手術を失敗されたら損害賠償請求できる? 手術ミスで確認するべきこと

怪我や病気を治すために手術を受けたにもかかわらず、手術ミスにより後遺障害が残った・死亡してしまったなどの理由で、医師や病院に対して「損害賠償請求をしたい」とお考えの方もいるでしょう。
しかし、「手術を失敗された」という単なる主張だけでは、法的な責任追及が認められないケースもあります。医療事故(医療過誤)のトラブルは非常に専門的な内容であることから、どのような場合に責任追及できるのか、責任追及にあたって確認すべきポイントなどをしっかりと理解しておくことが大切です。
本コラムでは、手術を失敗されてしまったときに知っておくべき医師の法的責任や損害賠償請求について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、手術失敗における医師の法的責任とは
最初に、医師が手術を失敗した場合、どのような法的責任を追及することができるのかについて解説します。
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(1)過失がなければ法的責任を問うことはできない
手術を失敗されてしまったことが原因で後遺障害が残ったり、死亡してしまったりした場合には、当然ながら医師や病院の責任を追及できるものだと考えるでしょう。しかし実際には、医師や病院に過失(注意義務違反)があったといえなければなりません。
なぜなら、患者と医師・病院との間の診療契約においては、一定の結果を実現する義務が課されているのではなく、一定の結果を実現するために、求められる医療水準のもと最大限の努力をする義務が課されているにすぎないからです。
そのため、手術により期待した結果が得られなかったとしても、直ちに医師や病院の責任を問うことはできません。 -
(2)医師に問える法的責任には3つの種類がある
医師や病院に過失があった場合には、民事責任・刑事責任・行政上の責任を追及することができます。なお、被害患者側として追及できるものは民事責任に限られる点にご留意ください。
① 民事責任
民事責任として追及できることは、医師や病院の損害賠償責任です。被害患者側は、医師や病院に対して、不法行為(民法709条)や債務不履行(民法415条)を理由として損害賠償請求をすることができます。
損害賠償の詳しい項目については、第3章で説明します。
② 刑事責任
手術の失敗により患者を死傷させた場合には、業務上過失致死傷罪(刑法211条)に問われる可能性があります。なお、刑事責任を追及するのは、被害者である患者やその遺族ではなく、警察や検察といった捜査機関です。
③ 行政上の責任
医師法では、医師が罰金以上の刑に処せられた場合には、戒告、3年以内の医業の停止、免許の取り消しといった行政処分の対象になります。
手術の失敗により業務上過失致死傷罪で有罪になった場合には、上記に該当しますので、行政処分を受ける可能性があります。 -
(3)医師個人だけでなく病院に対して法的責任を追及できる可能性もある
手術失敗による法的責任は、手術を担当した医師だけでなく病院に対しても追及できる可能性があります。
なぜなら、病院は直接医療行為をするわけではありませんが、医師と同様に診療契約上の安全配慮義務や、医師や看護師を雇用する側としての使用者責任に基づく賠償義務を負っているからです。
2、法的責任を問いたいと考えたときに確認するべきポイント
医師や病院側に対する法的責任の追及を考えたとき、被害患者側として確認するべきポイントをご紹介します。
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(1)手術前に医師から手術に関する説明がなされていたか
医師には、医療行為にあたって患者への説明義務が課されています。そのため、以下のような事項を説明しなければなりません。
- 当該疾患の診断
- 実施する医療行為の内容、目的、必要性
- 医療行為による危険や副作用
- 他に選択可能な治療法や手術方法がある場合にはその内容と利害得失
- 医療行為をしない場合の予後
手術前に医師からこれらの事項について十分な説明がなかった場合には、説明義務違反を理由に法的責任を追及できる可能性があります。
なお、手術前には手術同意書にサインを求められるのが通常ですが、手術同意書にサインをすると「事前に医師から十分な説明を受けた」という証拠になるため、説明義務違反を理由とする責任追及は難しくなります。
ただし、手術同意書で前提としている内容とはまったく関係のないミスから思わしくない結果(後遺障害や死亡など)が生じたような場合には、手術同意書にサインをしていても、医師や病院に対する法的責任の追及は可能です。 -
(2)手術と結果との間に因果関係があるか
医療機関側の過失が認められたとしても、過失と結果との間に因果関係が認められなければ、法的責任の追及はできません。
因果関係とは「あれなければ、これなし」という関係のことをいい、医師が適切な処置をしていれば、患者の死亡や後遺障害の発生といった結果が起こらなかったといえるか否かです。
医療事故・医療過誤においては、「適切な処置をしていれば、高い可能性で後遺障害や死亡などの結果を回避できた」といえれば、過失と結果との間の因果関係は認められます。 -
(3)医療事故の発生後にその経緯について説明を受けたか
手術の失敗により不本意な結果が生じた場合には、医師は被害患者に対して、診療経過や原因について説明する義務を負っています。これを一般的に、弁明義務といいます。
被害患者やその遺族は、なぜ手術が失敗したのかを知る術がないため、不本意な結果になってしまった理由について、医師に説明を求めるようにしましょう。
また、医師から十分な説明がないような場合や説明があいまいな場合には、医療事故調査支援センターへの報告が義務付けられている旨の申し出を行うこともご検討ください。
3、医師や病院に損害賠償請求できる4つのもの
手術が失敗し、医師や病院側に過失が認められる場合には、治療関係費・休業損害・慰謝料・逸失利益などの損害を請求することができます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
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(1)治療関係の費用
医療事故・医療過誤によって患者側が負担することになった治療関係の費用については、医師や病院側に対して損害賠償請求が可能です。
<治療関係の費用として請求できるものの例>- 治療費
- 付き添い費用
- 入院雑費
- 通院交通費
- 装具、器具などの購入費用
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(2)休業損害
手術の失敗が原因で仕事を休まなければならなくなると、収入の減少という損害が生じます。そのような損害は、休業損害として請求することが可能です。
休業損害は、手術前の年収を基準にして、休業日数に応じた金額を請求することになります。なお、仕事をしていない専業主婦であっても、賃金センサス(厚生労働省による「賃金構造基本統計調査」の結果をまとめた、賃金に関する資料)に基づく平均年収額を基準にするなどして、休業損害の請求をすることが可能です。 -
(3)慰謝料(傷害慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料)
手術を失敗されたことによって精神的苦痛を被った被害者は、慰謝料を請求することができる可能性があります。
<慰謝料の種類>- 傷害慰謝料……入通院を余儀なくされたことによる慰謝料
- 後遺障害慰謝料……後遺障害が生じたことによる慰謝料
- 死亡慰謝料……死亡したことでの精神的損害による慰謝料
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(4)逸失利益
手術失敗が原因で後遺障害が生じたり、死亡してしまったりすると、被害患者本人が本来であれば得られていたはずの将来の収入が失われてしまいます。そのような将来の失われた収入は、逸失利益として請求することが可能です。
なお、逸失利益の算定には、ライプニッツ係数と呼ばれる指数を活用します。<後遺障害逸失利益の計算式>
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
<死亡逸失利益の計算式>
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対するライプニッツ係数
4、手術失敗での損害賠償請求における注意点
医師による手術失敗を理由に損害賠償請求をしたいとお考えの方に向けて、3つの注意点をご紹介します。
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(1)損害賠償請求権には時効がある
医師や病院に対して損害賠償請求をする場合は、不法行為または債務不履行に基づく損害賠償請求という法律構成によって行います。
不法行為に基づく損害賠償請求の場合、損害および加害者を知ったときから5年または手術失敗から20年で時効になります。
また、債務不履行に基づく損害賠償請求の場合、権利を行使できることを知ったときから5年または権利を行使できるときから20年で時効になります。
このように損害賠償請求権には時効がありますので、時効期間が経過する前に対応することが必要です(※上記は、改正後民法を前提としております。)。
なお、損害賠償請求においては、因果関係を示す証拠が重要となります。
その際に、証拠として非常に重要となるのがカルテ(診療録)です。カルテは保存期間が5年と義務付けられているため、それまでの間にカルテ開示の請求をするようにしましょう。 -
(2)医療過誤のトラブルは解決まで長期間を要する
手術失敗のような医療過誤のトラブルは、法的知識だけでなく医学的な知識が求められるため、高度に専門的な分野です。医療機関側との話し合いで解決できない場合には、医療訴訟(裁判)によって解決することになりますが、一般的な民事裁判に比べて、医療訴訟は解決まで数年を要することも珍しくありません。
医師や病院相手に、法律や医療に詳しくない被害患者側が長い年月をかけて争っていくのは非常に困難ですので、弁護士のサポートを受けながら進めていくことをおすすめします。 -
(3)責任追及にあたっては見立て(医療調査)が重要
手術失敗による損害賠償請求で重要となるのは、医師や病院に責任があるかどうかの見立て(医療調査)を行うことです。
正確な見立てを行わなければ、長い年月をかけて争っても、多大な時間と費用の無駄になってしまう可能性があります。そのため、まずは医療過誤のトラブルに関する経験・知見豊富な弁護士に相談し、どのような対応が必要になるのかといったアドバイスを受けるようにしましょう。
5、まとめ
手術においてミスがあったとき、医療機関側に過失がある場合には、損害賠償請求によって医師や病院の責任を追及することが可能です。しかし医療過誤のトラブルは、法律だけでなく医療の知識も求められるため、被害を受けた患者やその遺族だけでは適切に対応することが難しいといえます。
ベリーベスト法律事務所では、医療調査・医療訴訟チームを構成し、医師と協力しながら複雑な医療過誤の問題解決に取り組んでいます。医師に手術を失敗されたことで損害賠償請求をしたいとお考えの方は、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。
なお、医療過誤のトラブルのうち、美容医療・審美歯科に関する損害賠償請求は受け付けておりませんが、被害に関する情報収集を行っております。被害情報が多数集まれば、被害弁護団を設立する可能性があるため、以下のフォームから情報提供をお願いいたします。
美容施術被害情報受付フォーム
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階(東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
- [代表電話]03-6234-1585 [ご相談窓口]0120-056-095
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。 - URL
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