医療過誤について
2024年04月18日

医療事故とは? 医療過誤との違いや損害賠償請求の注意点を解説

「つらい症状を回復させたくて治療を受けたのに、かえって悪化してしまった」「手術や処置に医療ミスがあり、後遺症がのこった」

このような場合は医療事故に該当し、医師や医療機関に対して損害賠償を請求できる可能性があります。

なかには、これからの損害賠償請求に向けて、医療事故には何が該当するのかを知りたいという方もいるでしょう。また、医療過誤や医療ミスの言葉と何が違うのかと疑問をお持ちの方もいるはずです。

本コラムでは、医療事故とはどういうものかといった例を紹介するとともに、医療過誤との違い、損害賠償請求の要件や注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 医療調査・医療訴訟チームの弁護士が解説します。

1、医療事故とは? 医療過誤と何が違うのか

医療事故とは、医療機関内で発生した人身事故全般を意味する言葉です。特に、医療機関側の人為的ミスによって患者の病態を増悪させてしまうことは、医療過誤(医療ミス)と呼ばれています。

  1. (1)医療事故の例

    医療事故に含まれる具体例としては、以下のようなケースが該当します。

    • 医師の手術中のミスによって患者が亡くなってしまった
    • 手術中に切開する部分を間違えてしまい、患者に後遺症をもたらした
    • 問診の不備が原因で禁忌の医薬品を投与してしまい、患者がアナフィラキシーショックを起こした
    • 患者が病室内で転倒して骨折した
    • 手術中に患者の血液が飛び散り、血液に触れた医師や看護師が感染症にかかった
  2. (2)医療事故と医療過誤の違い

    医療事故のなかでも、医療機関側の人為的ミスによって患者の病態を増悪させてしまうことを、医療過誤(医療ミス)と呼んでいます。つまり医療過誤は、医療事故の中に包含される概念です。
    詳しくは2章で解説しますが、医療過誤は、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償の対象となります。

    前掲の例の中では、以下のケースが医療過誤に該当します。

    • 医師の手術中のミスによって患者が亡くなってしまった
    • 手術中に切開する部分を間違えてしまい、患者に後遺症をもたらした
    • 問診の不備が原因で禁忌の医薬品を投与してしまい、患者がアナフィラキシーショックを起こした

    これに対して、以下のケースは医療過誤には該当しないと考えられます。

    • 患者が病室内で転倒して骨折した
      医療機関側が転倒防止措置を講じる義務を負っており、その義務に違反したなどの特段の事情がない限り、医療機関側のミスではないので医療過誤に当たりません。

    • 手術中に患者の血液が飛び散り、血液に触れた医師や看護師が感染症にかかった
      被害者が患者ではなく医療従事者なので、医療過誤に当たりません。

2、医療事故(医療過誤)の損害賠償請求|要件・損害項目

医療事故(医療過誤)の被害に遭った患者やその遺族は、医師や医療機関に対して損害賠償を請求できる可能性があります。

  1. (1)医療事故に関する損害賠償請求の要件

    医療事故により、患者が医療機関側に損害賠償を請求するには、債務不履行または不法行為の要件を満たすことが必要です

    ① 債務不履行
    患者の病態の増悪(またはそれに伴う死亡)が、医療機関側が負う診療契約上の注意義務の違反によって発生したといえる場合、債務不履行に基づく損害賠償請求が可能です。
    なお、医療機関(医師)の負う注意義務の水準は、診療(手術)当時の医療水準を基準として定められます。

    ② 不法行為
    患者の病態の増悪(またはそれに伴う死亡)が、医療機関側の故意または過失により発生したといえる場合、不法行為に基づく損害賠償を請求できます。
    過失の有無の評価基準は、基本的に債務不履行の場合と同様です。

    債務不履行と不法行為のいずれに基づく場合でも、損害賠償請求に当たって立証すべき事項はおおむね重なります。患者としては、どちらか一方を選択して請求することも、両方を併存的に請求することも可能です。

  2. (2)医療事故について賠償を請求できる損害項目

    医療事故について債務不履行または不法行為が成立する場合、患者が医療機関側に賠償を請求できる損害項目としては、以下の例が挙げられます。

    ① 治療費
    医療事故によって増悪した傷病の治療にかかった費用全額を請求できます。

    ② 入通院慰謝料
    入院・通院を強いられたこと、後遺症がのこったこと、死亡したことについて、精神的損害を補填する慰謝料を請求できます。

    ③ 逸失利益
    医療事故が原因で後遺症がのこった場合、または死亡した場合には、将来にわたって失われた収入に当たる逸失利益を請求できます。

    ④ 介護費用
    医療事故が原因で要介護となった場合、将来にわたる介護費用を請求できます。

    ⑤ 葬儀費用
    医療事故が原因で死亡した場合には、葬儀費用を請求できます。

    ⑥ その他
    上記のほか、通院交通費・入院雑費・休業損害、装具器具購入費など、医療事故に起因する損害全般の賠償を請求できます。また、死亡した患者の遺族が、遺族固有の慰謝料を請求できる場合もあります。

3、医療事故で損害賠償請求するときの注意点

医療事故の被害に遭い、医療機関側に対して損害賠償を請求する場合には、以下のことにご注意ください。

  • ① 請求相手は医師か医療機関|ただし二重取りはできない
  • ② 医療過誤であることの証拠が必要
  • ③ 損害賠償は民事責任|処罰を求めるなら刑事告訴を
  • ④ 損害賠償請求権の消滅時効に要注意
  • ⑤ 解決に長期間を要することが多い

それぞれの各項目について、解説していきます。

  1. (1)請求相手は医師か医療機関|ただし二重取りはできない

    医療事故の損害賠償請求は、医療機関および実際にミスを犯した医師に対して行うことになります。

    医療行為に過失がある場合、ミスを犯した医師は不法行為の当事者としての責任を負う一方、管理者である医療機関は、ミスを犯した医師の使用者としての責任(民法第715条)および診療契約の当事者としてその債務不履行責任(民法第415条)を負うことになるからです。

    患者は、医師と医療機関のどちらか一方に損害賠償を請求することも、両方に対して請求することもできます。医療過誤に当たる場合、医師または医療機関は請求に応じて、損害の全額を支払わなければなりません。

    ただし二重取りはできず、どちらか一方から支払いを受けた部分については、損害賠償請求権が消滅することにご注意ください。

  2. (2)医療過誤であることの証拠が必要

    医療事故の損害賠償請求において重要となるのは、医療機関側の注意義務違反(または故意・過失)を立証し得る証拠を確保することです。

    しかし、実際の問診・治療・手術などは医療機関内で行われているので、証拠収集は困難を極めます。そのため、医療過誤事件の対応経験が豊富な弁護士に相談して、証拠収集の方法についてアドバイスを受けましょう。

  3. (3)損害賠償は民事責任|処罰を求めるなら刑事告訴を

    医師や医療機関が患者に対して負う損害賠償責任は、あくまでも民事上の責任に過ぎず、刑事罰の対象となる犯罪責任とは別個のものです。

    医師や医療機関の処罰を求めたい場合は、業務上過失致死傷罪(刑法第211条)などによる刑事告訴をご検討ください。

  4. (4)損害賠償請求権の消滅時効に要注意

    医療事故の損害賠償請求権は、以下の期間が経過すると時効が消滅します(2020年4月1日以降発生した事故の場合)。

    ① 債務不履行に基づく損害賠償請求権
    以下のうち、いずれか早く経過する期間(民法第166条)
    • 権利を行使できることを知った時から5年間
    • 権利を行使できる時から10年間

    ② 不法行為に基づく損害賠償請求権
    以下のうち、いずれか早く経過する期間(民法第724条、第724条の2)
    • 損害および加害者を知った時から5年間
    • 不法行為の時から20年間

    ※後遺症が残った場合にはその症状固定日、死亡した場合には死亡時が起算点となります。

    消滅時効が完成すると、医療機関側に対する損害賠償請求ができなくなります。時効が迫っているかもしれないと、不安を抱える方もいるでしょう。その際には、内容証明郵便の送付や訴訟の提起などを行うことで、時効の完成を阻止することが可能です。

  5. (5)解決に長期間を要することが多い

    医療過誤事件が訴訟に発展すると、医療機関側は徹底的に争うことが多く、解決に3~5年以上の長期間を要することもよくあります

    長期間にわたって医療過誤訴訟(医療裁判)を戦うためには、信頼できる弁護士のサポートを受けることが非常に重要です。

4、医療事故の損害賠償請求で弁護士に依頼できること

医療事故の損害賠償請求は、以下の3つの理由から弁護士に相談することをおすすめいたします。

① 損害賠償請求の成否に関する見通しがわかる
実際の治療や手術の内容、診療当時の医療水準、証拠収集の見込みなどに照らして、医療機関側に対する損害賠償請求の成否につき、弁護士が法的・客観的な視点からアドバイスいたします。

② 調査・証拠収集を依頼できる
弁護士には、医療事故に関する原因調査やカルテ開示などの証拠収集もご依頼いただけます。損害賠償請求の成功率をできる限り高めるため、弁護士会照会(弁護士法第23条の2)や、証拠保全手続、訴訟手続における送付嘱託・調査嘱託の申立て、文書提出命令の申し立て(民事訴訟法第221条、第223条第1項)などを通じて、医療事故調査・証拠収集に尽力いたします。

③ 示談交渉・法的手続きの対応を依頼できる
医療機関側との示談交渉や、訴訟などの法的手続きへの対応についても、弁護士が全面的に代行いたします。専門的な対応もスムーズに行うことができる上に、時間や労力、精神的なご負担も大幅に軽減されます。

5、まとめ

突然に医療事故の被害に遭ってしまい、怒りや悲しみ、納得できない気持ちをお抱えの方も少なくないでしょう。その際は、医療機関側に対する損害賠償請求をご検討ください

ベリーベスト法律事務所には、医療過誤事件に関して知見のある弁護士が多数在籍しております。医師兼弁護士との連携体制もとっているため、万全の準備を整えて損害賠償請求の見立てを行うことが可能です。

長期間にわたる医療過誤訴訟についても、弁護士・スタッフ一同全力でサポートいたします。医療事故によって後遺症がのこってしまった方、ご家族が亡くなってしまった方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階(東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585 [ご相談窓口]0120-056-095
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
https://www.vbest.jp
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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