施主からの工事代金の未払いは、よく起こる建築トラブルのひとつといえます。
元請け業者から受注した工事の代金が支払われないとき、下請け業者はどのように対応すれば良いのでしょうか。適切な対策を講じなければ、労働者への給料の支払いができなくなるだけでなく、資金繰りが悪化し、自社の経営が立ち行かなくなる可能性もあり得ます。
本コラムでは、未払いの工事代金の原因や回収方法、注意すべき点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
まずは、工事代金未払いの原因となりやすい3つのケースをご紹介します。
1つ目は、契約書(請負契約書)を締結したにもかかわらず、代金の支払時期や回数などについて定めていないケースです。
それほど規模の大きくない工事であれば、工事代金は、完成後・引き渡しと同時に一括払いとされることもあります。しかし、工期が長く請負金額も大きい工事の場合、次のように複数回の支払いが定められるのが通常です。
このほかにも、工期の途中で建築に必要な資材や材料の価格が高騰した場合に、施主と施工業者のどちらが負担するのかなどが定められることもあります。
契約書の作成は、建設業法で義務付けられていますが、契約書を作成していないというケースも見受けられます。契約書がない場合はもちろんのこと、せっかく契約書があっても、契約内容を適切に定めていなければ、トラブルが生じた際に有利な解決ができなくなってしまいます。契約を締結する段階からリスク回避を意識して、契約書に適切な内容を定めておく必要があります。
2つ目は、元請け(発注者・施主)の資金繰りが悪化し、単純に支払いができなくなったというケースです。
ある工事では発注者の立場にある元請けも、他の工事では下請けとなり、一時的に資材や材料の費用を立て替えなければならないことがあります。その他にも、労働者災害が発生して安全配慮義務違反を追及されている、施工ミスを理由に瑕疵担保責任(契約不適合責任)を追及されているなど、資金繰りが悪化する原因にはさまざまなものが考えられます。
請負契約では、完成した目的物の引き渡しと同時に報酬を支払わなければならないとされています(民法第633条)。しかし、下請け業者は元請け業者との関係で弱い立場にあるため、元請け業者の要望を優先し、完成した建物を代金支払いよりも先に引き渡してしまうことがあります。
支払いを受ける前に建物を引き渡してしまうと、支払いを受けるまでは建物を引き渡さないという留置権(商法第524条)を行使することができなくなってしまいます。引き渡し時期について交渉する際には、この点に注意する必要があるでしょう。
請負契約の締結や引き渡し時期などにいくら気を付けていたとしても、工事代金の支払いを受けられない事態に遭遇してしまう可能性はゼロではありません。その際には、他社と競合する前に、早期になるべく多くの代金を回収するための対応を取る必要があります。
一般的には、次のような流れで回収を試みることが多いでしょう。
事案ごとにとるべき法的措置は異なるため、弁護士に相談のうえ、最適な方法を選択することが大切です。
工事代金の未払い等によって、当該工事の建設のために雇っている労働者への賃金支払いが滞った場合、元請け業者が「特定建設業者」であれば、立替払いを受けることのできる場合があります(建設業法第41条2項)。
特定建設業者とは、建設業法第15条の定める基準に適合した建設業者のことをいいます。特定建設業者は、直接契約している1次下請け業者だけでなく、1次下請け業者から発注を受けた2次・3次の下請け業者も保護する義務を負っています。
たとえば、自社が2次下請けで発注者が1次下請けであった場合には、元請け業者が特定建設業者かどうかを確認してみると良いでしょう。
未払いの工事代金がある場合には、消滅時効に注意する必要があります。
請負契約に基づく工事代金債権は、権利を行使することができるときから10年、権利を行使することができることを知ったときから5年で時効により消滅します。通常、建物を引き渡せば工事代金を請求できると知るはずですから、工事代金債権の時効は5年と考えておくべきでしょう。
契約で合意した支払期限を過ぎても支払いがない場合は、遅延損害金を含めて請求することが可能です。遅延損害金の利率は契約で別段の合意をしなければ、民法第404条2項に従い「年3%」です。
前述したように、契約書の作成は義務付けられていますが、たとえ口頭での合意だけであったとしても、契約は有効に成立します。したがって、契約書がない場合も、仕事の目的物を完成して、これを引き渡せば、工事代金を請求できます。
しかし、トラブルになった場合、契約書がなければ自社にとって不利益な結果となる可能性が高くなります。契約書を作成していなかった場合は、仕様書・設計図・見積書・請求書など、契約があったことを確認できる資料を残しておくようにしましょう。
工事代金未払いのトラブルに巻き込まれてしまった場合、早い段階で弁護士に相談すれば、元請け業者との交渉から内容証明郵便の発送、さらには裁判手続きに至るまで、代理人として、すべての手続きを委任することができます。
債権回収手続きを弁護士に一任しておくことで、トラブル解決のための余計な負担を負うことなく、自身は通常の業務に専念することが可能となります。
建築トラブルや債権回収の知見が豊富な弁護士であれば、事案に応じた最適な回収方法を提案することが可能です。費用倒れや期待した金額を回収できなかったなどの失敗を回避できる可能性が高まります。
工事代金の未払いは、よくある建築トラブルのひとつですが、その原因はさまざまです。
交渉で解決しなければ法的措置へ移行する必要があるので、早い段階から弁護士に相談しておくことが適切といえます。
弁護士に依頼すれば、契約書のレビュー段階から関与することができるので、トラブルを事前に回避するための予防法務も可能となります。
ベリーベスト法律事務所では、初回相談は60分まで無料で承っております。建築訴訟専門チームが最大限サポートいたしますので、お困りの方はぜひご相談ください。