令和2年(2020年)4月の民法改正により、従来の「瑕疵担保責任」から、契約不適合責任に変更されました。この改正により、施工業者が負う責任の考え方は大きく変わり、「欠陥があるかどうか」ではなく、契約内容に適合しているかどうかが判断基準となっています。
その結果、施工業者にとっては、仕様書や図面の不明確さ、口頭での説明不足、記録の欠如が、思わぬ法的リスクにつながる可能性があります。実際に施主から修補請求や代金減額、損害賠償を求められた場合、適切な初動対応を誤ると、紛争が長期化・高額化するおそれがあるのです。
本コラムでは、契約不適合責任の基本から瑕疵担保責任との違い、施主が請求できる権利、契約書で注意すべきポイント、トラブルを防ぐための実務対策までを、ベリーベスト法律事務所 建築訴訟専門チームの弁護士が解説します。
令和2年4月の民法改正により、建築実務や契約書のあり方に大きな影響を与えています。「瑕疵担保責任」という言葉がなくなったというだけではありません。契約不適合責任の基本と施工業者が押さえるべき改正ポイントを解説します。
契約不適合責任とは、引き渡した建物や施工内容が、契約で定めた内容に適合していない場合に、施工業者が負う責任をいいます。
民法第562条では、目的物が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない」場合、施主は施工業者に対し、修補などを請求できると定められています。
従来と大きく異なるのは、「瑕疵」があるかどうかではなく、契約内容に適合しているかどうかが判断基準となる点です。
施工自体に大きな問題がなくても、仕様書や図面、説明内容と異なれば、「契約不適合」と判断される可能性があります。
改正前の瑕疵担保責任では、「隠れた瑕疵」がある場合に限り、施工業者の責任が認められていました(旧民法第570条)。そのため、瑕疵に該当するかどうかを巡って争いが生じやすく、紛争が長期化する傾向がありました。
この問題を解消するため、民法改正では契約内容を基準に責任を判断する仕組みへと変更されました。
これにより、契約書や仕様書の記載内容がより重視され、施工業者にとっては、契約段階での合意内容の明確化が不可欠となっています。
契約不適合責任は、売買契約だけでなく、建築工事の請負契約にも適用されます。
たとえば売買契約では、完成済みの建物を引き渡す時点で、契約内容に適合しているかが判断されます。他方で請負契約では、「仕事の完成」が契約の目的となるため、設計図書や仕様書どおりに施工されているかが重要な判断基準となります。
施工途中での説明や合意内容も考慮されるため、口頭説明のみで済ませることは、後のトラブルにつながりやすい点に注意が必要です。
契約不適合に該当するかどうかは、施主の主観ではなく、契約内容を基準に客観的に判断されます。
具体的には、工事請負契約書、仕様書、図面、見積書、打ち合わせ記録などが総合的に考慮されることになるのです。
特に注意すべきなのは、契約書に明記されていない事項であっても、事前説明や業界慣行から契約内容に含まれると判断される場合がある点です。施工業者としては、仕様や責任範囲を明確にし、変更点は必ず書面で残すことが、契約不適合責任のリスク管理につながります。
契約不適合責任では、施主は不適合がある場合に複数の法的手段を選択できます。施工業者としては、どのような請求が想定され、いつまで責任を負うのかを正確に理解しておくことが大切です。
契約不適合が認められた場合、施主は民法に基づき、主に次の4つの権利を行使する可能性があります。
これらは併存する場合もあり、対応を誤ると施工業者の負担が大きくなります。
契約不適合責任には、期間制限があります。
具体的には、施主は、不適合を知った時から1年以内に施工業者へ通知しなければ、原則として権利を失います(民法第637条第1項)。
ただし、施工業者が不適合を知りながら告げなかった場合などには、この制限が適用されないことがある点に注意が必要です(民法第637条第2項)。
さらに、損害賠償請求については、別途「消滅時効」が問題となります(民法第166条)。消滅時効は、「債権者が権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年」です。
契約書で契約不適合責任を免責または制限する特約を設けること自体は可能です。
しかし、施工業者が不適合を知っていた、または重大な過失がある場合には、免責特約が無効と判断されるリスクがあります。
また、消費者契約法(第8条など)や宅地建物取引業法(通称「宅建業法」、第40条等)により特約の効力が制限されることがある点に注意が必要です。
特約を設ける際には、事前に弁護士などの専門家によるチェックをおすすめします。
実務では、明らかな施工ミスだけでなく、以下のようなケースでも、契約不適合と判断されることがあります。
施工業者にとっては、問題ないと思っていた施工が法的責任に発展する可能性がある点を認識しておく必要があります。
契約不適合責任によるトラブルを防ぐには、事後対応よりも事前対策が重要です。特に、契約書の記載内容と記録の残し方は、施工業者のリスクを大きく左右します。
契約不適合責任の有無は、契約内容がどこまで明確に定められているかによって大きく左右されます。
施工業者は、以下のポイントを契約書で必ず確認・明記しておく必要があります。
これらが曖昧なまま契約を締結すると、後に施主から「契約内容に適合しない」と主張されるリスクが高まります。
電子契約は業務効率化のメリットがある一方で、証拠管理の不備がトラブルの原因となることがあります。
契約書だけでなく、仕様書・図面・見積書などの関連資料も、改ざん防止措置が取られた状態で保存することが重要です。また、電子契約後に内容を変更した場合は、必ず変更契約書や合意書を別途作成し、履歴が追える状態にしておく必要があります。
施工中の記録は、契約不適合責任を巡る紛争で重要な証拠となります。
施工写真、工程表、検査記録、施主との打ち合わせメモなどは、日付入りで保存しておくことが望ましいでしょう。
さらに引渡し時には、施主立会いのもとで完成確認を行い、引渡確認書や検査済書を作成しておくことで、後日のトラブルを防ぐことができます。
住宅瑕疵保険などの保険制度を活用することで、一定のリスク分散が可能です。
ただし、保険が適用されるのは対象となる瑕疵や期間には制限があり、すべての契約不適合をカバーできるわけではありません。
そのため、保険に過度に依存せず、契約書整備と記録管理を基本としたリスク対策を行うことが重要です。
契約不適合を指摘された場合、初動対応を誤ると紛争が深刻化するおそれがあります。施工業者としては、感情的に対応するのではなく、冷静かつ手順に沿った対応が重要です。
施主から不適合の指摘を受けた場合は、以下のような流れで対応することが望ましいです。
契約不適合を指摘された際、施工業者の対応次第では、問題が不必要に拡大してしまうことがあります。
特に注意すべきなのは、口頭のみで謝罪や是正対応を約束してしまうことです。
書面を残さずに対応を約束すると、後になって内容や範囲を巡る認識の食い違いが生じやすくなります。
また、契約書や仕様書を十分に確認しないまま、施工業者側の責任を安易に認めることも避けましょう。一度責任を認める発言をすると、後から法的に争うことが難しくなる場合があります。
なお、施主からの連絡を放置したり対応を先延ばしにしたりすると、不信感を招き、紛争が深刻化する原因となりえます。さらに、感情的な言動や強硬な態度を取ることも、トラブル解決には逆効果となるため避けましょう。
施主との関係が悪化するだけでなく、交渉や訴訟に発展した場合に不利な事情として評価されるおそれがあります。
トラブル発生時こそ、冷静かつ記録を重視した対応を心がけることが重要です。
以下のような場合には、早期に弁護士へ相談することを検討すべきです。
相談時には、工事請負契約書、仕様書、図面、見積書、施工写真、施主とのやり取り記録などを準備しておくと、的確なアドバイスを受けやすくなります。
また、弁護士は、依頼をいただければ相手方との交渉~裁判までの代理人となることができます。弁護士が法的根拠を持って交渉をすることにより、損害賠償をゼロにしたり、減額できたりする可能性が高まります。
実際に当事務所の弁護士が契約不適合責任について取り扱った事例もあります。以下からご覧ください。
契約不適合責任による紛争を防ぐには、日常的なリスク管理体制の構築が重要です。
契約書のひな型を定期的に見直し、施工管理や記録保存のルールを社内で統一しておくことが有効なリスク管理となります。
また、問題が小さいうちに専門家へ相談できる体制を整えておくことで、紛争の長期化やコスト増大を防ぐことができるでしょう。
契約不適合責任は、施工業者にとって施工後も長期間にわたってリスクが続く制度です。判断基準は、「契約内容に適合しているか」であり、契約書や仕様書、説明内容の不備が思わぬトラブルにつながる可能性があります。紛争を防ぐためには、契約段階での明確な合意と記録管理、トラブル発生時の冷静な対応が不可欠です。
契約不適合責任を巡る問題は、専門的な法的判断が求められる場面も多く、施工業者だけで対応するのは困難なケースもあります。ベリーベスト法律事務所では、建築・不動産分野に精通した弁護士が、契約書のチェックから紛争対応まで一貫してサポートしています。契約不適合責任に不安を感じた際は、早めに専門家へご相談ください。


