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    2024年04月11日
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    眺望権とは│裁判例と損害賠償請求をされた場合の対策を解説
    監修者:萩原達也 代表弁護士(東京第一弁護士会所属)
    眺望権とは│裁判例と損害賠償請求をされた場合の対策を解説

    高層ビルやマンションの建設をする際には、周辺住民から景色などの眺望が害されたなどとして苦情が出ることがあります。さらに要望がエスカレートすると、眺望権侵害を理由として損害賠償請求を受ける可能性もあります。

    このように周辺住民から眺望権侵害を理由に損害賠償請求された場合には、どのように対処すればよいのでしょうか。

    今回は、眺望権とは何か、眺望権侵害を理由とする損害賠償請求を回避するための対策などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、眺望権とは?

眺望権とはどのような権利なのでしょうか。以下では、眺望権の概要と日照権・景観権との違いについて説明します。

  1. (1)眺望権とは

    眺望権とは、建物の所有者などが他の建物などに妨害されずに、これまで享受してきた風景などを眺望することができる権利をいいます

    見晴らしが気に入って高層マンションを購入したにもかかわらず、目の前に別の高層マンションが建設されることになれば、これまでの景観を著しく害されてしまいます。そのような場合に、高層マンションの建設の差し止めや損害賠償などを求める際に主張されるのが「眺望権」です。

    眺望権は、法律上規定された権利ではありませんので、裁判などでしばしば権利の存在や内容が争いになります。

  2. (2)日照権や景観権との違い

    眺望権と似た権利に「日照権」や「景観権」というものがあります。これらの権利と眺望権とではどのような違いがあるのでしょうか。

    日照権とは、建物の日当たりを確保する権利のことをいいます。眺望権を直接保護する法律は存在しませんが、日照権は、建築基準法において「斜線制限」や「日影規制」という形で保護されているという違いがあります。このような違いが生じるのは、眺望権が良い眺望という精神的充足感を満たす権利であるのに対して、日照権が侵害されると心身の健康が害されるおそれがあるという点が大きな理由です。

    景観権とは、自然の景観や文化的・歴史的景観を見られる権利をいいます。眺望権は、建物所有者が特定地点からの眺めが見られる権利であるのに対して、景観権は、地域住民が地域の街並み、自然の風景全体に対して持っている権利という違いがあります。最高裁判所の判例では、良好な景観を享受する利益(景観利益)は認められていますが、景観権という権利については明確に否定されています(最高裁判所平成18年3月30日判決)。

2、住宅地の眺望権はほとんど認められていない

住宅地とリゾート地では、眺望権にどのような違いがあるのでしょうか。

  1. (1)眺望権侵害の判断基準

    きれいな景色が見られなくなったからといって、直ちに眺望権侵害だとなるわけではありません。土地にどのような建物を建築するかは、基本的には土地の所有者が自由に決めることができる事柄です。そのため、眺望権が侵害されたといえるには、妨害の程度が社会生活上一般に許容すべき限度を超えた場合に限られます。これを「受忍限度」といいます。

    受忍限度を超えて眺望権侵害がなされた場合には、相手方に対して、損害賠償請求や建築の差し止めを求めることが可能になります。

  2. (2)住宅地における眺望権とリゾート地における眺望権の違い

    良好な眺望の妨害が社会生活上一般に許容すべき限度を超えたかどうかの判断は、一般の住宅地での眺望とリゾート地での眺望とでは異なります。

    一般の住宅地では、周囲に建物が建つことが当然に予定されていますので、良好な眺望が阻害されたとしても、ある程度は許容すべき範囲内であるといえます。これに対して、リゾート地では、良好な眺望を見るという自然環境の享受がその保有目的の大部分を占めるため、良好な眺望が害された場合には、住宅地に比べて違法性が認められやすいといえます。

    もっとも、そもそも眺望権侵害の違法性は、容易には認められないものですので、リゾート地での建設をしたからといって、常に住民からの損害賠償請求や差し止めが認められるわけではありません。

3、眺望権に関する裁判例

以下では、眺望権が問題となった裁判例を紹介します。

  1. (1)日本で初めて眺望権(景観利益)が認められた事件(前橋地裁昭和36年9月14日判決、東京高裁昭和38年9月11日判決)

    【事案の概要】
    群馬県の猿ヶ京温泉は、山に遮られておりまったく眺望がないため、ダム湖の眺めを観光資源としていくつかの温泉旅館が建てられていました。

    Xは、同温泉地で温泉旅館を経営していたところ、Xの旅館からダム湖への眺望を遮る形で、Yが温泉旅館の増設工事を始めたため、旅館からの眺望が著しく害されるおそれが生じました。そこで、Xは、Yを相手として、工事中止の仮処分を申し立てこれが認められたため、Yが仮処分に対して異議申し立てをしたのが本件裁判です。

    【一審の判断】
    一審の裁判所は、Yによる温泉旅館の増設工事が完了すると、Xの旅館からの眺望が完全にさえぎられる状況となり、Xは経営上多大な損失を被るおそれがあるとしました。

    また、YはXの旅館からの眺望を阻害しない場所に建築可能な広大な敷地を有していながら、あえて本件増築工事を行っており、害意を含むものであることがうかがわれるとして、Yの増築工事は、権利濫用にあたると判断しました。

    【二審の判断】
    二審でも、本件敷地の利用が権利行使の時期・方法として唯一のものとはいえず、Xの旅館としての効用を損なわしめんとする害意があったとして、Yによる増築工事は権利濫用だと認定されました。
    この裁判では、眺望権という権利自体は明示されていませんが、権利濫用という枠組みの中で眺望権(景観利益)の侵害が判断されています。

  2. (2)マンション建設で花火が見えなくなり賠償が命じられた事件(東京地裁平成18年12月8日判決)

    【事案の概要】
    Xは、隅田川の花火大会の花火を観覧できることを理由にマンションの一室を購入をしました。ところが、入居から一年もたたないうちに、マンションから花火大会の花火を観覧できることを重視してマンションの一室を購入したXのことを認識していた同じ分譲業者のYが、Xの購入したマンションの一室からの花火の観覧を妨げる別のマンションの建設に着工しました。

    そこで、Xは、Yによるマンション建設工事により、花火の眺望が失われたとして、慰謝料などの支払いを求めて訴えを提起しました。

    【裁判所の判断】
    裁判所は、以下のように判示して、Xの慰謝料請求を認容しました。

    • Yは、隅田川の花火の観望がXの本件マンション購入動機の重要な要素であることを認識していたのであるから、信義則上、Xの花火の観望を妨げないように配慮する義務がある
    • Yは、Xにマンションを引き渡した翌年から別のマンション建設に着手し、隅田川の花火の観望をできない状態にしたのであるから信義則上の義務に違反し、損害賠償義務を負う
  3. (3)隣にマンションが建ち眺望が悪化したが、賠償が棄却された事件(大阪地裁平成20年6月25日判決)

    【事案の概要】
    Xは、高層マンション(地上28階、地下1階建て)の高層階を購入したところ、その後、分譲業者Yが近隣に別の高層マンション(地上39階、地下1階建て)の建設を行いました。それによって、Xは、マンションからの眺望が害されたとして、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償を求めて、訴えを提起しました。

    【裁判所の判断】
    裁判所は、以下のように判示してXの請求を棄却しました。

    • 眺望利益は、その建物からの眺望利益の享受を一つの重要な目的としてその場所に建物が建築された場合のように、眺望の利益の享受が社会観念上からも独自の利益として承認できるほどの重要性を有していると認められる場合に限り、法的保護に値する権利となる
    • Xは、本件マンションの周辺に、たまたま同程度の高さの高層マンションが存在していなかった結果として、良好な眺望を享受していたにすぎず、その眺望が社会通念上独自の利益とまでは認められない

4、損害賠償請求を回避するための対策

住民からの眺望権侵害を理由とする損害賠償請求を回避するためには、以下のような対策が有効です。

  1. (1)事前の調査

    建築物を建築する際には、周辺環境も含めて十分な調査を行うことが大切です。その地域において、当該街並みや風景などが特別な意味を持つような場合には、それと調和した建築物を建てる必要があります。それらを無視して、高層マンションや高層ビルなどを建築してしまうと、周辺住民との間でトラブルになる可能性がありますので注意が必要です。
    法的には問題がなかったとしても、周辺住民への配慮も忘れないようにしましょう。

  2. (2)適切な設計

    建物の建築により、周辺住民の眺望を妨害するおそれがある場合には、設計変更などによりできる限り眺望の妨げにならないような建築物を建てるように配慮することも大切です。

    土地の所有者であれば、法律の規制に従う限りにおいて、どのような建物を建てるのかは自由に決めることができます。しかし、地域住民と円満な関係を構築するには、後から建物を建てる立場にある業者が適切な設計により、地域住民の権利や利益を害さないように配慮する必要があります。

  3. (3)近隣住民への説明やコミュニケーション

    適切な設計によっても周辺住民の眺望を妨害するおそれがある場合には、事前説明会を開催するなどして、近隣住民に十分な説明を行うことが必要です。

    すべての住民から同意を得ることまでは必要ありませんが、住民が納得できるまで複数回、説明会を開催すべきでしょう。周辺住民に誠意ある対応を行うことで、眺望が妨害されたとしても、理解が得られる可能性が高くなります。

5、眺望権で損害賠償請求されたら弁護士に相談を

眺望権侵害を理由に損害賠償請求をされた場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)法的知見に基づいたアドバイス

    眺望権は、法律上認められた権利ではありませんので、権利の有無や内容に関しては、争いが生じることがあります。周辺住民から眺望権侵害を主張されたとしても、そもそも眺望権が認められるのか、認められたとしても受忍限度を超えているかについては、法的判断が必要な事柄といえます。

    そのため、眺望権侵害が争いになった場合には、まずは、専門家である弁護士に相談するとよいでしょう。弁護士に相談することで法的知見に基づいたアドバイスを受けることができますので、適切な対策を講じることが可能になります。

  2. (2)交渉を一任できる

    周辺住民から眺望権侵害を理由として損害賠償請求をされた場合には、まずは、周辺住民と業者との交渉により問題を解決していくことになります。

    しかし、多数の周辺住民を相手に交渉を進めるのは、不慣れな方では難しく、対応を誤ると大きなトラブルに発展するおそれもあります。そのような場合には、交渉の専門家である弁護士にお任せください。弁護士が業者に代わって周辺住民との交渉を担当することで、法的観点から問題点を整理して、適切な解決となるお手伝いをします。

  3. (3)訴訟に移行した場合のスムーズな対応

    交渉では周辺住民が納得できない場合には、周辺住民が訴訟を提起する可能性もあります。眺望権に関する訴訟は、非常に複雑な内容になりますので、専門家のサポートがなければ適切に進めていくのが困難です。

    もちろん訴訟からの対応も可能ですが、交渉段階から弁護士に依頼をしていれば、訴訟に発展した場合も引き続き対応を任せることができて非常にスムーズです。

6、まとめ

眺望権は、常に認められる権利というわけではなく、裁判になったとしても容易には認められない権利です。しかし、そうだといっても周辺住民から眺望権侵害を理由として損害賠償請求をされると時間も手間もとられますので、そうならないための対策が重要になります。
周辺住民との間で眺望権をめぐるトラブルが発生するのを回避するためにも、まずは専門家である弁護士に相談するのがおすすめです。

ベリーベスト法律事務所は、建築トラブルに関する豊富な解決実績があり、一級建築士も在籍していますので、状況に応じた適切な解説をご提案することが可能です。建築トラブルに関する相談は、初回60分無料となっていますので、お気軽に当事務所までご相談ください。

監修者情報
萩原達也 代表弁護士
萩原達也 代表弁護士
弁護士会:第一東京弁護士会
登録番号:29985
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
建築問題の解決実績を積んだ弁護士により建築訴訟問題専門チームを組成し、一級建築士と連携して迅速な問題解決に取り組みます。
建築トラブルにお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。

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