弁護士コラム

アスベスト健康被害も労災の対象? 認定基準や申請手続きを解説

2022年06月07日
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アスベスト健康被害も労災の対象? 認定基準や申請手続きを解説

アスベスト健康被害は、空中に飛散したアスベスト(石綿)の繊維を吸い込むことによって石綿肺や肺がんなどの疾病を発症することをいいます。

過去には、多くの工場、建設現場で適切な対応がなされないままアスベストを扱う業務が行われていました。そのような現場で労働に従事していた多くの方が、長い潜伏期間を経てアスベスト健康被害を生じ、現在も苦しんでいます。

では、このようなケースは労災保険の給付対象にならないのでしょうか。
この記事では、アスベスト健康被害で労災保険給付を受けるための認定基準と申請方法、さらには労災保険以外にも申請できる可能性がある救済制度や補償について解説します。

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1、アスベスト健康被害と労災保険の関係

アスベスト健康被害は、労災保険の対象となるのでしょうか。また、対象となる場合は、どのような基準を満たせば労災保険給付を受け取ることができるのでしょうか。

  1. (1)アスベスト健康被害も労災保険の対象となり得る

    労災保険給付は、業務を原因とする負傷、疾病、障害または死亡という「業務災害」を被った労働者およびその遺族に対して支払われます

    業務災害のうち、業務と相当因果関係があり発症した疾病のことを「業務上疾病」といいます。アスベスト健康被害も、業務との相当因果関係が認められる場合は、「業務上疾病」に該当するので労災保険の対象となります。

    なお、労災保険給付の対象になるのは、基本的には労災保険の適用される事業場に雇われていた労働者です。ただし、一人親方といった個人事業主の方でも、労災に特別加入していれば対象になります

  2. (2)労災保険給付の対象条件

    アスベスト健康被害が労災保険給付の対象として認められるためには、次の3つの条件をすべて満たす必要があります。

    • 石綿ばく露作業に従事していたこと
    • 対象疾病を発症したこと
    • 疾病ごとの労災認定基準を満たすこと


    ひとつずつ、詳しく見ていきましょう。

    【石綿ばく露作業】
    石綿ばく露作業とは、厚生労働省が次のように定めている作業を指します。

    • ① 石綿鉱山またはその附属施設において行う石綿を含有する鉱石または岩石の採掘、搬出または粉砕その他石綿の精製に関連する作業
    • ② 倉庫内などにおける石綿原料などの袋詰めまたは運搬作業
    • ③ 石綿製品の製造工程における作業
    • ④ 石綿の吹付け作業
    • ⑤ 耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱もしくは保温のための被覆またはその補修作業
    • ⑥ 石綿製品の切断などの加工作業
    • ⑦ 石綿製品が被覆材または建材として用いられている建物、その附属施設などの補修または解体作業
    • ⑧ 石綿製品が用いられている船舶または車両の補修または解体作業
    • ⑨ 石綿を不純物として含有する鉱物(タルク(滑石)など)などの取り扱い作業


    これらのほか、上記作業と同程度以上に石綿粉じんのばく露を受ける作業や上記
    作業の周辺などにおいて、間接的なばく露を受ける作業も該当します。
    〈 引用元:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署|石綿による疾病の労災認定 〉

    【対象の疾病】
    対象疾病とは、アスベストとの関連が明らかに認められている疾病のことで、具体的には5つの疾病が該当します。

    • 石綿肺
    • 中皮腫
    • 肺がん
    • 良性石綿胸水
    • びまん性胸膜肥厚


    【労災の認定基準】
    労災の認定基準は疾病ごとに異なり、細かい基準が設けられています。ここでは要点のみをご紹介します。

    なお、これらの認定基準を満たさない場合でも、病状や石綿へのばく露状況などを総合的に考慮して業務上疾病と認定される可能性はあります。


    疾病名 認定基準
    石綿肺
    • じん肺管理区分に基づく管理4のもの
    • 管理2、管理3、管理4で肺結核等の一定の疾病を合併したもの
    中皮腫 胸膜、腹膜、心膜または精巣鞘膜の中皮腫で、次のいずれかに該当するもの
    • 胸部エックス線写真で第1型以上の石綿肺所見がある
    • 石綿ばく露作業従事期間が1年以上
    肺がん 原発性肺がん(他の部位から肺に転移したがんではないもの)で、次のいずれかに該当するもの
    • 石綿肺に関する一定の所見がある
    • 胸膜プラーク所見があり、かつ、石綿ばく露作業従事期間10年以上
    • 広範囲の胸膜プラーク所見があり、かつ、石綿ばく露作業従事期間1年以上
    • 石綿小体または石綿繊維の所見があり、かつ、石綿ばく露作業従事期間1年以上
    • びまん性胸膜肥厚に併発したもの
    • 特定の石綿ばく露作業に従事し、かつ、石綿ばく露作業従事期間5年以上
    良性石綿胸水 労働基準監督署長が厚生労働本省と協議して判断する
    びまん性胸膜肥厚 次の3つすべてに該当するもの
    • 石綿ばく露作業従事期間3年以上
    • 著しい呼吸機能障害がある
    • 肥厚の広がりが一定の基準に達している

    〈 参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署|石綿による疾病の労災認定 〉

2、労災保険給付の種類と給付内容

アスベスト健康被害が業務上疾病と認定された場合は、状況に応じた労災保険給付を受けることができます。では、具体的にどのような給付を受けることができるのかを確認していきましょう。

【療養(補償)等給付】
診療や療養で発生した費用分が支給されます。
労災保険の指定病院にかかった場合は、費用を支払う必要はありませんが、それ以外の医療機関で診断等を受けた場合は、かかった費用分が支給されます。

【休業(補償)等給付】
労働災害により、労働ができずその間賃金を受け取ることができない場合は、休業1日につき、給付基礎日額の60%相当額と20%相当の休業特別支給金を受け取ることができます。
なお、休業4日目以降が対象です。

【遺族(補償)等給付・葬祭料等(葬祭給付)】
労働者ご本人が、不幸にもお亡くなりになった場合は、ご遺族が給付金を受け取ることができます。
保険給付の内容は、ご遺族の人数に応じて変わります。

1人:給付基礎日額の153日分
2人:給付基礎日額の201日分
3人:給付基礎日額の223日分
4人以上:給付基礎日額の245日分


このほか、「葬祭料等(葬祭給付)」として、葬儀にかかる費用も支払われます。
支払われる給付金は、31万5000円に給付基礎日額の30日分を加えた額ですが、その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分となります。

なお、遺族(補償)年金を受け得るご遺族の方がいない場合は、遺族(補償)等一時金が特定の関係にある遺族などに支給されます。

【障害(補償)等給付・一時金】
障害(補償)等給付は、『障害(補償)等年金』と『障害(補償)等一時金』があります。

『障害(補償)等年金』は、傷病が症状固定した後、 “障害等級第1級から第7級まで” に該当する障害が残ったときに支給されます。
『障害(補償)等一時金』は、傷病が症状固定した後、 “障害等級第8級から第14級まで” に該当する障害が残ったときに支給されます。
支払われる給付金の内容は、次の通りです。

  • 障害(補償)等年金
    障害等級に応じ、給付基礎日額の313日分(1級)~131日分(7級)の年金
  • 障害(補償)等一時金
    障害等級に応じ、給付基礎日額の503日分(8級)~56日分(14級)の一時金


【傷病(補償)等年金】
療養開始後、1年6か月を経過したものの、症状固定をしていない、または障害の程度が傷病等級に該当する場合に年金が給付されます。労働者の請求に基づくものではなく、労働基準監督署長の職権で支給されるものです。
給付の内訳は、障害等級に応じ異なります。たとえば、障害等級1級であれば、給付基礎日額の313日分です。

【介護(補償)等給付】
障害(補償)等年金、または傷病(補償)等年金受給者であり、一定の障害があり介護を受けている場合は、介護費用が支給されます。

3、労災を申請する方法

労災の申請は会社が行うことが多いですが、本来の請求人は労働者です。
すでに退職している場合や会社が倒産している場合、会社が協力してくれない場合などは、自分で申請することができます。アスベスト健康被害は、長期間の潜伏期間を経て発症する特色があるため、発症時には既に当時勤めていた会社がなくなっていて、自分で申請しなければならないケースも多いでしょう。

  1. (1)申請の方法

    労災申請を効果的に行い、認定を受けるためには、発症した疾病と業務との因果関係を証明できるかどうかがポイントとなります。

    ① 請求書を入手する
    労災保険給付の請求書は、補償の種類ごとに書式が分かれています。ご自身が該当する補償の請求書を最寄りの労働基準監督署で受け取るか、厚生労働省のホームページからダウンロードして準備します。

    ② 請求書を作成する
    請求書の書式に従って、必要事項を記入します。
    なお、請求書には記載内容に間違いがないことを事業主が証明する欄がありますが、証明が得られない場合は労働基準監督署に相談しましょう。一般的には、証明が得られない事情を記載した文書を提出するよう指示されます。

    ③ 診断書等を入手する
    請求にあたっては、医師の診断書や、場合によってはレントゲン・CT・MRI等の画像、その他の検査結果を記載した資料を提出する必要があります。主治医に事情を伝えて入手しましょう。

    ④ 労働基準監督署に提出する
    必要な書類一式がそろったら、石綿ばく露作業に従事した事業場を管轄する労働基準監督署に提出します。
  2. (2)保険給付には時効がある

    労災保険給付の請求権には時効があり、補償の種類によって期間は異なります。特に、過去の労働に起因するアスベスト健康被害について労災保険を請求する場合は、書類の準備などに時間を要するケースもあるので注意が必要です。
    具体的な時効は、次の通りです。

    補償の種類 時効期間
    療養(補償)給付 療養費を支出した日の翌日から2年
    休業(補償)給付 休業により賃金を受けられなかった日の翌日から2年
    障害(補償)給付 傷病が治癒・症状固定した日の翌日から5年
    傷病(補償)給付 時効なし(労働基準監督署長の職権により支給)
    介護(補償)給付 介護を受けた月の翌月1日から2年
    遺族(補償)給付 労働者が死亡した日の翌日から5年
    葬祭料 労働者が死亡した日の翌日から2年

    〈 参考:厚生労働省|労災保険の各種給付の請求はいつまでできますか。 〉

4、労災保険以外の救済手続きや補償

アスベスト健康被害を受けたときに申請できる補償は、労災保険だけではありません。
たとえば、労災保険給付の対象とならない場合でも申請できる制度等もあるので、要件に該当した場合は迷わずに申請することをおすすめします。

  1. (1)石綿健康被害救済制度による救済給付金

    労災保険給付の対象とならない人(中小事業主、一人親方、アスベスト工場の周辺住民等)や、時効によって労災保険給付を受けることができなくなった人を救済するために、「石綿による健康被害の救済に関する法律」に基づく救済制度として、石綿健康被害救済制度が設けられています。
    同制度は、環境再生保全機構の認定を受けることで、医療費等一定の救済給付金を受け取ることができる仕組みです。

    なお、労災保険給付と石綿健康被害救済制度による救済給付金を両方全額受けることはできません

  2. (2)国への賠償金・給付金請求

    一定の要件を満たす場合、国に賠償金・給付金を請求することができます。

    賠償金・給付金制度は、アスベスト工場で働いていた労働者やご遺族を対象とする「工場型」と、建設現場で働いていた労働者や一定範囲のご遺族を対象とする「建設型」とに分けられています。
    請求方法は異なりますが、どちらも請求が認められれば疾病の内容に応じて550万円~1300万円の賠償金・給付金を受け取ることができます。

    賠償金・給付金は、すでに労災保険給付や石綿健康被害救済制度による救済給付金を受けている場合も、要件を満たせば請求は可能です。国に請求をしたことで労災保険給付や救済給付金の支給が打ち切られることもありません。

  3. (3)企業に対する損害賠償請求

    適切な処置をせずに労働者を石綿ばく露作業に従事させた企業に対して、損害賠償請求を検討することもできます。
    ただし、賠償金を受け取るためには企業と話し合うか、話し合いがまとまらなければ裁判を提起することになります。企業に対して損害賠償請求を求めたい場合は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

5、まとめ

石綿ばく露作業を原因とするアスベスト健康被害は労災給付の対象です。要件を満たす場合は時効期間が経過する前に申請しましょう

ただし、業務との因果関係が不明である場合や病状の内容が基準を満たさない場合は、認定を受けることができません。労災給付だけではなく、石綿健康被害救済制度による救済給付金や、国からの給付金・賠償金制度、企業に対する損害賠償請求においても、病状と業務との因果関係を証明することが不可欠です。

石綿ばく露作業を原因とするアスベスト健康被害について、労災申請や給付金、賠償金の請求をしたいとお考えであれば、一度弁護士に相談してみることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、アスベスト健康被害の問題についてのご相談は無料ですので、ご自身やご家族のことでお悩みの場合は、お気軽にお問い合わせください。
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