未契約着工とは、建設業法により作成が義務付けられている工事請負契約書を作成することなく、建設工事に着手することをいいます。
このような未契約着工があった場合、罰則はありませんが、行政庁による監督処分や公表による事業への影響などさまざまなリスクがありますので、工事に着手する際には必ず契約書を作成するようにしてください。
今回は、未契約着工により建設業法違反となった場合の罰則やリスク、顧問弁護士の役割などについて、弁護士が解説します。
未契約着工とはどのようなことを指すのでしょうか。以下では、建設業法で禁止されている未契約着工について説明します。
未契約着工とは、工事請負契約書を作成することなく建設工事に着手することをいいます。
建設工事では、請負代金額も高額になりますので、通常は工事請負契約書を作成してから、工事に着手します。しかし、以下のようなケースでは、未契約着工が生じることがあります。
建設業法では、建設工事を始める前に工事請負契約書の作成することを義務付けています(建設業法18条、19条)。
建設工事に関する請負契約は、施工業者が建設工事の完成を約束し、施主が工事結果に対して代金を支払うことを内容とする契約で、当事者の口頭の合意だけでも契約は成立します。そのため、契約の成立という面では、工事請負契約書の作成は必須ではありません。
しかし、建設工事では、工事内容、工期、請負代金額などのトラブルが生じるケースが多く、口頭による契約だけでは立場の弱い下請け業者に不利益が押し付けられてしまう可能性があります。そこで、建設業法では、請負契約をめぐるトラブルの発生を防止する目的で、建設工事に着手する前に工事請負契約書の作成を義務付けています。
工事請負契約書を作成することなく建設工事に着手することは、「未契約着工」にあたり、建設業法違反となります。
しかし、建設業法では、未契約着工があったとしても、それに対して罰則を定めていません。そのため、未契約着工で建設業法違反になったとしても、刑罰が科されることはありません。
未契約着工で建設業法違反になったとしても罰則が適用されることはありませんが、罰則以外に以下のようなリスクが生じる可能性がありますので、注意が必要です。
未契約着工による建設業法違反があった場合、国土交通大臣や都道府県知事から、以下のような監督処分をされる可能性があります。
監督行政庁による営業停止処分または建設業許可の取消処分がなされた場合、当該処分の内容が官報や公報に公告され(建設業法29条の5)、国土交通省のホームページで公表されてしまいます。
違反内容が一般に公開されてしまうと、世間からは悪質な業者であるという目で見られてしまいますので、今後の取引にも大きな悪影響が生じる可能性があります。
未契約着工は、建設業法違反になっても罰則はありませんが、公表により事業に悪影響が生じ得ますので、必ず契約書を作成してから建設工事に着手するようにしてください。
未契約着工により建設工事請負契約書を作成していなかったとしても、契約自体は有効に成立していますので、施工業者は、施主に対して工事請負代金の請求をすることができます。
しかし、口頭による契約だけでは工事内容、工期、工事代金などが不明確であるため、お互いの認識の違いなどからトラブルが生じるリスクがあります。
建設工事に関して紛争が生じると、予定していた工事代金の支払いが受けられなくなり、資金繰りが悪化し、経営にも悪影響を与えるおそれがあります。そのため、当事者間での紛争のリスクを防ぐという観点からも建設工事請負契約書の作成は必須です。
建設業法では、工事請負契約書について守るべき項目が定められています。以下では、工事請負契約書の概要と作成の流れについて説明します。
工事請負契約書とは、建設工事の発注者と受注者との間で交わされる書面で、建設工事に関して当事者間で合意した内容が記載されています。
建設業法では、工事請負契約書に以下の事項を記載しなければならないと定めています(建設業法19条1項)。
工事請負契約書を作成する流れは、以下のとおりです。
① 請負契約の概要を取り決める
工事請負契約書の作成にあたって、まずは施主と施工業者との間で協議を行い、請負契約の概要を取り決めます。どのような取り決めをするかは、ケース・バイ・ケースになりますが、最低限取り決めておくべき内容としては、以下のとおりです。
② 工事請負契約書案を作成する
当事者間で合意した大枠に基づいて、工事請負契約書案を作成します。
工事請負契約を一から作成するのが手間だという場合には、国土交通省のホームページで公開されている工事請負契約書の標準約款を参考してみるとよいでしょう。
③ 当事者間でと詳細な契約条件を協議する
工事請負契約書案を元に当事者間で協議し、さらに詳細な契約条件を決めていきます。
なお、立場の弱い下請け業者は、元請け業者から不当に低い請負代金での契約を迫られることもありますが、そのような行為は建設業法で禁止されています(建設業法19条の3)。
④ 当事者双方で契約書に署名押印をする
当事者双方が契約内容に合意できたときは、正式な工事請負契約書を作成して、当事者双方で契約書に署名押印を行います。
工事請負契約書は、2部作成し、当事者双方で1部ずつ保管するようにしましょう。
以下のようなメリットがありますので、建築会社では顧問弁護士を利用するのがおすすめです。
未契約着工は、建設業法違反となりますので、着工する前には必ず工事請負契約書を作成しなければなりません。しかし、元請け業者と下請け業者の関係性によっては、元請け業者から未契約着工を迫られると断れないこともあります。
そのような場合、顧問弁護士がいれば「顧問弁護士に確認してから対応します」と伝えることで、未契約着工を断る口実ができます。相手に対しても法令順守を徹底している企業であるという認識を与えることができますので、今後の取引においても不利な条件を押し付けられるリスクを回避できるでしょう。
未契約着工を回避するために工事請負契約書を作成したとしても、その内容が自社に不利なものだと将来トラブルが生じたときに責任を押し付けられてしまう可能性があります。
顧問弁護士がいれば工事請負契約書のリーガルチェックを行うことができますので、自社に不利な内容を回避しつつ、法的に問題のない契約を作成することができます。
将来の紛争を予防する観点でも顧問弁護士の利用が有効です。
建設工事に関するトラブルが発生した場合、迅速にトラブルを解決しなければ工事の遅延や支払いの遅れなどにより、深刻なトラブルに発展するリスクがあります。
このような場合には弁護士に対応を依頼することになりますが、弁護士に依頼するには事前に相談予約を行い、面談での相談をして契約という流れになりますので、トラブルに対応してもらうまでに、ある程度の時間がかかってしまいます。
しかし、顧問弁護士であれば顧問先企業のトラブルに関しては優先的に対応してもらえますので、トラブルの迅速な解決が期待できます。
建設業法では、工事請負契約書を作成する前に工事に着手する「未契約着工」を禁止しています。未契約着工で建設業法違反となっても罰則は適用されませんが、監督処分や公表などによるリスクがありますので、必ず工事請負契約書を作成するようにしましょう。
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建設工事においてはさまざまなトラブルが生じる可能性があり、それを予防するには顧問弁護士の利用もおすすめです。顧問弁護士の利用をお考えでしたら、当事務所までご連絡ください。