マンションの外壁タイルに浮きが発生すると、見た目の劣化だけでなく、剥げ落ちることによる事故のリスクも懸念されます。このような状況で、施主から施工業者に対して補修や損害賠償を求めるケースもあるでしょう。
今回は、マンションの瑕疵に関する最高裁判例を踏まえて、タイル浮きに関する施工業者の法的責任と、施主から指摘を受けた際の適切な対応について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
9階建てのマンション兼店舗を相続した人が、建物にひび割れなどがあるとして、施工業者等(設計、工事監理、施工業者)を相手に損害賠償を求めたという事案です。
この判決以前の、最高裁判判決(平成19年7月6日)では、建物はその利用者や通行人、隣人などの生命や身体、財産を危険にさらさないよう基本的な安全性を備えなければならないとしていました。
平成23年の判決では、この平成19年の判決をもとに、建物の基本的な安全性を損なう瑕疵はどこまで認められるのか、より広く解釈がなされました。
具体的には、建物の基本的な安全性を損なう瑕疵とは、居住者の生命・身体・財産に現実的な危険をもたらしているものだけではなく、瑕疵を放置すると危険が現実化するおそれのあるものも含まれるとされました。また、同判決では、建物の基本的な安全性を損なう瑕疵の具体例として、外壁が剥がれて通行人に落下し人身被害につながる危険がある場合が示されました。
このような考え方を前提とすると、以下の場合、タイル浮きについて施工業者等に法的責任が生じる可能性があります。
タイル浮きは、そのまま放置すれば住人や通行人に落下して生命・身体に危険を生じるおそれがあり、建物躯体部分の劣化を促進させるおそれもあることから、建物の基本的な安全性を損なう瑕疵にあたる可能性が高いです。
そのため、タイル浮きがある場合には、施工業者の注意義務違反が推認され、施工業者の法的責任を問われる可能性があるといえます。
施工業者としては、①②の場合に該当するかどうかを慎重に検討し、必要に応じて専門家の助言を受けることが重要です。
マンションのタイル施工において浮きが生じたときは、施工業者の責任を問われる可能性があります。ただし、タイル浮きが発生すれば常に責任が生じるというわけではありません。
タイル浮きが施工不良による瑕疵と判断されるかは、「浮き率」が大きな判断材料となるでしょう。
裁判官による大阪民事実務研究会「外壁タイルの瑕疵と施工者の責任」では、施工後の期間に応じたタイル浮き率が一定以上生じた場合には、施工不良が推認されるべきであると報告されています。
タイル浮きの施工不良の判定目安となる具体的な基準としては、以下のとおりです。
| 施工後の期間 | 浮き・剥落の割合 |
|---|---|
| 5年以内 | 0%以上 |
| 5年超10年以内 | 3%以上 |
| 10年超15年以内 | 5%以上 |
| 15年超20年以内 | 10%以上 |
この基準は、判例として定着した基準ではありませんが、施工不良の有無を判断するにあたっての一つの目安となりますので、法的責任の有無を検討する際の参考にしてみるとよいでしょう。
施主からマンションのタイル浮きを指摘された場合、施工業者としてはすぐに適切な対応をとることが重要です。対応が遅れると施主とのトラブルに発展するリスクが高くなりますので、以下のような対応を検討しましょう。
タイル浮きに関する指摘を受けた場合、まずは現地調査を行いましょう。
目視確認だけでなく、打診棒や赤外線カメラなどを用いた非破壊検査により、浮きの程度と範囲を詳細に把握することが重要です。調査内容は必ず記録に残し、後日の説明資料として備えておくことが望まれます。
タイルの浮きが発生する原因には、様々なものがありますが代表的な原因を挙げると以下のようなものがあります。
このため、建築当時の施工記録や材料仕様、天候条件などを再確認し、施工業者の責任の有無や責任の範囲を慎重に判断する必要があります。
単純な経年劣化であれば施工業者には責任はありませんが、施工ミスが原因であれば施工業者に法的責任が生じることになります。
原因調査の結果を踏まえ、施主に対してタイル浮きの原因と今後の対応策に関する説明を行いましょう。
責任の有無にかかわらず、誠実な対応を心がけることでトラブルの拡大を防ぐことができます。補修が必要な場合は、具体的な工事内容、工期、費用負担などについて協議を行います。
施工不良が確認された場合や合意により補修を行う場合には、補修工事を速やかに実施します。
この際には、同様の不具合が再発しないように、施工方法の見直しや品質管理の強化を図ることが求められます。
マンションのタイル浮きにより施主との間でトラブルが生じたときは、なるべく早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
タイル浮きが生じた場合に、それが瑕疵にあたるかどうかは法的観点からの検討が必要です。施工業者に法的責任があるかどうかによってその後のとるべき対応が変わってきますので、まずは弁護士に法的責任の有無について相談しましょう。
相談時の資料だけは判断できない場合でも、建築トラブルを受け持った経験豊富な弁護士であれば、必要な調査や証拠収集のアドバイスができますので、今後の対応が明確になるでしょう。
タイル浮きが生じたことについて施工業者に責任があるときは、施主との交渉により問題の解決を図ることになります。
しかし、施工業者の多くはこのようなトラブル対応に慣れていませんので、誤った対応により施主を怒らせてしまい、深刻なトラブルへと発展するリスクがあります。そのため、施主との交渉は、専門家である弁護士に依頼するのがおすすめです。
弁護士であれば施工業者の代わりに施主との交渉を行うことができますので、冷静かつ合理的な解決可能です。施主側も弁護士から法的根拠に基づいて説明されれば、納得してくれる可能性も高くなるでしょう。
万が一、施主側が裁判を起こした場合にも、初期段階から弁護士が関与していれば、証拠の整理や主張の構築がスムーズに進められます。
特に、タイル浮きなどの建築訴訟では、施工不良の有無や損害の範囲などが争点となるため、専門的な視点が極めて重要です。将来、裁判になる可能性もありますので、早めに弁護士に相談しておくとよいでしょう。
マンションの外壁タイルに浮きが発生した場合、浮き率や原因によっては、施工業者が不法行為責任や契約不適合責任(瑕疵担保責任)といった法的責任を問われる可能性があります。
施主から指摘を受けた場合は、早期に現地調査と原因究明を行い、誠実な説明と補修対応を検討することが求められます。このとき、建築トラブルの対応経験豊富な弁護士のアドバイスやサポートがあったほうが、スムーズに問題が解決できる可能性が高まります。施主とのトラブルでお困りの方は、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。


