医療ミスで請求できる賠償金の種類とは? 示談金と何が違う?
医療ミスの被害に遭った場合、医療機関(病院など)や医療従事者(医師など)に対して損害賠償金の支払いを請求できる可能性があります。
医療ミスについて受け取れる賠償金には、どんな種類のものがあるのだろうかと疑問に思う方は少なくありません。また、実際どのように損害賠償請求をするのか、分からないという方もいるでしょう。
本コラムでは、医療ミスの賠償金に含まれる損害の種類や損害賠償請求をする前に確認するべきこと、請求の流れなどについて、ベリーベスト法律事務所 医療調査・医療訴訟チームの弁護士が解説します。
1、医療ミスの賠償金と示談金
医療ミスの被害に遭った場合、医療機関や医療従事者に賠償金を請求できる可能性があります。まずは、医療ミスとはどういう事柄を言うのか、また賠償金・示談金の違いなどについて見ていきましょう。
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(1)医療ミス(医療過誤)とは
医療ミスとは、医療従事者(医師や看護師など)の過失により、患者の症状がかえって悪化したり、後遺症が残ってしまったり、または患者が死亡してしまったりする事故のことです。医療ミスは、別称で医療過誤と呼ばれることもあります。
<医療ミス(医療過誤)の一例>- 手術に関して医師が説明義務をきちんと果たしておらず、後遺症が残った
- 医師や看護師による処置のタイミングが遅れた結果、患者が死亡した
- 医師が手術中に切除する部位を間違えてしまい、その後に縫合したが、患者に重篤な後遺症が残った
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(2)賠償金と示談金の違い
賠償金とは、不法行為や契約違反をした加害者が、被害者の損害を補填するために、民事責任の一環として支払う金銭です。医療ミスによる損害(症状の悪化・死亡など)を補填する目的で、医師などの医療機関側が支払う金銭は賠償金にあたります。
ただし、患者側と医療機関側の示談(和解)によって金銭の支払いが取り決められる場合、実質的には賠償金であっても、示談金と呼ばれることがあります。
2、医療ミスによる賠償金に含まれる損害の種類
医療ミスの賠償金には、おおまかに積極損害・休業損害・慰謝料・逸失利益の4種類が含まれます。それぞれの詳細を見ていきましょう。
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(1)積極損害|治療費・葬儀費用など
積極損害とは、医療ミスが原因で実際に支出を強いられた費用です。
<積極損害に該当するもの>- 治療費
医療ミスによって増悪した病気の治療や手術に要した費用 - 付添費用
患者への付き添いに要した費用 - 入院雑費
入院中の日用品購入などに要した費用 - 通院交通費
通院するために支払った公共交通機関の乗車料金や、自家用車のガソリン代など - 装具・器具購入費
車いす・義肢・介護支援ベッドなどの購入費用 - 介護費用
医療ミスによって患者が要介護となった場合に、介護のために要する費用
※ 将来分も損害賠償の対象となります - 葬儀費用
医療ミスによって患者が亡くなった場合に、葬儀に要した費用
- 治療費
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(2)休業損害
医療ミスによって、仕事を休んだ場合には休業損害としての賠償請求を行うことが可能です。
休業損害の金額は、会社員などの給与所得者であれば、事故前3か月間の給与額、自営業者であれば前年の申告所得額をベースに計算することが一般的です。 -
(3)慰謝料|入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料
医療ミスによって受けた患者本人・遺族の精神的損害については、慰謝料として請求しましょう。
<医療ミスにおける慰謝料>- 入通院慰謝料
医療ミスによって入院や通院を強いられた(またはその期間が長引いた)ことについての慰謝料です。入院期間・通院期間に応じて金額を計算します。 - 死亡慰謝料
医療ミスによって患者が死亡したことにつき、患者本人および遺族が受けた精神的損害に対応する慰謝料です。家庭における患者本人の立場によって、下記のとおり、金額の目安が異なります。
・ 一家の支柱:2800万円
・ 母親、配偶者:2500万円
・ その他:2000万円~2500万円 - 後遺障害慰謝料
医療ミスによって後遺症が残ったことについての慰謝料です。交通事故のケースに準じて、後遺障害等級に沿って金額を決定します。なお、後遺障害慰謝料の等級と裁判所が用いる基準での金額の目安は、下記に記載している表のとおりです。
後遺障害等級 後遺障害慰謝料(金額目安) 1級 2,800万円 2級 2,370万円 3級 1,990万円 4級 1,670万円 5級 1,400万円 6級 1,180万円 7級 1,000万円 8級 830万円 9級 690万円 10級 550万円 11級 420万円 12級 290万円 13級 180万円 14級 110万円 後遺障害等級の詳細は、国土交通省が公開する「後遺障害等級表」のページをご参考ください。
- 入通院慰謝料
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(4)逸失利益|後遺障害逸失利益・死亡逸失利益
逸失利益とは、医療ミスを原因とする後遺症や死亡により、医療ミスがなければ将来得られたであろう収入の減少分です。
逸失利益の金額は、以下の式によって計算します。逸失利益
=1年当たりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
<等級別:労働能力喪失率>
後遺障害等級 労働能力喪失率 1級 100% 2級 100% 3級 100% 4級 92% 5級 79% 6級 67% 7級 56% 8級 45% 9級 33% 10級 27% 11級 20% 12級 14% 13級 9% 14級 5% ※死亡の場合は100%
参考:「就労可能年数とライプニッツ係数表」(国土交通省)
3、医療ミスの損害賠償を請求する前に確認するべきこと
医療ミスによる損害賠償請求のためには、実際に請求へ着手する前に、以下の事項についてご確認ください。
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(1)医療ミスの原因を調査し、証拠を確保する
医療ミスの損害賠償請求は、最終的に訴訟で争うことになります。
訴訟を見据えた場合、医療ミスの事実を立証し得る証拠を確保しなければなりません。弁護士や医療専門家のサポートを受けながら、医療ミスの原因を徹底的に調査し、有力な証拠の確保に努めましょう。 -
(2)医療ミスの損害額を積算する
前述のとおり、医療ミスの賠償金にはさまざまな損害が含まれます。
適正額の損害賠償を獲得するためには、積極損害・休業損害・慰謝料・逸失利益を漏れなく請求することが大切です。医療ミスによって被った損害額を積算し、正しい金額で損害賠償を請求しましょう。 -
(3)損害賠償請求権の消滅時効に注意する
医療ミスの損害賠償請求権は、一定の期間が経過すると、時効により消滅します。つまり、損害賠償請求ができなくなるということです。
損害賠償請求権の時効完成は、内容証明郵便の送付や訴訟の提起などによって阻止することができます。医療ミスから時間が経った後で損害賠償を請求する場合には、お早めに弁護士までご相談ください。
なお、損害賠償請求権の消滅時効については「医療過誤の時効とは? 押さえておきたい医療訴訟の基礎知識」の記事で詳しく解説しています。
4、医療ミスにおける損害賠償請求の流れ
医療ミスの損害賠償請求を行う際の流れは、大まかに以下のとおりです。
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(1)弁護士への相談
医療過誤事件への対応には綿密な検討が必要であるため、まずは弁護士に相談することをおすすめいたします。
ただし、医療ミスによる問題を取り扱っていない・対応に慣れていないなどのケースもあるため、どの弁護士に相談をするかについては注意が必要です。
ベリーベスト法律事務所では、医師や医師兼弁護士との連携体制が整っており、医療調査・医療訴訟チームの弁護士が問題解決に向けて取り組んでまいります。お悩みの際には、ぜひ一度、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。 -
(2)請求の準備|医療調査・証拠の確保・見通しの検討など
医療ミスの損害賠償請求を行う際には、原因に関する医療調査や証拠の確保を試みた上で、請求の成否や所要期間に関する見通しを立てることが必要です。
不十分な準備で損害賠償請求を開始すると、不利な立場に立たされ、失敗して費用倒れになってしまうおそれがあります。弁護士のサポートを受けながら、十分な事前準備を整えた上で損害賠償請求を行いましょう。 -
(3)示談交渉
医療ミスに関する損害賠償請求は、まず医療機関側との示談交渉から始めるのが一般的です。
医療調査の結果などを示しながら、損害賠償請求権の存在を説得的に主張することで、医療機関側の譲歩を引き出せる可能性があります。
弁護士に依頼していれば、示談交渉についても弁護士に一任できるため、時間・労力・精神面の負担が軽減されます。 -
(4)医療ADR
医療ミスの紛争解決を図るには、各弁護士会が実施している「医療ADR」を活用することも考えられます。
医療ADRは、弁護士が仲裁人として、医師による専門的な意見を聴きつつ、医療紛争の公正な解決を図るというものです。医療ADRのメリットとしては、医療実務に即した紛争解決を迅速に実現できる可能性があるという点が挙げられます。
弁護士に、医療ADR申立ての代理を依頼することも可能です。 -
(5)訴訟
医療ミスに関する示談交渉が決裂し、医療ADRも不調に終わった場合には、最終手段として訴訟による解決を図りましょう。なお、示談交渉や医療ADR等を行わずにいきなり訴訟を提起することもできます。
訴訟では、患者側が損害賠償請求権の主張および立証をしなければなりません。具体的には、医師等がどのような注意義務を負い、実際にはどのような医療行為がなされ、どのような点で注意義務違反に当たるのかを適切に主張・立証する必要があります。
医療過誤訴訟による主張・立証にあたっては、専門的かつ困難な対応を迫られます。信頼できる弁護士のサポートを受けながら、根気強く対応しましょう。
5、まとめ
医療ミスについて、病院や医師などの損害賠償責任を追及する際には、医療調査を通じて十分な証拠を確保し、法的根拠に則った請求を行うことが大切です。まずは、実際に医療ミスと言えるのかどうか、確認していきましょう。
ベリーベスト法律事務所は、医療事故に関するご相談を随時受け付けております。ご自身やご家族が医療ミスの被害に遭ってしまったら、医師や医師兼弁護士との協力体制が万全に整っているベリーベスト法律事務所まで、ぜひ一度ご相談ください。
医療調査・医療訴訟チームに所属する弁護士が、お話をじっくりと伺いながら、今後どうしていくとよいのかを一緒に検討してまいります。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階(東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
- [代表電話]03-6234-1585 [ご相談窓口]0120-056-095
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。 - URL
- https://www.vbest.jp
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