工事の契約書に「瑕疵担保期間は2年」と明記していませんか?しかし、この「2年ルール」はすでに古い考え方となっています。令和2年の民法改正により、従来の「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」へと大きく変わり、請負業者が負う法的責任の内容も明確化されました。
特に、期間を2年とする特約は、内容によっては消費者契約法や品確法、宅建業法の規定に反し、無効と判断される可能性があります。
今回は、工事を請け負う事業者の方向けに、改正後の「契約不適合責任」の正しい理解と「瑕疵担保期間2年」と記載した場合のリスク、さらに自社を法的トラブルから守るための契約・記録・対応の実務ポイントをベリーベスト法律事務所 建築訴訟チームの弁護士が解説します。
工事契約書に「瑕疵担保期間2年」と記載していませんか? 令和2年の民法改正で「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に変わり、この特約が無効になるケースもあります。以下では、瑕疵担保期間を2年とするリスクについて説明します。
令和2年4月施行の改正民法では、従来の「瑕疵(欠陥)」という用語が廃止され、代わりに「契約の内容に適合しない状態(契約不適合)」という考え方が導入されました。
つまり、契約で定めた性能・品質・仕様等に達していない場合は、「契約不適合」として請負人に責任が生じます。これにより、注文者は、契約不適合があった場合、修補請求・代金減額請求・契約解除・損害賠償請求といった複数の権利を行使できる場合があります。
一方で、旧来の「瑕疵担保期間」のように一律で責任期間を定める契約書では、民法上の新しいルールに対応していないと判断されるリスクがあるため、見直しが必要です。
「瑕疵担保期間2年」と定めている契約条項は、消費者契約法・品確法・宅建業法により無効になる可能性があります。
契約不適合責任のもとでは、注文者は以下の4つの権利を行使できます。これに伴い、請負業者は以下4つの請求に対して適切に対応する義務を負います。
これらの請求は、すべて「契約不適合」という一点から派生するものであり、請負業者は複数の請求を受ける可能性があることを認識しておく必要があります。
したがって、契約書で責任期間や範囲を明確に定めることはもちろん、日常的な施工記録や検査体制の整備も不可欠です。
民法改正によって、請負業者が責任を負う期間の考え方も変わりました。これまでの「瑕疵担保期間○年」といった一律の定めではなく、「いつ発見されたのか」「いつ通知されたのか」によって責任の範囲が変わります。
以下では、工事の契約不適合責任に関する期間や時効の基本を説明します。
民法637条第1項では、注文者が契約不適合を知ったときから1年以内に請負業者へ通知しなければ、原則として請求できないと定められています。
たとえば、引渡し後に不具合が見つかった場合でも、発見から1年以内に通知があれば請負業者は、修補などの責任を負う可能性があるということです。
ただし例外もあります。請負業者が引渡し時に契約不適合を知っていた場合、または重大な過失により知らなかった場合は、この1年の制限は適用されません(民法第637条第2項)。したがって、請負業者側としては、引渡しから一定期間が経過したからといって責任を免れたと判断するのは適切ではありません。
契約不適合の責任期間は、工事の対象によっても異なります。
たとえば、住宅の新築工事では「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)第94条により、構造耐力上主要な部分および雨水の浸入を防止する部分について、引渡しから10年間の瑕疵担保責任が義務付けられています。
一方、リフォームや内装、設備工事などの場合は、特別法の適用がありません。
ただし、発注者が個人(消費者)である場合は消費者契約法第10条が適用され、民法の規定よりも消費者に不当に不利な責任期間の特約は無効となる可能性があります。責任期間を契約で定める場合は、工事の種類と相手方の立場を考慮した設定が必要です。
注文者が契約不適合を理由に損害賠償などを請求できる期間には「時効」も関係します。民法166条では、債権の消滅時効について「権利を行使することができることを知ったときから5年間、権利を行使することができるときから10年間」と定めています。
契約不適合責任の場合、注文者が不適合を知り、かつ請求できる状態になったときから5年間、または引渡し時から10年間のいずれか早い方で時効消滅します。
契約不適合責任は、契約書の書き方や工事記録の残し方を工夫すれば、法的リスクを大きく減らすことが可能です。以下では、実務で役立つ「契約」「特約」「記録管理」の3つの視点から、トラブルを防ぐ具体的な対策を紹介します。
まず重要なのは、契約書の文言を「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」に変更することです。
条文例としては、次のような記載が考えられます。
このように「通知期間」を明示することで、責任の範囲を明確化できます。
一方で、2年よりも短い期間を定めた場合、消費者契約法や宅建業法の規定により無効と判断される可能性があるため、慎重な検討が必要です。
なお、住宅工事など法定保証期間(10年)がある場合は、個別の特約で短縮できません。
契約不適合責任の期間は、民法で契約不適合を知ったときから1年以内と定められていますが、これは、施工業者と施主との特約(免責特約)により変更することが可能です。
しかし、相手方が消費者である場合、消費者契約法により事業者の責任を一方的に免除する特約は無効とされる場合があります。
また、品確法や宅建業法が適用される住宅工事では、期間の短縮や免責は基本的に認められません。
契約不適合トラブルの多くは、「言った・言わない」「仕様と違う」などの当事者間での認識の相違や、仕様に関する解釈の違いから発生します。
これを防ぐには、記録を残すことが重要なリスク対策となります。
具体的な実務上のポイントは、以下のとおりです。
また、仕様変更や追加工事があった場合は、口頭ではなく文書やメールで記録を残すことが重要です。このような記録があれば、トラブル発生時に「契約どおり施工した」ことを証明でき、不要な責任追及を防ぐことができます。
契約不適合責任をめぐるトラブルは、施主から突然クレームや請求が届く形で始まることが多いです。「瑕疵担保期間を過ぎたから関係ない」と自己判断で対応すると、かえって請負業者が不誠実とみなされ、損害賠償請求に発展するおそれもあります。以下では、トラブルが発生した際に取るべき初期対応や弁護士に相談すべきタイミングを説明します。
施主からのクレームや補修依頼が届いたとき、まず冷静に対応することが大切です。
安易に「契約で2年と定めているため責任はない」と即座に回答することは適切ではありません。
民法改正後は「契約不適合責任」の枠組みで判断されるため、旧来の解釈に基づいた対応では法的責任を免れることができない場合があります。また、修補対応を一部だけ行った場合、契約不適合の存在を認めたと解釈される可能性があります。対応方法によっては、請負人側に不利な証拠となる場合があるため注意が必要です。
クレームを受けた際は、すぐに文書・メールなどで内容を記録し、今後の方針を慎重に検討する必要があります。
次のようなケースでは、早めに弁護士へ相談するのが安全です。
弁護士は、契約書や通知内容を確認した上で「請求に応じるべきか」「応じない場合の法的根拠は何か」を整理することができます。初期対応の方針により、その後の交渉の方向性が決まるため、請求書や通知書を受け取った段階での早期相談を検討するとよいでしょう。
弁護士に相談する際は、以下の資料をできるだけ揃えておくと、より正確な助言を受けられます。
これらを時系列で整理して提示することで、法的責任の有無や有効な反論根拠を迅速に判断できます。
特に、契約当初の合意内容や引渡し時の確認書は、責任範囲を明確に示す重要な証拠となります。トラブル発生後に慌てて探すのではなく、普段から記録をまとめておく体制を整えておくことが重要です。
工事契約書に「瑕疵担保期間2年」と記載している場合、民法改正後の法令との整合性を確認する必要があります。請負業者は、契約不適合責任に基づく法的リスクを正しく理解し、契約書を新しいルールに沿って見直すことが重要です。
また、施工記録や施主との合意形成を徹底することで、後のトラブルを大きく減らせます。もし紛争が生じた場合は、早めに弁護士へ相談し、法的な視点から最適な対応策を検討することが、会社を守る最善の手段となり得ます。


