提訴|建設アスベスト給付金の不支給について全国初の国家賠償請求
- アスベスト健康被害

建設現場でアスベストを吸い肺がんを発症した元トラック運転手の男性が、建設アスベスト給付金の不支給は不当として国に約1150万円の賠償を求め提訴。
制度の運用や審査の透明性が問われる訴訟で、全国初の事例として注目されています。
ニュース概要
建設現場でアスベスト(石綿)を吸い込み肺がんを発症した大阪府在住の元トラック運転手の男性(82歳)が、石綿健康被害救済法に基づく建設アスベスト給付金を不支給とされたのは不当として、令和7年(2025年)6月27日、大阪地方裁判所に約1,150万円の国家賠償を求める訴訟を提起しました。建設アスベスト給付金の不支給をめぐる国家賠償請求訴訟は全国初とされます。
男性は昭和45年(1970年)から約31年間にわたり、建設現場に建材や設備資材を運ぶトラック運転手として勤務。資材搬入時には建物内に立ち入り、吹き付け石綿が使用された天井や壁面のある空間で作業し、吹き付け石綿などに継続的にさらされていたといいます。令和2年(2020年)に肺がんと診断され、令和4年(2022年)に救済法に基づく労災認定を受けました。これを受けて男性は、同僚の証言や勤務実態のわかる作業証明書を提出し、建設アスベスト給付金の申請を行いましたが、令和7年(2025年)、理由が開示されないまま不支給とされました。
建設アスベスト給付金は被害者や遺族の損害に対して迅速な賠償を目的に令和4年(2022年)に創設された制度で、石綿にばく露して中皮腫や肺がんを発症した元建設作業員らに最大1,300万円が支給されます。
今回の訴訟は、制度運用の妥当性や審査手続きの透明性を問うものとして、注目されています。
アスベスト専門チーム所属弁護士が、ニュースのポイントを解説
今回の国家賠償請求訴訟は、建設アスベスト給付金制度の運用そのものにメスを入れる、非常に重要な裁判です。この訴訟の結果次第では、今後の給付金申請手続きが下記に示す3つの点で大きく変わる可能性があります。
1、審査の透明化と柔軟化
もし裁判所が原告の主張を認め、給付金不支給の判断を不当とすれば、厚生労働省は審査プロセスを見直さざるを得なくなります。不支給の理由を明確に記載する義務や、証言などの証拠の評価をより柔軟に行うよう審査基準の運用改善が求められるでしょう。
これにより、「ブラックボックス化された審査」という批判が解消され、被害者や遺族が納得感を持って手続きを進められるようになることが期待されます。
2、給付金の対象範囲や証拠として認められるものの範囲の拡大
原告がトラック運転手という職種であったことは、今回の訴訟の大きなポイントです。従来の審査では、石綿建材を直接扱う作業員に比べて、運搬作業員のばく露立証は困難とされてきました。
しかし、この訴訟で運搬作業員の被害が認定されれば、給付金の対象範囲や、証拠として認められるものの範囲が広がる可能性があります。同じ現場で働いた同僚や搬入先の大工の証言が有力な証拠として認められるようになれば、これまで泣き寝入りせざるを得なかった多くの被害者や遺族が救済される道が開けます。
3、建設アスベスト給付金制度の趣旨の再確認
国が「迅速な賠償」を掲げて建設アスベスト給付金制度を創設したにもかかわらず、審査が長期化し、不支給率が上昇している現状は、制度の趣旨に反しています。
今回の訴訟は、その根本的な問題点を浮き彫りにし、制度の本来の目的である「迅速な賠償」を厚生労働省に改めて強く意識させる契機となるでしょう。
今回の訴訟は、単に一人の被害者の救済にとどまらず、建設アスベスト給付金制度のあり方そのものを問うものです。訴訟の結果次第では、審査の透明化、証拠の柔軟な評価、そして制度本来の趣旨に沿った運用へと大きく舵が切られる可能性があります。
私たちは、この訴訟の動向を注視し、被害者や遺族の方々が正当な補償を速やかに受けられるよう、引き続き支援してまいります。
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