「リフォーム工事が始まった後に追加の工事が必要と言われ、当初の契約金額よりも大幅に費用が増加しそうだが、どうすれば良いか……」、「施工業者に信頼できない点が出てきたので契約を解除して別の施工業者と契約し直したいが、違約金を請求されたりしないだろうか……」、「工期が迫っているのに一向に工事が完成しそうにないが、どうすれば良いか……」
リフォーム工事の施工業者との間でトラブルが起こってしまった場合、どう対処するべきでしょうか。また、弁護士に依頼するとどういったメリットがあるのでしょうか。
本コラムでは、リフォーム工事でトラブルが起こってしまった場合、契約解除はできるのかという疑問にまずお答えし、トラブルを解決するための手順などをベリーベスト法律事務所の弁護士がお伝えします。
施主と施工業者との間のリフォーム工事契約は、民法の請負契約というカテゴリーの契約に当たります。そして、請負契約は、施工業者の工事が完成するまでであれば、施主がいつでも解除することできます(民法641条)。
ただし、民法641条により施主が解除する場合には、施工業者に生じた損害を賠償しなくてはなりません。
また、施工業者が一向に工事に着手しないなど、施工業者に債務不履行があった場合には、原則として履行を催告し、それでも履行されなかった場合には、施工業者の債務不履行を理由に請負契約を解除することができます。
このように、施主は施工業者との契約を解除できますが、契約を解除すれば支払い済みの代金(頭金など)を全額返金してもらえるか、工事が完成した後に支払うこととされている工事代金を一切支払わなくてもよくなるかというと、そうではありません。
民法641条による解除の場合には施工業者に損害賠償請求をしなければならないのですが、施工業者に債務不履行があって解除した場合でも、施主が契約を解除した時点で工事が始まっていた場合、施主は、施工業者に対して、すでに行われた工事に対応する請負代金を支払わなければなりません(民法634条2号)。これを「出来高精算」や「割合的報酬」などと呼びます。
出来高精算を行うに当たっては、施主が返金を受けることのできる金額や施工業者が請求することのできる金額を決めるために、すでに行われた工事は全体の何%であるかを算出する作業が必要になります。しかし、すでに進んだ工事の%を数値化する方法は複数(出来高割合方式・実費積上方式・控除方式など)あり、事案に応じて適切な方法を用いる必要がありますし、この計算には専門的な知識が要求されます。
また、この計算は施主と施工業者の両者にとって利害が大きく対立する点ですから、紛争に発展することも少なくありません。
したがって、すでに工事が始まっているリフォームの契約を解除したいとお考えの方は、正確に出来高精算を行い適正な返金を受けるため、建築士と弁護士に相談することをおすすめします。
このように、すでに工事の始まっているリフォームの契約を解除する場合は出来高精算が原則ですが、契約が訪問販売や電話勧誘などによって締結された場合には、クーリングオフを行うことによって、支払い済みの代金を全額返金してもらえる可能性があります。
クーリングオフを行うためには、契約が訪問販売や電話勧誘などによって締結されたことのほか、施工業者から法律の定める書面を受け取った日から8日以内に行う必要があることや、クレジットカード支払いの場合にはクレジットカード会社にも通知が必要であることなど、特定商取引法によってさまざまな条件が定められています。
ご自身の契約がクーリングオフの対象かどうかお悩みの場合には、8日以内という日数制限もありますので、速やかに弁護士に相談なさることをおすすめします。
リフォーム工事に関してトラブルが発生した場合、いきなり法的措置をとるのではなく、まずは施工業者と直接話し合いや交渉をすることになるでしょう。
もちろん、施工業者との話し合いや交渉で納得のできる解決ができれば、それに越したことはありません。しかし、施工業者と施主とでは知識や情報に大きな差があり、対等な立場にあるとはいえないのが実情で、施主に不満の残る結果となるリスクも少なくありません。
そこで、施工業者と直接話し合いや交渉を行う場合には、事後に紛争に発展する可能性も見据えて、次の点に留意する必要があります。
施工業者との話し合いや交渉で解決できない場合には、第三者を入れることを検討せざるを得なくなります。
トラブルの内容が比較的軽微な場合や、紛争の金額がさほど高額でない場合などであれば、ADRを利用することも選択肢のひとつとして考えられるでしょう。
ADRとは、訴訟によらず、公正な第三者の関与のもとに紛争の解決を図る手続きのことで、訴訟と比較して次のような点に特徴があります。
リフォーム工事のトラブル解決については、複数の機関によるADRが用意されていますので、事案の内容に応じてどのADRを選択するべきであるかを検討しましょう。
それぞれのADRの特徴は次のとおりです。(なお、ご本人でADR手続きを進めることも可能ですが、適切な解決を図るために弁護士に依頼してADR手続きを行うこともできます。)
ADRの名称 | 実施機関 | 特徴 |
---|---|---|
住宅紛争審査会 | 弁護士会 | 弁護士や建築士といった専門家による、公平で専門的な判断を受けることができる。 |
国民生活センター紛争解決委員会 | 国民生活センター | ・消費者と事業者の格差を補い実質的に対等な立場で交渉が行われるようなバックアップが期待できる。 ・施工業者が不当に手続きに応じない場合、事業者名などを公表する制度あり。 |
建設工事紛争審査会 | 国交省・都道府県 | 業者間の紛争においても利用される。 |
ADRでは紛争解決を期待できない場合のほか、トラブルの内容が深刻な場合や、紛争の金額が大きい場合などは、裁判所による手続きを選択せざるを得ないこととなります。
裁判所による紛争解決の手続きには、調停と訴訟の2種類があります。調停は話し合いによる解決を目指すものであり、訴訟は判決による解決を目指すものであるという点が大きく異なりますが、裁判所による手続きであることや、調停が成立した場合の調停調書や、裁判の最後に下される判決で強制執行ができることはどちらも同じです。
調停や訴訟を利用する最大のメリットは、客観的な立場にある調停委員や裁判官から、調停成立や和解に向けた調整をしてもらえることや、調停が成立して調停調書が作成されたり、訴訟の場合には判決が下されたときには、強制執行までできるようになることです。
ADRと比べて解決までに時間がかかるということはありますが、裁判所による訴訟という手続きであれば、最終的な解決ができます。また、当事者が訴訟による解決を望んで訴訟を提起しても、裁判所において、建築の専門家を専門委員として関与させたり、調停に移行させる「付調停」という決定を行って建築の専門家と調停員として関与させるなど、柔軟な対応がなされることも多いです。
これまで解説したように、建築に関する紛争には専門的な知識が要求されるにもかかわらず、施主には施工業者ほどの知識も情報もないことがほとんどです。
また、リフォーム工事には次のような特徴があるため、新築工事よりもトラブルが生じやすいともいえます。
このように、リフォームトラブルに関しては、建築に関する専門的知識のほかに、リフォーム工事に特有の事情にも精通していることが適切な紛争解決のために必要となるため、施主だけで施工業者と話し合いや交渉を行うには限界があります。
この点、建築紛争やリフォームトラブルに詳しい弁護士に依頼すれば、弁護士が施主の代理人となって施工業者との話し合い・交渉を行い、適切な解決に導くことが可能です。
(たとえば、工事が始まった後に契約を解除し出来高精算することとなった場面では、建築士と協力して行われた工事の割合を適切な方法で数値化し、適正な金額の返金を求めます。)
また、仕事などの日常生活があるなかで施工業者と話し合い・交渉をすることは精神的にも大きな負担となりますが、弁護士に依頼すれば、このような負担を軽減することもできます。
仮に話し合い・交渉が決裂してしまっても、弁護士であれば、施主の代理人として、ADRや、調停・訴訟などのあらゆる法的措置をとることができます。
いかなる法的措置をとることが適切であるかは、施工業者の対応・トラブルの内容・紛争の金額など、さまざまな状況を踏まえて慎重に判断する必要があります。
また、建築やリフォームに関する紛争は専門的であり、法的措置をとることとなった場合、証拠や資料が複雑かつ膨大な量となることが少なくありません。紛争になり法的措置をとることも見据えるという観点からは、施工業者との間でトラブルが発生した(あるいは、トラブルになりそうな)段階で弁護士に相談し、あらかじめ事案の全体像を把握しておいてもらい、資料を整理しておいてもらっておく方が、スムーズな紛争解決に資するといえるでしょう。
リフォーム工事は新築工事と比べて契約書類や設計図書類が簡素なことが多く、契約書がない場合もあります。見積書は多くの場合に存在しますが、それも事後的に渡されたものであったりして、当事者間の合意の内容とはいえないものである場合もあります。
しかし、どのような書面であれ、弁護士が事案を把握し、法的な対処方法を検討していくためには、欠かせない資料となります。見積書・工事請負契約書・図面・使用書、あるいは施工業者のメモでも、すべての資料を用意して弁護士に相談しましょう。
施主と施工業者との間でどのような内容の工事を契約したのか、どのような質の工事を契約したのか、実際の工事は契約の内容と適合しているのかなどを、これらの資料がある場合はそれを基にして、無い場合は施主の方からの聴き取りと中心として、判断していくことになります。
弁護士に相談する際には、ここで述べたような資料をあらかじめ準備し持参することをおすすめします。
このほかにも、施工業者とのメールなどやり取りの記録や、工事に不具合があるのであればその現場の写真なども、事後に重要な証拠となる可能性が高い資料であるといえます。
これらの資料がある場合には、上記で述べた資料と併せて弁護士への相談に持参しましょう。
リフォーム工事でトラブルが起こった場合、施工業者との契約を解除すること自体は可能ですが、その後の出来高精算には建築に関する専門的な知識が必要ですし、紛争に発展した場合には、リフォーム工事に特有の事情を踏まえて対応する必要があります。
トラブルを円滑かつ適切に解決するためには、早い段階から弁護士に相談なさることをおすすめします。