工事に着手してから、発注者とのトラブルが生じてしまうケースもゼロではありません。
たとえば、工事代金未払いのトラブルが発生した場合、施工業者(建設会社)にとっては経済的に苦しくなるだけでなく、精神的にもダメージを受けてしまうものです。未払いによる問題が生じた際は、泣き寝入りすることなく、弁護士のサポートを受けながら工事代金の回収を図りましょう。
本記事では、工事代金未払いの問題を解決するための対処法や、泣き寝入りしないための注意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
工事代金の未払いが生じる理由はさまざまですが、たとえば以下のようなパターンが挙げられます。
工事を適切な形で完成させたのであれば、発注者や元請負人から工事代金を受け取る権利があります。決して泣き寝入りすることなく、迅速な工事代金の回収を目指しましょう。
未払いとなっている工事代金を回収するためには、以下の方法によって対処しましょう。
施工業者には「同時履行の抗弁権」(民法第533条)や「留置権」(民法第295条)(業者間の取引の場合には商事留置権(商法第521条)が成立する可能性もあります。)が認められており、工事代金の支払いを受けるまで、工事の目的物の引き渡しを拒否することが可能です。なお、留置権の行使については、請負目的物が施工業者の占有下にある場合に限られる点にご注意ください。
発注者側に工事の目的物が引き渡されないとなれば、工事代金を支払う可能性が高まるでしょう。
先に目的物を引き渡してしまうと不利な立場になるため、必ず引き渡しと同時または先に工事代金を支払うよう求めることが重要です。
元請負人から請け負った工事の代金が支払われていないために、労働者への賃金の支払いが困難となることもあるでしょう。元請負人が特定建設業者である場合には、国土交通大臣または都道府県知事は元請負人に対し、賃金相当額の立替払いなどを勧告することができます(建設業法第41条第2項)。
下請け工事代金が支払われないために、従業員の給料未払いが生じてしまったときは、元請負人が特定建設業許可を受けている場合には、国土交通大臣または都道府県知事に対して、元請負人へ立替払いの勧告を求める上申書を提出しましょう。
ただし、国土交通大臣または都道府県知事の裁量によるため、上申書を出しても必ず勧告がなされるわけではない点にご注意ください。
未払いの工事代金を本格的に回収するためには、まず内容証明郵便で請求書を送付し、支払いを催告するのが一般的です。
内容証明郵便を送付すると、「本格的に債権回収を始める」という強いメッセージを相手に伝えることができます。特に弁護士名義で送付する内容証明郵便は、相手方に与える印象が強く、任意に未払いの工事代金が支払われる可能性が高まるでしょう。
また、内容証明郵便による催告には、工事代金の消滅時効の完成を6か月間猶予する効果が認められています(民法第150条第1項)。
後述するように、工事代金を請求できることを知ってから5年間行使しなかった場合、または請求できるときから10年間行使しなかった場合には、工事代金請求権は時効によって消滅します(民法第166条第1項)。
長期間にわたって工事代金が支払われていない場合は、速やかに内容証明郵便を送付して時効の完成を阻止しましょう。内容証明郵便に対して、発注者や元請負人から返信があったら、工事代金の支払いに関する交渉を行うことが必要です。合意が得られれば、その内容に従って工事代金の支払いを受けられます。
内容証明郵便を送っても返信がない場合や、再び工事代金の支払いを拒否された場合、交渉が決裂した場合などは、裁判所に訴訟を提起しましょう。
訴訟では、工事請負契約の内容や工事を完了したことなど、工事代金請求権の発生要件を証拠に基づいて主張立証することが必要です。主張立証に成功すると、裁判所が相手方に対して工事代金の支払いを命ずる判決を言い渡します。
相手方は、工事の不備などを主張して、工事代金の支払いを拒否してくるかもしれません。さまざまな反論を想定したうえで、再反論ができるように準備を整えることが大切です。訴訟を提起する際には、弁護士と協力して準備を進めましょう。
訴訟の判決が確定しても、発注者や請負人が工事代金を支払わない場合は、裁判所に強制執行を申し立てましょう。
強制執行は、債務者の財産を強制的に換価・処分し、債権の弁済に充てる手続きです。預貯金や不動産などの財産を差し押さえて、工事代金の支払いへ強制的に充当します。
確定判決などの債務名義を得た後、裁判所に対して強制執行を申し立てることが可能です。
差し押さえる債務者の財産はあらかじめ調査しなければなりませんが、裁判所の「財産開示手続」「第三者からの情報取得手続」などを活用すれば、財産を把握できる可能性があります。強制執行に不安がある際は、弁護士にご相談ください。
工事代金を支払わない発注者や元請負人に対して、泣き寝入りせず厳然と支払いを請求するためには、以下のポイントを頭に置いておきましょう。
長期間支払われていない工事代金を回収せずに放置していると、消滅時効が完成して支払いを受けられなくなるおそれがあります。
工事代金請求権は、以下のいずれかの期間が経過すると、時効により消滅します(民法第166条第1項)。
工事代金は契約(=当事者の合意)によって定まるうえに、工事を完成させるのは施工業者です。したがって工事代金請求権の時効は、ほとんどの場合、上記①の5年間が経過すると完成します。
5年近くにわたって工事代金が未払いとなっている場合は、消滅時効の完成が間近に迫っている状態です。速やかに弁護士へ相談し、内容証明郵便の送付や訴訟の提起などを行って時効完成を阻止しましょう。
建設工事の請負契約を締結する際には、契約書を作成して相互に交付することが義務付けられています(建設業法第19条第1項)。請負契約の内容を変更する場合も同様です(同条第2項)。工事請負契約書には、請負代金(工事代金)の額などを記載してください。
建設業法上の義務を果たすことに加えて、実際に工事代金を請求・回収する観点からも、工事請負契約書は確実に作成しておくべきです。
工事請負契約書を作成していない場合や、契約書の記載が曖昧である場合には、訴訟において工事代金請求権を立証できず、支払いを受けられなくなるおそれがあります。
工事請負契約書を作成する際、弁護士に依頼すれば、リーガルチェック(法的に問題ないかのチェック)を受けることが可能です。内容・形式ともに適切な工事請負契約書を作成するために、弁護士にサポートを依頼しましょう。
発注者や元請負人は、施工の不備などを理不尽に指摘して、工事代金の支払いを拒否してくるケースがあります。
施工業者としては、契約に従って工事を完成させたのであれば、相手方の理不尽なクレームに屈してはいけません。契約の記載と実際の工事の状況を照らし合わせ、問題がないことを厳然と主張しましょう。
相手方に対して適切に反論する自信がない場合は、弁護士を代理人に立てるのが安心です。法的根拠に基づいて反論してもらえるほか、訴訟を提起する場合もスムーズなサポートを受けることができます。
未払いとなっている工事代金を早期に回収したいなら、弁護士に相談することをおすすめします。工事代金未払いのトラブルについて、弁護士に相談することの主なメリットは以下のとおりです。
弁護士に依頼すれば、法的な根拠に基づいて工事代金の支払いを請求することが可能です。弁護士の介入をきっかけに相手方の態度が変わり、速やかに工事代金が支払われるケースも多くあります。
工事代金未払いに悩んでいる施工業者は、早い段階で弁護士へご相談ください。
工事代金を支払わない発注者や元請負人に対しては、泣き寝入りすることなく毅然と請求を行いましょう。弁護士に依頼すれば、法的な根拠に基づく請求により、未払い工事代金を早期に回収できる可能性が高まります。
ベリーベスト法律事務所は、建設工事に関するトラブルのご相談を随時受け付けております。未払いの工事代金を早期に回収し、クライアント企業における資金繰りの改善をサポートいたしますので、工事代金の未払いでお困りの施工業者は、当事務所へご相談ください。