楊井 人文

ファクトチェック活動で社会課題に挑む、弁護士ジャーナリストという生き方

楊井 人文Hitofumi Yanai
パートナー弁護士 / 61期
東京オフィス, # 弁護士兼ジャーナリスト, # ファクトチェック活動
  • 所属や役職、業務内容はインタビュー当時のものです。
  • 2026年取材。
新聞記者から弁護士へ転身、東日本大震災が転機に
まず、弁護士になる前のご経歴と、弁護士になろうと思ったきっかけを教えてください。

私は大学を卒業後、新聞記者として働いていました。警察へ行って事件を取材する「サツ回り」担当となり、裁判所での取材も経験しました。事件の取材では、当然ながら刑法・刑事訴訟法などの法律が前提になります。事件・裁判取材だけでなく、あらゆる場面で、法律の重要性を強く感じ、次第に興味を持つようになりました。また、新聞社という組織で働き続けるよりも、より裁量の広い仕事をしていきたいという思いもありました。

ちょうどその頃、司法制度改革により法科大学院という制度がスタートした時期でした。旧司法試験時代とは違って、社会人でも挑戦しやすい制度になった、その変わり目だったので、思い切って挑戦することにしたのです。

新司法試験を受けて弁護士になり、最初はいわゆる街弁的な事務所に所属しました。たくさんの事件を経験し、いろいろな意味で鍛えられましたね。

ベリーベストに入所した経緯を教えてください。

2011年に発生した東日本大震災と福島原発事故が、私にとって大きな転機になりました。原発事故という未曾有の危機に直面し、何が本当なのかよくわからないまま情報が錯綜する事態となり、メディアに対する国民の不信感も相当高まったと思います。

もともと新聞記者をやっていたこともあり、この状況を受けて、「メディアのあり方をきちんと検証する必要があるのではないか」という思いが芽生えました。そこで、弁護士業務だけでなく、より幅の広い活動ができる環境を求めて、ベリーベストに相談をしたのです。
酒井代表とお話しした際に、「自由にやったらいいんじゃないか」とお話をいただいたことが大きな決め手となり、入所を決めました。

誤情報・偽情報を検証。ファクトチェック活動への取り組み
これまで取り組まれてきた活動について教えてください。

2012年にベリーベストに入所をしてから、主に交通事故チームで弁護士業務をしていたのですが、その傍ら、本格的にファクトチェック活動を始めました。「ファクトチェック」というのは、メディアの報道やネット上の情報について、その真偽を検証する活動のことです。当初は、ベリーベストの事務所スペースを借り、業務委託でスタッフに調べ物などの作業をしてもらっていました。メディアの誤報やネット上のさまざまな真偽不明な情報を検証するサイトの運営を行い、毎月10件ほどの記事を検証していました。メディア志望の大学生や司法修習生が期間限定で参加していた時期もありました。

その後、2017年に「ファクトチェック・イニシアティブ」という、メディアなどにファクトチェックの文化を普及するための団体を立ち上げました。外部から指摘をするだけでなく、メディア自らが、もっとファクトチェックの意義を理解し、それを担っていくべきだと考えたのです。主に国政選挙や沖縄県知事選など重要な選挙の際に、ファクトチェックに注力するプロジェクトなどを手掛けました。また、偽・誤情報対策への関心の高まりから、総務省や国会(憲法審査会)にも招かれ、「ファクトチェックへの関心が高まったのは良かったのですが、あくまで民間のジャーナリズムが担うべきで、公的部門からの独立性が重要であること」を強調しました。

現在は、私とともにファクトチェックに取り組んできた弁護士がいるのですが、彼に団体の運営を委ねて、私自身は弁護士ジャーナリストとして法的観点も踏まえたファクトチェックやジャーナリズムの改善を促すための取材活動に取り組んでいます。最近では安倍元首相殺害事件の裁判をほぼすべて取材しました。
自ら取材したファクトベースの記事をニュースサイトに配信し、YouTube番組などで事実に基づいて冷静に情報・報道を見ることの重要性について発信しています。

ファクトチェック活動に弁護士の経験がどう生かされていますか?

弁護士の仕事は、法律の知識だけでなく、事実を丁寧に調べ、冷静に見極める作業が非常に重要です。そういった意味でファクトチェック活動と親和性が高いと感じます。

メディアがあまり問題視していない行政機関でも、発表されているデータや法律の適用を丁寧に調べると、問題があるケースは少なくありません。たとえばコロナ禍では、飲食店に対する時短営業命令の法的妥当性の検証や、誤って発表されていた病床使用率のデータについて調査報道をしました。
また最近では、コロナワクチン接種記録の保存期間が法律上5年間とされている問題を取り上げました。2021年から始まった接種記録が2026年には破棄されてしまい、今後の研究や長期的な影響の検証ができなくなる恐れがあったため、厚生労働大臣への質問を通じて保存期間延長の法改正につなげることができました。

法制度のどこに穴があるのか、それを放置することにより、どういう問題が起きる可能性があるのかを分析できるのは、法律専門家としての知見があってこそだと思います。法や事実に基づいて検証を行うという点で、弁護士の知識や経験は幅広く生かされています。

ベリーベストという基盤があるからこそ、挑戦できた
ベリーベストに所属するメリット・魅力を教えてください。

何と言っても、自分のやりたい活動を応援してくれることですね。ファクトチェックという社会的意義のある活動に対して、代表が「自由にやったらいい」と言ってくれた。それだけでなく、事務所のスペースを貸してくれたり、運営スタッフを常駐させることを許可してくれたり、立ち上げ時に全面的なバックアップをしていただきました。こういった働き方を受け入れてもらえる環境は、なかなかないと思います。

ベリーベストという安定した基盤があるからこそ、さまざまなことに挑戦できているので、この環境を大切にしながら活動を続けていきたいですね。

最後に、ベリーベストへの入所を考えている方へメッセージをお願いします。

ベリーベストでは、多様なバックグラウンドを持つ弁護士が活躍していますし、弁護士としての専門性や、おのおのが持つ良さを十分に伸ばせる環境があります。
私のように社会的な活動に関心を持っている方にとっても、可能性に満ちた事務所だと思います。ぜひ門をたたいてみてください。