医療過誤について
2024年07月18日

医療ミス(医療過誤)の時効は5年? 医療訴訟の基礎知識と注意点

医療過誤によって、後遺障害が生じた・死亡に至ったなどの場合には、被害患者側として、医療機関の法的責任を追及することができます。

医療過誤の責任追及にあたって、病院側の過失を立証するための証拠収集などで時間がかかっていたり、処置を受けてから身体に不調が出始めるまで間が空いていたりといった事情から、「時効の成立はいつなのか」と気になっている方もいるでしょう。

本コラムでは、医療過誤の時効に関する基礎知識や時効が迫っている場合の対処法などについて、押さえておくべき基礎知識とともに、ベリーベスト法律事務所 医療調査・医療訴訟チームの弁護士が解説します。

1、医療過誤の損害賠償請求|不法行為と債務不履行

最初に、医療過誤の概要や法的責任を追及する際の2つの法律構成など、押さえておくべき基礎知識について説明します。

  1. (1)医療過誤とは

    医療過誤とは、医師や看護師、薬剤師、助産師などの医療従事者が、治療の際に必要とされる注意を怠ったために患者に損害を与えることです。

    人の命を預かる医療現場では、わずかなミスや不注意から重篤な後遺症が生じてしまったり、最悪のケースでは死亡してしまったりという結果に至ることがあります。
    医療機関側の従業員の過失によってこのような医療過誤が生じた場合には、患者側に生じた損害の賠償を求めることが可能です。

  2. (2)医療過誤の2つの法律構成

    医療過誤が発生した場合には、民事上の責任として、医療機関に対する損害賠償請求をしていくことになります。その際には、「不法行為」または「債務不履行」という2つの法律構成のどちらかに基づいて、病院側の責任を追及していくことが必要です。

    ① 不法行為
    不法行為とは、第三者の故意または過失によって、被害者の権利や利益を侵害する行為をいいます(民法709条)。

    医療過誤のケースでは、医師や看護師など医療従事者の過失により、患者に後遺障害が生じてしまった・病状が悪化してしまった・死亡してしまったなどの被害(損害)が生じた場合、医療従事者や医療従事者が所属する医療機関に対し損害賠償を請求することが可能です。
    そのためには、被害を受けた患者ご本人またはご家族において、医療従事者、病院側の過失を立証していかなければなりません。

    ② 債務不履行
    債務不履行とは、債務者が契約により約束した義務を果たさないことです(民法415条)。債務不履行があった場合には、債権者は、債務者に対して、債務不履行によって生じた損害の賠償を求めることができます。

    医療機関側と患者との間には、「診療契約」が締結されています。これは、患者が報酬を支払うことで、医療機関側として病気や怪我の治療を行うというものです。

    医療過誤があった場合には、診療契約上の義務違反となりますので、患者側は、医療機関側に対する損害賠償請求を行うことができます。

    債務不履行における注意義務違反と不法行為による過失は、基本的には等しいものと考えられています。そのため、どちらの法律構成で責任追及をするかによって、医療過誤の立証の難易度が変わるわけではありません。

    ただし、それぞれ時効期間が異なっているため、時効の観点から患者側に有利な法律構成を選択するべきと言えるでしょう。

2、医療過誤の損害賠償請求における消滅時効とは

医療過誤による損害賠償請求権は、一定の期間が経過すると時効を迎えてその権利が消滅してしまうことに注意が必要です。ここからは、医療過誤での損害賠償請求権における消滅時効について説明します。

  1. (1)不法行為の消滅時効

    不法行為の消滅時効は、損害および加害者を知ったときから5年、または医療過誤発生のときから20年で成立します。

    なお、「損害を知ったとき」とは、症状固定時を基準とするのが一般的です。
    症状固定とは、治療を継続しても完治する見込みがないと判明し、残存する症状を後遺症と認識できる程度に至った時点をいいます。

    また、「加害者を知ったとき」とは、一般的に証拠保全などにより加害者である医療機関側に対する責任追及の姿勢が具体化した時点です。

    そのため、抽象的に医療過誤の可能性を疑っている時点では、「損害および加害者を知った」とはいえず、不法行為の消滅時効はスタートしません。

  2. (2)債務不履行の消滅時効

    債務不履行の消滅時効は、権利を行使できることを知ったときから5年、または権利を行使できるときから20年で時効が成立します。

    債務不履行の消滅時効の起算点である「権利を行使できることを知ったとき」とは、抽象的に医療過誤の可能性を疑っている時点ではなく、証拠関係から医療機関への責任追及の可能性を具体的に認識した時点です。そのため、消滅時効の起算点は、不法行為と共通といえるでしょう。

    なお、上記の消滅時効の考え方は、令和2年の改正民法によるものですので、医療過誤が令和2年4月1日以降に発生した場合に適用されます。それ以前に発生した医療過誤については、権利を行使することができるときから10年が消滅時効の期間です。

  3. (3)カルテなどの保管期限にも注意が必要

    医療過誤による損害賠償請求をお考えの方は、医療過誤の時効期間だけでなく、カルテの保管期限に注意しましょう。

    医療機関が保存しているカルテなどは、病院側の過失を立証するための重要な証拠となるものです。しかし、一定期間(後述する保管義務期間を超えた場合、病院により異なります。)が経過すると、カルテなどは廃棄されてしまいます。

    <カルテなどの保管義務期間>
    • カルテ……5年
    • カルテ以外の記録(日誌、処方箋、エックス線写真など)……2年

    大切な証拠が失われてしまってからでは、医療機関への責任追及は困難となります。必ず、保管期間内に証拠保全や開示請求などの方法により、証拠の確保をするようにしましょう。

3、医療過誤の時効が迫っているときにできること

医療過誤の時効が迫っているとき、時効の完成猶予または更新をするために必要となる対応について解説します。

  1. (1)内容証明郵便を送って催告する

    医療機関に対して損害賠償請求をすれば、裁判外の催告にあたり、時効の完成が6か月間猶予されます。

    催告の方法に特別な決まりはありませんが、「催告をした」という証拠を残すためにも、内容証明郵便を利用することが一般的です。

    ただし、催告を繰り返したとしても時効の完成猶予の期間がさらに更新されることはありません。そのため、催告により時効の完成が猶予されている間には、次のような対応が必要となります。

  2. (2)書面により協議を行う旨の合意をする

    病院と患者との間で、損害賠償に関する協議を行う旨の合意が書面でなされた場合には、以下の期間、時効の完成が猶予されます。

    • 協議を行う旨の合意をしたときから1年
    • 当事者間で定めた期間(1年未満に限る)
    • 協議の続行を拒絶する旨の書面による通知から6か月

    なお、協議を行う旨の書面上の合意は繰り返し行うことができますが、「証拠の散逸による立証の困難性を救済する」という時効制度の趣旨から、本来の時効期間の満了時から起算して、最長で5年までとされています。

  3. (3)債務の承認を得る

    病院側に損害賠償責任があるということを認めてもらうことができれば、債務承認にあたり、その時点から時効期間がリセット(更新)されます。

    債務承認の方法に決まりはありませんが、以下のようなことが債務承認といえるでしょう。

    • 損害賠償責任を認める旨の書面の作成
    • 損害賠償金の一部の支払い
    • 医療過誤による示談金や解決金の提示

    なお、医療機関側が口頭で認めることもありますが、裁判になった場合にその証明が困難になる可能性があるため、書面や録音などで記録を残しておくことがおすすめです。

  4. (4)訴訟提起をする

    医療訴訟(医療過誤による損害賠償請求)を裁判所に提起すれば、訴訟が終了するまでの間、時効の完成が猶予されます。

    時効期間が経過する前に訴訟提起をすれば、その後、裁判が何年かかったとしても、裁判中であれば時効が完成することはありません。なお、裁判の結果、判決の確定や裁判所の和解が成立した場合には、その時点で時効期間がリセットされます。

    このように、医療過誤の時効が迫っているときには、さまざまな方法による時効の完成猶予または更新をすることが可能です。どのような方法を選択すべきかについては、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

4、弁護士に医療過誤の悩みを相談するメリット

医療過誤の問題は、複雑な内容だけでなく専門的なものであるため、個人で対応することは困難といえます。弁護士に医療過誤のことを相談するメリットを3つ紹介するので、積極的に弁護士への相談をご検討ください。

  1. (1)医療機関の責任を問えるかの見立てができる

    病院での治療の結果、症状が悪化した・後遺症が生じた・死亡に至ったなどの場合には、「正しい治療がなされなかったのではないか」と医療過誤を疑う方も多いでしょう。

    しかし、医療過誤による医療機関側の法的責任を追及するためには、病院側に過失があったことを主張・立証していかなければなりません。このとき、過失の有無を判断したり、主張・立証したりするためには、弁護士のサポートが不可欠です。

    弁護士であれば、開示請求や証拠保全などにより、過失の立証に必要となるカルテなどを収集したり、収集した資料を精査し、病院側の過失の有無を検討することができます。

    医療機関側に責任を問えるのかという見立てを行うためにも、まずは、弁護士にご相談ください。

  2. (2)時効についての確認や対応ができる

    医療過誤の事案は、問題発生から実際の責任追及に着手するまで相当の時間がかかります。そのため、消滅時効の成立に注意しなければなりません。

    時効の起算点や時効期間の判断は、複雑な考え方から導き出されるものです。自分で安易に判断して消滅時効が成立してしまわないようにするためにも、弁護士に確認するようにしましょう

    時効の完成が迫っているような場合には、催告や訴訟提起などの適切な方法により、時効の完成を阻止することが可能です。

  3. (3)長期戦となるため弁護士が頼もしいサポーターになる

    医療過誤に関する紛争は、非常に専門的かつ複雑な争いになるため、一般的な民事上の紛争に比べて、解決までに長い期間がかかります。長期的に医療機関側を相手に争っていかなければならない状況となれば、患者側の負担も非常に大きくなるものです。

    弁護士であれば、患者側に寄り添って、権利の実現に向けたサポートを行うことができます。
    病院という組織を相手にしていくだけに不安も大きいと思いますが、弁護士がサポートすることで、そのような気持ちも解消されるでしょう。

5、まとめ

「医療ミスかもしれない」という疑いがある際には、時効を確認するとともに、医療機関側の過失の有無を判断しなければなりません。

ベリーベスト法律事務所は、経験豊富な医師や弁護士、医師兼弁護士等の協力体制が整っているだけでなく、医療調査・医療訴訟チームを編成しています。そのため、複雑な医療過誤の問題でも適切に対応することが可能です。

医療過誤の発生から長期間が経過している場合には、時効の問題もありますので、まずは、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。知見のある弁護士が、親身になってサポートいたします。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階(東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585 [ご相談窓口]0120-056-095
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
https://www.vbest.jp
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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