注文住宅の建築中には、建築工事の着手後に内装などの変更工事や追加工事が生じることは珍しくありません。
変更工事や追加工事の際には、施工業者(受注者)と施主(発注者)との間で、追加変更工事に関する契約書を作成すべきなのですが、口頭でやりとりしたことで合意したと思い、契約書を作成しなかったというケースもあるかもしれません。
しかし、きちんと請負契約書を作成しておかなければ、変更・追加工事の内容および費用を巡って後日、施工業者と施主との間でトラブルになる可能性があります。
今回は、追加変更工事に請負契約書が重要になる理由について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
建築工事において、追加変更工事を巡ってトラブルになることがあります。以下では、追加変更工事においてトラブルが生じやすい理由について説明します。
まずは、住宅建築における工事の種類について確認しましょう。
例えば、注文住宅の建築工事において、当初は予定していなかった棚を作成してもらうことになった場合が追加工事であり、当初予定していた壁紙を変更したという場合が変更工事にあたります。
中古住宅や建売住宅を購入するという契約であれば、取り決める内容は、代金額、支払い時期、引き渡し時期などであり、契約内容に合意すれば確定するため、契約後に変更が生じるということはあまり想定することができません。
しかし、建築工事請負契約においては、契約・着工後も相当期間をかけて工事を完成させていくことになるため、追加や変更を生じる時間的余地が多分にあります。また、施主側からすると、二次元の図面であったものが立体的になっていく過程で当初のイメージとの間にずれが生じ、変更や追加の希望が出てきます。また、施工業者側からすると、古い家屋を解体して新築するような場合には、解体してみて初めて地盤が軟弱であるという事情が発覚するなど、追加変更工事を迫られることがあります。
このように建築請負契約においては、工事完了までの期間の長さやその流動性ゆえに追加変更工事はつきものだと言えるでしょう。
追加変更工事が紛争化しやすい理由には、本来、工事の変更は書面で行わなければならないにもかかわらず、追加変更に関するやりとりが現場で口頭にてなされることが多いという点にあります。
建築工事は、全体として工事の完了日が決まっているため、十分に設計や見積もりを検討・協議する時間的余裕がなく、金額や工期などが曖昧なまま工事を先行させてしまうことが多いということもあります。加えて、追加変更の合意をする権限が誰にあるのかが明確でないために、施主は現場の下請け業者に伝えたことにより、施工業者は契約当事者ではない施主の家族に伝えたことにより合意ができていると思い込んでしまうことがあります。
このような思い込みから、施工業者から追加変更代金を請求された時点で顕在化し、「追加工事をやれと言われた」「代金が発生するとは聞いていない」などのトラブルに発展するのです。
追加変更工事の合意をしたのかどうか、追加変更工事の発注をしたとしても、その代金は幾らなのかといったことついて明確にするためには、その都度、追加変更工事に関する契約書を作成することが、紛争の防止の観点からは重要になります。
建築工事においては、請負契約書の作成は法律上の義務とされています。
民法の原則では、請負契約は、口約束でも有効に成立しますので、契約の成立にあたっては、請負契約書は必要ありません。
しかし、建築工事は、工事の工程や契約内容が複雑であり、代金も高額になることから、工事内容、工事代金、施工範囲などにおいて、誰がどのような責任を負うのかをあらかじめ明確にしておかなければ、トラブルが生じたときに言った言わないの水掛け論になってしまいます。
そこで、建設業法では、請負契約の当事者に対して契約書の作成を義務付けています(建設業法19条1項)。
建設業法に違反して契約書の作成をしなかったとしても、請負契約自体が無効になるわけではありません。
しかし、請負契約書を作成しなかった場合には、建設業者に対して、国土交通大臣などから指導を受ける可能性があります(建設業法28条1項)。
建設業法で義務付けられている請負契約書の作成は、当初の本工事の契約時にのみ要求されるものではありません。本工事後に追加変更工事をする場合であっても、その都度請負契約書の作成をしなければなりません。
ささいな変更や追加であったとしても、請負契約書の作成義務を免れることができるわけではありません。
建築工事では、工事完了までの期間の長さやその流動性ゆえに追加変更工事が生じることが多くあります。追加変更工事を行ったにもかかわらず、請負契約書を作成していなければ、追加変更工事の合意をしたのかどうか、施工業者から請求されている工事金額が妥当なのかどうかを判断することができません。
追加変更工事代金の支払いを巡るトラブルを回避するためにも、工事請負契約書の作成は必要不可欠だと言えます。
追加変更工事の際に請負契約書を作成する場合には、以下の点に注意が必要です。
契約書に記載すべき項目については、建設業法19条1項に定めがあり、以下の項目を記載しなければなりません。
また、以下のような工事や代金の追加変更についても、契約書に記載するよう規定されています。
なお、工事の金額が100万を超える場合には印紙税がかかります。例えば、「100万円を超え200万円以下」であれば、200円かかります。詳しくは国税庁のサイトを確認しましょう。
令和2年4月に民法が改正されたことによって請負契約の運用についても一部変更が生じています。
まず、改正民法には、経過措置が定められています。具体的には以下の通りです。
ただし、令和2年3月31日以前に締結された請負契約については、令和2年4月1日以降に追加変更工事がなされたとしても、旧民法が適用されます。
また、請負契約においては、あらかじめ詳細な契約条項を約款として定めておき、この約款に基づいて契約を締結することがあります。このような約款のことを「定型約款」と言い、定型約款に関する規定については、改正民法施行日よりも前に請負契約が締結された場合であっても、反対の意思表示が行われていない限り施行日後は、改正民法が適用されることになりますので注意が必要です。
マイホームの追加変更工事において、民法がどのように適用され影響するかについて気になる場合は、弁護士に相談してみましょう。
施工業者との間で追加変更工事について争いが生じてしまった場合には、以下のような対応をするとよいでしょう。
施工業者からの追加変更工事代金の請求が認められるかどうかは、請求されている追加変更工事代金に対応する工事が本工事に含まれているかどうかがまずポイントになります。
本工事に含まれているかどうかの判断は、基本的には契約書や契約時の図面、仕様書や見積書をもとになされることになりますので、本工事の契約内容が分かる以下のような書類を確認しましょう。例えば、本工事に瑕疵があったのでそれを是正するという是正工事は、追加変更工事とは言えません。
また、本工事に含まれていないとして追加変更工事代金の請求が認められるかどうかは、追加変更合意を行うに際して、追加変更工事に対して代金を支払うという合意がなされたかどうかがポイントになります。(例えば、工期が伸びたなどの迷惑をかけたので、この部分はサービスで行うという合意のもとに行われた工事であれば、追加変更工事であっても工事代金は請求できません。)そのため、以下のような書類などにより、代金支払いについてどのような合意があったのかを判断する必要があります。
追加変更工事代金を巡る争いに関しては、それに関する証拠が重要になります。まずは、できるだけ証拠を集め、弁護士に相談する際には持参するようにしましょう。
追加変更工事代金を巡る争いなどの建築トラブルは、建築や法律に対して十分な知識のない一般の方が、個人で施工業者と話し合いを進めることは非常に困難です。施工業者に落ち度があったとしても、専門用語などを交えて正当化されてしまうと、それに対して論理的に意見を返すことは難しいでしょう。
そのため、追加変更工事についてトラブルが生じた場合には、証拠書類を持参し、弁護士に相談をすることをおすすめします。また弁護士を選ぶ際には、専門的な建築訴訟に対応できるか、一級建築士などとの連携が可能か、ホームページなどで確認して事務所を選びましょう。
建築訴訟に対応できる弁護士であれば、客観的な証拠を踏まえて、問題となっている追加変更工事が本工事に含まれるものであるかどうかや、追加変更合意がなされたどうかを判断することができます。また、証拠関係から施工業者の請求を争うことができる場合には、弁護士が代理人となって施工業者との交渉を進めます。
施工会社との交渉が困難であった場合には、不動産ADRや裁判を使い、問題の解決を図ります。不動産ADRは、日本不動産仲裁機構という、裁判外で不動産のトラブル解決を図る組織に間に入ってもらい、話し合いでトラブルを解決する方法です。裁判よりも早く安く問題の解決ができる可能性があります。しかしながら、不動産ADRは、相手方がADRでの解決を望まなければ、進められない手続きです。同意がない場合には、裁判をすることになります。
このように、不動産トラブルを解決する方法は主に3つあり、弁護士であれば、お客さまの問題解決にはどの手段が最適か、判断することができます。
追加変更工事などの建築トラブルは、注文住宅などの建築において起こりやすいトラブルのひとつと言えます。「合意したつもりはないのに請求書に上乗せされていた」「頼んでいた内容と違う変更だった」など、追加変更工事などの建築トラブルでお悩みの際は、建築紛争専門チームのあるベリーベスト法律事務所にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所には、建築紛争に対応できる弁護士で組織する建築紛争専門チームがあります。複雑な建築トラブルも、一級建築士と連携し、さまざまな建築トラブルの解決に向けて尽力いたします。