不動産クラウドファンディングや小口投資など、新しい投資スタイルの広がりとともに注目されているのが「不動産特定共同事業法(不特法)」です。
この法律は、不動産特定共同事業を行う事業者と投資家の双方を守るためのルールを定めており、不動産投資に興味・関心がある方にとっても重要な内容が含まれています。不動産投資で損をしないためには、内容をしっかりと理解しておくことが大切です。
本コラムでは、不動産特定共同事業法の概要、過去の改正内容、投資家が知っておくべき注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
近年、投資家の間では、不動産クラウドファンディングや少額不動産投資などの投資方法が注目を集めています。このような不動産投資に深く関わる法律として存在するのが、「不動産特定共同事業法(不特法)」です。
最初に、不動産特定共同事業法の概要や目的、投資家が押さえておくべき基礎知識をわかりやすく解説します。
不動産特定共同事業法(不特法)は平成6年に制定された法律で、複数の投資家から資金を集め、不動産を取得・運用・売却し、その利益を分配する「不動産特定共同事業」に関するルールを定めたものです。
この法律の目的は、事業の健全な発展を促すとともに、一般投資家を不適切な勧誘や詐欺的手法から保護することにあります。
近年、不動産特定共同事業法が改めて注目されている背景としては、インターネットを活用した「不動産クラウドファンディング」の広がりによるものです。これは少額から手軽に始められる不動産投資として人気を集め、個人投資家が不動産事業に参加する新しい形態として成長しています。
この仕組みも、多くは不動産特定共同事業法の規制対象となります。
不動産特定共同事業法では、事業を行うにあたって国土交通大臣または都道府県知事の許可が必要とされています。さらに、事業者には財務体質や業務管理体制、契約書面の明確化など、厳格な基準が課されています。
これにより、事業者の信頼性を一定程度担保し、投資家が安心して資金を出資できるような仕組みとなっているのです。
また、勧誘時の説明義務や分別管理義務、誇大広告の禁止など、投資家保護の観点からさまざまな規制も設けられています。
なお、詳しい規制内容については本コラムの3章をご参照ください。
投資家が不動産特定共同事業法のスキームを活用すべきケースとして、以下のようなものが挙げられます。
不動産特定共同事業法は、制定以来、複数回にわたって改正が行われてきました。
ここからは、平成25年・平成29年・平成31年の主要な3回の改正内容をわかりやすく解説します。
平成25年の改正では、事業者の倒産による投資家の損失リスクを軽減するため、「倒産隔離型スキーム」が新たに導入されました。
これは、投資家の出資財産と事業者自身の財産を法律的に切り離す(隔離)ことで、仮に事業者が倒産した場合でも、投資家の資金が債権者に差し押さえられにくくなる仕組みです。
この仕組みにより、投資家保護のレベルが大きく向上しました。
平成29年の改正では、不動産業界への新規参入を促進する目的で「小規模不動産特定共同事業者(登録制)」が創設されました。
従来の不動産特定共同事業者は、許可制で資本金や純資産などの基準が厳しく、空き家活用や地方創生プロジェクトなど、小規模事業者の参入が困難でした。
そこで、本改正により、以下のような規制緩和が行われています。
これにより、地方の空き家再生や商店街の再興など、小規模なまちづくりプロジェクトへの投資がしやすくなりました。不動産クラウドファンディングとの親和性も高く、不動産特定共同事業法が注目を集めるようになったのです。
平成31年の改正は、インターネットを活用した「不動産クラウドファンディング」の本格的な普及を後押しする規定が整備されました。
主な改正ポイントは、以下のとおりです。
これにより、スマートフォンやパソコンから手軽に投資できる環境が整い、若年層や初心者層の投資参入を促進するきっかけとなりました。
不動産特定共同事業法は、投資家保護の観点から、事業者には厳格な登録・許可制度が課されています。
3章では、投資家として知っておくべき不動産特定共同事業者の種類、許可要件、守るべき規制内容について、説明します。
不動産特定共同事業者とは、不動産特定共同事業を行う事業者を指し、投資家と契約して不動産の取得・運用・分配を行う会社のことです。
法律上は、以下の4つに分類されます。
| 事業者の種類 | 概要 | 最低資本金 |
|---|---|---|
| 第1号事業者 | 自ら不動産を取得・管理し、その収益を投資家に分配する者(例:クラウドファンディング運営会社) | 1億円 |
| 第2号事業者 | 第1号事業者と投資家の契約締結を代理・媒介する者(例:仲介会社) | 1000万円 |
| 第3号事業者 | 特例事業者(SPCなど)のために不動産を取得・運用する者 | 5000万円 |
| 第4号事業者 | 第3号事業者と投資家の契約を代理・媒介する者 | 1000万円 |
事業者の種類によって、求められる許可内容や資本金要件、業務範囲などが異なる点にご注意ください。
不特事業者として活動するには、国土交通大臣または都道府県知事からの「許可」を受ける必要があります。
主な許可要件は、次のとおりです。
このように、投資家の資金を扱う以上、事業者には厳格なガバナンス体制の整備が求められます。
不動産特定共同事業者が守るべきルールは、投資家保護を目的として、主に以下のような規制が定められています。
これらのルールを遵守しない事業者は、業務停止命令や許可取消処分を受ける可能性があり、違反事例も存在します。
投資家としては、事業者の対応や情報開示状況を確認し、リスク回避につなげていきましょう。
不動産特定共同事業は、比較的手軽に不動産投資を始められる魅力的な仕組みですが、当然ながらリスクも存在します。投資で損をしないために、投資家として押さえるべき不動産特定共同事業に関する注意点を見ていきましょう。
最大の注意点は、不動産特定共同事業法による不動産投資には元本保証がないことです。
たとえば、想定していた賃料収入が得られなかったり、不動産の売却価格が下落したりした場合、投資家に配当が支払われない可能性が十分あります。
元本どころか、分配も受けられないケースもあるため、利回りだけを見て飛びつかず、リスクとのバランスを冷静に判断するようにしましょう。
不動産特定共同事業は、原則、中途解約ができない仕組みであることが多く、流動性が非常に低い点にも注意が必要です。
一度出資をすると、運用期間中は資金を引き出すことができず、出資持分を第三者に売却する手段も通常は整備されていません。つまり、急な資金ニーズがある場合に対応できない可能性があるため、「余裕資金」で行うことが原則です。
クラウドファンディング型でも、運用期間は数か月〜数年とさまざまであり、期間終了まで資金が拘束される点を十分理解しておきましょう。
不動産特定共同事業法のスキームは法律に基づいた仕組みですが、それを運営するのは民間の事業者です。事業者の倒産や不正によるリスクは、ゼロではありません。
不動産特定共同事業法のスキームを利用して投資をする場合、以下のような点に注意してください。
不動産特定共同事業法では、一定の資本金要件やガバナンス体制が求められているため、許可・登録済みの事業者は一定の信頼性が担保されますが、それでも100%の安全を保証するものではありません。事業者選びは慎重に行いましょう。
不動産特定共同事業では、「任意組合契約」や「匿名組合契約」など、投資スキームの内容が法律的に難解であることもあります。
契約内容の理解が不十分なまま出資してしまうと想定外のリスクを被るおそれがあるため、以下の点は、事前に必ず確認しましょう。
事業者によっては、丁寧な説明資料やFAQ(よくある質問)などを提供しているところもありますが、不明点がある場合は、弁護士に確認することも有効です。
不動産特定共同事業法(不特法)は、出資による不動産取引を可能にしつつ、投資家を保護するための制度です。少額投資やクラウドファンディングの普及により注目されていますが、一方で元本保証がなく、流動性が低いことにも注意しましょう。
出資する際は、事業者の許可・登録状況や財務基盤、契約内容などを慎重に確認しましょう。内容が難解な場合や、リスクが見えにくいと感じた場合には、事前に弁護士へ相談することでトラブルを未然に防ぐことができます。
不動産特定共同事業を活用するなら、制度のメリットとリスクを正しく理解し、自分に合った投資かどうかを冷静に見極めることが重要です。不動産や投資に関するトラブルはベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。


