「患者側は医療訴訟で勝てない」と言われる理由とは? 弁護士が解説

手術ミスなどの疑いがあり、医療機関側を訴えたとしても、「患者側は医療訴訟で勝てない」と言われることがあります。
たしかに、一般的な民事訴訟で原告(訴訟を起こす側)が勝訴する割合よりも医療訴訟で勝訴する割合は低いため、責任追及を諦めてしまう方は少なくないのが実情です。しかし、医療訴訟の勝訴率(認容率)が高くないからといって、医療機関側の責任追及を諦める必要はありません。
本コラムでは、被害患者側が「医療訴訟は勝てない」と言われる理由や医療訴訟を提起する際の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 医療調査・医療訴訟チームの弁護士が解説します。
1、医療訴訟の勝訴率と「患者側は勝てない」と言われる理由
医療訴訟では、「患者側は勝てない」と言われることがあります。それにはどのような理由があるのか、詳しく解説していきます。
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(1)医療訴訟の勝訴率(認容率)
裁判所が公表している「地裁民事第一審通常訴訟事件・医療関係訴訟事件の認容率」によると、平成30年から令和4年までの通常訴訟と医療訴訟の勝訴率(認容率)は、以下の表のとおりです。
通常訴訟 医療訴訟 平成30年 85.5% 18.5% 平成31年、令和元年 85.9% 17.0% 令和2年 86.7% 22.2% 令和3年 84.3% 20.1% 令和4年 84.3% 18.5% 過去5年間、通常の民事訴訟の勝訴率が80%以上であるのに対して、医療訴訟は20%前後しか原告(訴訟を起こす側)が勝訴できていません。
実際の統計資料からも、医療訴訟はなかなか勝てないということがわかります。
しかしこれらの数字には、示談や和解で解決に至ったものが含まれていないということに注目すれば、医療機関側への責任追及を諦める必要はないと言えるでしょう。詳しくは、2章で説明していきます。 -
(2)医療訴訟で「患者側は勝てない」と言われる理由
医療訴訟で勝てないと言われる主な理由として、「①弁護士にも医学的知識が求められること」「②協力医との連携が必要であること」「③ほとんどの証拠が医療機関側にあること」の3点が挙げられます。
① 弁護士にも医学的知識が求められる
医療訴訟を行う際には、弁護士に依頼することがほとんどです。
しかし、一般的な民事訴訟と異なり、医療訴訟は法律の知識に加えて医学的知識も求められます。そのため、医療訴訟に対応できる弁護士が少ないというのも、被害患者側が勝てないと言われる要因のひとつです。
② 協力医との連携が必要
医療訴訟では、医療機関側の過失や因果関係を明らかにするために、協力医による私的鑑定意見書が欠かせません。また、医療機関側の主張に反論するためには、専門分野の協力のアドバイスなども必要です。
このように、医療訴訟では協力医がいなければ勝訴することが困難と言えます。しかし、被害患者側が個人で協力医と連携するのも難しく、「医療訴訟で勝てない」と言われる一因となっています。
③ ほとんどの証拠が医療機関側にある
医療過誤が起きた場合、被害患者側で医療機関側の責任を立証していかなければなりません。しかし、カルテなどの証拠のほとんどは医療機関側にあるため、原因を究明するのが困難です。
カルテの開示請求をすることで医療機関側から証拠開示を受けることができますが、改ざんのおそれがある場合には証拠保全の手続きを利用しなければならないなど、証拠収集のハードルが高いことも医療訴訟を難しくする要因と言えます。
2、医療訴訟に勝てないなら医師への責任追及は諦めるべき?
医療訴訟に勝てないのであれば、医師への責任追及は諦めるべきなのかとお考えの方もいるでしょう。結論から言うと、諦める必要はありません。その理由を説明します。
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(1)勝訴率だけがすべてではない
通常の民事訴訟と比べると、医療訴訟の勝訴率が低いのは事実です。
しかし勝訴率は、あくまでも認容判決が言い渡された割合であって、訴訟前に示談で解決した事案や、訴訟になった事件でも裁判所の和解勧告により和解が成立した事案については、数値に含まれていません。
そのため、勝訴率だけをみて医療機関側への責任追及を諦める必要はないと言えます。 -
(2)医療過誤では示談や和解により解決する事案も多い
医療機関側に明確な過失があるような事案では、訴訟提起前の示談交渉で解決金が支払われて解決することもしばしばあります。
示談とは、話し合いによる紛争解決の手段であり、当事者双方が納得して合意することにより、紛争を解決することができる方法です。
また医療訴訟は、通常の民事訴訟に比べて解決までに長期間を要することも多いため、医療訴訟の途中で、裁判所からの和解勧告を受け入れて終了することも少なくありません。
裁判所から提示された和解案は、その時点の裁判所の心証を踏まえたうえでの解決案になるため、早期解決を希望する場合には、訴訟上の和解も解決の手段のひとつとなります。
このように、医療過誤のすべてが訴訟および判決で解決するわけではありませんので、事案に応じて柔軟に解決方法を検討することが大切です。
3、医療訴訟を提起するときの3つの注意点
医療訴訟を提起するときは、注意しなければならないことがあります。ここからは、押さえておきたい3つの注意点を解説します。
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(1)いきなり医療訴訟を提起するわけではない
医療機関側のミスを疑ったら、すぐに「医療訴訟だ」と考える方もいます。
しかし、実際の事案ではいきなり医療訴訟を提起することはありません。まずは、医療機関側に法的責任があるかどうかの調査を行うことが必要です。
そのうえで、責任追及が可能な場合でも、まずは示談交渉や調停などの話し合いによる解決を目指し、それが難しい場合に医療訴訟の提起となります。
医療過誤の事案では、医療機関側との話し合いで解決に至るケースも少なくありませんので、まずは話し合いでの解決を目指すとよいでしょう。 -
(2)医療訴訟は長期にわたることが多いため根気が必要
医療機関側が責任を認めない、希望する賠償額と提示額に開きがあるという場合には、医療訴訟を提起することになります。
医療訴訟の審理期間は平均で2年以上かかるため、長期的な争いになることを覚悟して訴訟提起に臨むことが必要です。 -
(3)医療機関側の過失や医療過誤との因果関係の立証が必要
医療訴訟を提起するにあたっては、訴える側として、医療機関側の過失や因果関係を立証していかなければなりません。
十分な証拠がない状態で医療裁判をしたとしても、満足いく結果になることはありませんので、事前の準備が重要です。
4、医療過誤のトラブルを弁護士に相談するメリット
「医療機関側のミスではないか」と医療過誤を疑ったときは、弁護士に相談するようにしましょう。弁護士に相談するメリットを3つご紹介します。
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(1)医療調査により見通しを立てられる
医療調査とは、医療過誤が発生した場合に、医療機関側への責任追及が可能であるかどうかを調査することです。
弁護士は、被害患者本人およびそのご家族からの相談時に、どのような経過で医療事故が発生したのかをお聞きします。しかしそれだけでは、医療機関の責任の有無を正確に判断することはできません。
そこで、以下のような調査によって、医療機関側の責任の有無を明らかにしていくことになります。- カルテの入手
- 医学文献の調査
- 協力医の意見聴取
正確な見通しを立てるためには、医療訴訟に詳しい弁護士に依頼して、十分な医療調査を行ってもらうことが大切です。
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(2)カルテ開示などの証拠収集ができる
カルテは、症状の経過や診療行為の内容、当時の医師の認識・判断などを知るために、医療訴訟において欠かせない重要な証拠です。
このようなカルテを入手する方法としては、「カルテ開示」と「証拠保全」という2つの方法が挙げられます。
カルテ開示であれば、ご自身でも対応することが可能です。ただし、証拠保全が必要な事案は裁判所への申立てが必要になるため、弁護士のサポートがなければ対応するのが困難と言えます。 -
(3)示談、調停、訴訟などでどうすればよいかアドバイスできる
医療機関側の責任が明らかになった場合は、示談、調停、訴訟などの方法で責任追及をしていくことになります。
示談、調停、訴訟のそれぞれの段階で気を付けるべきポイントが異なりますので、満足いく結果を得るためには、弁護士によるアドバイスを受けるのが有効です。
医療訴訟に詳しい弁護士であれば、対応のポイントを熟知しており、状況に応じた適切なアドバイスをすることができます。
医療訴訟の知識および経験を有する弁護士は少ないため、相談する際には、きちんと対応できる弁護士かどうかを確認するようにしましょう。
5、まとめ
医療訴訟は、通常の民事訴訟に比べて勝訴率(認容率)が低いことから「被害者は勝てない」と言われています。
しかし、事前の医療調査でしっかりと見通しを立てて臨むことで、「勝てない」と言われている医療訴訟でも満足いく結果を残せる可能性が高くなります。そのためには、知識および経験豊富な弁護士によるサポートが不可欠です。
ベリーベスト法律事務所は、経験・知見豊富な弁護士を中心とした医療調査・医療訴訟チームを組成しているだけでなく、医師兼弁護士や医師との連携体制が整っているため、複雑な医療訴訟でも適切に対応することができます。
医療過誤事件の疑いがあり、医療過誤訴訟の提起を検討している方は、まずは、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階(東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
- [代表電話]03-6234-1585 [ご相談窓口]0120-056-095
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。 - URL
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