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    2025年10月22日
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    建築工事の丸投げは禁止! 違法な丸投げの判断基準や違反時のリスク
    監修者:萩原達也 代表弁護士(東京第一弁護士会所属)
    建築工事の丸投げは禁止! 違法な丸投げの判断基準や違反時のリスク

    建設業界では、元請業者が下請業者に工事を発注するということが日常的に行われています。しかし、「元請業者が一切の施工せずに、すべてを下請業者に丸投げする」という行為は、建設業法で原則として禁止されていますので、具体的な状況によっては違法と判断されるおそれもあります。

    建設業法違反となる違法な丸投げをすると行政処分や信用失墜といったリスクが伴い、最悪の場合は事業継続すら危ぶまれることもあるため、元請業者としては十分に注意して発注しなければなりません。

    今回は、違法な丸投げの判断基準や具体例、リスク、適法に下請を利用する方法、さらに判断に迷ったときの弁護士の活用法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、建設工事の丸投げが禁止されている理由

建設業法では、工事の全体を一括して他の業者に任せる「丸投げ行為(=一括下請負)」を原則として禁止しています。
これには以下のような理由があります。

  1. (1)安全性の確保

    現場の安全管理が徹底されなければ、作業員の労働災害や近隣住民への被害などが発生するリスクが高まります。
    建築工事が丸投げされており元請けが安全管理に関与していない場合、事故を防ぐことができないだけでなく、事故が起きた際に誰も責任を負わない構図になりかねません。

  2. (2)工事品質の担保

    元請業者が品質管理をしなければ、設計図どおりの工事が行われているかのチェックが機能しなくなります。また、不当な中抜き業者の横行により現場の作業員の報酬が下がり、工事品質の低下や手抜き工事のリスクが高くなります。
    このようなリスクは、建設工事を発注した施主に対して重大な損失を与えることになるため、工事品質を担保し、施主の利益を保護するために丸投げ行為が禁止されています。

  3. (3)労働者保護

    元請業者が労働環境に無関心なまま建設工事の丸投げをすると、下請業者やその下の業者(いわゆる孫請け業者)の作業員が劣悪な条件で働かされるおそれがあります。

    このように、「安全性・工事品質・労働環境保護」という建設工事の重要な基本が脅かされるため、丸投げ行為は厳しく制限されているのです。

2、建設工事で違法となる丸投げの判断基準

以下では、建設工事で違法となる丸投げ行為に当たるか否かの判断基準を説明します。

  1. (1)違法となる丸投げの判断基準

    建設業法において違法とされる丸投げ行為(「一括下請負」)というのは、元請施工業者が工事を請け負ったにもかかわらず、自ら実質的な関与もせずに、すべての工事を他の業者に任せてしまう行為を指します。

    具体的には、以下のような場合が違法な丸投げ行為(一括下請負)にあたるおそれがあります(平成28年10月14日通知「一括下請負禁止の明確化について」国土交通省)。

    • ① 元請施工業者が請け負った建設工事の全部、又はその主たる部分について、自らは施工を行わず、一括して他の業者に請け負わせる場合
    • ② 元請施工業者が請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立してその機能を発揮する工作物の建設工事について、自らは施工を行わず、一括して他の業者に請け負わせる場合

    上記の2類型の具体例については、後ほど解説します。

  2. (2)一括下請負と多重下請けの違い

    一括下請負とは別の言葉として「多重下請け」というものがあります。
    多重下請けとは、元請業者が受注した工事を下請業者に請け負わせ、さらにその下請業者が別の下請業者に請け負わせるというように、建設工事が多層的・段階的に委託される構造そのものを指します

    建設工事は、専門分野が多岐に渡るため分業化が進みやすく、多重下請けが生じやすい業界といえます。
    一括下請負とは異なり、多重下請けについては建設業法で禁止されているわけではありませんし、特定の工事は特定の分野の経験が豊富な作業員が行うことで工事品質が確保されるため、必ずしも違法ではありません。
    多重下請けにおいても構造が複雑化しすぎると、かえって品質低下のリスクや労働条件の悪化などの問題を生じる点が指摘されていますが、それは一括下請負の違法性とは別の話になります。

  3. (3)一括下請負の判断における重要なポイントは「実質的関与」の有無

    丸投げ行為(一括下請負)に当たるか否かを判断する重要なポイントは、元請業者による「実質的関与」があるかどうかです。実質的関与とは、元請業者が施工計画の作成・工程管理・品質管理・安全管理・技術的指導を行うことをいい、具体的には以下のような関与が求められます。

    ① 施工計画の作成
    受注した工事全体に関する施工計画の策定、下請業者が作成した施工手順書などの内容確認、および設計の見直し等に伴う計画書の更新・調整を行うこと

    ② 工程管理
    全体の工事進行状況を把握し、下請け間での作業スケジュールが円滑に進むように調整を行うこと

    ③ 品質管理
    受注した工事全体について、下請業者から提出される施工内容の報告を精査し、必要な場合には現場で直接確認を行うこと

    ④ 安全管理
    作業現場における安全を確保するため、関係者による協議体制を設けて運営し、現地の巡回などを通じて労働安全衛生法に沿った対応を講じること

    ⑤ 技術的指導
    受注工事全体において主任技術者を配置し、関係法規の遵守状況や業務遂行の適正性をチェックしつつ、現場での技術的な指導を統括的に行う役割を担うこと

    ⑥ その他
    発注者との打ち合わせや調整対応、下請業者からの問い合わせへの判断と対応、工事全体の費用管理の実施、ならびに周辺住民への説明や理解の促進を行うこと

    これらを一切行っておらず、表向きの契約やチェックリストが存在するだけでは「実質的に関与している」とはみなされません

  4. (4)例外的に丸投げ行為、一括下請負行為が許される場合

    一括下請負行為を禁止する建設業法第22条を読み解くと、以下の3つの要件をすべて満たす場合に限っては、例外的に一括下請負が可能ということができます。

    • ① 公共工事ではなく民間工事であること
    • ② 公共施設や、建設業法施行令第6条の3に規定する共同住宅を新築する工事以外であること
    • ③ 事前に発注者から書面による承諾を得ること

    このような要件を満たせば元請業者が一括下請負を行っても違法にはならない可能性がありますが、運用には細心の注意が必要です。

3、建設工事で違法な丸投げ行為になる具体例

違法な丸投げ行為は、知らずに行っていることもあるため、どのようなものが違法な丸投げ行為に該当するかを理解しておくことが重要です。以下では、建設工事で違法な丸投げ行為になる具体例を紹介しますので参考にしてみてください。

  1. (1)工事全体についてまったく施工せず、別の業者にそのまま任せたケース

    【ケース1】
    元請業者がマンションの新築工事を受注したが、自社では施工を一切行わず、実質的な計画や指導もせずに、工事全体を他の建設会社に丸ごと任せた。

    このようなケースは、元請業者が「実質的関与」を一切しておらず、典型的な丸投げ行為に当たりますので、建設業法違反となります。

  2. (2)独立した機能を持つ施設の施工を一括して下請けに任せたケース

    【ケース2】
    大型商業施設の建設工事の一環で、立体駐車場部分を独立して施工できる構造であるにもかかわらず、元請業者が自ら施工することなく、その部分だけを別業者に一括して請け負わせた。

    一部の工事を下請業者に任せたとしても、それが他の部分と独立して機能する構造物(商業施設の一部や立体駐車場など)である場合、違法な一括下請負として建設業法違反となります。

  3. (3)チェックリストを渡しているだけのケース

    【ケース3】
    元請業者が「施工チェックリストを下請に渡しただけ」で、実際の施工計画や工程管理、品質確認などは一切行わず、形式的な書類の受け渡しだけで済ませていた。

    下請業者に対してチェックリストを渡しただけで、一括下請負を回避した気になっているケースが多いですが、前述のとおり、チェックリストを渡しただけでは、実質的関与があったとは認められません。

    これはよくある誤解例ですので十分に注意が必要です。

4、建設工事で違法な丸投げ行為をした場合のリスク

建築工事で違法な丸投げ行為をすると、以下のようなリスクが生じる可能性があります。

  1. (1)建設業法違反として行政処分の対象となる

    一括下請負、丸投げ行為は、建設業法第22条に違反します。違反が発覚すれば、監督官庁から以下のような行政処分が科される可能性があります(建設業法第28条、第29条)。

    ① 指示・勧告
    軽微な違反の場合でも、改善を求める行政指導や注意喚起がなされます。

    ② 業務停止命令
    一定期間、建設業としての業務が全面的に禁止され、既存案件にも影響が生じることがあります。

    ③ 建設業許可の取り消し
    悪質な違反や改善命令の不履行があった場合、許可自体が取り消され、事業継続が不可能となります。

    ④ 公共事業の指名停止
    国や地方自治体が発注する工事への入札から除外され、企業としての社会的評価にも大きなダメージが及びます。

    これらの処分は、いずれも企業の信用・収益・存続に直結する重大な結果を招きます。

  2. (2)企業としての社会的信用が低下する

    行政処分があった事実は、自治体や国土交通省などの公式サイトで公表されることになります。これにより、発注者や取引先、金融機関などの関係者に対する信頼が著しく損なわれることになります。

    企業への信頼が失われると、以下のような経済的・経営的な影響があらわれるおそれがあります。

    • 進行中の案件における契約解除や中断
    • 新規受注の減少や入札からの排除
    • 与信低下による融資条件の悪化や取引停止

    特に、建設業界は信用が非常に重視される業界であり、ひとたび行政処分を受けると立て直しが極めて困難になるケースもあります

  3. (3)事故発生時に民事・刑事責任を問われる

    丸投げ行為によって元請業者が現場管理や施工に関与していない状態で、下請け業者による事故が発生した場合や、欠陥工事が発覚した場合、元請業者には重い法的責任が課される可能性があります。

    ① 民事責任|損害賠償義務
    作業員や第三者に損害を与えた場合、発注者や元請業者は安全配慮義務違反として、損害賠償責任を負うおそれがあります。

    ② 刑事責任
    労働災害によって死亡事故などが起きた場合、元請の管理体制に過失が認められれば、業務上過失致死罪や労働安全衛生法違反で刑事責任を問われる可能性もあります。

    「自分は現場に関与していなかった」という主張は、法的にはほとんど通用しません。むしろ、適切な管理監督を行わずに丸投げ状態であったことが、不法行為の根拠とされる危険性があります。

5、丸投げ行為の判断に迷うときは弁護士に相談を

丸投げ行為に該当するかの判断で迷うときは、違法な丸投げ工事をしてしまう前に弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)契約締結前・トラブル発生時などのタイミングで弁護士へ相談する

    違法な丸投げ工事が発覚すれば、建設業法違反として行政処分の対象になるだけでなく、処分の公表による社会的信用の低下、民事・刑事責任の追及などのリスクが生じます。

    このようなリスクが生じてからでは施工業者の損失をゼロに抑えることは不可能ですので、丸投げの判断で迷うようなときは契約締結前に弁護士に相談するようにしてください。

    また、知らずに違法な丸投げ工事をしてしまいトラブルが発生してしまったという場合は、自分で対処する前に弁護士に相談するようにしましょう。弁護士が対応することで被害を最小限に抑えられる可能性があるため、できる限り早期に相談するべきです。

  2. (2)弁護士ができる具体的な支援

    建設業分野に精通した弁護士であれば、以下のような具体的支援が可能です。

    • 請負契約書のレビュー、作成支援
    • 適法な業務委託範囲の判断
    • 行政対応(指導・処分を受けた時)のサポート
    • 元請け、下請け間のトラブル対応、交渉代理

    建設業界では、施主と施工業者、元請業者と下請業者、施工業者と従業員との間でトラブルが生じるケースも少なくありません。このようなトラブルを回避するには、弁護士による継続的なサポートが有効ですので、顧問弁護士の利用をおすすめします。

6、まとめ

建設工事における丸投げ行為は、元請業者がその責任を放棄する重大な違反行為です。実質的な現場関与の有無が、合法と違法を分ける決定的な基準となりますが、法的な知識や経験がなければ正確な判断が難しいといえます。

そのため、違法な丸投げ行為に該当するかどうか不安があるというときは、すぐにベリーベスト法律事務所までご相談ください。

監修者情報
萩原達也 代表弁護士
萩原達也 代表弁護士
弁護士会:第一東京弁護士会
登録番号:29985
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
建築問題の解決実績を積んだ弁護士により建築訴訟問題専門チームを組成し、一級建築士と連携して迅速な問題解決に取り組みます。
建築・建設に関するトラブルや訴訟問題でお困りの際は、お電話やメールにてお問い合わせください。

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