医師が負う説明義務とは? 義務違反があったらどうする? 弁護士が解説

治療で思わぬ後遺障害や死亡事故などが生じてしまったことに対して、リスクなどを事前に医師からきちんと説明されておらず、怒りを覚えている方もいるでしょう。
医療法や民法などで、医師は患者に対して、診療方法について適切な説明を行う義務(=説明義務)を負っています。医師から適切な説明がなかった場合、患者は医師に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
本記事では、医師が患者に対して負う説明義務について、ベリーベスト法律事務所 医療調査・医療訴訟チームの弁護士が解説します。
1、医師の「説明義務」とは? 法律上のルール
医師が患者に対して負う診療方法などの説明義務は、以下の法律上の根拠に基づいています。
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(1)準委任契約に基づく報告義務
医療機関が患者と締結する診療契約は、民法上の「準委任契約」に該当します。
準委任契約の受任者(医療機関側)は、委任者(患者側)の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告しなければなりません(民法第656条、第645条)。
準委任契約に基づく報告義務は、医師が負う説明義務の根拠のひとつであると理解されています。準委任(診療)の終了後は、医療機関側は患者側に対して、遅滞なくその経過と結果を報告する義務を負います。
患者の死亡や重篤な障害といった不本意な結果が生じたら、それまでの診療の経過や結果に至った原因などを説明しなければなりません(=顛末報告義務、弁明義務)。 -
(2)医師法上の指導義務
医師が診療をしたときは、患者本人またはその保護者に対し、療養の方法その他保健の向上に必要な事項の指導をすることが必要です(医師法第23条)。
診療後の過ごし方や注意点などに関する説明は、医師法上の指導義務の一環と位置付けられます。 -
(3)医療法上の説明努力義務
医師は、医療を提供するに当たり、医療を受ける者(患者)に対して適切な説明を行い、その理解を得るよう努めなければなりません(医療法第1条の4第2項)。
上記は努力義務規定であるため、具体的な法的効力はありませんが、医師の患者に対する説明義務が法文上、明記されている点で注目すべきです。 -
(4)民法上の不法行為の違法性阻却
医療行為は患者の身体への侵襲を伴うため、本来であれば民法上の不法行為(民法第709条)を構成します。しかし、医師が適切な説明を行い、患者の真の意思による同意を得ることで、不法行為としての違法性が阻却されると解されています。
このような考え方に立つと、医療行為が不法行為(違法)と評価されることを防ぐための前提として、医師の患者に対する適切な説明が必須であると理解することが可能です。 -
(5)患者の自己決定権の保障
近年では、医師の説明義務の根拠を患者の自己決定権(日本国憲法第13条)に求める考え方が主流となっています。
日本国憲法第13条に定められた幸福追求権の一環として、人は自らの生命・身体・健康について自ら決定できる権利を有すると解されます。
患者が診療方法の自己決定を適切に行うためには、医師による適切な説明が必要不可欠です。患者の自己決定権を実効的に保障する観点から、医師の法的な説明義務が導かれます。
2、医師が患者に説明すべき事項の例
医師は説明義務に基づき、患者に対して以下の事項などを説明することが求められます。
- 疾患の診断(病名、病状)
- 実施予定の診療や手術の内容
- 診療や手術に付随する危険性
- ほかに選択可能な治療方法があれば、その内容、利害得失、予後
なお、医療水準として確立した療法(術式)が複数存在する場合は、患者がそのいずれを選択するかにつき熟慮の上判断できるように、それぞれの違いや利害得失を分かりやすく説明することが医師に求められます(最高裁平成13年11月27日判決)。
これに対して、医療水準として未確立の療法(術式)については、医師は常に説明義務を負うわけではありません。
ただし、当該療法(術式)が少なからぬ医療機関で実施されており、相当数の実施例があり、実施した医師の間で積極的な評価をされているものについては、患者に適応の可能性があり、かつ患者自身が強い関心を示している際は、医師が知っている限りにおいて説明を行う義務があると解されています(同最高裁判決)。
3、医師の説明義務違反に対して患者側ができること
医師が患者に対する説明義務に違反した場合、患者は医師および医療機関に対して、説明義務違反を理由に損害賠償を請求できることがあります。
損害賠償の対象となるのは、別の治療を受ける機会を失ったことによる逸失利益(延命の可能性が狭められたなど)や精神的損害(慰謝料)などです。
説明義務違反を理由に損害賠償を請求する際には、被害患者側において、どのような損害が生じたのかを具体的に主張・立証しなければなりません。
ただし、診療に関してどのような説明が行われ、実際にどのような診療が行われたのかは、すべて医療現場で起こっていることであるため、患者側が証明するハードルは高いといえます。損害賠償請求に当たっては、診療録(カルテ)を基にした徹底的な医療調査が欠かせません。
説明義務違反を理由とする損害賠償請求の成否を検討する際には、弁護士へのご相談を強くおすすめします。
弁護士は十分な医療調査を行った上で、損害賠償請求が成功する確率はどの程度あるのか、成功したとして、どの程度の金額を得られるのかといった見通しを示します。
医療訴訟は長期化するケースが多いため、あらかじめ弁護士に調査・検討を依頼することで、納得できる形での判断が可能となるでしょう。
治療の結果に納得できず、実際に損害が生じており、医師に何らかの過失があったのではないかと考えている方は、お早めに弁護士へご相談ください。
4、説明義務以外に、医師が負う法律上の義務
医師は説明義務以外にも、以下の法律上の義務を負っています。
医療機関側の対応に不適切な点が見られるときは、各義務に対する違反を理由に責任を追及できる可能性があるため、弁護士に相談して対応を検討しましょう。
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(1)診療に関する善管注意義務
医療機関側は診療契約(準委任契約)の受任者として、患者に対して善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負っています(民法第656条、第644条)。
善管注意義務には、手術中の手技に関して十分な注意を払い、患者の急変に備えるなどの対応が含まれます。医師の手技上の過失によって患者に損害が生じた場合、患者は医師および医療機関に対して損害賠償を請求することが可能です。 -
(2)応召義務
診療に従事する医師は、患者から診察・治療の求めがあった際には、正当な事由なく拒否してはなりません(医師法第19条第1項)。これを「応召義務」といいます。
医師の応召義務は公法上の義務であるため、損害賠償請求の根拠にはなりませんが、違反した医師や医療機関は医師法に基づく行政処分の対象になる可能性があります。 -
(3)処方箋の交付義務
医師は、「治療するに当たって薬剤を調剤して投与する必要がある」と認めたとき、原則として、患者または現にその看護に当たっている者に対して処方箋を交付しなければなりません(医師法第22条第1項)。
処方箋の交付義務も公法上の義務であるため、損害賠償請求の根拠にはなりませんが、違反した医師や医療機関に対しては行政処分が行われる可能性があります。 -
(4)診療録(カルテ)の記載・保存義務
医師が診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録(カルテ)に記載しなければなりません(医師法第24条第1項)。診療録は、病院・診療所の管理者または医師において、5年間保存することが必要です(同条第2項)。
診療録の記載・保存義務も公法上の義務であるため、損害賠償請求の根拠にはなりませんが、違反した医師や医療機関は行政処分の対象になり得ます。 -
(5)守秘義務
医師は、「診療した患者に関する情報を他人に漏らさない」という秘密保持義務を負います。
正当な理由がなく、医師が業務上取り扱ったことについて知り得た他人の秘密を漏らしたときは、「秘密漏示罪」によって6か月以下の懲役または10万円以下の罰金に処されます(刑法第134条第1項)。医師を辞めた後に秘密を漏らした場合も同様です。
5、まとめ
医師は患者に対して、診療方法などにつき法律上の説明義務を負っています。
特に、予想外の後遺障害が生じたり死亡事故に至ったりするなどの重大な結果が生じてしまった場合に、医師の説明が不十分または不適切であったと感じている際は、医師や医療機関に対する損害賠償請求を検討しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、医療過誤に関するご相談を随時受け付けております。医療調査を通じて医療過誤の有無や原因を調べ、損害賠償請求を全面的にサポートいたします。
説明義務違反を理由とする損害賠償請求についても、経験豊富な弁護士が丁寧にご対応いたしますので、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階(東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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