建設業界では、元請業者が下請業者に工事を発注するということが日常的に行われています。しかし、「元請業者が一切の施工せずに、すべてを下請業者に丸投げする」という行為は、建設業法で原則として禁止されていますので、具体的な状況によっては違法と判断されるおそれもあります。
建設業法違反となる違法な丸投げをすると行政処分や信用失墜といったリスクが伴い、最悪の場合は事業継続すら危ぶまれることもあるため、元請業者としては十分に注意して発注しなければなりません。
今回は、違法な丸投げの判断基準や具体例、リスク、適法に下請を利用する方法、さらに判断に迷ったときの弁護士の活用法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
建設業法では、工事の全体を一括して他の業者に任せる「丸投げ行為(=一括下請負)」を原則として禁止しています。
これには以下のような理由があります。
現場の安全管理が徹底されなければ、作業員の労働災害や近隣住民への被害などが発生するリスクが高まります。
建築工事が丸投げされており元請けが安全管理に関与していない場合、事故を防ぐことができないだけでなく、事故が起きた際に誰も責任を負わない構図になりかねません。
元請業者が品質管理をしなければ、設計図どおりの工事が行われているかのチェックが機能しなくなります。また、不当な中抜き業者の横行により現場の作業員の報酬が下がり、工事品質の低下や手抜き工事のリスクが高くなります。
このようなリスクは、建設工事を発注した施主に対して重大な損失を与えることになるため、工事品質を担保し、施主の利益を保護するために丸投げ行為が禁止されています。
元請業者が労働環境に無関心なまま建設工事の丸投げをすると、下請業者やその下の業者(いわゆる孫請け業者)の作業員が劣悪な条件で働かされるおそれがあります。
このように、「安全性・工事品質・労働環境保護」という建設工事の重要な基本が脅かされるため、丸投げ行為は厳しく制限されているのです。
以下では、建設工事で違法となる丸投げ行為に当たるか否かの判断基準を説明します。
建設業法において違法とされる丸投げ行為(「一括下請負」)というのは、元請施工業者が工事を請け負ったにもかかわらず、自ら実質的な関与もせずに、すべての工事を他の業者に任せてしまう行為を指します。
具体的には、以下のような場合が違法な丸投げ行為(一括下請負)にあたるおそれがあります(平成28年10月14日通知「一括下請負禁止の明確化について」国土交通省)。
上記の2類型の具体例については、後ほど解説します。
一括下請負とは別の言葉として「多重下請け」というものがあります。
多重下請けとは、元請業者が受注した工事を下請業者に請け負わせ、さらにその下請業者が別の下請業者に請け負わせるというように、建設工事が多層的・段階的に委託される構造そのものを指します。
建設工事は、専門分野が多岐に渡るため分業化が進みやすく、多重下請けが生じやすい業界といえます。
一括下請負とは異なり、多重下請けについては建設業法で禁止されているわけではありませんし、特定の工事は特定の分野の経験が豊富な作業員が行うことで工事品質が確保されるため、必ずしも違法ではありません。
多重下請けにおいても構造が複雑化しすぎると、かえって品質低下のリスクや労働条件の悪化などの問題を生じる点が指摘されていますが、それは一括下請負の違法性とは別の話になります。
丸投げ行為(一括下請負)に当たるか否かを判断する重要なポイントは、元請業者による「実質的関与」があるかどうかです。実質的関与とは、元請業者が施工計画の作成・工程管理・品質管理・安全管理・技術的指導を行うことをいい、具体的には以下のような関与が求められます。
これらを一切行っておらず、表向きの契約やチェックリストが存在するだけでは「実質的に関与している」とはみなされません。
一括下請負行為を禁止する建設業法第22条を読み解くと、以下の3つの要件をすべて満たす場合に限っては、例外的に一括下請負が可能ということができます。
このような要件を満たせば元請業者が一括下請負を行っても違法にはならない可能性がありますが、運用には細心の注意が必要です。
違法な丸投げ行為は、知らずに行っていることもあるため、どのようなものが違法な丸投げ行為に該当するかを理解しておくことが重要です。以下では、建設工事で違法な丸投げ行為になる具体例を紹介しますので参考にしてみてください。
このようなケースは、元請業者が「実質的関与」を一切しておらず、典型的な丸投げ行為に当たりますので、建設業法違反となります。
一部の工事を下請業者に任せたとしても、それが他の部分と独立して機能する構造物(商業施設の一部や立体駐車場など)である場合、違法な一括下請負として建設業法違反となります。
下請業者に対してチェックリストを渡しただけで、一括下請負を回避した気になっているケースが多いですが、前述のとおり、チェックリストを渡しただけでは、実質的関与があったとは認められません。
これはよくある誤解例ですので十分に注意が必要です。
建築工事で違法な丸投げ行為をすると、以下のようなリスクが生じる可能性があります。
一括下請負、丸投げ行為は、建設業法第22条に違反します。違反が発覚すれば、監督官庁から以下のような行政処分が科される可能性があります(建設業法第28条、第29条)。
これらの処分は、いずれも企業の信用・収益・存続に直結する重大な結果を招きます。
行政処分があった事実は、自治体や国土交通省などの公式サイトで公表されることになります。これにより、発注者や取引先、金融機関などの関係者に対する信頼が著しく損なわれることになります。
企業への信頼が失われると、以下のような経済的・経営的な影響があらわれるおそれがあります。
特に、建設業界は信用が非常に重視される業界であり、ひとたび行政処分を受けると立て直しが極めて困難になるケースもあります。
丸投げ行為によって元請業者が現場管理や施工に関与していない状態で、下請け業者による事故が発生した場合や、欠陥工事が発覚した場合、元請業者には重い法的責任が課される可能性があります。
「自分は現場に関与していなかった」という主張は、法的にはほとんど通用しません。むしろ、適切な管理監督を行わずに丸投げ状態であったことが、不法行為の根拠とされる危険性があります。
丸投げ行為に該当するかの判断で迷うときは、違法な丸投げ工事をしてしまう前に弁護士に相談することをおすすめします。
違法な丸投げ工事が発覚すれば、建設業法違反として行政処分の対象になるだけでなく、処分の公表による社会的信用の低下、民事・刑事責任の追及などのリスクが生じます。
このようなリスクが生じてからでは施工業者の損失をゼロに抑えることは不可能ですので、丸投げの判断で迷うようなときは契約締結前に弁護士に相談するようにしてください。
また、知らずに違法な丸投げ工事をしてしまいトラブルが発生してしまったという場合は、自分で対処する前に弁護士に相談するようにしましょう。弁護士が対応することで被害を最小限に抑えられる可能性があるため、できる限り早期に相談するべきです。
建設業分野に精通した弁護士であれば、以下のような具体的支援が可能です。
建設業界では、施主と施工業者、元請業者と下請業者、施工業者と従業員との間でトラブルが生じるケースも少なくありません。このようなトラブルを回避するには、弁護士による継続的なサポートが有効ですので、顧問弁護士の利用をおすすめします。
建設工事における丸投げ行為は、元請業者がその責任を放棄する重大な違反行為です。実質的な現場関与の有無が、合法と違法を分ける決定的な基準となりますが、法的な知識や経験がなければ正確な判断が難しいといえます。
そのため、違法な丸投げ行為に該当するかどうか不安があるというときは、すぐにベリーベスト法律事務所までご相談ください。


