医療過誤について
2024年05月02日

転医義務とは? 医師の義務違反があったときの損害賠償請求と注意点

転医義務とは、患者の状態悪化などによって、自院における診察・治療が難しい場合は患者を別の病院に移さなければならないという、医師が負う責務のことです。

医療機関側の転医義務違反が認められる場合、患者側は損害賠償を請求できる可能性があります。転医義務違反を疑う際は、医療過誤問題を取り扱っている弁護士にご相談ください。

本コラムでは、医師が負う転医義務についての概要や、転医義務違反に関して検討すべき患者側の対応などを、ベリーベスト法律事務所 医療調査・医療訴訟チームの弁護士が解説します。

1、医師が負う転医義務とは?

最初に、転医と転院の違いや転送義務の法的根拠、転送義務違反の具体例などを解説します。

  1. (1)転医と転院の違い

    医師による患者の転医とは、専門外であることや設備がそろっていないことなどを理由に、自院での診療・治療が困難または不可能である患者を、適切な診療・治療が可能である別の医療機関に紹介して移動させることです。医師は患者の病状等に応じて、必要であれば転医を行う義務(=転医義務)を負います。
    なお患者自身の意思で、今の担当医から別の医師に変えることも転医といいます。

    転医と同じく、別の医療機関に患者を紹介して診てもらうことを「転院」と呼ぶ場合があります。

    転医と転院は、厳密に使い分けられているわけではありません。強いていうならば、転医は入院しているか否かにかかわらず用いられる一方で、転院は入院している患者に限って用いられることが多いようです

  2. (2)転医義務の法的根拠

    医師の転医義務は、医療法1条の4第3項が根拠とされます。

    <医療法1条の4第3項>
    医療提供施設において診療に従事する医師及び歯科医師は、医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連携に資するため、必要に応じ、医療を受ける者を他の医療提供施設に紹介し、その診療に必要な限度において医療を受ける者の診療又は調剤に関する情報を他の医療提供施設において診療又は調剤に従事する医師若しくは歯科医師又は薬剤師に提供し、及びその他必要な措置を講ずるよう努めなければならない

    また、医療行為に関する一般的な注意義務を根拠に発生するとも解されているため、人の生命および健康を管理すべき業務(医業)に従事する者は、その業務の性質に照らして、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されます(最高裁昭和36年2月16日判決)。

    医療機関側の専門領域や設備などとの関係上、診療することが困難な患者については、適切な診療ができる別の医師に紹介して診てもらうことが、医師として要求される「最善の注意義務」であるといえるでしょう

  3. (3)転医義務違反の具体例

    たとえば以下のようなケースでは、医師の転医義務違反が認められる可能性があるものと考えられます。

    <転医義務違反が認められる可能性があるケースの例>
    • 重篤な急性症状が発生したにもかかわらず、大病院への転医が遅れたため、脳機能に重い後遺障害が生じてしまった
    • 大病院でしか治療できない症状の兆候があったにもかかわらず、適切に転医をされなかったために症状が悪化して、死期が早まってしまった

    また、転医先への搬送時に適切な処置を怠ったため、患者の症状が悪化した場合などにも、医療機関側の注意義務違反が認められる可能性はあります。

2、転医義務違反に関する患者側の対応

医師の転医義務違反があったと思われるとき、患者側として検討すべきことは、下記の2点です。

それぞれについて、説明していきます。

  1. (1)反省・謝罪・原因究明・再発防止を求める

    患者側が転医義務違反による被害感情を和らげるためには、医療機関側から真摯な反省と謝罪を受けること、適切な原因究明と再発防止が行われることが大前提となるでしょう。

    転医義務違反を含む医療過誤のトラブルについて、医療機関側は積極的な対応をとろうとしない場合も多く見られます。
    その場合は、医療過誤の被害を訴え、医療機関側に適切な形で反省・謝罪・原因究明・再発防止を行うように求め、医療機関側の対応を確認しましょう

  2. (2)医師・医療機関に対して損害賠償を請求する

    医師の転医義務違反について、患者側は診療契約上の義務違反(=債務不履行)または不法行為に基づき、治療費を含むさまざまな項目の損害賠償を請求できる可能性があります

    損害賠償の中でも特に高額となりやすい項目は、慰謝料・逸失利益・介護費用などです。

    これらの項目については、賠償額が数千万円から数億円に上るケースも珍しくありません。弁護士のサポートを受けて、適切な損害賠償を請求しましょう。

    転医義務違反に関する損害賠償請求に当たっては、患者の症状や医療機関側の対応などについて、十分な証拠を確保する必要があります。そのためには、医療調査が欠かせません。

    医療過誤問題に対応できる弁護士に相談することで、医療機関側に対して、カルテなどの資料開示等を求め、充実した証拠をそろえられるように尽力いたします。また、損害発生の有無や事実確認、医療文献による調査から医学的評価の検討などを行うことが可能です。

3、医師・医療機関に対する損害賠償請求の流れと注意点

3章では、医師または医療機関に対して、損害賠償を請求するときの手続きの流れと注意点を解説します。

  1. (1)損害賠償請求の手続きの流れ

    転医義務違反などの医療過誤に関する損害賠償請求の手続きは、医療調査→示談交渉→損害賠償請求(医療訴訟)といった流れで行うのが一般的です

    ① 医療調査
    被害患者の症状悪化や死亡原因を、医学的な観点から調査します。また、治療や手術の過程における医師等の過失の有無についても、医学的な観点から検討を行います。
    医療調査は、信頼できる医療専門家に依頼することが重要です。

    ② 示談交渉
    医療調査の結果を踏まえて、医師および医療機関と示談交渉を行います。
    医療機関側の過失を基礎づける有力な証拠を提示できるかどうかが、示談交渉の成否を大きく左右します。

    ③ 損害賠償請求(医療訴訟)
    示談交渉が決裂した場合は、裁判所に損害賠償請求(医療訴訟)の提起を検討します。
    被害患者側は、医療水準に照らした注意義務(転医義務等)の内容およびその義務違反の事実、損害の発生、義務違反と損害の因果関係などを証拠に基づいて立証しなければなりません。立証では、特に医療調査の結果が重要になります。

    医療調査・示談交渉・医療訴訟のいずれも、適切に対応するためには弁護士のサポートが必要不可欠です。医療機関側の転医義務違反が疑われる場合には、お早めに弁護士へご相談ください。

  2. (2)損害賠償請求を行う際の注意点

    転医義務違反を含む医療過誤についての損害賠償を請求する際には、以下の各点に注意が必要です。

    ① 損害賠償請求権には消滅時効がある
    債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求権は、以下の期間が経過すると時効により消滅します。時効が完成する前に、内容証明郵便の送付や訴訟の提起などを行うことで時効の完成を猶予させることもできますので、時効で権利が消滅してしまわないよう、早めに弁護士に相談しましょう。

    <債務不履行に基づく損害賠償請求権の時効期間>
    以下のうちいずれか早く経過する期間(民法第166条第1項)
    • 権利を行使できることを知ったときから5年
    • 権利を行使できるときから10年

    <不法行為に基づく損害賠償請求権の時効期間>
    以下のうちいずれか早く経過する期間(民法第724条、第724条の2)
    • 損害および加害者を知ったときから5年
    • 不法行為のときから20年

    ② 医療訴訟は長期化しやすい
    医療過誤に関する損害賠償請求(医療訴訟)は、数年間におよぶ長期戦となることが非常に多いです。弁護士のサポートを受けながら、適正な損害賠償を求めて粘り強く戦いましょう。

4、転医義務違反が問題となった裁判例

最後に、転医義務違反が問題となった裁判例を2つ紹介します。

  1. (1)最高裁平成15年11月11日判決

    通院による療養・治療中の患者が、転医の遅れによって重度の脳障害を負ったことにつき、開業医の転医義務違反が認められた事案です。

    本事案において、患者は初診から5日目になっても投薬による症状の改善がなく、さらに嘔吐(おうと)の症状や軽度の意識障害などを訴えていました。

    最高裁は上記の状況を踏まえて、病名は特定できないとしても、自ら適切に検査・治療を行うことができない、重大で緊急性のある何らかの病気にかかっている可能性が高いと認識できたものとして、開業医の転医義務違反を認定しました。

  2. (2)東京地裁平成18年5月17日判決

    脳出血によって死亡した患者について、医師および医療機関の転医義務違反が認められた事例です。

    本事案において、患者はスポーツジムのプールにおいて気分が悪化し、左手と左足のまひなどの症状を訴えました。患者は病院に搬送された時点で、前額部から頭頂部にかけて痛みがあり、めまいがしている状態でした。頭部CT検査を行ったところ、患者は脳出血を起こしていることがわかったため、入院が決まりました。
    しかし、その後血種が肥大して脳室内に穿破(せんぱ)し、水頭症を発症しました。患者の全身状態は徐々に悪化し、脳出血が直接の原因となって死亡しました。

    東京地裁は、あるとき看護師が病室を訪れた際の患者の容態が、それまで呈したものとは明らかに異なるものであったことを指摘しました。
    そして、その時点で直ちにCT撮影して脳出血の状態を確認し、脳圧の効果などで対処できる場合は直ちにその処置を行い、それができない場合は外科的治療等のできる県立病院に転医すべきであったと認定しました。

    その上で東京地裁は、CT撮影および転医を怠った医師の注意義務違反を認定し、医師および医療機関に対して損害賠償を命じました。
    なお患者の損害額は、適切な医療行為を受けていたならばなお生存していた「相当程度の可能性」を侵害されたにとどまる(つまり、確実に生存していたとはいえない)ことを踏まえて、300万円(+弁護士費用)とされました。

5、まとめ

適切な転医を怠った結果として、症状が悪化した場合や死亡した場合、被害患者またはそのご遺族は医療機関側へ損害賠償を請求できる可能性があります。

転医義務違反を含めて、不適切な治療方針による医療過誤が疑われる場合には、弁護士にご相談ください

ベリーベスト法律事務所は、医療過誤に関する患者のご相談を随時受け付けております。転医義務違反などの医療過誤を疑い、医師および医療機関に対して損害賠償を請求したいとお考えの方は、医療調査・医療訴訟チームを組成するベリーベスト法律事務所にお問い合わせください。

質の高いリーガルサービスをご提供しながら、知見豊富な弁護士が問題解決に向けて取り組んでまいります。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階(東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585 [ご相談窓口]0120-056-095
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URL
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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