アスベストを吸ったことによる「健康被害」が不安な場合に知っておくべきこと
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アスベスト(石綿)を長期間にわたって大量に吸い込むと、さまざまな疾病をひき起こす可能性があることが知られています。
アスベストが原因で発症する疾病は、数十年という長い潜伏期間を経て発症するため、過去にアスベストを取り扱う工場や建設現場で働いていた方は、今後の健康被害に注意する必要があります。
本コラムでは、アスベストを吸ったことで不安を感じている方が知っておくべきことや、発症した場合に受けられる補償などについて解説します。
1、アスベストに関する基礎知識
まずは、アスベストとはどのようなものであり、どのような危険性があるのかについて、改めて確認していきましょう。
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(1)アスベストとは
アスベストとは、天然にできた繊維状の鉱物で、「石綿(せきめん、いしわた)」とも呼ばれます。耐火性・耐熱性・電気絶縁性などに優れているとともに加工しやすいことから、安価な工業材料として多種多様な建材や工業製品に使用されてきました。
高度経済成長期には、さまざまな場所・ものにアスベストが使用されていましたが、昭和50年(1975年)から段階的に使用が規制され、平成18年(2006年)9月以降は一部の例外を除き全面的に使用が禁止されています。 -
(2)アスベストが、なぜ疾病をひき起こすのか
アスベストは非常に細かい繊維であるため、空中に浮遊しやすいという性質があります。そのため、工場や建設現場での加工や吹付作業によって浮遊したアスベスト粉じんを、労働に従事していた方は知らずに吸い込んでいたと考えられます。
アスベストは吸い込んだとしても、一部は咳や痰に混じり排出されます。しかし、すべてが排出されるとは限らず、排出されなかった繊維は肺の中にとどまり続けます。
アスベストの繊維は体内で分解されません。肺の組織に沈着した繊維が炎症をひき起こし、長期間にわたって肺の組織を傷つけることで肺の線維化が生じます。また、活性酸素が発生することでDNAが損傷をうけ、遺伝子異常が起こり、細胞が『がん化』する可能性があると考えられています。 -
(3)どれくらいアスベストを吸うと発病のリスクが高まる?
中皮腫や肺がんなどについては、アスベストを吸った量と発病の間に、相関関係が認められています。
しかし、具体的にどれだけのアスベストを吸い込むと病気になるのかについては、明らかになっていません。
アスベストによる健康被害の補償は、単に「不安がある」だけで認められるものではなく、いつ・どの職場で・どのような作業をしたか といった「ばく露状況」が重要になります。医学的な診断は医師が行いますが、補償の可否は職歴や作業内容に基づいて法的に判断されます。そのため、過去の勤務先や作業内容を整理することが大切です。
2、アスベストを吸うことで発症する可能性がある代表的な病気
アスベストを吸うと、さまざまな疾病を発症する可能性がありますが、具体的にどのような疾病を発症するおそれがあるのでしょうか。確認していきましょう。
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(1)石綿肺
肺が線維化して固くなる「じん肺」という病気のうち、アスベストを吸ったことで発症するじん肺のことを「石綿肺」といいます。業務でアスベスト粉じんを10年以上吸入した場合に発症するといわれており、潜伏期間は15~20年といわれています。
石綿肺は肺が繊維化することで呼吸機能が低下する病気であるため、発症すると、比較的早期の段階で、体を動かした際の息切れ・慢性的な咳や痰・胸や背中の痛みの自覚症状が見られます。
アスベストの使用・製造は昭和50年(1975年)の一部使用禁止から平成24年(2012年)の全面禁止まで徐々に時間をかけて規制されてきました。
そのため、現在新規の石綿肺患者は減少傾向にあるとはいえ、過去にばく露した人が今後発症する危険は依然として残っているということになります。 -
(2)肺がん(原発性肺がん)
気管支や肺胞を覆う上皮に発生する悪性腫瘍です。発症するまでの潜伏期間は15~40年といわれています。
アスベストが原因で肺がんを発症すると、咳・痰・血痰などの初期症状を経て、他臓器などに転移するリスクが高まります。また、喫煙などのほかの肺がん要因を抱えていると、発症や進行が早くなるといわれています。
なお、肺の細胞の中に取り込まれたアスベスト繊維の刺激によって肺がんが発生するとされていますが、そのメカニズムは十分には解明されていません。一般的には、アスベスト吸引によって肺細胞に石綿繊維が取り込まれて、物理的な刺激によってがん化するとされます。アスベストは鉱物であるため体内に取り込まれた後に吸収されず、そのまま肺などに残り続けてしまうのです。 -
(3)中皮腫
アスベスト健康被害の一つである中皮腫は、胸膜に最も多く生じ、そのほか心膜や腹膜などにも発生する可能性がある悪性腫瘍です。中皮腫の、男性発症者の約8割に職業的なアスベストばく露が認められています。潜伏期間は20~50年と非常に長いです。肺がんと異なり、喫煙と中皮腫発症との関連は見られません。
患者数の多い胸膜中皮腫の初期症状は、息切れ・胸痛・咳・発熱・体重減少・全身の倦怠感などが挙げられます。ただし、症状がなく、胸部X線検査の際に偶然胸水貯留を発見されることもあります。 -
(4)びまん性胸膜肥厚
肺を覆っている胸膜が、慢性的な炎症により線維化し厚くなっていくことで、肺が膨らまなくなり呼吸機能が低下していく病気です。潜伏期間は30~40年といわれています。
「びまん性」とは、病変部位が広範囲に広がっていることを指します。びまん性胸膜肥厚の症状として、呼吸困難・反復性の胸痛・反復性の呼吸器感染が挙げられます。
アスベストばく露に感染するびまん性胸膜肥厚の場合、後に挙げる良性石綿胸水の後遺症として生じたり、合併症として石綿肺を発症したりと、ほかのアスベスト関連疾患も関連してくることがあります。
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(5)良性石綿胸水
良性石綿胸水とは、さまざまな要因で胸腔内に体液が貯留する胸水という病気のうち、アスベスト吸入によって、胸腔内に胸膜炎が発生した際の滲出液がたまる病気のことです。
良性石綿胸水は、ほとんどの場合、胸水消滅により自然治癒するので自覚症状がないケースが多いです。
そのため、潜伏期間は不明ですが、まれに胸水が残存して被包化することによって呼吸機能障害の後遺症が出る場合があります。胸膜中皮種や、びまん性胸膜肥厚を発症することもあります。
3、アスベスト健康被害が疑われる場合の対応方法
吸い込んだアスベストは、咳や痰に混じり体外に排出されます。しかし、大量に吸い込んでいる場合は、排出されないまま体内に残り続けます。
過去にアスベストを扱う業務に従事しており、大量のアスベストを吸ってしまった場合、肺にアスベストが滞留している可能性がありますが、残念ながらそれらを除去することは難しいのが現状です。
過去に、アスベストを扱う業務に従事していた場合は、年に1回は健康診断を受け、胸部X線検査を受けるとよいでしょう。定期健康診断等では見過ごされるおそれもあるので、労災病院等の専門的な医療機関を受診する方が望ましいといえます。
また、発症した場合は早期に治療を受け、症状の進行を食い止めることが極めて重要となります。以下のような症状に心当たりがあるときは、早急に労災病院等の専門的な医療機関で診察を受けましょう。目立った自覚症状が出ないケースもありますので、ご心配な方は医療機関を受診されるとよいでしょう。
- 息切れがひどくなった
- 息が苦しい
- 胸が痛い
- 咳が続く
- 背中が痛い
- 胸部に圧迫感がある
- 原因不明の熱が続いている
- 体重が急に減ってきた
- 血痰がでる
〈 参考 〉厚生労働省 アスベスト(石綿)に関するQ&A
なお、喫煙は原発性肺がんの危険性が高くなるとされているので、喫煙習慣がある方は禁煙することをおすすめします。
賠償金·給付金申請手続きは
おまかせください

4、アスベストが関与する病気を発症した場合に受けられる補償等
過去に従事した業務が原因でアスベストに関連する疾病を発症した場合には、さまざまな補償等を受けられる可能性があります。
アスベスト関連の補償制度には、労災保険や石綿健康被害救済制度、建設型アスベスト給付金、国との和解金など複数の制度があります。対象となる職種や請求できる内容、必要書類はそれぞれ異なっているため、注意が必要です。場合によっては併用できる手続き・補償もあるため、弁護士へ相談してください。
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(1)労災保険
アスベストに、ばく露する仕事に従事していたときに、労災保険に加入(または特別加入)していた場合は、労災保険給付を受けられる可能性があります。
給付を受けるためには、労働基準監督署へ申請が必要です。アスベストを取り扱う仕事に従事したことによって、石綿肺・肺がん・中皮腫、びまん性胸膜肥厚・良性石綿胸水を発症したこと(業務上疾病であること)が認められた場合は、労災保険給付を受けることができます。 -
(2)石綿健康被害救済給付金
労災保険の対象とならない方や、時効により労災保険給付の申請ができない方は、石綿健康被害救済法に基づく給付金を受けられる可能性があります。
給付金の対象となるのは、次の「指定疾病」に該当した場合です。- 肺がん
- 中皮腫
- 著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
- 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
※良性石綿胸水は対象外
必要書類をそろえて独立行政法人環境再生保全機構、環境省地方環境事務所、保健所等に申請し認定されると、給付を受けることができます。 -
(3)建設型アスベスト給付金
令和3年(2021年)6月9日に、「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」が成立し、令和4年(2022年)1月19日に完全施行されました。この法律に基づく給付金は一般的に「建設型アスベスト給付金」と呼ばれています。
建設現場での作業が原因でアスベスト健康被害を受けた労働者の方、個人事業主(一人親方等)の方、そのご遺族の方は、550万円~1300万円の範囲内で建設型アスベスト給付金を受け取れる可能性があります。
建設型アスベスト給付金の受給要件は、おおむね以下のとおりです。
- ①以下の期間ごとに特定の建設業務に従事することで、
・昭和47年(1972年)10月1日~昭和50年(1975年)9月30日までの間に、アスベスト吹付作業に係る建設業務に従事したこと
または
・昭和50年(1975年)10月1日~平成16年(2004年)9月30日の間に、一定の屋内作業場において、建設業務に従事したこと - ②上記の作業に従事したことにより、石綿肺(じん肺管理区分2~4)、肺がん、中皮腫、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水に罹患し、
- ③労働者や一人親方・中小事業主(家族従事者等を含む)であって、
- ④給付金等の請求期限内であること
- ①以下の期間ごとに特定の建設業務に従事することで、
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(4)国からの賠償金(工場型)
アスベスト製品を取り扱う工場等で働いていた方は、国に対して訴訟を起こし和解することで、国から賠償金を受け取れる可能性があります。
訴訟で所定の要件を満たすことが確認されると、国から和解金として550万円~1300万円の範囲内で賠償金が支払われます。賠償金額は、疾病や病態によって決まります。
ただし、国との和解を成立させるためには、次の要件をすべて満たす必要があります。- 昭和33年(1958年)5月26日から昭和46年(1971年)4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において石綿粉じんにばく露する作業に従事したこと
- 業務に従事した結果、アスベストが原因で、中皮腫、肺がん、石綿肺、びまん性胸膜肥厚などを発症したこと
- 提訴の時期が損害賠償請求権の期間内であること
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(5)企業に対する損害賠償請求
アスベスト健康被害が広がった背景には、国の責任だけではなく、労働者の安全を確保するための十分な措置を取らずに労働者をアスベストにばく露させた企業や、アスベストの危険性を周知することなくアスベスト含有建材を販売していた建材メーカーにも責任があると考えられます。
そのため、業務に従事したことが原因でアスベストによる健康被害を受けた場合は、勤務先企業や建材メーカーに対して損害賠償請求を提起することも検討できます。
ただし、国の賠償金や給付金のように、決まった手続きがあるわけではありません。訴訟で賠償金を獲得するためには、健康被害の実態と原因を立証できる証拠を確保した上で請求できる賠償金額を算出し、複雑な訴訟手続きを的確に進める必要があります。
訴訟手続きは、弁護士のサポートがなければ対応することが難しいため、企業に対する損害賠償請求を検討されている場合は弁護士にご相談ください。
5、まとめ
アスベストが関与する病気は、数十年という長い潜伏期間を経て発症するものです。そのため、アスベストを吸い込んでから健康に過ごしてきた方でも、これから病気を発症する可能性が残念ながらあります。
少しでも体調に不安を感じた場合は、専門の医療機関で検査・診察を受けることをおすすめします。
また、アスベスト被害は潜伏期間が長く、発症したときにはすぐに亡くなってしまうことも少なくありません。ご遺族による補償等の請求が可能な制度もありますが、ご遺族が知らずに請求しないまま期限を迎えてしまうケースもあるため、早めに弁護士へ相談することが重要です。
ベリーベスト法律事務所では、アスベスト健康被害の不安がある方からのご相談を無料で承っております。賠償金・給付金を請求できるかどうかの調査もサポートしますので、少しでも不安を抱えている方は、ぜひお気軽にご相談ください。
適切な補償等を受けられるように、事務所一丸となりサポートします。