を反映した金額が最終的な工事代金となります。
新築住宅の工事代金は、数回に分けて支払われるのが一般的です(着工金・中間金・完成時金など)。工事代金の支払い時期についても、工事請負契約において定められます。
新築住宅の工事に関して施主とトラブルになった場合は、弁護士への相談をおすすめします。
施主から瑕疵担保責任を追及された場合、施工業者は多額の損害賠償などを強いられるおそれがあります。施主の主張に対して適切に反論するためには、弁護士のサポートが必要重要です。
弁護士は、新築住宅の工事状況などを分析した上で、施工業者の損害を最小限に抑える方法を提案します。また、施主との示談交渉や訴訟などの手続きも、弁護士が全面的に代理します。
新築住宅工事のトラブルにお悩みの施工業者様は、お早めに弁護士へご相談ください。
新築住宅には売主・施工業者に10年の瑕疵担保責任が課されています。
新築住宅の瑕疵担保責任をカバーするため、建設業者と宅地建物取引業者は、住宅瑕疵保険に加入するか、または保証金を供託しなければなりません。どちらを選択すべきかについては、保険料負担と欠陥リスクを天秤にかけて判断しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、建設業者様や宅地建物取引業者様からのご相談を随時受け付けております。新築住宅の瑕疵担保責任に関する資力確保措置についてのご相談や、瑕疵担保責任を追及された時の対応にお悩みの場合などは、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。