建築士法では、建築士が無資格で設計または工事監理をしている人に対して、自己の名義を利用させることを禁止しています。これを「建築士による名義貸しの禁止」といいます。
このような建築士の名義貸しは、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に問われる重大な違反行為になりますので、注意が必要です。万が一、名義貸しをしてしまった場合には、すぐに適切な対応をとる必要がありますので、建築問題に詳しい弁護士に相談するようにしましょう。
今回は、建築士の名義貸しの法的リスクや具体的な対処法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
建築士の名義貸しとは、どのような行為なのでしょうか。以下では、名義貸しの定義や名義貸しが横行する背景などについて説明します。
建築士の名義貸しとは、建築士が無資格で設計または工事監理をしている人に対して、自己の名義を利用させることをいいます。
具体的な名義貸しのスキームとしては、以下のようなものが挙げられます。
このような名義貸しは、建築士法で禁止されていますので、名義貸しを行うと建築士法違反として処罰される可能性があります。
建築士法は、建築物の設計、工事監理などを行う技術者の資格を定め、業務の適正化を図り、建築物の質の向上に寄与させることを目的とした法律です。建築士の業務には、主に以下の3つがあり、いずれも建築士の資格がなければ行うことができません。
しかし、過去には建築確認申請などのためだけに建築士の資格を借用する「名義貸し」が問題となっていました。その対策として、平成19年の建築士法改正により罰則が強化され、現在では厳しく規制されています。
それでも、まれに名義貸しの事例が発覚することがあります。
建築士は、名義貸しが違法であることを認識していると考えられます。しかし、名義貸しによる経済的利益を得られるため、安易に応じてしまう事例があるようです。
一方、施工業者(建築業者)にとっては、名義を借りれば、建築士試験に合格した建築士を雇うコストを抑えられるため、名義貸しに関与してしまうケースが発生するとされています。
建築士は、事務所に常勤して管理建築士の職務を行う必要があります。そのため、原則として、専任の管理建築士がいなければ建築士事務所登録をすることはできません。
しかし、例外的に建築士としての資格を持った出向社員が実態として常勤し、管理建築士としての実務を行う場合に限り、建築士事務所登録をすることができます。この場合、出向社員に建築士の職務を行わせたとしても、名義貸しには当たりません。
建築士による名義貸しがあった場合、建築士側にも建築士事務所側にも、以下のような法的責任が生じる可能性があります。
対象 | 刑事罰 | 行政処分 |
---|---|---|
建築士 | 1年以下の懲役 または100万円以下の罰金 |
・免許取り消し ・業務停止 ・戒告 ・文書注意 |
建築士事務所 | 1年以下の懲役 または100万円以下の罰金 |
・事務所閉鎖(1年以内) ・登録取り消し ・戒告 など |
名義貸しに関する刑事罰と行政処分の内容と、名義貸しにまつわる判例について詳しく解説します。
建築士の名義貸しは、建築士法違反となりますので、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます(建築士法21条の2、37条7号)。
また、建築士事務所についても同様に名義貸しが禁止されていますので、それに違反した場合には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます(建築士法24条の2、37条10号)。
そして、建築士の名義を借りて不正に事業を行った施工業者に対しても、違反の内容に応じて建築士法や建設業法、刑法などの刑事罰が適用されることになります。
建築士法に違反した場合、建築士の監督官庁である国土交通省により、以下のような行政処分が科されます。
国土交通省が発表している「一級建築士の懲戒処分の基準」によると、建築士による名義貸しは、ランク6の違反行為になりますので、業務停止3か月となる可能性が高いです。
ただし、違反行為の態様や認識、違反期間の長短などによって処分の重さが変わりますので、それよりも長期の業務停止または免許取り消しの対象になる可能性もあります。
また、建築士事務所が名義貸しに関与した場合、事務所の登録取り消しや1年以内の事務所閉鎖、建築士事務所の登録取り消しなどの処分が下されるリスクがあります。(建築士法26条2項1号)
そして、建築士の名義を借りて不正に事業を行った施工業者には、状況に応じて建築士法や建設業法などで定められた行政処分が下されると考えられます。
建築士による名義貸しがなされると、正規の建築士による設計・監理がなされずに建物が建てられてしまいますので、完成した建物が法令または条令の定める基準に適合しないなどの欠陥が生じることがあります。
このような場合には、施工業者だけではなく、名義を貸した建築士も不法行為に基づく損害賠償請求をされるリスクがあります。
建築士法違反を理由とする行政処分を受けると、建築士の氏名・登録番号・処分内容・処分理由などが公告されてしまいます。これにより自分の違反行為や処分が世間一般に告知されてしまいますので、その後の業務に支障が生じるリスクがあります。
違反内容によっては、会社の評判や信用を大きく失墜し、会社の存続にも大きな影響を与える可能性があります。
建築士の名義貸しが問題になった判例としては、「最高裁判所平成15年11月14日判決」があります。
この裁判は、建築士が工事監理者としての名義を貸し出し、実際には工事監理を行わなかった場合に発生した瑕疵(かし)に関するものでした。
建築士は、建築確認申請書に自己を工事監理者として記載することを承諾しましたが、実際には工事監理契約を締結せず、工事監理業務を行っていませんでした。
その結果、建物には重大な瑕疵が生じ、建物を購入した第三者が損害賠償を請求する事態となりました。
名義貸しを行った建築士は、建築確認申請書に工事監理者として記載されることを承諾した以上、建物の購入者に対して、建築基準関係規定に適合するようにしなければならないという注意義務を負い、自らが携わらないのであれば、工事監理者変更などの適切な措置を取らなければならず、これを怠った場合には不法行為責任を負うと、最高裁は判断しました。
この判決により、建築確認申請書に工事監理者として記載されることを承諾した建築士は、実際の契約関係の有無にかかわらず、第三者に対する注意義務を負うことが明確化されました。
建築士による名義貸しが発覚した場合や、名義貸しの疑いをかけられた場合には、以下のような対応が必要になります。
名義貸しが発覚または疑いをかけられたとしても、安易な認否は避けてください。
相手方へは「事実関係を整理してから回答する」旨を伝え、対応については弁護士と相談の上で行い、不用意な発言は避けましょう。
また、すぐに以下のような作業を行う必要があります。
初期段階で根拠のない発言をしてしまうと、後で責任問題に発展するリスクがありますので、しっかりと証拠を集めてから、客観的事実に基づいて回答するのが賢明です。
事実関係の調査・整理の結果、名義貸しの事実が確認された場合、以下について検討を進めましょう。
こうした是正措置が間に合わない段階であれば
特に、建物に重大な瑕疵が発見された場合は、居住者等の安全確保を最優先事項として対応する必要があります。すべての対応は、弁護士と相談しながら、法的責任の所在を明確にしつつ、適切な順序で進めていくことが重要です。
建築士の名義貸しなどの建築トラブルが発生した場合は、建築問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
名義貸しの事案であれば、名義貸しの疑いが生じた時点ですぐに弁護士へ相談したほうがいいでしょう。
建築トラブルは、時間が経てば経つほどトラブルが深刻化し、解決が難しくなりますので、早期解決のためにも弁護士へ相談の上、適切な対応を取ることが重要です。
建築トラブルが発生した場合、弁護士に依頼するメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。
建築紛争は複数の法領域にまたがる専門的な知識が必要となるため、建築紛争について実績のある弁護士への相談が望ましいと言えます。
建築士の名義貸しは、建築士法違反となり、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。また、刑事罰だけではなく行政処分による業務停止や免許取り消し、違反の公表による経営への打撃などさまざまなリスクが生じる重大な違反行為になります。
そのため、名義貸しが判明した場合または名義貸しの疑いが生じたときは、すぐに専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、建築訴訟専門チームが建築士の名義貸しに関するトラブルや訴訟問題について、解決のサポートをいたします。
建築に関するトラブルについては、初回60分の相談料が無料ですので、お悩みがありましたら、ぜひベリーベスト法律事務所へご相談ください。