解体工がアスベスト被害を受けた場合、受け取れる給付の種類や注意点
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1975年10月1日から2004年9月30日までの期間に、屋内作業場で建物などの解体工事業務・除去工事業務などに従事していた方は、建設アスベスト給付金を受給できる可能性があります。
心当たりのある解体工・元解体工の方は、お早めに弁護士までご相談ください。
今回は、解体工も対象となっている建設アスベスト給付金や、解体工が利用できるその他の補償制度などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、解体工も対象|建設アスベスト給付金の基礎知識
2021年6月9日に、「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」が成立し、2022年1月19日より、建設アスベスト給付金制度が完全施行されました。
従前、国が責任を認めていたのは工場内でアスベストを扱っていた一定の方のみであったため、救済される人の範囲は広がりました。
今般創設された建設アスベスト給付金制度により、アスベストが使用された建材を取り扱っていた建設業の方なども、給付金を受給できるようになりました。建物などの解体業務に従事していた方(=解体工)も、建設アスベスト給付金を受給できる可能性があります。
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(1)建設アスベスト給付金が設けられた背景
アスベスト(石綿)は、安価で、耐火性、断熱性、防音性、絶縁性など多様な機能を有していることから、耐火・防音・断熱用の資材等に幅広く使用されていました。
しかし、現在では、人が吸引した場合に肺組織へ沈殿し、この体内に滞留したアスベストが要因となって肺の線維化や肺がん、悪性中皮腫などの健康被害を引き起こすことが明らかとなったことから、国内における使用が厳しく制限されています。
アスベストの有害性に関する認知が不十分であった時代には、石綿工場や建設現場で業務に従事していた方が、長時間にわたってアスベストを吸引するケースが相次ぎました。他方、国は、アスベストの危険性を知りながら、アスベストの有用性を重視し、アスベストの使用を規制しようとはしませんでした。また、建材企業らも、製造・販売当時から欧米諸国における石綿建材による被害発生を知っていながら利潤追求を最優先していました。その結果、現在、多くの方々に肺がんや悪性中皮腫などの深刻な健康被害が生じることになりました。
大手機械メーカーであるクボタが、アスベストを取り扱う工場で働いていた社員や退職者、請負会社の従業員、地域住民の間で、石綿関連疾患の患者が多数発生し、多数の死亡者がいることを発表したいわゆる「クボタショック」を契機にアスベストによる健康被害の問題が社会的に認知されるようになりました。
このような流れを受けて、アスベスト被害者は、国や建材企業に対する訴訟を全国各地で提起しました。
最高裁は2014年10月9日、石綿工場において局所排気装置の設置を義務付けなかった国の規制権限不行使を違法と認定しました。仮に、国が局所排気装置の設置について工場に設置を義務付けていれば、多くの人々は、アスベストを吸い込むことはなく健康被害が生じることはなかったでしょう。その後、国は、訴訟が提起された場合には、最高裁判決を前提に、一定の要件を満たす場合には、賠償金を支払うに至っています。
また、建設業務に従事する中でアスベスト被害を受けた人々も、国家賠償請求訴訟を全国各地で争いました(=建設アスベスト訴訟)。
建設アスベスト訴訟についても、「国は1975年にはアスベストを使う建設現場に危険性があることを認識していたにもかかわらず労働者に防じんマスクを着用させることを使用者に義務付ける規制等が遅れていた。そのため、アスベストを規制しない違法な状態が1975年から2004年まで続いていた」として最高裁が2021年5月17日に国敗訴の判決を言い渡しました。その後、最高裁判決をベースに国(厚生労働大臣)と原告団などが締結した基本合意書に従い、建設アスベスト給付金が立法化されるに至りました。 -
(2)解体工のアスベスト被害が生じ得る場面
建設アスベスト給付金の対象者には、屋内作業場で建物などの解体作業・除去作業に従事した方も含まれています。
アスベストを含む建材としては、以下の例が挙げられます。- スレート屋根(一般住宅、工場、倉庫など)
- 水道管
- パイプ
- 吹付剤
- 天井板
- 内壁
1975年10月1日から2004年9月30日までの期間において、これらの建材の解体作業・除去作業(廃棄物の運搬・処理等を含む)を屋内で行っていた場合には、アスベストの吸引被害を受けている可能性が高いです。
心当たりのある解体工の方は、建設アスベスト給付金の支給要件をご確認ください。
2、建設アスベスト給付金の支給要件
建設アスベスト給付金は、以下の3つの要件を満たす方に支給されます。
なお、アスベスト被害について先に労災保険給付等を受けていれば、厚生労働省の労災支給決定等情報提供サービスを通じて、建設アスベスト給付金の申請に必要な資料をスムーズに入手できます。
参考:「「労災支給決定等情報提供サービス」を実施します」(厚生労働省)
ベリーベスト法律事務所では、労災保険給付や情報提供サービスの利用についてもサポートしておりますので、お早めにご相談ください。
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(1)特定石綿ばく露建設業務に従事したこと
「特定石綿ばく露建設業務」とは、以下の①~③の要件をいずれも満たす業務です。
① 日本国内において行われた業務であること
② 石綿に曝(さら)される以下の業務(=建設業務)であること- (a)土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊または解体の作業
- (b)(a)の作業の準備作業
- (c)(a)または(b)に付随する業務(現場監督の作業を含みます。)
③ 以下のいずれかに該当する業務であること- (a)石綿の吹付けの作業に係る業務であって、1972年10月1日から1975年9月30日までの間に行われたもの
- (b)屋内作業場で行われた作業に関する業務であった、1975年10月1日から2004年9月30日までに行われたもの
解体業務については、日本国内の屋内作業場において、1975年10月1日から2004年9月30日までに行われたものが「特定石綿ばく露建設業務」に当たります。 -
(2)特定石綿ばく露建設業務に従事したことにより石綿関連疾病にかかったこと
「石綿関連疾病」とは、石綿を吸引することにより発生する以下の疾病です。
- 中皮腫
- 肺がん
- 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
- 石綿肺(じん肺管理区分が管理2~4であるもの、またはこれに相当するものに限ります)
- 良性石綿胸水
なお、石綿関連疾病は潜伏期間が長いのが特徴であり、肺がんでは15年から40年程度、中皮腫では20年から50年程度の潜伏期間が見込まれます。 -
(3)労働者・中小事業主・一人親方・家族従事者またはその遺族であること
建設アスベスト給付金の対象となるのは、以下のいずれかに該当する方です。
① 労働者
使用者の指揮命令下で労働する方です。ただし、同居の親族のみを使用する事業または事業所に使用される方と、家事使用人は対象外となります。
② 中小事業主
特定石綿ばく露建設業務に従事していた当時、下表の数以下の労働者を常時雇用していた事業主です。金融業・保険業・
不動産業・小売業サービス業 卸売業 その他 1965年11月1日~1973年10月14日 50人 50人 50人 300人 1973年10月15日~1999年12月2日 50人 50人 100人 300人 1999年12月3日~現在 50人 100人 100人 300人
③ 一人親方
労働者を使用しないで事業を行うことを常態とする方です。
④ 家族従事者等
中小事業主または一人親方が行う事業に従事しており、①の労働者に当たらない方です。
⑤ 遺族
①~④に該当する方が死亡した場合の遺族が支給対象となります。支給順位は以下のとおりで、最上位の方のみが受給できます。- (a)配偶者(内縁を含む)
- (b)子
- (c)父母
- (d)孫
- (e)祖父母
- (f)兄弟姉妹
3、建設アスベスト給付金以外に利用できる補償制度
アスベスト被害を受けた解体工の方は、建設アスベスト給付金のほかにも、以下の補償制度を利用できる可能性があります。
業務上の原因等による負傷・疾病・障害・死亡につき、被災労働者の損害を補償する制度です。労働者と特別加入者が対象です。
関連ページ:アスベスト健康被害も労災の対象? 認定基準や申請手続きを解説
② 石綿健康被害救済制度
労災保険給付の対象外である方や、労災保険給付を受けずに亡くなった方を対象とする、アスベスト被害の救済制度です。
参考:「石綿健康被害救済制度の紹介」(独立行政法人環境再生保全機構)
アスベスト被害に心当たりがある解体工の方は、各補償制度の支給要件をご確認ください。弁護士にご相談いただければ、補償制度の利用可否についてアドバイスいたします。
4、アスベスト被害について、建材メーカーに対する損害賠償請求は可能か?
建設現場におけるアスベスト被害については、建設アスベスト給付金をはじめとする国からの補償に加えて、建材メーカーまたは当時の使用者(=解体業者)に対して損害賠償を請求する余地があります。
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(1)建材メーカーの損害賠償責任
アスベスト被害に関する建材メーカーの法的責任は、主に石綿製品についての警告表示義務違反に由来します。
アスベストを使用した建材について、含有の有無・含有量・危険性等を明確かつ具体的に表示していなければ、これらの情報を知らずにアスベストを吸引した方に対して、建材メーカーは損害賠償責任を負う可能性があります。
なお、従事した業務が解体作業のみの場合には、建材メーカーへの損害賠償請求は認められません(解体工事の際には警告表示を直接視認することがない上に、警告表示をしても結果回避可能性が認められないためです。大阪高裁平成30年8月31日判決)。
これに対して、解体作業以外の業務も並行して行っていた場合には、建材メーカーへの損害賠償請求も併せてご検討ください。 -
(2)使用者の損害賠償責任
アスベストの吸引被害について、使用者がアスベストの危険性を認識しながら吸引防止の措置を適切に講じていなかった場合には、労働者に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負う可能性があります(労働契約法第5条)。
また、現場監督者などの過失によって吸引防止措置等が行われなかった場合には、使用者が労働者に対して使用者責任を負う可能性があります(民法第715条第1項)。
5、まとめ
解体工の方を含めて、建設現場での業務中にアスベストを吸引した可能性がある方は、建設アスベスト給付金の申請をご検討ください。
ベリーベスト法律事務所は、アスベスト被害に関するご相談を随時受け付けております。給付金の要件に該当するかどうかの調査、申請に必要な資料の取得、申請手続きなどを、サポートいたします。
アスベスト被害を受けた可能性がある方は、お早めにベリーベスト法律事務所へご相談ください。