産婦人科
2023年12月07日

産婦人科を訴えたい! 訴訟に関する基礎知識と注意点を弁護士が解説

「帝王切開の後、子どもに後遺障害が残った」「手術後に出血が続き、子宮を摘出された」「出産中の容態急変により、妻が死亡した」

このような出産中のトラブルが生じた場合、担当していた産婦人科医や病院に責任があるのではないかと疑うのは無理のないことです。

出産はリスクを伴うものであり、常に産婦人科医や病院の法的責任が発生するわけではありません。それでも、悪質な医療ミスのケースは一定数存在するため、訴訟の提起から争いとなるケースもあります。

本コラムでは、産婦人科に対する医療訴訟(医療過誤訴訟)について、手続きの流れや準備すべきこと、裁判例などをベリーベスト法律事務所 医療調査・医療訴訟チームの弁護士が解説します。

1、訴訟とは?

出産等に関する産婦人科(医療機関)とのトラブルは、最終的には訴訟によって解決します。まずは訴訟について、知っておくべき基本的な事柄を解説します。

  1. (1)訴訟=紛争解決の最終手段

    訴訟とは、裁判所の公開法廷で行われる紛争解決手続きです。

    訴訟には、以下の3種類があります。

    ① 民事訴訟
    私人(個人、法人)の間の紛争を解決する訴訟手続きです。
    訴訟例:損害賠償請求訴訟、不動産明渡請求訴訟、離婚訴訟など

    ② 刑事訴訟
    犯罪の疑いがある被告人について、有罪・無罪および量刑を判断する訴訟手続きです。

    ③ 行政訴訟
    行政処分の取り消しなどを争う訴訟手続きです。

    ※憲法上の論点が争われる訴訟を「憲法訴訟」と呼ぶことがありますが、憲法訴訟も上記いずれかの類型の訴訟に該当します

    出産等に関して産婦人科での医療ミスを主張する場合は、民事訴訟の一種である損害賠償請求訴訟を争うことになりますこのことを、医療訴訟(医療過誤訴訟)といいます

    訴訟の判決が確定すると、同じ争いについて結論を蒸し返すことはできません。これを「既判力」といいます。既判力によって、訴訟は紛争解決の最終手段として位置づけられているのです。

  2. (2)訴訟を提起する前に「示談交渉」を行うのが一般的

    民事訴訟の判決が確定するまでに、長い期間がかかるケースも多くあります。特に医療訴訟については、数年単位の期間を要することも少なくありません

    そのため、裁判所に訴訟を提起する前に、示談交渉などによって紛争解決を図るのが一般的です。当事者間で示談交渉がまとまれば、早期に紛争を解決できます。

    産婦人科での医療過誤を理由とする損害賠償請求についても、その多くは、まず示談交渉によって解決を目指します。

  3. (3)訴訟手続きの基本的な流れ

    訴訟手続きは、大まかに ①訴状等の提出 ②答弁書等の提出 ③口頭弁論期日 ④和解または判決 ⑤控訴・上告 ⑥判決の確定 という流れで進んでいきます。
    それぞれどういうことを行うのかについても、見ていきましょう。

    ① 訴状等の提出
    裁判所に訴状を提出して、訴訟を提起します。訴状には、原告(=訴訟を提起する人)が求める判決の内容と、その法的根拠に当たる事実を記載することが必要です。このとき、訴状記載の事実を立証するための証拠資料も、併せて裁判所に提出します。

    ② 答弁書等の提出
    被告(=原告から見た紛争の相手方)は第1回の口頭弁論期日までに、裁判所に対して、訴状への反論を記載した答弁書を提出しなければなりません。被告側として立証すべき事実がある場合は、その事実を記載した上で、証拠資料を裁判所に提出します。

    ③ 口頭弁論期日
    裁判所の公開法廷において、原告と被告が互いに主張・立証を行う口頭弁論期日が開催されます。口頭弁論期日では、証拠調べや証人尋問・当事者尋問などが行われます。
    「審理が熟した」と裁判所が判断するまで、口頭弁論期日は繰り返されます。

    なお口頭弁論期日の合間に、争点整理を目的とした手続き(弁論準備手続・書面による準備手続)が非公開で行われることもあります。

    ④ 和解または判決
    民事訴訟は、当事者の合意によって和解で終わることもあります。和解成立となったら、確定判決と同一の効力を有する和解調書が作成されます。
    和解が成立しない場合は、口頭弁論終結後に裁判所が判決を言い渡します。

    ⑤ 控訴・上告
    第一審の判決に対して不服がある際は、上級の裁判所に控訴することができます。控訴審判決(第二審)に対しては、さらに上級の裁判所への上告が認められます。控訴・上告の期間は、いずれも判決正本の送達を受けた日の翌日から起算して2週間以内です。

    ⑥ 判決の確定
    控訴・上告の手続きを経て、判決が確定となります。また、決められた期間中に適法な控訴・上告がなかった場合も、判決が確定することにご留意ください。

    原告の請求を認容する判決が確定した場合は、確定判決を用いて裁判所に強制執行を申し立てることができます。

2、産婦人科に対して訴訟を提起する前に準備すべきこと

出産に関する医療過誤を理由として、産婦人科に対して訴訟を提起する場合は、以下の4つの準備を整えましょう。

  1. (1)医療訴訟の実情を理解する

    医療訴訟は、通常の訴訟に比べると、被害患者側(原告)にとって厳しい戦いになるケースが多いです。

    訴訟では、原告の請求が必ず認められるわけではありません。特に医療訴訟は、因果関係や医師の注意義務違反の立証が難しく、原告が敗訴することもあります
    また、医療訴訟の多くは数年単位の期間を要するため、長期戦を想定することが必要です。

    医療訴訟を提起する際には、これらの注意点をよく理解した上で、徹底的に戦う覚悟を決めなければなりません。

  2. (2)十分な医療調査を行う

    実際に医療訴訟を提起する際には、「産婦人科医や病院に過失があった」という損害賠償責任を立証する必要があります。しかし、手術や診療は医療機関の中で行われるため、被害患者が損害賠償責任の発生要件を立証することは容易ではありません。産婦人科だからこそ、過失証明が難しいポイントもあります。

    産婦人科医や病院に対する医療訴訟での立証を成功させるためには、医学専門家による医療調査が必要不可欠です。損害賠償請求訴訟を提起する前に、十分な医療調査を行って準備を整えましょう。

  3. (3)損害賠償の見込みについて、弁護士にアドバイスを求める

    医療訴訟は、患者側の勝訴率が低い傾向にあります。
    そうすると、「医療訴訟を提起しないほうがよいのではないか」と考える方もいらっしゃいますが、訴訟の途中で和解に至るなど、勝訴率に含まれないような結果で解決するケースもあるため、「医療訴訟を提起しないほうがよい」というわけではありません。

    しかし、敗訴を避けるためにも、事前に「損害賠償請求したら、どうなりそうか」という見通しを立てることが大切です

    医療過誤・医療事故の問題を受け付けている弁護士に相談することで、訴訟で勝てる見込みがどの程度あるのかといったアドバイスを受けることができるため、弁護士への相談を検討するとよいでしょう。

  4. (4)弁護士を訴訟代理人に選任する

    訴訟手続き自体が専門的な手続きである上に、医療訴訟の多くは主張・立証に困難を伴います。そのため、弁護士を訴訟代理人に選任して、訴訟対応を一任することがおすすめです

    医療訴訟の知見豊富な弁護士を訴訟代理人に選任すれば、適切な準備を経て主張・立証を行うことにより、被害患者側の勝訴の可能性が高まります。

3、産科医療補償制度|出産に関連した新生児の脳性麻痺について申請可能

産婦人科医や病院に対して医療訴訟を提起する前に、別の方法によって救済を受けることができないかについても検討しましょう。利用できる救済制度があれば、医療訴訟に比べて迅速に補償を受けられるからです。

一例として、分娩に関連して子どもが重度の脳性麻痺になった場合は、「産科医療補償制度」により総額3000万円の補償金を受給することができます。
公益財団法人日本医療機能評価機構のウェブサイト「産科医療補償制度の補償申請について」を参照して、受給要件や手続きなどをご確認ください。

なお、産科医療補償制度の補償金は、医療機関側が支払う損害賠償金に充当されます。そのため、医療訴訟で勝訴した場合には、医療機関が支払う損害賠償金から、すでに受け取っている補償金は差し引かれることになります。

4、産婦人科に対する医療訴訟の2つの事例

出産に関する産婦人科の医療過誤を理由に、損害賠償請求が争われた裁判例を2つ紹介します。

  1. (1)福島地裁平成25年9月17日判決

    「帝王切開後の経膣分娩」で生まれた新生児が、低酸素性虚血性脳症等で死亡したことについて、両親が医療機関に損害賠償を請求した事案です。

    裁判所は、帝王切開後の経膣分娩は帝王切開歴のない妊婦の経膣分娩と比べて子宮破裂のリスクが高く、子宮破裂が発生した場合には迅速に帝王切開に切り替える必要があることから、子宮破裂の徴候がないかの継続監視が重要とされるところ、主治医がこれを怠り子宮破裂の兆候を見落とした結果、新生児が低酸素性虚血性脳症となり、死亡につながったとして、医療機関側の過失を認定しました。

    その上で、新生児の損害として4472万7109円、近親者固有の慰謝料として両親に各200万円などを認定し、医療機関に対し総額4312万7108円の損害賠償と遅延損害金の支払いを命じました。

  2. (2)広島地裁福山支部平成28年8月3日判決

    新生児仮死状態で出生した新生児に脳性麻痺による後遺障害が残ったことについて、新生児本人および両親が医療機関に損害賠償を請求した事案です。

    裁判所は、医療機関側が陣痛促進剤の添付文書記載の注意事項に従わず、一度に多くの量を母体に投与したことによって胎児が低酸素状態に曝されたことが、新生児仮死状態による出生の原因となったことを認定しました。
    さらに、急速遂娩(緊急帝王切開)の実施を怠ったことについても、医療機関側の過失を認定しました。

    その上で、新生児の損害として1億3871万3613円、両親には近親者固有の損害として各165万円を認定し、医療機関に対し総額1億4201万3613円の損害賠償と遅延損害金の支払を命じました。

5、まとめ

出産に関する医療過誤を理由に、産婦人科に対して訴訟を提起する際には、長期戦を覚悟して入念に準備を整えなければなりません。また、勝訴の見込みがどの程度あるかを事前に見積もり、納得できる形で訴訟提起の判断をすることも大切です。

ベリーベスト法律事務所は、医療訴訟に関するご相談を随時受け付けております。訴訟の見通しについて客観的な視点からアドバイスするとともに、医療調査や訴訟代理についても全面的にご対応可能です
また、医療調査・医療訴訟チームを編成しているだけでなく、弁護士兼医師との連携体制も整っており、複雑な医療過誤の問題でも綿密な検討から方策立てまで行うことができます。

産婦人科に対する訴訟提起をご検討中の方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階(東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585 [ご相談窓口]0120-056-095
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
https://www.vbest.jp
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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