建築工事現場では、施工業者の不注意により、隣接する建物や塀などを損傷してしまうことがあります。
このような建築工事中の事故が発生すると、誰がどのような責任を負うのか気になる方もいるでしょう。
今回は、建築工事中の事故で隣に損害を与えてしまったときの責任の所在や賠償すべき損害の範囲、損害賠償請求をされた際の対処法についてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
建築工事中の事故で隣地建物に被害が生じるのはどのようなときか、主なケースをいくつかご紹介します。
まず、解体工事の振動により、地盤沈下が生じるケースが挙げられます。
老朽化した建物を取り壊して、新たに建物を建てる際には、解体工事が必要です。解体工事のうち土地の掘削などを行う場合、適切な土留めや地盤補強をしていなければ、隣地の地盤が緩み、隣家が傾いたり沈下したりすることがあります。
次に、足場が倒れて隣家の外壁が損傷してしまうケースです。
外壁や屋根に関する作業のために足場を組むときは、以下のような原因で倒壊するおそれがあります。
足場等が倒壊して隣家に直撃すると、隣家の建物のみならず居住者や通行人を傷つけてしまうこともあります。
次に、重機の操作ミスで隣家の塀を倒してしまうケースです。
建築工事現場には、クレーンやショベルカーなどの重機が出入りしますが、十分な広さが確保できない場所を通ることもあります。そのような狭小地での作業では、少しの操作ミスでも重機が隣家に接触して、塀や外壁などを傷つけたり、壊してしまうことがあります。
また、隣家との距離が近いと、重機作業時の振動で壁や基礎にひびが入ることがあるかもしれません。
最後に、部材の落下により隣家の屋根や外壁、塀を傷つけてしまうケースです。
建具や建材を運ぶためにクレーンを使う際は、玉掛けの不備、荷のバランスの崩れ、過負荷などが原因で、建材が落下してしまうことがあります。建築中の土地に部材が落下すれば、隣家への被害は生じませんが、隣家の土地に部材を落下させてしまうと、屋根や外壁や塀等を損傷させてしまうおそれがあります。
先述のような事故で隣接する建物へ被害を与えてしまった場合、責任は誰が負うことになるのか解説します。また、責任が問われた場合に賠償すべき損害の範囲についても紹介しましょう。
建築工事中の事故で隣地建物に被害が出ると、原則として実際に現場で作業していた施工業者が責任を負うことになります。なぜなら、建築工事中の事故は、一般的に施工業者の過失により発生するため、不法行為に基づく損害賠償義務が発生するからです(民法709条)。
もっとも、発注者の注文・指示に過失があり、それに基づいて建築工事中の事故が発生したような場合には、発注者が責任を負うことになります(民法716条ただし書き)。したがって、現場での作業を下請け業者が担っていたような場合、元請け業者が十分な指示や監督を行っていなかった場合には、元請け業者が損害賠償責任を負ったりすることもあります。
隣地建物に被害を与えてしまった場合、以下のような範囲の損害を賠償しなければなりません。
① 隣地建物の修繕費用
隣地建物の屋根や外壁などの損壊、基礎のヒビ、地盤沈下などを発生させてしまったときは、元の状態に戻すための修繕費用を負担しなければなりません。
② 怪我したときは治療費や慰謝料
隣家の住民や通行人などに怪我をさせてしまったときは、以下のような損害を賠償しなければなりません。
③ 店舗だったときは営業損害
被害を与えてしまったのが居住用物件ではなく賃貸住宅、店舗、駐車場、オフィスビル等の収益物件だった場合、被害の程度によっては一定期間営業ができなくなることもあります。
このような場合、隣家の事業者は、一定期間営業できないことにより本来得られるはずだった利益を失ってしまいます。そのため、建物の修繕費用だけでなく、営業損害の賠償も必要です。
建築工事中の事故で隣地建物に損害を与えてしまった場合、隣地建物所有者から損害賠償請求をされる可能性があります。隣地建物所有者から損害賠償を請求されたら、以下のような手順で対応していくようにしましょう。
隣地建物所有者に損害を与えてしまったら、速やかに隣地建物所有者に対して謝罪しましょう。謝罪のタイミングが遅くなるほど印象が悪くなり、円満な解決が困難になるおそれがあるからです。
ただし、この段階では被害を与えてしまったことへの謝罪にとどめておき、「責任を全面的に認める」といった発言は避けるようにしてください。
建築工事の施工業者であれば、「請負業者賠償責任保険」に加入していることが基本です。建築工事で事故が発生したときは、賠償保険への加入の有無と内容を確認するようにしてください。
賠償保険の適用対象となる事故であれば、保険会社の担当者と連携して、損害調査を進めていくとよいでしょう。
施工業者の責任の有無は、施工業者に過失があるか、建築工事と事故に因果関係があるかによって変わってきます。
そのため、隣地建物所有者と交渉する前に、施工業者に法的な責任があるかどうかを検討しなければなりません。施工業者の法的責任の有無を正確に判断するには、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
施工業者に法的責任がある場合、隣地建物所有者に生じた損害を賠償しなければなりませんが、隣地建物所有者から請求された金額をそのまま支払うべきかどうかは、検討の必要があります。
施工業者が負担すべき賠償の範囲も法的観点から検討する必要があるため、法的責任の有無を一緒に弁護士に相談してみるとよいでしょう。
上記の準備により施工業者の責任および損害の範囲が明確になった段階で、隣地建物所有者との示談交渉を進めていきます。隣地建物所有者との交渉で合意がまとまったときは、必ず書面で合意内容を残しておきましょう。
なお、隣地建物所有者との話し合いの場を設ける場合、感情的な言い合いになってしまうリスクがあります。冷静に対応するために、隣地建物所有者との交渉は弁護士に任せるのが望ましいでしょう。
建築工事中の事故で隣地建物に被害を与えてしまったときは、弁護士への相談をおすすめします。弁護士に依頼する主なメリットを紹介しましょう。
建築工事で事故が発生し、隣地建物所有者に損害を与えてしまった場合、隣地建物所有者から損害賠償を請求されるおそれがあります。
隣地建物所有者から、「建築工事で発生した事故だから、施工業者が責任を負うべきだ」といった主張を受けるかもしれません。しかし、まずは施工業者として賠償義務があるのかどうか、義務がある場合はどの範囲の損害を賠償すべきなのか検討することが大切です。
それには、建築問題に詳しい弁護士によるアドバイスやサポートが欠かせません。自分で対応する前に、一度弁護士に相談するようにしましょう。弁護士に依頼することで、施工業者の法的責任や損害の範囲について正確に判断できるため、今後の方針を明確にすることが可能になります。
施工業者として法的責任があるときは、隣地建物所有者と示談交渉を行わなければなりません。
しかし、交渉に慣れていないと、感情的になって不必要なことを言ってしまうことや、誤った対応をしてしまうリスクもあります。
そのため、被害者との示談交渉は、専門家である弁護士に任せるべきです。建築問題に詳しい弁護士であれば、建築トラブルの解決方法を熟知しているため、適切な条件で隣地建物所有者との示談をまとめることが可能です。
隣地建物所有者との話し合いがまとまらず交渉が決裂すると、隣地建物所有者から調停の申し立てや訴訟の提起をされるおそれがあります。
交渉とは異なり、このような法的手続きにまで発展すると、自分ひとりで適切に対応していくのは困難です。負担を最小限に抑えるためにも、建築トラブルの対応は弁護士に任せるようにしましょう。
建築工事では、施工業者の過失により隣地建物所有者に損害を与えてしまうことがあります。
このような事故が発生した場合、法的観点から施工業者の責任の有無および範囲を検討する必要があるため、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。
建設工事にかかわるトラブルでお困りの際は、建築トラブルに強いベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。