更新日:2026年11月02日 公開日:2024年05月02日
医療過誤について

転医義務とは? 医師の義務違反があったときの損害賠償請求と注意点

転医義務とは、患者の状態悪化などによって、自院における診察・治療が難しい場合は患者を別の病院に移さなければならないという、医師が負う責務のことです。

医療機関側の転医義務違反が認められる場合、被害患者側は損害賠償を請求できる可能性があります。転医義務違反を疑う際は、医療過誤問題を取り扱っている弁護士にご相談ください。

本コラムでは、医師が負う転医義務についての概要や、転医義務違反に関して検討すべき対応などを、ベリーベスト法律事務所 医療調査・医療訴訟チームの弁護士が解説します。

1、医師が負う転医義務とは?

最初に、転医と転院の違いや転送義務の法的根拠、転送義務違反の具体例などを解説します。

  1. (1)転医と転院の違い

    医師による患者の転医とは、専門外であることや設備がそろっていないことなどを理由に、自院での診療・治療が困難または不可能である患者を、適切な診療・治療が可能である別の医療機関に紹介して移動させることです。医師は患者の病状等に応じて、必要であれば転医を行う義務(=転医義務)を負います。
    なお患者自身の意思で、今の担当医から別の医師に変えることも転医といいます。

    転医と同じく、別の医療機関に患者を紹介して診てもらうことを「転院」と呼ぶ場合があります。

    転医と転院は、厳密に使い分けられているわけではありません。強いていうならば、転医は入院しているか否かにかかわらず用いられる一方で、転院は入院している患者に限って用いられることが多いようです。

  2. (2)転医義務の法的根拠

    医師の転医義務は、診療契約上の義務として判例で認められ、また、医療法1条の4第3項や療担規則16条等の明文の規定が置かれています。

    <最高裁平成7年6月9日判決(抜粋)>
    「医療機関としてはその履行補助者である医師等に右知見を獲得させておくべきであって、仮に、履行補助者である医師等が右知見を有しなかったために、右医療機関が右治療法を実施せず、又は実施可能な他の医療機関に転移させるなど適切な措置を取らなかったために患者に損害を与えた場合には、当該医療機関は、診療契約に基づく債務不履行責任を負うものというべきである。また、新規の治療法実施のための技術・設備等についても同様で会って、当該医療機関が予算上の制約等の事情によりその実施のための技術・設備等を有しない場合には、右医療機関は、これを有する他の医療機関に転移させるなど適切な措置をとるべき義務がある。」

    <療担規則16条>
    保険医は、患者の疾病又は負傷が自己の専門外にわたるものであるとき、又はその診療について疑義があるときは、他の保険医療機関へ転医させ、又は他の保険医の対診を求める等診療について適切な措置を講じなければならない。

    <医療法1条の4第3項(抜粋)>
    「医療提供施設において診療に従事する医師及び歯科医師は、医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連携に資するため、必要に応じ、医療を受ける者を他の医療提供施設に紹介し(略)」、

    医療機関側の専門領域や設備などとの関係上、診療することが困難な患者については、適切な診療ができる別の医師に紹介して診てもらうことが、医師として要求される「最善の注意義務」であるといえるでしょう。

  3. (3)転医義務違反の具体例

    たとえば以下のようなケースでは、医師の転医義務違反が認められる可能性があるものと考えられます。

    <例>転医義務違反が認められる可能性があるケース
    • 重篤な症状に発展しかねない兆候を見落とし、対応可能な病院への転送が遅れたため、後遺症が残った場合
    • 開業医が初動対応を行ったものの対応困難であると判断する時機が遅れ、対処不能の状態で対応可能な病院へ転送がなされた場合

    この他、転医先への搬送時に適切な処置を怠ったため、患者の症状が悪化した場合などにも、医療機関側の注意義務違反が認められる可能性はあります。

2、転医義務違反に関する被害患者側の対応

医師の転医義務違反があったと思われるとき、被害患者側として検討すべきことを解説します。

  1. (1)原因究明・再発防止・謝罪を求める

    被害患者側が転医義務違反による被害感情を和らげるためには、医療機関側により経緯について真摯な説明を受け、また適切な原因究明と再発防止が行われることが大前提となるでしょう。

    しかしながら、医療過誤が発生した場合、被害患者側やその家族が望む対応と、医療機関側が実施する対応は、それぞれの目的意識の違いから、異なること場合もあります。特に、医療法に基づく医療事故調査制度の実施が義務付けられない事例においては、医療過誤の被害を訴え、医療機関側に適切な形で謝罪・原因究明・再発防止を行うように求め、医療機関側の対応を確認しましょう。

  2. (2)医師・医療機関に対して損害賠償を請求する

    医師の転医義務違反について、被害患者側は診療契約上の義務違反(=債務不履行)または不法行為に基づき、治療費を含むさまざまな項目の損害賠償を請求できる可能性があります。

    損害賠償の中でも特に高額となりやすい項目は、慰謝料・逸失利益・介護費用などです。これらの項目については、賠償額が数千万円から数億円に上るケースも珍しくありません。弁護士のサポートを受けて、適切な損害賠償を請求しましょう。

    しかし、転医義務違反を争う場合、転医義務違反がなければ不幸な転帰が生じなかったという生存への「相当程度の可能性」への侵害(つまり、確実にその結果になったとはいえないこと)が認められ、相対的に低額の賠償となる事例もあります。
    転医義務違反に関する損害賠償請求に当たっては、患者の症状や医療機関側の対応などについて、十分な証拠を確保することが必要です。そのためには、実際に請求を行う以前の医療調査が欠かせません。

    医療過誤問題に対応できる弁護士に相談することで、医療機関側に対して、カルテなどの資料開示等を求め、充実した証拠をそろえられるように尽力いたします。また、損害発生の有無や事実確認、医療文献による調査から医学的評価の検討などを行うことが可能です。

3、医師・医療機関に対する損害賠償請求の流れと注意点

医師または医療機関に対して、損害賠償を請求するときの手続きの流れと注意点を解説します。

  1. (1)損害賠償請求の手続きの流れ

    転医義務違反などの医療過誤に関する損害賠償請求の手続きは、医療調査→示談交渉→損害賠償請求(医療訴訟)といった流れで行うのが一般的です。

    ① 医療調査
    被害患者の症状悪化や死亡原因を、医学的な観点から調査します。また、治療や手術の過程における医師等の過失の有無についても、医学的な観点から検討を行います。
    医療調査は、信頼できる医療専門家に依頼することが重要です。

    ② 示談交渉
    医療調査の結果を踏まえて、医師および医療機関と示談交渉を行います。
    医療機関側の過失を基礎づける有力な証拠を提示できるかどうかが、示談交渉の成否を大きく左右します。

    ③ 損害賠償請求(医療訴訟)
    示談交渉が決裂した場合は、裁判所に損害賠償請求(医療訴訟)の提起を検討します。
    被害患者側は、医療水準に照らした注意義務(転医義務等)の内容およびその義務違反の事実、損害の発生、義務違反と損害の因果関係などを証拠に基づいて立証しなければなりません。立証では、特に医療調査の結果が重要になります。

    医療調査・示談交渉・医療訴訟のいずれも、適切に対応するためには弁護士のサポートが必要不可欠です。医療機関側の転医義務違反が疑われる場合には、お早めに弁護士へご相談ください。

  2. (2)損害賠償請求を行う際の注意点

    転医義務違反を含む医療過誤についての損害賠償を請求する際には、注意するべき点があります。

    ① 損害賠償請求権には消滅時効がある
    債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求権は、以下の期間が経過すると時効により消滅します。時効が完成する前に、内容証明郵便の送付や訴訟の提起などを行うことで時効の完成を猶予させることもできますので、時効で権利が消滅してしまわないよう、早めに弁護士に相談しましょう。

    <債務不履行に基づく損害賠償請求権の時効期間>
    以下のうちいずれか早く経過する期間(民法第166条第1項、第167条)
    権利を行使できることを知ったときから5年
    権利を行使できるときから20年

    <不法行為に基づく損害賠償請求権の時効期間>
    以下のうちいずれか早く経過する期間(民法第724条、第724条の2)
    損害および加害者を知ったときから5年
    不法行為のときから20年

    ② 医療訴訟は長期化しやすい
    医療過誤に関する損害賠償請求(医療訴訟)は、数年間におよぶ長期戦となることが非常に多いです。弁護士のサポートを受けながら、適正な損害賠償を求めて粘り強く戦いましょう。

4、転医義務違反が問題となった裁判例

最後に、転医義務違反が問題となった裁判例を2つ紹介します。

  1. (1)最高裁平成15年11月11日判決

    通院による療養・治療中の患者が、転医の遅れによって重度の脳障害を負ったことにつき、開業医の転医義務違反が認められた事案です。

    本事案において、患者は初診から5日目になっても投薬による症状の改善がなく、さらに嘔吐(おうと)の症状や軽度の意識障害などを訴えていました。

    最高裁は上記の状況を踏まえて、病名は特定できないとしても、自ら適切に検査・治療を行うことができない、重大で緊急性のある何らかの病気にかかっている可能性が高いと認識できたものとして、開業医の転医義務違反を認定しました。

  2. (2)東京地裁平成18年5月17日判決

    脳出血によって死亡した患者について、医師および医療機関の転医義務違反が認められた事例です。

    本事案において、患者はスポーツジムのプールにおいて気分が悪化し、左手と左足のまひなどの症状を訴えました。患者は病院に搬送された時点で、前額部から頭頂部にかけて痛みがあり、めまいがしている状態でした。頭部CT検査を行ったところ、患者は脳出血を起こしていることがわかったため、入院が決まりました。
    しかし、その後血種が肥大して脳室内に穿破(せんぱ)し、水頭症を発症しました。患者の全身状態は徐々に悪化し、脳出血が直接の原因となって死亡しました。

    東京地裁は、看護師が病室を訪れた際の患者の容態が、それまで呈したものとは明らかに異なるものであったことを指摘しました。
    そして、その時点で直ちにCT撮影して脳出血の状態を確認し、脳圧の効果などで対処できる場合は直ちにその処置を行い、それができない場合は外科的治療等のできる県立病院に転医すべきであったと認定しました。

    その上で東京地裁は、CT撮影および転医を怠った医師の注意義務違反を認定し、医師および医療機関に対して損害賠償を命じました。
    なお患者の損害額は、適切な医療行為を受けていたならばなお生存していた「相当程度の可能性」を侵害されたにとどまる(つまり、確実に生存していたとはいえない)ことを踏まえて、300万円(+弁護士費用)とされました。

5、まとめ

適切な転医を怠った結果として、症状が悪化した場合や死亡した場合、被害患者またはそのご遺族は医療機関側へ損害賠償を請求できる可能性があります。
一方で、転医義務は、「適切な時期に」転移する義務である以上、時間経過を伴う事案になります。そのため、「この時期に適切な対応がなされていれば、結果を回避できた」という因果関係がついて回ります。

医療過誤事件は再現することができないため、「相当程度の可能性」が認められるか、という点にとどまりますが、転医義務違反があったのではないかと疑われている場合には、一度、弁護士にご相談ください。

ベリーベスト法律事務所は、医療過誤に関する患者のご相談を随時受け付けております。転医義務違反などの医療過誤を疑い、医師および医療機関に対して損害賠償を請求したいとお考えの方は、医療調査・医療訴訟チームを組成するベリーベスト法律事務所にお問い合わせください。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階(東京オフィス)
設立
2010年12月16日
URL
https://www.vbest.jp
  • この記事は執筆時点の法律をもとに作成、ベリーベスト法律事務所の医療事故・医療過誤専門チームが監修しています。

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