医療過誤で生じる病院側の法的責任と注意すべき4つのこと

病院で病気や怪我の治療を受けたことで、重篤な後遺障害が生じてしまったり、最悪のケースでは死亡してしまったりすることもあります。このような医療過誤が生じた場合には、病院や医療従事者に対して、何らかの法的責任を追及したいとお考えの方もいらっしゃるでしょう。
医療過誤や医療事故の問題は、非常に専門的かつ複雑な分野です。被害を受けてしまった患者やその遺族の方だけでは、適切な法的責任の追及が難しいこともあるため、弁護士などのサポートが不可欠となります。
本コラムでは、医療過誤が発生した場合、病院側にどのような法的責任を追及できるのか、また、法的責任を追及する際の流れや注意点について、ベリーベスト法律事務所 医療調査・医療訴訟チームの弁護士が解説します。
1、病院側に追及できる医療過誤の法的責任
医療過誤が発生した場合には、病院側にどのような法的責任を追及することができるのでしょうか。医療過誤の基本と法的責任について、ここから解説します。
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(1)医療過誤とは
医療過誤とは、医療行為に関連して発生した予期せぬ結果(医療事故)のうち、病院側に過失があるものをいいます。
たとえば、手術部位、薬の量や投薬ルートの取り違えなどによって、患者の身体に障害が生じたり、死亡したりした場合には、医療過誤にあたる可能性があります。
医療行為は、人の手によって行われる以上、ミスをゼロにすることはできません。病院側の過失で医療過誤が生じた場合には、患者本人やそのご家族は、病院側に法的責任を追及することが可能です。 -
(2)医療過誤によって生じる法的責任
医療過誤によって病院側に生じる法的責任には、民事上の責任、刑事上の責任、行政上の責任の3つがあります。なお、患者側が病院側に責任追及をするという場合には、民事上の責任を追及していくことになります。
① 医療過誤の民事責任
医療過誤の民事責任とは、病院側に対して損害賠償責任を追及することをいいます。
医療過誤が発生した場合には、後遺症や死亡という予期せぬ結果が生じて、患者にはさまざまな損害が発生します。このような損害について、医療過誤を生じさせた病院側に対して損害賠償請求をすることが可能です。
② 医療過誤の刑事責任
医療過誤の刑事責任とは、医療過誤を生じさせた医療従事者に対して、刑罰が科されることをいいます。
医療過誤によって、患者に傷害を負わせたり、死亡させてしまったりした場合には、業務上過失致死傷罪が成立する可能性があります(刑法211条)。業務上過失致死傷罪が成立した場合には、5年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金に処せられます。
このような刑事責任は、検察官による起訴とそれに続く刑事裁判という形で責任追及がなされます。
③ 医療過誤の行政責任
医療過誤の行政責任とは、厚生労働大臣が医療従事者に対して行う以下の処分のことをいいます。- 戒告
- 3年以内の医業の停止
- 免許の取り消し
医師や看護師は、国から与えられた免許に基づいて業務を行っていますが、医療過誤により罰金刑以上の刑事罰が科された場合には、上記の行政処分がなされることがあります。
2、民事責任を問う(損害賠償請求を行う)ための条件
医療過誤で病院側の民事責任を問うためには、必要な条件を満たさなければなりません。
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(1)病院側に過失があること
病院側に損害賠償請求をする場合には、不法行為または債務不履行の法律構成によって請求することになります。不法行為では「過失」を、債務不履行では「帰責事由」を立証していくことになりますが、基本的にはどちらも同じ内容だと考えられているものです。
過失とは、結果が予見でき、結果が回避可能であったにもかかわらず、その回避を怠ったことをいいます。医療過誤でいえば、「○○という症状や検査結果から○○を疑い、○○をするべきであったにもかかわらず、これを怠った」ということになります。
医療過誤の責任追及をする場合には、過失を特定して、主張立証していかなければなりません。これらの過失を立証するためには、カルテや検査結果などの証拠収集が重要です。 -
(2)患者側に損害が発生していること
民事責任を追及するときは、患者側に発生している損害の賠償を求めていきます。
<医療過誤によって生じる損害の代表的なもの>- 治療費
- 入院雑費
- 付添看護費
- 通院交通費
- 慰謝料(傷害慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料)
- 休業損害
- 逸失利益
- 将来介護費
- 葬儀費用
医療過誤によって患者が亡くなっている場合には、患者の遺族(相続人)が患者本人の損害賠償請求権を相続により承継したものとして、病院側に対し損害賠償請求をしていくことになります。また、患者が医療過誤によって亡くなったことによる患者の遺族の精神的損害として慰謝料請求をすることもあります。
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(3)医療行為と損害との間に因果関係があること
因果関係とは、「あれ(行為)なければ、これ(結果)なし」という関係のことをいいます。医療過誤でいえば、「当該医療行為がなければ、患者が死亡する(または後遺障害が生じる)ことはなかった」という関係です。
医療過誤の事案では、病院側の過失の有無とともに、因果関係の有無についても激しく争われることが多いのが現状です。
3、医療過誤における損害賠償請求の流れ
医療過誤における損害賠償請求は、どのように行っていくのでしょうか。一般的な損害賠償請求の流れを確認していきましょう。
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(1)弁護士に相談
医療過誤の問題は、非常に専門的かつ複雑な分野であるため、個人で病院側の責任を追及していくことは困難です。「医療過誤かもしれない」と疑いが生じた場合には、まずは弁護士に相談するようにしましょう。
医療問題は、一般的な法律問題とは異なり、弁護士であれば誰でも対応できる問題ではありません。そのため、豊富な解決実績のある弁護士に相談するのがおすすめです。 -
(2)医療調査
医療過誤の事案は、弁護士に相談すればすぐに病院側の法的責任の有無を判断してもらえるわけではありません。
通常は、弁護士による医療調査によって病院側の法的責任の有無を調査し、法的責任が見込まれる場合に、責任追及手続きについての委任契約を締結することになります。<弁護士が行う医療調査>- 診療記録の入手(証拠保全、カルテ開示)
- 診療記録の分析
- 医学文献の調査
- 協力医の意見聴取
- 説明会の実施等
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(3)示談交渉
医療調査の結果、病院側に医療過誤の法的責任があると考えられる場合には、病院側と示談交渉を行います。
病院側が法的責任を大筋で認め、損害額でも大きな争いが存在しない場合には、病院との示談交渉によって示談が成立することもあります。
他方、病院が法的責任を否定している場合や損害額に大きな争いがある場合には、示談での解決は困難であるため、後述する法的手段による解決を検討することが必要です。 -
(4)調停や医療ADR
医療過誤に関する紛争を解決する方法としては、訴訟以外にも民事調停や医療ADRという方法もあります。
民事調停とは、簡易裁判所で行われる手続きです。調停委員会の関与のもと、当事者双方で話し合いを行い、お互いに譲歩することで紛争を解決する方法になります。
医療ADRとは、民事調停と同様に話し合いによる自主的な紛争解決方法ですが、裁判所外の機関で行われるものです。医療紛争の経験豊富な弁護士が仲裁委員として関与し、第三者の医師の意見を聞くことができるなどの特徴があります。
訴訟に比べて短期間で解決できるといったメリットがあるため、訴訟提起前に調停や医療ADRを利用することも有効な手段といえるでしょう。 -
(5)訴訟
病院側との示談交渉および調停・医療ADRで解決できない問題については、最終的に裁判所に訴訟を提起して解決を図ることが必要です。
訴訟では、原告(患者側)と被告(病院側)の双方が医療過誤に関する主張立証をしていくことになります。しかし、裁判手続きの知識だけではなく、医学的知識も不可欠となるため、弁護士のサポートがなければ適切に進めていくのは困難だといえます。
4、医療過誤の責任追及で注意したい4つのポイント
医療過誤で病院側の民事責任を追及する場合には、いくつか注意するべきことがあります。
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(1)民事責任の追及には時効がある
医療過誤による民事責任を追及する場合には、消滅時効という期間制限があります。
医療過誤の損害賠償請求では、不法行為に基づく損害賠償請求と債務不履行に基づく損害賠償請求という2つの法律構成が考えられ、どちらの法律構成で請求するかによって、時効期間が異なってきます。① 不法行為に基づく損害賠償請求
生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求では、「損害および加害者を知ったときから5年」または「医療過誤が生じたときから20年」が時効です。
なお、医療過誤の発生が令和2年3月31日以前であった場合には、改正前民法が適用され、「損害および加害者を知ったときから3年」または「医療過誤のときから20年」で時効になります。
② 債務不履行に基づく損害賠償請求
債務不履行に基づく損害賠償請求では、「権利を行使できることを知ったときから5年」または「権利を行使できるときから20年」が時効です。
なお、医療過誤の発生が令和2年3月31日以前であった場合には、改正前民法が適用され、「権利を行使できるときから10年」で時効になります。 -
(2)医療機関と医療従事者双方から賠償金の二重取りはできない
医療過誤の損害賠償請求は、過失によって医療過誤を起こした医療従事者とその使用者である医療機関の双方に対して行うことが可能です。ただし、双方に対して請求できるとはいっても、賠償金の二重取りをすることはできません。
すなわち、病院から満額の賠償金が支払われた場合には、医療従事者からは賠償金の支払いを受けることはできません。
一般的には、使用者責任に基づいて医療従事者の使用者である病院を被告にすることが多いですが、医師や看護師などの医療従事者の対応があまりにもひどいケースでは、医療従事者個人も被告にすることがあります。 -
(3)解決までに長期間を要する
医療過誤の裁判は、争点整理、証拠調べ、鑑定、判決(和解)という流れで進みますが、これ自体は通常の裁判と大きく異なるものではありません。
しかし、医療過誤訴訟では、病院側の過失や因果関係の有無をめぐって、大量の診療記録、医学文献、専門医の意見書などの証拠を提出し、主張立証が繰り広げられていきます。
そのため、争点整理を終えるまでに非常に長期間を要することになります。
一般的な裁判であれば、1年以内に審理が終了するケースが多いですが、医療過誤訴訟では2年以上の期間を要することも珍しくありません。 -
(4)専門的な問題であるため弁護士のサポートが不可欠
医療過誤事件で病院側に責任を認めさせ、適正な賠償額を支払ってもらうには、非常に複雑かつ専門的な対応が必要です。
医療調査により十分な証拠収集を行い、専門医との協力を得るなどして病院側の法的責任の有無を判断しなければなりませんが、このような対応は、患者個人で行うことは非常に困難だといえるでしょう。
弁護士に依頼をすることで、複雑な医療過誤事件についても、患者側として最大限の損害賠償を獲得できるようサポートが受けられます。医療過誤事件では、弁護士のサポートが不可欠であるため、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
5、まとめ
医療過誤が発生すると、病院側には、民事上の責任、刑事上の責任、行政上の責任という3つの責任が生じます。被害を受けた患者側は、民事責任として、病院側に対して損害賠償請求を検討しましょう。
しかし、医療過誤事件は、法律だけでなく医学の知識も必要になるなど非常の専門的かつ複雑な分野です。そのため、弁護士のサポートなしでは、病院側の責任を追及することは困難といえます。
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- 2010年12月16日
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