公共工事とは、国や地方公共団体が発注する建設工事をいいます。公共工事には、道路工事、橋梁工事、公共施設工事、上下水道工事、公園工事などの種類があります。
このような公共工事を受注すれば、資金繰りが安定し、信用力が上がるなどのメリットがありますので、受注者としても積極的に公共工事の受注をしていきたいところでしょう。
しかし、比較的安定している公共工事の契約でも、契約解除になるケースがあります。公共工事が発注者都合で契約解除された場合、受注者は損害賠償や違約金の請求はできるのでしょうか。また受注者から契約解除することは可能なのでしょうか。
今回は、公共工事の契約解除や損害賠償のやり方、公共工事受注の注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
公共工事の契約解除には、どのようなものがあるのでしょうか。以下では、公共工事が契約解除となる場合を、3つのケースに分けてみていきましょう。
受注者に契約違反がなくても、仕事が完成するまでは発注者都合による契約解除が認められています(改正民法641条)。これを発注者の「任意解除権」といいます。公共工事標準請負契約約款でも発注者の任意解除権が規定されています。
公共工事で任意解除がなされるケースとしては、契約締結後に地域住民から反対があって建設工事などを中止するようなケースが想定されます。
受注者が契約違反をしたときは、発注者は債務不履行を理由に契約解除をすることができます(改正民法541条)。
公共工事で発注者から債務不履行解除されるケースとしては、受注者が約定の期日までに仕事を完成させない、実際の施工が契約内容との食い違いがあるようなケースが想定されます。
発注者が契約違反をしたときは、受注者は債務不履行を理由に契約解除をすることができます(改正民法541条)。ただし、受注者には、発注者のような任意解除権はありませんので注意が必要です。
公共工事で受注者から債務不履行解除されるケースとしては、発注者が支払期日を過ぎても工事代金を支払わない、発注者による工事の妨害があった、発注者が必要な資料などを受注者に提供しないなどのケースが想定されます。
公共工事で契約解除があった場合、損害賠償請求はできるのでしょうか。以下では、損害賠償請求の可否とその内容についてみていきましょう。
受注者に契約違反がない場合でも、発注者は、仕事が完成するまでの間であれば、いつでも契約を解除することができます。しかし、発注者都合で契約を解除するには、受注者に生じた損害を賠償する必要があります。
発注者都合による契約解除で損害賠償請求の対象となる損害項目には、以下のようなものがあります。
受注者の契約違反により発注者に損害が発生している場合、発注者は、受注者に対して、損害賠償請求ができます(改正民法415条)。
具体的には、受注者による施工に不具合があり、別の業者に不具合の修繕などを行わせた場合、業者に支払った費用相当額についての損害賠償請求が可能です。
受注者の契約違反により契約解除となった場合でも、受注者は、発注者が利益を受ける場合には、その出来高に応じた請負代金の支払いを求めることができます(改正民法634条2号)。
出来高とは、建設工事で途中まで出来上がった部分(出来形)に相応する請負代金をいいます。公共工事が途中で解除された場合、建設現場には途中まで出来上がった建物や構造物などが残されています。このような出来形がある程度使え、利用価値がある場合には、取り壊すのではなく、そのまま利用するのが社会経済上の利益となるため、出来形に応じた請負代金の請求を認めています。
公共工事の発注者から契約解除された場合には、以下の点をチェックする必要があります。
発注者が引き渡しを受けた目的物に不具合があるといって契約解除する場合、契約不適合責任に基づく解除となります。契約不適合責任に基づく解除には、期間が設けられています。発注者は、目的物の不具合を知ったときから1年以内に、受注者に対して不具合の通知をしなければなりません。この期間が経過すれば、受注者は、発注者から契約不適合責任に基づく解除をされる心配はありません。
ただし、解除権の行使期間については、当事者間の合意により法律の定めとは異なる期間を設けることも可能ですので、実際の期間については契約書をチェックする必要があります。
なお、公共工事標準請負契約約款では、契約不適合責任期間は、原則として目的物の引き渡しを受けた日から2年以内とされています。
工事着工前に発注者から契約解除された場合でも、受注者は、発注者に対して損害賠償請求ができます。しかし、工事着工後の契約解除と比べると、損害は少額となるケースが多いです。
もっとも、公共工事の請負契約では、発注者都合での解除の場合、違約金の定めが設けられていますので、そのような定めにしたがって違約金を請求していくことになります。
違約金の定めがある場合には、受注者は損害の発生や損害額を立証しなくても、契約上定められた違約金を請求することができますが、それ以上の損害が発生していたとしても請求できる金額は違約金の額に限られます。
契約解除には、所定の手順が定められていますので、正しい手続きで解約解除をしなければ、契約の効力が消滅しないこともあります。
解除の時期によって、発生する損害の額も変わってきますので、受注者としても発注者による契約解除が正しい手続きで行われているかどうかをしっかりとチェックするようにしましょう。
公共工事の契約が解除されてしまうと、受注者には予定していた売り上げが失われるなどの損害が発生してしまいます。このような損失を最小限に抑えるためにも、以下の点を確認するようにしましょう。
発注者から契約解除の通知が届いたときは、どのような理由に基づいて契約解除を主張しているのかを確認します。なぜなら、発注者による契約解除には、任意解除と債務不履行解除の2種類があり、どちらであるかによって受注者の取り得る手段も変わってくるからです。
発注者から契約解除の通知を受け取ったときは、速やかに工事を停止しましょう。契約解除が正当なものであった場合、工事を継続しても損害が拡大するだけですので、解除が正当性かどうかわかるまでは、工事は停止しておくのが得策です。
また、途中で工事停止をすることで工事現場周辺に危険が及ぶような場合には、適切な保護措置を講じておきましょう。
発注者により契約解除されたとしても、受注者は、公共工事の出来高に応じた請負代金を請求する権利があります。また、発注者に損害が生じている場合には、受注者に対して損害賠償請求をすることができます。
発注者が請負代金や損害の支払いに応じてくれないようなケースでは、迅速に債権回収の手続きに着手する必要があります。
公共工事の発注者は、国または地方公共団体となりますので、契約解除によるトラブルについては、国または地方公共団体の担当者と交渉します。
お互いの話し合いで解決が難しい場合には、最終的に訴訟による解決も視野に入れて対応していく必要があるでしょう。
公共工事の請負契約に関しては、工事代金も高額になるため、契約解除になると違約金や損害も高額になる傾向があります。
受注者としては、出来高部分の工事代金や損害の回収をして、契約解除による損失を最小限に抑えることができますが、それには専門家である弁護士のサポートを求めることがときに有益です。
発注者から契約解除通知が届いたときは、今後の対応や方針を検討する必要がありますので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
公共工事は、国または地方公共団体が発注者になるため、支払いが確実といったメリットがあります。しかし、公共工事が契約解除になると、解除理由や損害の有無・金額などをめぐってトラブルになることもあります。
このようなトラブルが生じると受注者だけでは解決は難しいといえますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
公共工事の契約解除でお悩みの際は、初回60分相談料無料のベリーベスト法律事務所までご相談ください。