2024年01月18日

胸部レントゲンで肺がんの見落としによる損害賠償請求は可能?

「胸部レントゲン(X線)検査で、肺がんが見落とされていた可能性があるかもしれない……」このように、ちゃんと定期的に検診を受けていたのに、なぜ今になって肺がんが発覚したのだろうと、医師に対して見落としの疑いをお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

実際に胸部レントゲン(X線)検査で医師が肺がんを見落としていた場合、医師および医療機関に対して損害賠償を請求できる可能性があります。

本コラムでは、胸部レントゲン検査において肺がんを見落とした医師・医療機関の法的責任や、損害賠償請求の流れなどについて、ベリーベスト法律事務所 医療調査・医療訴訟チームの弁護士が解説します。

1、胸部レントゲン検査と肺がんの基礎知識

まずは、胸部レントゲン検査と肺がんについて、基本的な知識を確認していきましょう。

  1. (1)胸部レントゲン(X線)検査とは

    健康診断や一般診療で幅広く実施される胸部レントゲン(X線)検査とは、胸部に背後からX線を照射して、肺・心臓・両肺の間にある縦隔などの器官の異常の有無や程度を調べる検査方法です
    胸部レントゲン検査で得られた写真(レントゲン写真)を通じて、肺炎・肺結核・肺がん・肺気腫・胸水・気胸などの疾患が発見されることがあります。

    なお、胸部レントゲン検査と同様に、呼吸器の疾患の有無を調べる検査方法として、胸部CT検査があります。肺がん検診における精密検査では、一般に胸部CT検査が行われます。

    胸部CT検査でもX線が照射されますが、その吸収・透過の度合いをコンピューターで処理し、身体の断面を画像化します。CT画像の精度は非常に高いため、胸部レントゲン検査では発見が難しい小さな病変を見つけることが可能です。

  2. (2)肺がんとは

    肺がんとは、気管支や肺胞で異常な細胞が生体の制御を無視して増え続けてしまう疾患(がん化)です。がん自体を悪性腫瘍と呼ぶこともあります。

    肺がんが進行すると、がん細胞が周囲の正常組織に浸潤して機能を害し、さらに血管やリンパ管などを介して体内のあらゆる臓器に転移して、生命を脅かします。

    国立研究開発法人がん研究センターが公表する「最新がん統計」では、令和元年において新たに診断されたがんは99万9075例で、肺がんは第2位の罹患(りかん)数となっています。また、令和3年においてがんで死亡した人は38万1505人で、肺がんは第1位の死亡数でした。

    胸部レントゲン検査では、肺の周囲にある心臓や隔膜、血管などにより、小さな肺がんを見つけることが困難な場合があるようです。

2、胸部レントゲン検査での肺がん見落としによる医師・医療機関の責任

胸部レントゲン検査は、肺がんを発見するために有用な検査ですが、時には医師によって肺がんが見落とされることもあります。健康診断で異常が発見されたものの、再検査を受けた際に見落とされるケースも少なくありません。

胸部レントゲン検査において医師が肺がんを見落とした場合、被害患者や遺族は、医師または医療機関に対して損害賠償を請求できる可能性があります

  1. (1)医師・医療機関が負う責任の法的根拠

    胸部レントゲン検査において医師が肺がんを見落としたとき、医師および医療機関の損害賠償責任は、民法上の不法行為(民法第709条)または使用者責任(民法第715条第1項)に基づき発生すると解されています。
    この点は私立病院に限らず、国立病院や公立病院など、国または公共団体が設立した医療機関についても同様です。

    公権力の行使にあたる公務員が、その職務につき、故意または過失によって違法に他人に損害を与えたときは、国または公共団体が国家賠償責任を負います(国家賠償法第1条第1項)。この場合、被害者に対して、公務員個人の損害賠償責任は発生しません(最高裁昭和30年4月19日判決)。

    しかし、レントゲン検査(健診)およびその結果の報告は、医師が専らその専門的技術および知識経験を用いた行為であり、医師の一般的診断行為と異なるところがないため、特段の事由がない限り「公権力の行使」にあたらないと解されています(最高裁昭和57年4月1日判決)。

    そのため、国立病院や公立病院の医師が肺がんを見落としたというケースでも、私立病院の場合と同様に、医師の責任は不法行為、病院の責任は使用者責任に基づいて発生します

    なお、レントゲン検査が国または公共団体の嘱託によって行われた場合でも、実際に検査を行ったのが別の公的機関や民間病院などの医師であるときは、その医師が所属する機関・病院などが使用者責任を負います(最高裁昭和57年4月1日判決参照)。

  2. (2)医師・医療機関の損害賠償責任が認められた裁判例

    東京地裁平成18年4月26日判決では、胸部レントゲン検査における医師の肺がん見落としによって術後5年生存率が低下したことにつき、医師および医療機関に対して450万円の損害賠償が命じられました。

    本件では、医師・医療機関側は胸部レントゲン検査での肺の異常陰影の見落としを認めていました。そのうえで、裁判所は、医師の見落としによって肺がんの発見が約11か月間遅れたこと、およびその間に術後5年生存率が30%低下したことを認定し、肺がんの発見が遅れたことによって原告(被害患者)が抱いている死への不安や恐怖が高まったことについての精神的苦痛を損害と認めて、その慰謝料の額を400万円と認定しました。

    最終的には、400万円の慰謝料に50万円の弁護士費用相当額を加えた450万円と遅延損害金の賠償が医師および医療機関に対して命じられました。

3、医師・医療機関に対する損害賠償請求の流れ

医師や医療機関による行為で生じた結果のうち、患者側に予期せぬ被害が及び、医師や医療機関に過失があるものを医療過誤といいます。

胸部レントゲン検査における肺がんの見落としを含めて、医療過誤に関する損害賠償請求は、大まかに ①医療調査 ②示談交渉 ③損害賠償請求訴訟 の流れで行います。それぞれの項目について、詳しく見ていきましょう。

  1. (1)医療調査

    患者の症状悪化や死亡がどのような原因で生じたのか、また、治療や手術の過程において、医師などに何らかの過失があったのかどうか、医学的な観点から調査および検討を行います

    これらは「医療調査」と呼ばれ、医療過誤の損害賠償請求を行うにあたって非常に重要なプロセスです。弁護士に依頼すると、弁護士が専門医と連携した上で綿密に医療調査を行います。

  2. (2)示談交渉

    医療調査の結果を踏まえて、医師および医療機関との間で示談交渉を行います。医療調査の結果を示し、法的に適正な損害賠償の金額を提示して、その支払いを求めましょう

    弁護士は、示談交渉を全面的に代行することが可能です。医師・医療機関側の対応を踏まえつつ、適正な条件による示談を早期にまとめられるように尽力します。

  3. (3)損害賠償請求訴訟

    医療過誤の示談交渉は、医師・医療機関側と被害患者・遺族側の主張が真っ向から対立し、妥結に至らないケースが非常に多く見られます

    示談交渉が決裂した場合は、裁判所に損害賠償請求訴訟を提起しましょう。

    訴訟では、被害患者・遺族側が医師・医療機関側の過失を立証しなければなりません。そのため、医療調査の結果を踏まえた証拠の確保や主張構成の検討など、綿密な準備が求められます

    弁護士は被害患者・遺族側の代理人として、訴訟の準備や対応を行うことが可能です。長期化しやすい医療過誤訴訟を、依頼者と協力して粘り強く戦います。

4、医療過誤の損害賠償請求を行う前に確認すべき注意点

医療過誤について、医師および医療機関に対して損害賠償を請求する際には、以下の各点に十分留意した上でご対応ください。

  1. (1)請求の成否について、見通しをきちんと立てる

    医療過誤訴訟では、医師・医療機関側の過失を立証するハードルが高く、被害患者・遺族側が敗訴するケースも少なくありません。

    そのため、医療過誤訴訟を提起するにあたっては、損害賠償請求の成否について明確な見通しを立てることが大切です。医師・医療機関側の過失を立証できる勝算があるかどうか、弁護士のアドバイスを踏まえて慎重に検討しましょう。

  2. (2)損害賠償請求権の要件につき、立証方法を検討する

    医療過誤訴訟においては、患者側が損害賠償請求権の要件事実を立証しなければなりません。具体的には、以下の事実を主張・立証する必要があります

    • ① 医師などが負う注意義務の内容
    • ② ①の義務への違反(過失)
    • ③ 被害患者・遺族に生じた損害
    • ④ ②と③の間の因果関係

    各要件の立証を成功させるためには、医療調査を通じて有力な証拠を確保すること、および法的に説得力のある主張を組み立てることが大切です。
    弁護士のサポートを受けながら、十分勝算がある状態まで徹底的に準備を整えましょう。

  3. (3)長期戦に備えて、弁護士のサポートを受ける

    医療過誤訴訟は、医師・医療機関側と被害患者・遺族側が真っ向から対立し、数年以上の長期戦となることが多くあります。長期間にわたって医療過誤訴訟を戦うには、弁護士のサポートが必要不可欠です

    弁護士は法的側面から損害賠償請求をサポートするとともに、被害患者・遺族を精神的に支える役割も担います。肺がん見落としにより、医師・医療機関に対して損害賠償を請求したいとお考えの方は、お早めに弁護士までご相談ください。

5、まとめ

胸部レントゲン検査で医師に肺がんを見落とされた場合、医師・医療機関に対して損害賠償を請求できる可能性があります。

ただし医療過誤は立証が難しく、被害患者・遺族側が勝訴するためには、医療調査を踏まえた綿密な準備が必要不可欠です。弁護士のサポートを受けながら、勝訴を目指してできる限りの準備を整えましょう。

ベリーベスト法律事務所は、医療過誤の損害賠償請求に関するご相談を随時受け付けております。胸部レントゲン検査で肺がんを見落とされ、医師・医療機関に対する損害賠償請求をご検討されている方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。

その分野に詳しい医師や弁護士兼医師と、ベリーベスト法律事務所の医療調査・医療訴訟チームが綿密に連携を取りながら、問題解決に向けて尽力いたします。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階(東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585 [ご相談窓口]0120-056-095
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
https://www.vbest.jp
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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