医療過誤について
2024年02月01日

誤診による治療の遅れや症状悪化との因果関係を医者が認めないときの対処法

医者の誤診によって治療の開始が遅れると、症状が重篤化したり、最悪のケースでは死亡に至ったりすることがあります。

そのような医者の誤診があった場合には、医者に対して損害賠償請求ができる可能性があります。もっとも、医者が間違った診断をしたということを認めないケースも多く、適切な対応をとらなければ、責任追及をするのは難しいでしょう。

本コラムでは、医者が負う法的責任や医者が誤診を認めない場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 医療調査・医療訴訟チームの弁護士が解説します。

1、誤診によって医者が負う責任とは

まず、誤診があった場合に、医者はどのような責任を負うのかについて解説します。

  1. (1)損害賠償請求

    医者が不適切な医療行為により患者に損害を与えた場合には、被害患者は、医者に対して債務不履行または不法行為に基づき、損害賠償請求をすることが可能です。

    ただし、誤診があれば常に損害賠償請求ができるというわけではなく、誤診による損害の発生、医者の過失(注意義務違反)、損害と過失との間の因果関係の立証が必要となります。

    ① 医者の過失(注意義務違反)
    誤診の事案における医者の過失とは、誤診の原因となった診療行為が医者の注意義務に違反する行為であったことをいいます

    医者は、患者の病歴や診察結果、検査結果などを踏まえて、さまざまな疾患の中から特定の疾患を特定していくことになります。その際には、診療当時の臨床医学の実践における医療水準に基づき診断を進めていくことが必要です。

    そのため、当時の医療水準からして当然想起すべき重大な疾患があったにもかかわらず、それを見落として間違った診断をしたといえる場合には、医者の過失が認められる可能性が高いでしょう。

    ② 因果関係
    医者に過失があったとしても、過失と損害との間に因果関係がなければ損害賠償請求をすることはできません。たとえば、医者の誤った診断がなかった(正しい診断をしていた)としても、患者が死亡または後遺障害が発生したといえる場合には、誤診との間には因果関係がない、ということになります。
  2. (2)どのような誤診であれば損害賠償請求が可能か?

    誤診による損害賠償請求ができるかどうかは、あくまでもケース・バイ・ケースでの判断になりますので、一概に整理することはできません。

    しかし、以下のような事案であれば、損害賠償請求ができる可能性が高いといえるでしょう。

    • 息苦しさを訴える患者に対し、さまざまな検査を行った結果、医者は、神経症、過換気症候群との診断を下し、患者を帰宅させた。しかし実際には肺動脈血栓塞栓(そくせん)症であり、その後自宅で患者が死亡してしまった。
    • 患者は、A疾患に罹患しているにもかかわらず、誤った診断でB疾患に罹患していると判断されて外科手術を行った。しかし実際には不要な手術であり、それにより身体に後遺障害が残ってしまった。

2、医者が誤診やミスを認めない場合の対処法

医者が間違った診断やミスを認めない場合には、弁護士に医療調査を依頼するのがおすすめです。ここからは、医療調査の概要と流れについて説明します。

  1. (1)弁護士による医療調査とは

    医療調査とは、当該事案が医者への責任追及が可能な事案であるかどうか、医療ミス(医療過誤)の有無や因果関係を証明できる見込みがあるかどうかを判断するための手続きです。

    医者の誤診や医療ミス(医療過誤)があると、すぐに損害賠償請求や裁判を考える方もいらっしゃいます。しかし、医療事件は非常に専門的な分野であるため、責任追及の前提となる医療調査が欠かせません

    診断や治療を担当した医者が誤診やミスを認めない場合には、被害患者側自らが医者に誤診やミスがあったことを証明する必要があります。しかし、医学的な知識が不十分な被害患者側では、非常に困難なことだといえるでしょう。

    そこで、まずは、医師に対する責任追及が可能な事案であるかどうかを判断するためにも、弁護士に医療調査の依頼をすることをおすすめします。弁護士に医療調査を依頼すれば、実際に医者に対して責任を追及できるのかどうかについて、一定の見通しが立ちます。

  2. (2)弁護士による医療調査の流れ

    弁護士による医療調査は、①診療記録の入手、②医学文献の調査、③協力医の意見聴取、というような流れで進んでいきます。それぞれについて、詳しくみていきましょう。

    ① 診療記録の入手
    医者がどのような経緯で誤った診断を行ったのかを知るには、カルテ、看護記録、検査結果、画像などの診療記録の入手が欠かせません。

    診療記録の入手方法には、証拠保全とカルテ開示の2通りの方法があります。

    証拠保全は、裁判所を利用した手続きで、裁判官とともに医療機関に出向いて、その場でカルテの提出を求める方法です。医療機関による診療記録改ざんのリスクがある場合には、証拠保全によりそれを防止することができます。

    カルテ開示は、任意の交渉により医療機関に診療記録の開示を求める方法です。多くの医療機関はカルテ開示に応じてくれますが、事案によってはカルテ開示を拒否されたり、診療記録を改ざんされたりするおそれもあります。

    ② 医学文献の調査
    誤診に関して、医者の注意義務違反があったといえるかどうかは、診療当時の臨床医学の実践における医療水準を理解しておくことが必要です。医学文献提供サービスや大学医学部図書館などを利用して、当該事案に関連する文献を収集します。

    ③ 協力医の意見聴取
    誤診をした医者と同じ診療科目を扱う専門医に診療記録などを検討してもらい、意見を求めます。診察内容や検査結果からみて、当然に疑うべき症状を見落としていたといえる場合には、医者の注意義務違反があったといえる可能性が高くなります。

3、医者に請求できる損害賠償の費用項目

医者の誤診やミスによって損害が生じた場合には、医者に対して損害賠償請求が可能です。その際に請求できる主な損害としては、逸失利益や慰謝料といった項目が挙げられます。

  1. (1)逸失利益

    逸失利益とは、誤診や医療ミス(医療過誤)がなければ将来得られたはずの収入の減少分をいいます

    誤診により患者に後遺障害が残ってしまった場合には、労働能力が制限される結果、本来得られたはずの収入が得られなくなってしまいます。また、誤診によって患者の治療が遅れ、結果的に死期が早まってしまったり死亡してしまったりすることもあるでしょう。
    このような将来の減収分については、後遺障害逸失利益または死亡逸失利益として、誤診による責任のある医者に対して請求することができます。

    <逸失利益を算出する計算式>
    • 後遺障害逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
    • 死亡逸失利益=基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
  2. (2)慰謝料

    誤診により生じた精神的苦痛に対して、慰謝料の請求が可能です。請求できる慰謝料については、入通院慰謝料(傷害慰謝料)、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3つの種類があります

    ① 入通院慰謝料(傷害慰謝料)
    間違った診断で不要な外科手術を行ったこと等により、入院や通院が必要になった場合には、入通院慰謝料を請求することができます。入通院慰謝料の金額は、入通院期間や実日数などに応じて計算するのが一般的です。

    ② 後遺障害慰謝料
    適切な診断をしていれば早期に治療を行うことができ、後遺障害が残らなかったにもかかわらず、誤診により治療が遅れて後遺障害が残ってしまったという場合には、後遺障害慰謝料を請求できます。後遺障害慰謝料の金額は、患者に生じた後遺障害の内容や程度に応じて計算するのが一般的です。

    ③ 死亡慰謝料
    誤診により適切な治療を受けることができず、それにより患者が死亡してしまったという場合には、死亡慰謝料を請求することができます。死亡慰謝料の金額は、死亡した患者の年齢、職業、家族構成などさまざまな要素を考慮して計算するのが一般的です。

4、間違った診断をした医者への責任追及における注意点

間違った診断を理由に医者への責任追及をお考えの方に向けて、いくつか押さえておくべき注意点をご紹介します。

  1. (1)医療訴訟は勝訴率が低いといわれており、かつ長期間にわたるケースが多い

    医療調査の結果、医者の責任追及が可能な事案であれば、まずは、病院側との話し合いを行うケースが一般的です。しかし、医者が誤診を認めない場合には、話し合いによる解決は困難ですので、医療訴訟により解決を目指すしかありません。

    一般的に医療訴訟は勝訴率が低く、解決するまでに長い期間がかかるケースが多いといわれています。それは、医療訴訟が非常に特殊で専門的な分野であることが大きな要因です。

    このような医療訴訟を被害患者やそのご遺族だけで対応するのは非常に困難ですので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

  2. (2)過失や因果関係を立証するための証拠が重要であること

    医者が誤診を認めない場合には、患者側で医者の過失や因果関係を立証していかなければなりません。そのためには、過失や因果関係を立証するための証拠が必要不可欠です

    誤診を立証するための証拠としては、診療記録などが挙げられますが、カルテの改ざんなどが疑われるケースでは、裁判所の証拠保全の手続きを利用する必要があります。

    証拠保全の手続きは、法的知識がなければ適切に対応することが難しい手続きですので、弁護士のサポートを受けながら進めていくようにしましょう。

  3. (3)医者に対して求める内容によって対応が異なる

    医者への責任追及の方法としては、損害賠償請求が一般的ですが、事案によっては、損害賠償請求までは求めずに「医者自身がしっかりと間違いを認めて謝罪してくれればよい」というケースもあるでしょう。

    医者としては、損害賠償請求を警戒して、簡単には誤診やミスを認めてくれない可能性もありますので、上記のような希望がある場合には、その旨をしっかりと医者に伝えることが大切です。弁護士であれば、医師との話し合いのサポートをすることもできます。

5、まとめ

医者の間違った診断により後遺障害や死亡という結果が生じた場合には、誤診を理由とする損害賠償請求が可能です。
しかし、医者が誤診を認めない場合には、弁護士による医療調査によって責任追及が可能であるかを判断する必要があります。

ベリーベスト法律事務所では、医療調査・医療訴訟チームが中心となり、協力医との連携により問題解決に向けてサポートいたします。医者の誤診による医療ミス(医療過誤)でお悩みの方は、まずは、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階(東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585 [ご相談窓口]0120-056-095
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
https://www.vbest.jp
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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