建設工事に関する施主とのトラブルが深刻化すると、訴訟に発展する可能性が高まります。訴訟には多大な時間と費用がかかるので、施工業者(建設業者)としてはできれば避けたいところです。
訴訟を回避する方法のひとつとして「調停」が挙げられます。調停が成立すれば訴訟に比べて短期間で円満に建築紛争を解決することが可能です。調停を通じた解決を考えてみましょう。
本記事では、建築訴訟を回避する選択肢としての調停手続きについて、ベリーベスト法律事務所 建築訴訟専門チームの弁護士が解説します。
戸建住宅やビルなどの建築工事については、施工業者と施主の間でトラブルが発生するケースがしばしば見られます。トラブルが深刻化すると訴訟に発展し、施工業者は多大なコストを負担することになりかねません。
建築業界では、新築工事やリフォーム工事の施工不備を理由に、施主が施工業者の契約不適合責任(民法第559条、第562条から第564条)を追及する訴訟がしばしば発生しています。
たとえば、工事完了後に以下のような契約不適合が発覚し、訴訟に発展するケースがよく見られます。
施主との訴訟が発生すると、解決までには数か月から1年以上の期間を要します。また、弁護士への依頼が事実上必須となるため、弁護士費用の負担も発生します。
施工業者にとっては、時間的にも費用的にも大きな負担となるでしょう。
また、訴訟において契約不適合責任が認められれば、施工業者は欠陥部分の修補などを行う義務を負います(民法第562条)。工事代金(請負代金)の減額を請求されたり(民法第563条)、契約不適合が重大な場合には契約を解除されたり(民法第564条)することもあり得ます。
さらに施工業者は、契約不適合によって施主が被った損害を賠償しなければなりません(民法第415条)。
施工業者が契約不適合責任を果たすためには、多額の支払いを要するケースもあります。施工業者にとって、敗訴のリスクは非常に大きなものです。
加えて、訴訟は公開の法廷で行われますので、施工業者が施主から訴えられていることや、訴訟で敗訴したことが大々的に報道されると、企業としての評判が損なわれるおそれもある点に注意を要します。
このように、訴訟には多大なコストやリスクを伴うため、できる限り訴訟を避け、トラブルになってしまった場合は調停などの代替的紛争解決手段を検討することが望ましいといえるでしょう。
そもそも、施主とのトラブルを避けるためには、契約締結時において工事の内容をきちんと説明することが大切です。特に、施主にとってトラブルになり得る事項は、建設工事請負契約書に容認事項として確実に記載しておくべきといえます。
ただし、消費者契約法(第8条)等の強行規定に反する内容となっていた定めは無効となってしまいます。消費者である施主に対しては、契約不適合責任を全面的に免除するような条項は無効になってしまう可能性が高いといえるでしょう。
どの程度であれば契約不適合責任を限定できるかについては、弁護士にご相談ください。
施主との建築トラブルに関して訴訟を回避する方法としては、「調停」が選択肢のひとつになります。
調停は、裁判所で行われる話し合いの手続きです。通常、裁判官1名と社会的経験に富む民間の調停委員2名が施工業者と施主の間に入り、双方の言い分を調整しながら合意による解決を目指します(民事調停法第5条、第7条)。
調停において合意が成立すれば、訴訟に進むことなく建築トラブルを解決することができます。
訴訟と比較すると、調停には主に以下のメリットがあります。
たとえば以下のような状況にある場合は、施主との建築トラブルの解決を目指すに当たり、訴訟ではなく調停を選択した方がよい可能性が高いです。
ただし、個別の事情などによっても状況は変わります。自己判断せず、弁護士に相談してから検討することをおすすめします。
建築トラブルに関する調停手続きの流れと、各段階において施工業者が行うべき対応について解説します。
調停の申立ては、原則として相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に対して調停を申し立てます(民事調停法第3条)。申立手数料は訴額に応じて決まります(民事訴訟費用等に関する法律第3条、別表第1)。
なお、施工業者と施主のどちらも、調停を申し立てることができます。
施主との交渉の状況を見ながら、自社において調停を申し立てるか、それとも施主からの申立てを待つのがよいかを判断することになりますが、施主はいきなり訴訟を提起するかもしれません。訴訟を回避したいときには、積極的に調停申立を考えたほうが良いと思います。
調停の申立てを受けた裁判所は、調停期日を指定して両当事者に通知します。
裁判所に指定された調停期日に出頭できるように、スケジュールを空けておきましょう。
調停期日に先立ち、自社の主張する内容を記載した書面を作成して、裁判所に提出しましょう。主張書面とともに、主張内容を裏付ける証拠資料も提出すると、調停委員や相手方がこちらの主張を理解しやすくなります。
裁判所に対する書面の提出は、裁判所が指定した期限までに行いましょう。
遅れても具体的なペナルティーはありませんが、調停委員の心証が悪くなるおそれがあります。
調停期日は、裁判所で行われます。調停委員2名が、施工業者と施主の双方から個別に主張を聞き取り、歩み寄りを促すなどして合意形成をサポートします。
調停を担当する裁判官もおり、裁判官も聞き取りに参加したり、調停案を示すなどしてくれることもあります。
施工業者としては、調停委員に対して自社の主張を説得的に伝えることが大切です。
自社の主張が合理的であることを理解してもらえれば、調停委員が施主を説得してもらえることがあり、施工業者にとって有利な解決が近づきます。
調停委員の仲介による話し合いを通じて、施工業者と施主の間で合意が得られた場合は、調停成立となります(民事調停法第16条)。
この場合、合意内容を記載した調停調書が作成されます。調停調書は確定判決と同一の効力を持ちます。施工業者と施主の双方を拘束し、強制執行の申立てに用いることもできるため、保管しておきましょう。
これに対して、合意が得られる見込みがないと裁判所が判断した場合は、調停は不成立として終了します。
調停が不成立となった場合は、別の方法によって施主との建築トラブルを解決する必要があります。
調停不成立となった後にとり得る建築トラブルの解決方法としては、以下の例が挙げられます。
どうしても訴訟を避けたいなら、住宅紛争審査会に対する紛争処理の申立てを検討しましょう。
住宅紛争審査会は、「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づき、各都道府県の弁護士会に設置されている、裁判外紛争処理機関です。弁護士や建築士などによるあっせん・調停・仲裁によって紛争解決を図ります。
ただし、施主が拒否する場合には、住宅紛争審査会による紛争処理の手続きは利用できません。調停不成立となった場合には、訴訟に進むことを覚悟したうえでその準備を進めるべきです。
施主との間で建築トラブルが発生したら、速やかに弁護士へ相談しましょう。
建築トラブルについて弁護士に相談することには、主に以下のメリットがあります。
訴訟の可能性も踏まえつつ、建築トラブルのリスクを適切に見積もったうえで適切な対応を検討するためには、弁護士のアドバイスが不可欠です。
ただし、建築紛争は専門的な知識が必須となります。
建築工事について施主から何らかのクレームが入ったら、その段階で早めに、建築訴訟についての知見が豊富な弁護士へご相談ください。
建築業界における訴訟リスクを回避するためには、まず契約締結時の丁寧な説明と適切な契約書作成が重要です。それでもトラブルが発生した場合には、裁判所の調停を利用することが有効な選択肢となります。
調停には、訴訟に比べて費用や時間の負担が小さく済む点や、非公開で行われることから報道されにくくブランディングへの影響を最小限に抑えることなど、多くのメリットがあります。
ただし、紛争が発生した初期段階から弁護士に相談し、状況に応じて調停と訴訟のどちらが適切かを判断することが重要です。建築専門の弁護士であれば、適切な証拠収集や対応方針について的確なアドバイスを受けることができるでしょう。
調停を利用する際には、調停委員に対して施工業者側の主張を説得的に伝えることが大切です。弁護士と協力して、十分な準備を整えたうえで調停に臨みましょう。
ベリーベスト法律事務所では、建築訴訟専門チームの弁護士が建築トラブルに関する施工業者のご依頼に対応しています。施主側の要求を法的な観点から分析したうえで、施工業者の損失をできる限り小さく抑えられるように尽力するとともに、調停と訴訟のどちらを選択すべきかの方針についても、トラブルの状況を踏まえて適切にアドバイスすることが可能です。
施主から施工不備などについてクレームを受けていて、建築訴訟に発展する可能性が生じた場合には、早い段階でベリーベスト法律事務所へご相談ください。