ハウスメーカーや工務店に対して不信感を抱き、締結した新築住宅の工事請負契約を解約したいと考えている方もいらっしゃるかもしれません。
工事請負契約を解約・解除する方法はいくつかありますが、着工前と着工後では注意すべきポイントが異なります。
ハウスメーカーや工務店とのトラブルが深刻化することを防ぐために、工事請負契約を解約・解除したい場合には、事前に弁護士へご相談ください。
今回は、新築住宅の工事請負契約の解約・解除に関するルール・注意事項・手続きなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
施主からの工事請負契約の解約・解除は、施主都合による場合と、施工業者の契約違反(債務不履行)による場合の2つに大別されます。
施主都合による工事請負契約の解約・解除には、「合意解約」と「手付解除」、さらに民法の請負の規定に基づく解除の3種類があります。
施工業者の側に契約違反があり、施工業者が是正の措置を取らない場合には、施主は工事請負を債務不履行解除することができます(民法第541条、第542条)。
債務不履行解除の場合、施主が施工業者に対して行う損害賠償請求が問題となります。
もし工事請負契約において、違約金など損害賠償額が定められている場合には、それを超える損害が発生したとしても、超過分は請求できない可能性がある点に注意しましょう。
ただし、施主が消費者であり消費者契約法が適用される場合には、事業者である施工業者側に故意または重過失がある場合には、損害賠償の一部を免除するような違約金の規定は適用されません(消費者契約法第8条第1項第2号)。
また、施主が消費者である場合には、事業者である施工業者に対して施主が支払う違約金の額が、事業者に生ずる平均的な損害を超える場合には、その部分については無効になるということもあります(消費者契約法第9条1号)。
着工前の段階であれば、新築住宅の工事請負契約を解約・解除することによる影響は、比較的小さいといえます。
しかし施主としては、解約・解除の方法ごとに、以下の点に注意が必要です。
施主都合で工事請負契約を解除する場合、施主は施工業者に生じた損害を賠償しなければなりません(民法第641条)。
着工前であっても、施工業者には以下の損害が発生するため、損害賠償額はそれなりの金額になります。
なお、工事請負契約において、施主都合による解除の場合の違約金が定められている場合には、原則としてその定めに従います。
手付解除であれば、他の方法によって工事請負契約を解約・解除する場合よりも、施主の金銭的負担は軽く抑えられる可能性があります。
手付金が損害賠償額や違約金額よりも少なく済むケースがありうるからです。
ただし、施工業者が建築部材を発注するなど、着工のための準備行為をした場合には、手付解除は認められない可能性がある点に注意しましょう。
施工業者の債務不履行を理由に工事請負契約を解除する場合は、施主に生じた損害について、施工業者に賠償を請求できます。
損害賠償の対象としては、たとえば竣工時期が延びたことに伴い、余分に発生する現住居の賃料等の損害が想定されます。
ただし着工前の段階では、損害賠償額はそれほど高額にならないケースが多いです。
着工後の段階では、工事請負契約を解約・解除することによる影響はかなり大きくなることを避けられません。
そのため、工事請負契約の解約・解除をする際には、施工業者との間で激しい紛争になることを覚悟すべきでしょう。
竣工も間違いなく遅れるでしょうから、その遅れも覚悟すべきです。
着工後の解約・解除の場合、すでに建築部材の発注は大半が済んでおり、実際の施工もある程度進んでいることでしょう。また、着工後の解約・解除のケースでは、損害が高額となることがほとんどです。
そのため、施工業者から施主に対する損害賠償請求は高額になる可能性があります。
また、後述するとおり、既施工部分については出来高を支払わなくてはなりません。
施主としては、着工後の施主都合による工事請負契約の解約・解除は、よほどの事情がない限り避けた方が無難でしょう。
建物の着工が済んだ段階では、すでに施工業者が契約の履行に着手しているため、手付放棄による解除は認められません(民法第557条第1項但し書き、同第559条)。
施工不良や設計ミスなど、施工業者側の債務不履行によって工事請負契約を解除する場合は、施工業者に対する損害賠償請求を検討しましょう。
着工後の債務不履行解除の場合、着工前よりも損害賠償は高額になる可能性があります。そのため、施工業者の側としても、損害賠償義務の存否や金額を徹底的に争ってくる可能性が高いでしょう。
損害賠償請求を有利に進めるためには、弁護士にご相談のうえで、対応することをおすすめいたします。
施工業者側の債務不履行を理由に工事請負契約を解除する場合でも、既施工部分については、それによって施主が利益を受ける場合には、その利益の割合(出来高)に応じた報酬を施工業者に支払わなければなりません(民法第634条第2号)。
注文主解除の場合でも同様です。
建築途中の建物の出来高については、施主と施工業者の間で意見が食い違う可能性が高いため、事前に弁護士までご相談ください。
工事請負契約を解約・解除するためには、民法や契約の規定に則って、以下の手続きを踏む必要があります。
解約・解除の手続きに関して、もし施工業者との間でトラブルに発展しそうな場合には、お早めに弁護士までご連絡ください。
合意解約の場合は、施工業者との間で解約条件を話し合い、その結果を解約合意書にまとめて締結します。
これに対して手付解除、および民法の請負の規定(民法第641条)に基づく解除は、施主が施工業者に対して、内容証明郵便等で意思表示をする方法で行います。
なお、民法の請負の規定(民法第641条)に基づく解除の場合は、施工業者に生じた損害額を、施工業者に対して支払わなければなりません。
既施工部分があり、それによって利益を得る場合には、既施工部分の出来高に応じた報酬を払う必要もあります。
損害賠償の金額を巡っては、施工業者との間でトラブルに発展することも想定されるため、可能な限り事前に交渉を行っておきましょう。
債務不履行解除の場合、原則として、まずは内容証明郵便等により、相当の期間を定めて施工業者に契約上の義務の履行を催告します(民法第541条、同第559条)。
もし相当の期間内に義務の履行がない場合、その段階で工事請負契約の債務不履行解除が可能となります。
催告と解除の意思表示を1通の内容証明郵便で済ませるため、当初の催告の段階で「期限までに履行がなければ契約を解除する」旨を明記しておくとよいでしょう。
なお、根本的な設計ミスなどが原因で、施工業者の義務が履行不能である場合や、施工業者が義務の履行を明確に拒絶した場合などには、無催告で工事請負契約の解除が認められます(民法第542条、同第559条)。
新築住宅の工事請負契約を解約・解除する場合、損害賠償などを巡って、施工業者との間でトラブルになる可能性が高いです。
解約・解除に伴う施主の損害を最小限に抑え、早期に施工業者とのトラブルを解決するためには、弁護士へのご相談をおすすめいたします。
ベリーベスト法律事務所では、住宅の新築等に関して、施主の方からの法律相談を随時承っております。
施工業者との間でトラブルをお抱えの施主の方は、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。