建設業で下請けに工事を発注する際、一定の条件に該当する業者は、国土交通大臣または都道府県知事の許可を受けた「特定建設業者」とならなければなりません。
特定建設業許可を得るには、厳格な要件を満たす必要があるほか、許可を取得したあとも建設業法上の義務を遵守する必要があります。
本コラムでは、特定建設業と一般建設業の違い、特定建設業許可の要件や義務について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。また、特定建設業許可なく工事を進めてしまったときに起こることも紹介しています。無許可の工事で指摘を受けた場合の対処法も、併せて参考にしてください。
特定建設業者とは、特定建設業を行う建設業者を指します。
そもそも建設業は、土木建築に関する工事(=建設工事)の完成を請け負う営業です(建設業法第2条第1項)。建設業は、「特定建設業」と「一般建設業」の2つに区分されます。それぞれの条件と違いについて紹介しましょう。
特定建設業は、発注者から直接工事を受注したうえで、その工事について1件あたりの下請け代金が5000万円以上(建築工事業の場合は8000万円以上)の下請け契約を締結する建設業です(建設業法第3条第6項・第1項第2号、建設業法施行令第2条)。
これに対して、特定建設業に該当しない建設業は、一般建設業となります(建設業法第3条第6項・第1項第1号)。
要するに、一定金額以上の建設工事を下請け事業者に発注する「元請け」の事業者は、特定建設業者に該当します。
一方、受注した工事を自ら行う場合や、孫請け以下の事業者は、一般建設業者です。
特定建設業も一般建設業も、国土交通大臣または都道府県知事の許可を得なければなりませんが、必要となる許可の種類が異なります(建設業法第16条)。
特定建設業の許可を受けていれば、特定建設業および一般建設業のどちらも行うことができます。
これに対して、一般建設業の許可だけ受けている場合は、特定建設業を行うことができません。
特定建設業は、一般建設業と比べて幅広い建設工事を許容されるため、許可の審査は厳しく、許可を受けた後の義務も厳格です。審査の要件や義務については、2章3章で解説します。
特定建設業の許可を受けるためには、以下の5つの要件を満たさなければなりません。
特定建設業の許可を受けようとする方は、建設業における経営業務の管理能力について、国土交通省令で定める基準に適合していなければなりません(建設業法施行規則第7条第1号)。
具体的には、以下の要件をいずれも満たす必要があります(建設業法施行規則第7条)。
なお、一般建設業についても、上記が許可取得の基準となります。
以下に該当する方が、請負契約で不正または不誠実な行為をするおそれが明らかである場合は、特定建設業の許可を受けることができません(建設業法第7条第3号)。
なお、一般建設業についても、上記が許可取得の基準となります。
特定建設業の許可を受けるためには、専任の「特定営業所技術者」を営業所ごとに設置しなければなりません(建設業法第15条第2号)。
特定営業所技術者とは、建設工事の請負契約の締結・履行の業務に関する技術上の管理担当者で、以下のいずれかに該当することが必要です。
一般建設業の許可を受ける際にも、営業所技術者を設置する必要がありますが、特定建設業許可を受けるために必要な「特定営業所技術者」は、営業所技術者よりさらに高度な知見や実務経験を求められます。
特定建設業の許可を受けるためには、発注者と締結する請負契約で、請負代金額が8000万円以上のものを履行するに足りる財産的基礎を有していなければなりません(建設業法第15条第3号、建設業法施行令第5条の4)。
具体的には、以下の要件をすべて満たしている必要があります。
一般建設業の許可を受ける際にも、一定の財産的基礎を有している必要がありますが、特定建設業許可を受けるための財産的基礎の要件は、一般建設業許可の場合よりさらに厳格です。
なお、欠損の額は、企業の財務状況を示す指標です。計算方法は法人と個人事業主で異なるため、注意しましょう。
欠格事由に該当する場合は、特定建設業の許可を受けることができません(建設業法第17条、第8条)。
主な欠格事由は、以下のとおりです。
また、許可申請書や添付書類において、重要な事項の虚偽記載があるときや、重要な事実の記載が欠けているときも、特定建設業の許可を受けることができません。
なお、一般建設業についても、上記が許可取得の基準となります。
特定建設業者は、許可を取得してからも、建設業法に基づいてさまざまな義務を負います。
上記以外にも、何か変更があった場合は変更を届け出る、現場ごとに工事の内容について標識を設ける、など一般建設業許可でも特定建設業者でも建設業であれば生じる義務もありますので注意しましょう。
許可を受けずに特定建設業を行うと、営業停止処分や一般建設業の許可取り消し処分などの行政処分を受けるおそれがあります。
また、無許可で建設業を営む行為は犯罪です。
違反すると、3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処されます(建設業法第47条第1項第1号)。
さらに、違反行為を行った個人だけでなく、法人に対しても両罰規定によって1億円以下の罰金が科されます(同法第53条第1号)。
行政処分対象となった場合、まず国土交通省または都道府県の担当者による立ち入り検査が行われます。立ち入り検査が入った場合、関連する資料をすぐに提示できるように準備しておきましょう。
また、質問に対しては、うそをつかずに誠実に回答することが大切です。聞かれた質問やそれに対する回答は、メモなどに残しておきましょう。
立ち入り検査において違反を指摘されたら、速やかに是正を行い、指定された期限までに改善報告書を提出しましょう。
行政処分の内容に納得できない場合は、審査請求などによって不服を申し立てることができます。申し立てでは、法的根拠に基づいて行政処分の不当性を指摘する必要があるため、弁護士に相談することをおすすめします。
建設業者が立ち入り検査の連絡を受けた場合や、行政処分を受けてしまった場合には、速やかに弁護士へ相談しましょう。
弁護士が立ち入り検査に同席すれば、検査担当者の指摘に対して適切な説明をすることができます。
また、違反があった場合も、弁護士であれば、指摘された違反事実を踏まえたうえで、法令遵守を今後徹底するための体制整備についてアドバイスが可能です。事業の実態に合った改善案を検討することができるでしょう。
将来的に特定建設業の許可を取得しようとしている事業者も、弁護士への相談がおすすめです。
建設業許可申請にあたって、満たすべき要件を満たしているかどうかの確認や、これから満たすために必要な対応などについてサポートすることができます。
立ち入り検査や行政処分・行政指導への対応にお悩みの建設業の方や、特定建設業の許可を取得しようと考えている方は、弁護士にご相談ください。
特定建設業とは、発注者から直接工事を受注したうえで、その工事について1件あたりの下請け代金が5000万円以上(建築工事業の場合は8000万円以上)の下請け契約を締結する建設業です。
特定建設業を行うためには、一般建設業とは異なる許可を取得する必要があります。特定建設業の許可要件は、一般建設業よりも厳格です。
また、特定建設業者に適用される特別なルールもあります。万が一、特定建設業許可が必要な工事を特定建設業許可なしで行うなどして、立ち入り検査となった場合は、速やかに是正を行ってください。
建設業法に沿って適切に特定建設業を営むためには、弁護士のアドバイスを受けましょう。お困りの際は、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。