医療機関にカルテ開示を拒否されたときの法的問題と対処法

怪我や病気の治療で後遺障害が生じたなどのトラブルがあり、医療機関側に対するカルテ開示請求を考えている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、「カルテを見せることはできない」と拒否されてしまうケースがあります。そんなときに、「どうしても無理なのか」「拒むこと自体に、法的問題はないのだろうか」と悩む方は少なくありません。
本コラムでは、ベリーベスト法律事務所 医療調査・医療訴訟チームの弁護士が、医療過誤(医療ミス)を疑ってカルテ開示請求をしたときに、医療機関側から拒否されたときの法的問題や対処法を解説します。
1、カルテ開示を拒否することの法的問題
最初に、医療機関側がカルテ開示請求を拒むときの法的問題について、解説します。
-
(1)カルテとは
カルテとは、医師が患者の病状、治療内容、検査結果などを記載した文書のことです。別称で「診療録」と呼ぶこともあります。
<カルテの記載項目例>- 患者の基本情報
- 主な病状
- 現病歴
- 既往歴
- 家族歴
- 社会歴
- 嗜好(しこう)
- アレルギー
- 現症や身体所見
- 検査結果
- 入院後経過
- 診断や治療方針
医師は患者を診察しながら記録を残すこともあれば、次の患者を診るまでの短時間に書き上げることもあります。
-
(2)医療機関側にはカルテ開示請求に応じる義務がある
厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」や日本医師会の「診療情報の提供に関する指針」では、カルテ開示義務を定めています。つまり、患者などがカルテを見せるように請求したとき、原則、医療機関側は応じなければなりません。
また、個人情報保護法でも、一定の除外事由に該当しない限りは、カルテ開示をしなければならないと定めています。以前は、5000人分以下の個人情報を扱う個人情報取り扱い事業者は、適用除外とされていましたが、個人情報保護法の改正(平成29年5月30日施行)により、撤廃されました。その結果、小規模なクリニックなどでも、個人情報保護法による開示義務を負っています。
このように、原則、医療機関側がカルテ開示を拒むことは違法となります。 -
(3)本人以外からのカルテ開示請求も応じる義務がある
カルテ開示請求は、一般的には患者本人から行いますが、事案によっては、本人以外の方が行うこともあるでしょう。
<患者本人以外でカルテ開示請求をする方の例>- 親権者(患者が未成年者)
- 患者の世話をしている親族(患者が認知症)
- 患者の遺族(患者が亡くなった)
上記のような方からのカルテ開示請求でも、医療機関側は例外を除き、基本的にはカルテを見せなければなりません。
2、カルテ開示の拒否が認められるケース
医療機関側には、患者側からのカルテ開示請求に応じる義務があります。しかし個人情報保護法では、例外的に開示請求を拒否できるケースが定められています。
-
(1)本人または第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある
カルテには、患者の家族や関係者からの情報提供を受けた際の情報が記載されていることがあります。
そのような情報が開示されると、患者や家族、関係者との人間関係が悪化し、これらの人の利益が害されるおそれがあるため、このようなケースでは、例外的にカルテ開示を拒むことが可能です。
たとえば、患者の家族から「かんしゃくを起こす癖があるから、注意してもらいたい」といった申し出などが挙げられます。 -
(2)当該事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある
カルテには、患者の性格や接する際の注意点などが申し送り事項として記載されていることがあります。
このような情報が本人の目に触れると、双方の信頼関係が破壊され、診療業務が困難になるおそれがあります。このようなケースでは、例外的にカルテ開示を拒むことが可能です。 -
(3)他の法令に違反する
カルテ開示が他の法令に違反するようなときは、例外的に拒否することが可能です。
なお、医師には守秘義務があるため、業務上知り得た患者の情報を正当な理由なく第三者に提供したときは、守秘義務違反により処罰の対象となります(刑法134条)。
3、カルテ開示を拒否されたときの対処法
医療機関側が「カルテは見せられない」と応じてくれなかったときに考えられる、3つの対処法を紹介します。
-
(1)医療機関に指針を説明する
カルテ開示請求があったとき、一定の除外事由に該当しない限りは、医療機関側はカルテを見せなければなりません。
それにもかかわらず、「弁護士を通してほしい」「法的手続きをとらない限りは開示しない」などと拒むことがあります。
このようなケースでは、医療機関側がカルテ開示の制度を誤解している可能性があるため、厚生労働省や日本医師会で公表されている指針があることを医療機関側に説明し、再度カルテ開示を促してみるとよいでしょう。 -
(2)証拠保全手続きの利用
医療機関側が任意にカルテ開示に応じてくれないときは、裁判所に証拠保全の申し立てをする方法もあります。
証拠保全は、裁判官が医療機関を訪れたその日にカルテ開示を求める方法です。任意のカルテ開示を拒否している場合でも、医療機関側は証拠保全には応じてくれます。
このとき、その場でカルテ開示を行ってもらうため、カルテを改ざんされるリスクを抑えることが可能です。 -
(3)弁護士への相談
医療機関からカルテ開示を拒否されたら、医療機関側にカルテ開示を拒む正当事由があるかどうかを踏まえて対応を検討する必要があります。
そのためには、厚生労働省や日本医師会が公表する指針の理解が不可欠となるため、まずは弁護士に相談してみるとよいでしょう。
知見のある弁護士であれば、具体的な状況を踏まえ、今後の適切な対応についての見通しを立ててくれます。
4、カルテ開示に関する悩みを弁護士に相談するメリット
カルテ開示に関してお悩みの方は、弁護士への相談をおすすめします。
-
(1)カルテ開示の拒否は正当な理由なのかを明らかにできる
医療機関からカルテ開示を拒まれたときは、正当な理由に基づくものなのかを明らかにすることが必要です。
弁護士であれば、厚生労働省や日本医師会が公表している指針や個人情報保護法を理解しているため、医療機関側にカルテ開示を拒む正当な理由があるかどうかを判断できます。
正当な理由がないときには、弁護士から指針内容を指摘することにより、任意でカルテ開示を受けられる可能性が高くなるでしょう。 -
(2)医療調査により損害賠償請求の可能性を知ることができる
被害者側が医療機関側に対してカルテ開示を行う主な目的は、医療過誤(医療ミス)などの原因を明らかにし、医療機関側に対して、損害賠償請求などの責任追及を行うことにあります。
そのため、医療機関側からカルテ開示を受けた後は、カルテの内容を精査するなどして、医療機関側の過失や医療過誤(医療ミス)と悪しき結果との間の因果関係を明らかにしていかなければなりません。しかし、これらの対応には医学的知識が不可欠となるため、一般の方では医療機関側の責任を判断するのは難しいといえます。
弁護士であれば、カルテの分析、医学文献の検討、専門医からの意見聴取などの医療調査を通じて、医療機関側の責任を明らかにすることが可能です。
医療調査は、医療機関側への責任追及の前提として欠かせない作業であり、弁護士のサポートが必須といえます。 -
(3)証拠保全などの対応により紙カルテの改ざんを防ぐことにつながる
医療機関側からカルテ開示を拒否され、指針などを説明しても開示に応じてくれないときには、証拠保全の手続きを検討しましょう。
証拠保全の申し立てにあたっては、医療機関側の過失を、書面など即時に取り調べる方法によって裁判官に認めてもらわなければなりません(疎明といいます。)。このとき、専門的な知識や経験がなければ、裁判所に証拠保全を認めてもらうのは難しいといえます。
弁護士に依頼をすれば、迅速かつ適切に証拠保全の手続きを進められるだけでなく、早期にカルテ開示を受けることができ、紙カルテの改ざんを防ぐことにつながります。
特に、任意のカルテ開示を請求した後は、医療機関側の警戒心が高まり、改ざんのリスクが高くなるため、できる限りカルテ開示請求前に弁護士に相談・依頼することがおすすめです。
5、まとめ
医療過誤の疑いがある場合には、まずはカルテを取得するなどして診療経過に関する情報を入手しなければなりません。
医療機関側には、カルテ開示請求に応じる法的義務があります。例外的なケースを除いて、拒むことはできません。
しかし、一部の医療機関では、正当な理由なくカルテ開示を拒否するところもあります。そのような対応を受けた場合には、早めに弁護士に相談しましょう。
医療機関への損害賠償請求の前提としてカルテ開示をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。経験豊富な医師や弁護士、医師兼弁護士等の協力体制が整っているため、医療過誤問題に対する徹底したサポートを行います。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階(東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
- [代表電話]03-6234-1585 [ご相談窓口]0120-056-095
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。 - URL
- https://www.vbest.jp
その他の医療過誤についてのコラム
-
医療過誤について医療ミスを疑ったときの相談先や弁護士に相談するメリットとは?医療過誤について医師や看護師など医療機関側のミスで病態が悪化した場合、損害賠償請求できる可能性があります。しかし、具体的にどうすれば損害賠償請求を行えるのか、よくわからないと...
-
医療過誤について患者側が治療拒否をしたことによって患者が死亡したとき、医師に責任を問えるのか?医療過誤について患者が治療を拒否した結果、亡くなってしまったことに対して、その家族は、「医師はどうして治療を強く勧めてくれなかったのか」と怒りを覚えることがあるでしょう。患者...
-
医療過誤について医療ミス(医療過誤)の時効は5年? 医療訴訟の基礎知識と注意点医療過誤について医療過誤によって、後遺障害が生じた・死亡に至ったなどの場合には、被害患者側として、医療機関の法的責任を追及することができます。医療過誤の責任追及にあたって、病...