産婦人科
2024年08月08日

出産時の大量出血で死亡|医師の過失を問うときのポイントとは

出産は新しい命を迎える幸せに満ちた出来事であるはずですが、母親もしくは胎児に後遺障害が生じる・死亡に至るなど、予想外の結果を招くこともあります。

そんなとき、「医師の処置は適切だったのだろうか」「責任を取ってくれないか」と、どうしようもなく深い悲しみを抱えてしまう方がいるはずです。

本コラムでは、妊産婦死亡率と周産期死亡率や死亡に至る原因、医療過誤として医師に責任を問うときのポイントなどについて、ベリーベスト法律事務所 医療調査・医療訴訟チームの弁護士が解説します。

1、妊産婦と周産期の定義とは? 妊産婦死亡率と周産期死亡率

出産において、どのくらいの方が死亡に至ってしまうのか、日本国内における妊産婦死亡や周産期死亡の現状を見ていきましょう。

  1. (1)妊産婦と周産期の定義

    妊産婦とは、母子保健法において「妊娠中または出産後1年以内の女子」と定義されています。

    この大切な期間、女性の身体は多くの変化を経験し、健康上のリスクも高まります。そのため、適切な医療面でのサポートやケア、配慮が欠かせません。

    周産期とは、妊娠22週(または胎児体重が500gに達した時期)から生後満7日が終了するまでの期間を指します。

    妊産婦と同じように、胎児および新生児の身体も繊細であり、健康のリスクが高まっている時期です。妊産婦と同様に、胎児や新生児にも医療面のサポートやケア、配慮が求められます。

  2. (2)妊産婦死亡率と周産期死亡率

    妊産婦死亡率は、出産10万人あたり、どのくらい妊産婦が亡くなったのかを示す指標です。

    厚生労働省が公表する「人口動態統計」のデータによると、令和3年(2021年)の妊産婦死亡者数は21名で死亡率2.5%とのことでした。

    下記の表のとおり、妊産婦で死亡してしまった方や死亡率は年々減少傾向にありますが、直近10年を見ても、毎年20人以上の妊産婦が亡くなっています。


    和暦(西暦) 妊産婦の死亡者数 妊産婦死亡率
    平成24年(2012年) 42名 4.0%
    平成25年(2013年) 36名 3.4%
    平成26年(2014年) 28名 2.7%
    平成27年(2015年) 39名 3.8%
    平成28年(2016年) 34名 3.4%
    平成29年(2017年) 33名 3.4%
    平成30年(2018年) 31名 3.3%
    平成31年、令和元年(2019年) 29名 3.3%
    令和2年(2020年) 23名 2.7%
    令和3年(2021年) 21名 2.5%

    周産期死亡率は、出産1000回あたりの死産と早期新生児死亡(生後7日以内)の数を示します。

    こちらも同データによると、令和3年(2021年)の周産期の死亡者数2741名で死亡率3.4%とのことでした。下記の表のとおり、周産期に死亡してしまった方の人数は大幅に減っていますが、死亡率は若干の低下にとどまっています。


    和暦(西暦) 周産期の死亡者数 周産期死亡率
    平成24年(2012年) 4133名 4.0%
    平成25年(2013年) 3862名 3.7%
    平成26年(2014年) 3751名 3.7%
    平成27年(2015年) 3729名 3.7%
    平成28年(2016年) 3518名 3.6%
    平成29年(2017年) 3309名 3.5%
    平成30年(2018年) 2999名 3.3%
    平成31年、令和元年(2019年) 2955名 3.4%
    令和2年(2020年) 2664名 3.2%
    令和3年(2021年) 2741名 3.4%
  3. (3)妊産婦が死亡に至る最多の原因は「産科危機的出血」

    産科危機的出血は、分娩時に起こり得る深刻なリスクのひとつです。

    日本産婦人科医会が338例の妊産婦死亡を解析した結果によると、死亡に至った原因としてもっとも多かったのが、産科危機的出血だったといいます

    産科危機的出血と判断される状況としては、分娩時に出血が止まらなかったり、心拍数と血圧から計算されるショックインデックスの数値が上昇したり、大量出血によって全身の血液が凝固しやすい状態になったりした場合です。このような状況に陥った際は、母親(母体)は直ちに輸血や専門的な病院への搬送といった対処が取られます。

    なおショックインデックスについては、その数値が1.5以上になると産科危機的出血と判断されます。このときの出血量は2.5リットルであると推測され、大量出血が起きていることがこの数値からもうかがい知ることができるでしょう。

    前述のとおり、直近は妊産婦の死亡者数は徐々に減少していますが、その背景には医療スタッフが産科出血に適切に対応できるようになっていることがあります。
    しかし、それでも産科危機的出血への対応には課題も残っているとされており、出産時の出血がいまだに命を脅かしているのが現状です。

2、出産において大量出血が起こる原因

愛する人が出産時に出血があったことで亡くなったとき、その悲しみは言葉では表せません。しかし、そのような悲劇を乗り越えるためには、産科危機的出血の原因を理解することも大切です。

日本産婦人科医会によると、産科危機的出血の種類としては、妊娠22週から陣痛発来までに起こる「分娩前異常出血」、陣痛発来から分娩後2時間までの「分娩時異常出血」、胎盤娩出から分娩後12週間までの「分娩後異常出血」の3つに分けられます

それぞれの出血につながる主な原因について、解説します。

  1. (1)分娩前異常出血

    分娩の前に出血が起こるケースでは、① 前置胎盤、② 常位胎盤早期剝離といった原因が考えられます。


    ① 前置胎盤
    通常は子宮の上部にある胎盤が、子宮の出口近くに付着している状態です。胎盤が付着することで組織がもろくなり、分娩前にここから出血しやすくなります。
    また、前置胎盤は出産のときの正常な分娩を妨げるため、分娩時異常出血の原因にもなり得ます。前置胎盤の部分から大量出血が起こる可能性があります。

    ② 常位胎盤早期剝離
    正常な位置に胎盤があるものの、何らかの理由で早く剥がれてしまう症状です。胎盤の付着部分は組織がもろく、出血しやすくなります。
    また、胎児が酸素不足になることで脳性麻痺などの後遺障害が生じてしまったり、母親・胎児が死亡してしまったりすることもあります。
  2. (2)分娩時異常出血

    分娩の最中に出血するケースでは、① 産道の裂傷、② 胎盤の部分的剝離、③ 癒着胎盤といった原因が考えられます。


    ① 産道の裂傷
    分娩時には、産道が切れたり割けたりすることがあります。この場合、破れた血管から出血が起こります。また、分娩後異常出血の原因にもなり得るケースです。

    ② 胎盤の部分的剝離
    胎盤が早めに剥がれてくる状態です。胎盤の付着部分の組織がもろいために、出血しやすくなります。

    ③ 癒着胎盤
    胎盤と子宮の間には通常、「脱落膜」と呼ばれる層があります。この膜がないと、胎盤が子宮から剥がれにくくなります。分娩時に癒着胎盤を無理に剥がすと、大量出血を起こす恐れがあります。
  3. (3)分娩後異常出血

    分娩後に出血が生じる原因としては、① 弛緩出血、② 子宮内反症などが挙げられます。


    ① 弛緩出血
    通常、分娩が済むと、子宮が収縮して分娩に伴う出血は止まるようになります。
    しかし、何らかの理由により子宮がうまく収縮しない場合があり、これを弛緩出血といいます。この場合、傷ついた血管から出血が止まりづらくなるため、大量出血となるケースがあります。

    ② 子宮内反症
    子宮が裏返しになって、膣内や膣外に飛び出す状態です。胎盤を剥がすときに子宮が引っ張られることで起こる場合があり、剥がれた胎盤から出血が続くことがあります。

3、出産時の死亡で医師に責任を問うときのポイント

出産による大量出血で愛する人が死亡に至ってしまったとき、医師の責任を問うためには、いくつかのポイントを押さえておくことが大切です。

  1. (1)医療過誤の責任を負う主体

    大量出血で出産時に死亡してしまったケースは、医師や看護師などの医療スタッフ、および病院やクリニックなど、医療機関に対する責任追及が考えられます


    ① 医師や看護師などの医療スタッフ
    医師や看護師などの医療スタッフの落ち度により、分娩時に大量出血が起き、母親が死亡してしまった場合には、医師や看護師などの医療スタッフ個人に対して、法的責任を問うことができます。

    ② 病院などの医療機関
    病院などの医療機関は、直接、医療行為をしているわけではありません。しかし、医療機関と患者との間には、診療契約が締結されていますので、診療契約上の注意義務違反があったといえるケースにおいては、医療機関の責任を問うことが可能です。
    また、医療機関が雇用する医師や看護師などの医療スタッフの不法行為があった場合には、使用者責任に基づき医療機関側の責任を問うことができます。

    もっとも、病院などの法的責任を追及できるケースでは、賠償金の支払い能力の観点から、医療機関を相手方にするケースが多いです。

  2. (2)医師などに故意または過失、注意義務違反があること

    分娩時の大量出血が原因で妊産婦が死亡してしまったとしても、それだけでは、医師や医療機関側の責任を問うことはできません。

    医師や医療機関側の責任を問うためには、産科危機的出血が生じた場合に、「大量出血に対する処置や転医措置が遅れたことに過失や注意義務違反があった」といえることが必要です

    死亡という結果だけを捉えて責任追及を考える方もいますが、医師の過失や注意義務違反がなく死亡に至ったというケースでは、医師や医療機関側の責任追及をするのは難しいといえます。

  3. (3)死亡との間に因果関係があること

    医師または医療機関側の責任を問うためには、医師の過失や注意義務違反と母体死亡という結果との間に因果関係が必要になります

    つまり、医師に過失や注意義務違反があったとしても、死亡という結果が避けられないものであった場合には、因果関係が否定されるために責任追及することはできません。

4、医師に対する責任追及で弁護士に相談するべき理由

医師や医療機関側に対する責任追及をお考えの方は、弁護士への相談をおすすめします。

  1. (1)責任追及できるかどうかの判断ができる

    出産時の大量出血を理由に妊産婦が死亡してしまった場合、医師や医療機関側への責任追及を考える方も少なくないでしょう。

    しかし、責任追及をするためには、過失や注意義務違反、因果関係といった法的判断が必要になりますので、一般の方では正確に医療機関側の責任の有無を判断するのが難しいといえます。

    弁護士に相談すれば、責任追及が可能かどうかの判断を示してもらえるため、今後の方針を明確にすることができるでしょう

  2. (2)カルテ開示を依頼できる

    医療機関側への責任追及にあたっては、被害患者側で相手方の責任を立証することが必要です。そのためにも証拠が不可欠になりますが、医療過誤の事案では、カルテなどの証拠のほとんどは医療機関側に存在しています。

    カルテなどの証拠を入手するためには、カルテの開示を求めていくことが必要です。その方法としては、大きく分けて「任意開示請求」と「証拠保全」の2つがあります。

    どのような方法でカルテの開示を行うのかは、相手方の態度によって変わってきます。
    医師や医療機関側によるカルテ改ざんの恐れがある場合には、証拠保全による方法をとる必要があるため、大切な証拠が処分されてしまう前に、まずは弁護士にご相談ください。

  3. (3)交渉や調停、訴訟などでサポートを受けられる

    医師や医療機関側の責任を立証できるだけの十分な証拠が確保できたら、相手方との交渉により損害賠償の支払いを求めていきます。

    相手方が責任を認めている事案であれば、交渉により解決できるものもありますが、そうでない事案については、調停や訴訟といった法的手続きが必要です

    弁護士に依頼をすれば、交渉や調停、訴訟などでサポートを受けることができます。
    医療過誤の問題は、解決まで長期間を要することも珍しくなく、個人で戦うのは精神的にも非常に苦しいものです。早めに弁護士に相談して、サポートしてもらうとよいでしょう。

5、まとめ

出産時の大量出血により、愛する人が死亡してしまったとき、医師に過失や注意義務違反があれば、医療機関側に対する責任追及が可能です。

医療機関側の責任の有無を判断するにあたっては、法的判断が必要になりますので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

ベリーベスト法律事務所には、経験豊富な弁護士を中心とした医療調査・医療訴訟チームを組成しています。複雑な医療過誤の事案でも適切に問題解決に導きますので、医療過誤による責任追及を考えている方は、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階(東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585 [ご相談窓口]0120-056-095
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URL
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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