麻酔事故とは? 医師への責任追及(損害賠償請求)における注意点

手術で麻酔を使用した際に、医師の不適切な管理によって麻酔事故(=医療事故)が起こり、患者の死亡や植物状態、あるいは後遺障害が生じるなどの結果に至ることがあります。
ご自身やご家族が麻酔事故の被害者になってしまったら、医師や医療機関(病院)に対して、「謝罪してほしい」「なぜ麻酔事故が起こったのか、原因を説明してほしい」「どうしても許せない」といった気持ちを抱くことがあるでしょう。
医師や医療機関を相手に責任追及をするには、綿密な医療調査や法的検討などが必要となるため、弁護士へのご依頼をおすすめします。本記事では、麻酔事故の基本情報や損害賠償請求のポイントなどを、ベリーベスト法律事務所 医療調査・医療訴訟チームの弁護士が解説します。
1、麻酔事故とは? 手術で麻酔を使う目的・リスク
麻酔事故とは、手術における麻酔の使用中に患者の容体が急変する医療事故です。
特に、医師の不適切な管理によって発生する麻酔事故は、「医療過誤」として損害賠償請求の対象になります。
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(1)手術で麻酔を使う目的
手術で麻酔を使うのは、手術中の患者の痛みを軽減するためです。
手術時には、医師が患者の身体を切開するなど、通常の状態では激痛を伴う医療行為が行われます。そこで、患者が痛みを感じないうちに手術が終わるように、手術部位に限定して感覚を失わせる「局所麻酔(例:脊椎麻酔(脊髄くも膜下麻酔)、硬膜外麻酔など)」や、患者の意識を消失させる「全身麻酔」を施します。 -
(2)麻酔事故の概要・リスク
手術中の麻酔によって、ごくまれに以下の症状を引き起こすことがあります。
- 術後肺炎
- 悪性高熱症
- 肺塞栓症
- アナフィラキシーショック
- 心筋梗塞
- 脳梗塞
- 肝機能障害
- 腎機能障害
特に全身麻酔の場合は、上記の疾病等の発症リスクを確認するため、事前に詳細な問診が行われます。一般に、家族が過去に麻酔事故を経験している方、重要臓器に持病がある方、全身性の持病のある方などは、麻酔事故のリスクが高い患者と考えられるため、注意が必要な患者といえます。
手術中に全身麻酔を使用する際には、麻酔科医が常時監視に付き、患者の状態に応じて処置を行います。麻酔科医による管理が適切に行われていれば、麻酔事故のリスクは非常に小さいでしょう。
しかし、適切な麻酔管理を行っていてもごくまれに麻酔事故が生じるほか、麻酔科医の管理に不適切な部分があれば、麻酔事故のリスクは高まります。麻酔を使用した手術を受ける際には、麻酔事故のリスクを正しく理解することが重要です。
2、麻酔事故が起こる原因と生じ得る結果
麻酔事故は、原因不明で医学的に不可避である場合もありますが、医師の過失によって発生することもあります。
麻酔事故が発生すると、患者の死亡や重篤な後遺障害などが引き起こされてしまいます。
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(1)麻酔事故が起こる主な原因
麻酔事故は、麻酔科医による適切な管理が行われていても、ごくまれな確率で発生します。この場合、事故原因は不明である場合が多いです。
一方、医師の過失によって麻酔事故が生じることもあります。<過失による麻酔事故の例>- 並列麻酔(=ひとりの麻酔科医が、同時に複数の患者の麻酔管理を行うこと。原則として禁止されている行為)によって麻酔科医の注意が分散し、血圧上昇などの急変の兆候を見逃した
- 麻酔薬の投与量や投与場所を誤った結果、患者が麻酔中毒に陥った
- 麻酔によるアナフィラキシーショックが生じた際に対応が遅れ、心停止の時間が長引いた結果、患者に後遺障害が生じた
- 麻酔中の気道確保が適切に行われなかった結果、患者が窒息した
上記のような医師の過失によって発生した麻酔事故は、損害賠償請求の対象です。
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(2)麻酔事故により生じ得る結果
麻酔事故が発生すると、患者は非常に危険な状態に陥ります。
患者が死亡し、または植物状態その他の後遺障害が生じるケースも珍しくありません。また、手術中に患者が覚醒してしまった場合(=術中覚醒)は、痛みだけでなくPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされる場合もあります。
これらの結果が生じた場合、患者や遺族は重大な損害を被るため、医師・医療機関に対して損害賠償請求を検討することになります。
3、麻酔事故に関する医療機関の責任追及と損害賠償項目
医師・医療機関に対して麻酔事故の責任追及をするためには、不法行為等の要件を患者側が主張・立証しなければなりません。医師・医療機関の責任が認められる場合、患者はさまざまな項目の損害賠償を請求できます。
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(1)医師・医療機関の損害賠償責任の要件
麻酔事故に関する医師の損害賠償責任は、不法行為(民法第709条)を根拠に発生します。
<不法行為の成立要件>- ① 医師に故意または過失(注意義務違反)が認められること
- ② 患者の権利または利益が侵害されたこと
- ③ 患者に損害が生じたこと
- ④ 医師の行為と損害の間に因果関係があること
医師の不法行為が認められる場合は、原則として医療機関も使用者責任に基づき、患者に生じた損害を賠償しなければなりません(民法第715条第1項)。
麻酔事故を含む医療過誤事件では、医師の過失の有無(=なすべき行為を怠ったかどうか)および因果関係の有無(=死亡等の結果が医師の過失によるものか、それとも別の原因によるものか)が主な争点となります。
麻酔事故について医師の過失として認められるのは、手術中の手技上の問題のほか、事前の問診・検査義務違反などです(胸部X線検査・血液検査・既往歴の確認など)。
患者が医師の問診に対して適切に回答をしなかった場合は、過失相殺(民法第722条第2項)によって損害賠償額が減額されることがあります。
因果関係については、患者の既往歴や健康状態などに鑑みて、医師の過失がなければ死亡等の結果を回避できたのかどうかが判断されます。
被害患者側は綿密な医療調査を行った上で、医師の過失や因果関係などの要件を主張・立証できるように準備することが必要です。 -
(2)麻酔事故の主な損害賠償項目
麻酔事故について医師・医療機関の責任が認められる場合、被害患者または遺族は、主に以下の損害賠償を請求できます。
① 積極損害
麻酔事故が原因で実際に支出を強いられ、または将来的に支出を強いられる費用です。一例として、以下の費用の損害賠償を請求できます。- 治療費
- 付添費用(家族または職業付添人)
- 入院雑費(日用品などの購入費用)
- 通院交通費
- 装具、器具の購入費
- 介護費用
- 葬儀費用
② 休業損害
麻酔事故が原因で、仕事を休む期間が長引いたことにより得られなくなった収入です。休業損害も、損害賠償の対象となります。
③ 慰謝料
麻酔事故によって患者本人または遺族が受けた精神的損害の賠償金です。麻酔事故の慰謝料には、以下の3種類があります。- 入通院慰謝料(病気が悪化し、入通院の日数が延びたことによる精神的損害)
- 後遺障害慰謝料(後遺障害が残ったことによる精神的損害)
- 死亡慰謝料(死亡したことによる精神的損害)
④ 逸失利益
麻酔事故によって患者に後遺障害が残り、または死亡した場合に、将来にわたって得られなくなった収入です。以下の2種類の逸失利益が、損害賠償の対象となります。- 後遺障害逸失利益(後遺障害により労働能力を失ったことに伴う逸失利益)
- 死亡逸失利益
4、麻酔に関する医療過誤事件について、弁護士ができること
医師・医療機関に麻酔事故による損害賠償を請求する際には、弁護士へのご依頼がおすすめです。
弁護士は、麻酔に関する医療過誤事件について、主に以下のサポートを行っています。
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(1)事故原因に関する医療調査
麻酔事故を含む医療事故は、医療機関の施設内で発生するため、被害患者や遺族にとっては当時の状況を主張・立証するのが非常に大変です。
医療事故の原因は、医療専門家を交えた医療調査によって明らかにします。綿密な調査を行うことにより、医師・医療機関の過失や因果関係の立証につながる重要な証拠が得られる可能性があります。
弁護士は医療専門家と連携し、訴訟を見据えて法的な観点から医療調査のサポートを行っています。弁護士が主導して適切に医療調査を行えば、適正額の損害賠償を得られる可能性が高まります。 -
(2)損害賠償請求の代理|示談交渉・訴訟など
実際の損害賠償請求の手続きについても、弁護士が全面的に代理して行うことができます。
医師・医療機関との示談交渉や、裁判所で行われる訴訟などの手続きについて、被害患者や遺族がご自身で対応するのは非常に大変です。準備に多大な労力がかかりますし、精神的にも大きなご負担となるでしょう。
医療過誤事件の経験を豊富に有する弁護士にご依頼いただければ、適切な方針を立てた上で、示談交渉や訴訟の対応を行います。
結果として、被害患者や遺族のご負担は大きく軽減され、また、法的な根拠に基づく主張により、患者側にとって有利な結果を得られる可能性が高まるでしょう。
5、まとめ
麻酔事故は、医師・医療機関の過失によって発生することがあります。この場合、医師または医療機関に損害賠償を請求できる可能性があるので、弁護士へ相談するようにしましょう。
ベリーベスト法律事務所は、医療過誤の損害賠償請求に関するご相談を随時受け付けております。
ご自身やご家族が麻酔事故の被害者となり、医師や医療機関に対して損害賠償を請求したい方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。医療過誤事件を豊富に取り扱い、知見のある弁護士が親身になってご対応いたします。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階(東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
- [代表電話]03-6234-1585 [ご相談窓口]0120-056-095
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。 - URL
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