建設工事の請負契約では、元請業者(元請負人)と下請業者(下請負人)との間で力関係に差があります。そのために、下請業者が元請業者から不利な契約を押し付けられるケースも少なくありません。
建設業法では、このような事態に対する防止策として、下請契約においてさまざまな規制を行い、違反があった場合にはペナルティを課しています。下請業者は、元請業者から不利な契約を押し付けられないようにするためにも建設業法違反となる行為とそのペナルティをしっかりと理解しておくことが大切です。
本コラムでは、建設工事の下請契約が建設業法違反になり得るケースとペナルティ、2025年(令和7年)の改正建設業法に向けての注意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
建設業法違反となる行為を説明する前提に、まずは契約に関する概要をみていきましょう。なお、本コラムでは、下請契約における取引関係者の名称について、元請負人を元請業者、下請負人を下請業者として表記します。
請負契約とは、請負人が仕事の完成を約束し、注文者がその仕事の結果に対して報酬の支払いを約束する契約です。請負契約の例としては、建物の建築、自動車の修理、コンテンツの制作、洋服のクリーニングなどが挙げられます。
建設工事請負契約とは、元請業者が建設工事の完成を約束し、発注者がその建設工事の結果に対して工事代金の支払いを約束する契約です。
基本的には、民法632条の請負契約と同義になります。
ただし建設業法24条では、「請負」以外の名称を使用することによる脱法行為を防止するために、報酬を得て建設工事の完成を目的とする契約は、すべて建設工事請負契約とみなしています。
建設工事の下請契約とは、発注者から建設工事を請け負った元請業者が、その工事の一部を下請業者に委託する契約です。建設工事の下請契約は、「建設工事請負契約」の一種になりますので、建設業法による規制が及びます。
元請業者と下請業者との間の下請契約で建設業法違反になり得る行為は、以下が挙げられます。
違法行為 | 違法行為の概要 | ペナルティ対象者 |
---|---|---|
一括下請け(22条1項、22条2項) | 元請業者から下請業者に工事の丸投げをする行為 | 元請業者、下請業者 |
見積もり条件を提示しない(20条4項、20条の2) | 元請業者が曖昧な見積もり条件で下請業者に見積もりをさせる行為 | 元請業者 |
口頭のみの契約(18条、19条1項、19条の3、20条1項) | 下請工事に関して書面による契約をしなかった | 元請業者、下請業者 |
不当に低い請負代金(19条の3) | 元請業者が下請業者に圧力をかけ、見積額を大幅に下回る金額で下請契約を締結させる行為 | 元請業者 |
指値発注(18条、19条1項、19条の3、20条4項) | 元請業者が一方的に決めた下請代金で下請業者に契約をさせる行為 | 元請業者 |
不当な使用資材等の強制購入(19条の4) | 下請契約締結後に下請業者に資材の購入先を指定し、予定していた購入価格よりも高い金額で資材の購入を余儀なくさせる行為 | 元請業者 |
やり直し工事(18条、19条2項、19条の3) | 下請業者に責任がないやり直し工事の費用を下請業者に負担させる行為 | 元請業者 |
赤伝処理(18条、19条、19条の3、20条4項) | 元請業者と下請業者の協議・合意なく、元請業者が下請代金の支払時に一定の費用を相殺する行為 | 元請業者 |
元請業者は、発注者から請け負った建設工事を一括して下請業者に請け負わせてはなりません。また、下請業者も、元請業者が請け負った建設工事を一括して請け負ってはなりません。
このような一括下請は、発注者が建設業者に寄せた信頼を損なうとともに、建設業の健全な発達を妨げるおそれがあることから禁止されています。なお、一括下請は元請業者だけでなく下請業者も規制対象です。
元請業者は、下請契約の締結前にできる限り具体的な見積もり条件を提示しなければなりません。また、下請業者が適切な見積もりを行えるよう、一定期間を設けることが義務付けられています。
たとえば、元請業者が不明確な工事内容を提示したり、曖昧な見積もり条件で下請業者に見積もりさせたりすると、建設業法違反です。
建設工事の請負契約を締結する際は、原則として建設業法で定められた一定の事項を記載した書面を交わして契約しなければなりません。
たとえば、下請工事に関して、法定の必要的記載事項を満たさない契約書面を交付した場合やそもそも書面による契約をしなかった場合には、原則として建設業法違反となります。
元請業者は、自身の取引上の優位な立場を利用し、不当に低い下請代金で契約を締結することはできません。つまり、元請業者が下請業者の選択権や指名権などを背景に、経済的に不当に圧迫するような取引を強いてはならないということです。
たとえば、元請業者が契約しなければ今後の取引で不利な扱いをするといったことを示唆して、下請業者との間で従来の取引価格を大幅に下回る金額で契約すると、建設業法違反となります。
指値発注とは、元請業者が下請業者と十分な協議を行わないまま、一方的に決めた請負代金額での契約を強制する行為を指します。このような行為は建設業法違反です。
元請業者が自己の取引上の地位を不当に利用して、下請業者に使用資材もしくは機械器具またはこれらの購入先を指定し、買うことを強要することは建設業法違反です。
この規制は、下請契約締結後の行為が対象となります。
元請業者が下請業者にやり直し工事の依頼をする際、下請業者の責めに帰すべき理由がある場合を除き、必要な費用は元請業者が負担しなければなりません。このような費用を一方的に下請業者に負担させることは、建設業法違反となります。
赤伝処理とは、元請業者が以下の費用を下請代金の支払時に相殺する行為のことです。
下請業者との協議・合意のない上記のような赤伝処理は、建設業法違反となります。
建設工事においては、発注者・元請業者・下請業者が互いに適切な契約を結ぶことが重要になります。もし、建設業法違反となる違法な下請契約があった場合、以下のようなペナルティが課される可能性があるため、ご注意ください。
建設業法違反となる行為に応じて、以下のような刑事罰が科されます。
① 3年以下の懲役または300万円以下の罰金となる建設業法違反行為
② 6月以下の懲役または100万円以下の罰金となる建設業法違反行為
③ 100万円以下の罰金となる建設業法違反行為
④ 10万円以下の過料となる建設業法違反行為
建設業法違反があった際は、監督行政庁から以下の監督処分を受ける可能性があります。
建設業法に違反すると、官公庁や自治体などの指定された発注者に対して、一定期間、入札に参加できなくなる「指名停止」の措置がとられることがあります。
2025年(令和7年)には、改正建設業法が施行されます。4章では、改正建設業法を踏まえて下請業者が注意すべきポイントについて説明します。
改正建設業法では、労働者の処遇改善・働き方改革・生産性の向上を促すことを目的として、いくつかの事項に関する改正が行われています。そのうち、労働者の処遇改善に関する改正で重要なものが、建設業者に対する原価割れ契約の禁止です。
改正前建設業法では、発注者が自己の取引上の地位を不当に利用して、原価割れの請負契約を締結することが禁止されていました。しかし改正建設業法では、それに加えて建設業者の義務が追加されることになっています。
これにより、下請業者にも受注獲得を目的とした安易な原価割れ契約の規制が及ぶことになりました。
改正前建設業法では、建設業者に見積もりを行う努力義務が課されていましたが、改正建設業法では、その義務が追加・拡充されました。
それにより、下請業者は、材料費や労務費、その他建設工事の実施に必要な経費などを記した見積書(材料費等記載見積書)を作成する努力義務を負うことになります。材料費等記載見積書に記載する材料費などは、通常必要と認められる金額を著しく下回ってはなりません。
建設業法では、下請契約に関してさまざまな規制をしており、建設業法違反の内容によっては元請業者だけでなく、下請業者もペナルティの対象になります。2025年(令和7年)には、改正建設業法が施行されることにもご留意ください。
下請契約の問題精査や元請業者との関係にトラブルがあるとき、問題を解決するには、弁護士による法的アドバイスが有効です。
建築トラブルに関しては、まずはベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。グループ内には弁護士だけでなく一級建築士も在籍しており、お困りごとやトラブルを最適な形で解決できるよう、各士業が連携しながらサポートいたします。