自宅の建築を施工業者に依頼した施主は、契約で定められた工期で建築が進むことを前提に引っ越しや仮住まいの手配をすることになります。また、賃貸マンションの建築を施工業者に依頼した施主は、工期で予定されている引き渡し日までに入居者を募集することができるように準備を進めていくことになるでしょう。
このように建物の建築において工期は、施主側にとって非常に重要なものとなります。施工業者が工期を守らず、工期遅れが生じてしまった場合には、施主側にさまざまな損害が生じることになりますが、それらの損害を施工業者に請求することができるのでしょうか。
今回は、工期遅れが生じた場合の施工業者の責任について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
「工期遅れ」とは、どの時点からをいうのでしょうか。以下では、住宅建築における工期の考え方について説明します。
工期とは、建築工事の着工から竣工(完成)までの期間のことをいいます。住宅建築においては、建築請負契約の締結前に、施主と施工業者との間で建物の引き渡しまでのスケジュールが話し合われ、双方の合意の下で、工期が決定されます。
当事者間で決定された工期については、建築工事請負契約書に以下のように記載されます。
着手 | 契約の日から〇日以内 工事許・認可の日から〇日以内 令和〇年〇月〇日 |
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完成 | 着手の日から〇日以内 令和〇年〇月〇日 |
引き渡し | 令和〇年〇月〇日 |
また、工事請負契約締結後から着工までの間に、具体的な工期が示された工程表が施工業者から施主に交付されますので、この工程表を見ることによって、具体的な工期を把握することが可能です。
住宅建築においては、天候不順、職人不足、資材不足などさまざまな理由で当初予定していたスケジュールどおりに工事が進まないことがあります。このような遅延によって、契約時に予定されていた引き渡し日に建物の引き渡しをすることができない状態を一般的に「工期遅れ」といいます。
そのため、工期遅れが生じているかどうか判断するときは、建築請負契約書に定められている工期のうち「引き渡し日」を確認しましょう。
工期遅れが生じたからといって、直ちに施工業者への責任を問えるわけではありません。
工期遅れの原因によっては施工業者の責任を追及することができない場合もあります。詳しく見ていきましょう。
施工業者は、契約で定められた引き渡し日までに、建物を完成させて施主へ引き渡さなければなりません。施工業者の事情によって工期遅れが生じた場合には、請負契約上の債務不履行になりますので、施工業者は、工期遅れの責任を負います。
施工業者側に工期遅れの原因があるケースとしては、以下のケースが挙げられます。
工期遅れを理由にして施工業者の債務不履行責任を追及するためには、施工業者に工期遅れについての原因があったことが必要になります。そのため、工期遅れの原因が施主にある場合には、施工業者に工期遅れの責任を追及することができません。
施主側に工期遅れの原因があるケースとしては、以下のケースが挙げられます。
工期遅れの原因が施工業者と施主のいずれにもない場合にも、施工業者の責任を追及することはできません。
施主側と施工業者側のどちらにも工期遅れの原因がないケースとしては、以下のケースが挙げられます。
施工業者側の原因によって工期遅れが生じている場合には、以下のような責任を追及することができます。
施工業者側の原因によって工期遅れが生じた場合には、施工業者の債務不履行を理由として、工期遅れによって生じた損害賠償金や遅延損害金を施工業者に請求することが可能です。
施主側が工期遅れによって被る損害としては、入居が遅れるため余分にかかる仮住まいの賃料、収益物件の場合、入居予定者への賃貸開始が遅れる分の賃料などが代表的なものとなります。施主は、これらの損害が生じたことおよびその金額を具体的に立証することによって、施工業者に請求することが可能になります。
もっとも、建築請負契約においては、工期遅れによって損害が生じた場合における損害賠償額(違約金)が定められているのが一般的です。このような定めがある場合には、施主側において生じた損害を具体的に立証する必要はなくなりますが、損害賠償額の予定以上の損害が生じたことを立証したとしても、それ以上の金額を請求することはできません。
大幅な工期遅れが生じており、施工業者に引き続き建築工事を依頼することが難しい状況になってしまった場合には、請負契約の解除をすることも可能です。
ただし、施工業者側の債務不履行を理由に工事請負契約を解除する場合でも、既施工部分については、それによって施主が利益を受ける場合には、その利益の割合(出来高)に応じた報酬を施工業者に支払わなければなりません(民法第634条第2号)。また、中途半端な状態で契約を解除してしまうと、工事を引き継いでくれる別の施工業者を見つけることができなかったり、仮に見つかったとしても当初よりも大幅に費用がかかったりすることもありますので、契約解除はあくまでも最終的な手段と考えておきましょう。
施工業者側の原因による工期遅れが生じた場合には、弁護士に相談をすることをおすすめします。
建築トラブルが生じた場合には、専門的な知識が必要になりますので、不慣れな個人では対応することが難しいことがほとんどです。施工業者と施主では、知識や情報量において圧倒的に施主が不利な立場にありますので、工期遅れの責任を追及しようとしても、「これは不可抗力によるものだから責任はない」などとはぐらかされてしまう可能性があります。
そのため、工期遅れが生じた場合には、施工業者の責任を追及することができるかどうかを判断するためにも、まずは弁護士に相談をするようにしましょう。
工期遅れについて施工業者の責任を追及することができる場合には、弁護士が施主の方に代わって施工業者と交渉を行い、損害賠償などの請求を行います。施工業者と話し合いをする場合でも弁護士が対応する方が個人で対応するよりも任意での解決が期待できるでしょう。
施工業者が話し合いに応じない場合や話し合いでは納得いく結論が出ないという場合には、裁判などの法的手段によって解決を図ることになります。この場合にも、弁護士であれば、最終的な解決までサポートすることができます。
工期遅れが生じたとしても、その原因によって施工業者の責任を追及することができるかどうかが変わってきます。施工業者の責任を追及することが可能であるかどうかを判断するためにもまずは弁護士にご相談ください。
工期遅れなどの建築トラブルでお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。