産婦人科
2023年10月12日

帝王切開をした最愛の妻が死亡|遺族として医療機関側へ責任を追及できるのか

待ちに待った出産日。しかし、帝王切開手術の際の医療事故が原因で、とても大切にしていた最愛の妻が死亡に至ってしまったというケースもゼロではありません。

実際に帝王切開手術の際に母親が死亡してしまった場合、遺族側は医療機関側に対して損害賠償や慰謝料を請求できることがあります。医療機関側に対して損害賠償請求等をするためには、専門的な主張、立証が必要となります。医療機関側に対する損害賠償請求等を行う際には、事前に弁護士へご相談ください。

本コラムでは、帝王切開により妻が死亡してしまったケースでの損害賠償請求が認められた裁判例などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、帝王切開は母体死亡のリスクがある

出産時に自然分娩(経膣分娩)が困難な事情があるとき、帝王切開が行われることもあります。帝王切開の母体死亡率は、周産期医療の発達した日本では高くはありません。しかし、それでも母体が死亡してしまうようなケースがあるため、遺族と医療機関の間で深刻なトラブルが発生することが多くあります
そこで、まずは、帝王切開とはどういうものなのかを解説していきます。

  1. (1)帝王切開とは

    帝王切開とは、母体の下腹部と子宮を切開して胎児を取り出す分娩方法をいいます。
    帝王切開が行われるのは、何らかの事情により自然分娩(経膣分娩)には危険が伴う場合や、母体または胎児のいずれかに危機が迫った場合等です

    また帝王切開が行われる場合には、あらかじめ決まっている「予定帝王切開」と、自然分娩の予定を変更して行われる「緊急帝王切開」があります。

    <予定帝王切開の例>
    • 逆子の場合
    • 多胎妊娠の場合
    • 過去に帝王切開で出産したことがある場合
    • 子宮の手術歴がある場合
    • 前置胎盤の場合(胎盤が子宮口の全部または一部をふさいでいる場合)
    • 児童骨盤不適合の場合(胎児が母体の骨盤を通り抜けられない場合)
    • 母体が妊娠高血圧症候群の場合
    など

    <緊急帝王切開の例>
    • 自然分娩中に母体の状態が悪化した場合
    • 陣痛促進剤を投与しても効果がないなど、自然分娩が困難な場合
    • 常位胎盤早期剝離(胎盤が胎児の娩出前に子宮内で剝がれてしまうこと)が発生した場合
    • 胎児の回旋異常が発生した場合
    など
  2. (2)帝王切開により母体死亡に至る原因の例

    帝王切開は母体に何らかの異常がある状態で行われるケースが多いため、一般に自然分娩と比較して母体死亡のリスクは高いと考えられます。
    また、医師による手技上の過失(いわゆる医療ミスや医療過誤と呼ばれるもの)が原因で、帝王切開中に母体が死亡してしまうケースもあります。

    <帝王切開により母体死亡に至る原因の例>
    • 羊水塞栓(そくせん)症
    • 帝王切開中に羊水が母体の血中へ流入し、アナフィラキシーショックから死亡に至ることがあります。羊水塞栓症は、妊産婦死亡率が高い母体疾患として知られているものです。

    • 肺血栓塞栓(そくせん)症
    • 帝王切開後、母体の血管に血栓が生じることで死亡に至る場合があります。妊娠中・出産後は血液の凝固機能が向上したり、ホルモンの分泌量増加があったりするなど、さまざまな理由から母体内に血栓ができやすくなっています。

    • 帝王切開時の出血コントロール不良
    • 帝王切開中に母体内に突如多量の出血が生じ、出血をコントロールしきれなかった場合に母体死亡に至るケースがあります。

    • 麻酔に起因するトラブル
    • 全身麻酔中の呼吸コントロールのミスや、麻酔に伴う合併症などにより、母体死亡に至るケースがあります。

2、妻が帝王切開で死亡した場合、医療機関側の責任を問えるのか?

帝王切開は、適切な方法で行われた場合でも母体死亡のリスクを伴う手術です。
したがって、「帝王切開中に妻が死亡してしまった」というようなすべてのケースについて、医療機関側が損害賠償責任を負うわけではありません。しかし、現実には、帝王切開手術中の医療ミスが原因で母体死亡に至るケースもあります
遺族が医療機関側に対して損害賠償を請求するためには、遺族側が民法における債務不履行責任または不法行為責任の要件を主張、立証することが必要です。

  1. (1)損害賠償請求権の発生要件|債務不履行・不法行為

    帝王切開中の医療ミスに関する医療機関側の損害賠償責任は、医療機関側の債務不履行または不法行為を原因として発生します。

    債務不履行・不法行為責任が発生するための各要件は、以下のとおりです。

    • 債務不履行
    • 医療機関側が、その責めに帰すべき事由により診療契約上の注意義務に違反したこと、および注意義務違反と母体死亡の間に因果関係があること

    • 不法行為
    • 医療機関側の故意または過失行為によって母体が死亡したこと

    なお、医療機関側の注意義務違反や過失の有無は、帝王切開当時の医療水準を基準に判断されます。

  2. (2)帝王切開による母体死亡について、医療機関側が責任を負うケースの例

    たとえば、以下のようなケースでは、帝王切開による母体死亡について、医療機関側が遺族に対する損害賠償責任を負うと考えられます

    • 帝王切開を選択すべきでないケースにおいて、医師の判断で母体に対し帝王切開を選択した結果、母体が死亡した
    • 全身麻酔中の適切な呼吸管理を怠った結果、母体が呼吸困難に陥り、母体が死亡した
    • 帝王切開中に出血した母体について、適切な止血措置を怠った結果、出血多量で母体が死亡した
    • 帝王切開後、母体に肺血栓塞栓(そくせん)症の症状が見られたのに、高次医療機関に転院させるなどの措置を行わなかったことで母体が死亡した
    など

    これに対して、母体に羊水塞栓症や常位胎盤早期剝離などが発症した場合、手術による母体の救命が不可能と判断され、医療機関側の損害賠償責任が認められないケースもあります。

3、帝王切開時の母体死亡について損害賠償請求が認められた裁判例

帝王切開時の母体死亡について、遺族による損害賠償請求が認められた2つの裁判例を紹介します。

  1. (1)東京地裁平成16年5月27日判決

    帝王切開および子宮筋腫核出術を受けた母体が肺塞栓症を発症して死亡し、その親が医療機関側に損害賠償を請求した事案です。

    東京地裁は原告の主張のうち、担当医師が手術中の母体の低酸素状態を認識した後、速やかに人工呼吸器の設定を変更する呼吸管理の義務と、当該義務の違反を認定しました。
    その上で医療機関側に対して、遺族固有の慰謝料として200万円の支払いを命じました。

    但し、本件では、医療機関側を訴えた原告が母体の親であり、母体の相続権者でなかったため、遺族固有の慰謝料(民法第711条)が認められるにとどまりました。

    仮に原告が死亡した母体の相続人であれば、相続人本人の損害賠償請求権だけではなく、亡くなった母体自身の損害賠償請求権を併せて行使することができるため、損害賠償額が数千万円以上に及んでいた可能性が高いです。

  2. (2)東京地裁平成18年7月26日判決

    帝王切開を受けた母体が死亡したことにつき、相続人である夫と子ども、さらに母体の母親が病院を運営する地方公共団体に損害賠償を請求した事案です。

    東京地裁は、母体に腹腔内出血を疑うべき所見が見られ、さらに母体が術後に意識が朦朧(もうろう)としていたことから、医師には何らかの異常を疑い、その原因を検索検討すべき注意義務があったと認定しました。
    その上で、母体の急変まで3時間にわたって診察がなされていない時間があり、かつ、その前に医師が看護師から報告を受けていたにもかかわらず、医師は自ら母体を診察することなく、看護師に筋肉注射を指示したにとどまったことから、医師の注意義務違反を認定しました。

    最終的に東京地裁は、母体の逸失利益として約4000万円、遺族の慰謝料として計2700万円、そのほか治療費・葬儀費用・弁護士費用の損害を認定し、既払い分計300万円を控除して、医療機関側に対して総額7250万円余りの損害賠償を命じました。

4、帝王切開に関する病院の責任追及は弁護士に相談を

帝王切開手術の際に母体が死亡したケースにおいて、医療機関側の損害賠償責任が認められるかどうかは具体的な事情によって異なります。

医療機関側に対する損害賠償請求を成功させるためには、遺族側が十分な証拠を集めた上で、医学的な観点から専門的な主張、立証を行わなければなりません。しかし、診療や手術に関する証拠は医療機関側が保管しており、母体死亡に至る原因もさまざまであるため、損害賠償請求の準備を整えるのは非常に大変です。

そこで、このような場合、弁護士に事前にご相談いただければ、カルテの開示請求などの医療調査を行った上で、損害賠償請求の成否などについて見通しをお示しいたします。また、長期間にわたる医療過誤訴訟の対応も全面的に代行し、適正額の損害賠償が支払われるように粘り強く戦います

帝王切開によって家族を亡くしたことの悲しみは計り知れませんが、弁護士へ相談することによってお気持ちが整理されたり和らいだりする部分があるかもしれません。医療機関側に対する損害賠償請求の可否など、少しでも疑問に思うことがあれば、お早めに弁護士までご相談ください。

5、まとめ

帝王切開の手術の最中に妊産婦が死亡した場合、遺族は医療機関や医師に対して損害賠償を請求できることがあります。

ただし、帝王切開の手術中の医療過誤を理由とする損害賠償請求に当たっては、医療機関側が保有するカルテなどの証拠を集めた上で、医学的な観点から遺族側が主張・立証を行わなければなりませんそのためには、医療過誤訴訟の経験を豊富に有する弁護士のサポートが必要不可欠です

ベリーベスト法律事務所は、医療過誤訴訟に関するご相談を随時受け付けております。
医療過誤事件を多数取り扱う弁護士が、医師と適切に連携した上で検討と準備を行い、適正額の損害賠償を獲得できるようにサポートいたします。私どもはご家族を失った悲しみにも寄り添い、誠心誠意のご対応に努めて参ります。

帝王切開中に最愛の妻が亡くなってしまったことで、医療機関側に対する損害賠償請求を検討している方は、お早めにベリーベスト法律事務所にご相談ください。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階(東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585 [ご相談窓口]0120-056-095
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
https://www.vbest.jp
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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